役員報酬80万円の手取りはいくらか — 社会保険料・税金の内訳と会社負担を足した実額、70万円・90万円との差
役員報酬を月80万円にしたとき、手元にいくら残るのか。社会保険料と所得税・住民税の内訳、会社負担を足した総額、月70万円・90万円との違いを弊所の試算で整理しました。
この記事の要点
- 月80万円の手取りは月あたり約58.7万円(年7,047,708円)で、額面の約73%と試算しています
- 天引きは年約255.2万円で、この帯では所得税と住民税の合計が社会保険料の本人負担を上回ります。会社負担の社会保険料を足した会社の総額は年約1,082.0万円です
- 70万円・90万円と比べると、額面10万円の差に対する手取りの差はどちらも月約6.6万円で、増えた額面の3分の2が手元に残る帯です
内訳 — 月80万円から何がいくら引かれるか
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 項目 | 金額(年額) |
|---|---|
| 額面(年額・月80万円×12か月の弊所試算の前提) | 9,600,000円 |
| 社会保険料の本人負担(健康保険は標準報酬月額79万円・厚生年金は65万円で計算) | 1,191,492円 |
| 所得税(復興特別所得税を含む・弊所試算) | 755,600円 |
| 住民税(市区町村が決める税額の見込み) | 605,200円 |
| 天引きの合計(上の3行の合計・弊所試算) | 2,552,292円 |
| 手取り(年額・額面から天引きの合計を引いた弊所試算) | 7,047,708円 |
月あたりに直すと、手取りは約58.7万円です。社会保険料の本人負担が月99,291円、所得税と住民税が合わせて月113,400円という構成で、天引きの半分強が税金です。
所得税が年約75.6万円になるのは、給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を引いた課税所得が約584万円で、330万円を超える部分に20%の税率がかかるためです(所得税法89条1項)。住民税は、前年の所得をもとに市区町村が決めた税額を、6月から翌年5月まで毎月の報酬から天引きする仕組みです(地方税法321条の3・321条の5)。表の住民税は、その計算を先回りして示した弊所試算の見込み額です。
社会保険料 — 健康保険は79万円の等級、厚生年金は65万円で頭打ち
標準報酬月額は、報酬月額を等級の表に当てはめて決まります(健康保険法40条・厚生年金保険法20条)。月80万円なら、健康保険は79万円の等級、厚生年金は法律の等級表の上に政令で加えた上限の65万円の等級に当たります。
| 制度 | 標準報酬月額(月額) | 等級の帯(月額) | 料率(本人と会社で折半) |
|---|---|---|---|
| 健康保険 | 79万円 | 77万円以上81万円未満 | 9.85%+子ども・子育て支援金0.23% |
| 厚生年金 | 65万円(上限) | 63.5万円以上 | 18.3% |
健康保険は、同じ等級の帯の中では額面が動いても保険料は変わりません(健康保険法40条1項)。厚生年金は、報酬月額が63.5万円以上なら標準報酬月額が上限の65万円で頭打ちになるため、この帯では報酬を上げても厚生年金の保険料は増えません。ただし、報酬月額には役員報酬のほか、通勤手当・住宅手当などの手当や現物で支給されるものも含まれます。
保険料は標準報酬月額に料率を掛け、本人と会社で半分ずつ負担します(健康保険法161条1項・厚生年金保険法82条1項)。会社負担が月101,631円と本人負担の99,291円より少し多いのは、会社だけが納める子ども・子育て拠出金が厚生年金の標準報酬月額にかかるためです(子ども・子育て支援法69条・70条)。
標準報酬月額は、毎年7月1日の時点で4月から6月に受けた報酬の平均をもとに見直され、その年の9月から翌年8月まで使われます(健康保険法41条・厚生年金保険法21条)。ただし、6月1日から7月1日までに資格を取得した方と、7月から9月のいずれかの月から随時改定などで標準報酬月額が改定される方は、その年の7月の見直し(定時決定)の対象になりません(健康保険法41条・厚生年金保険法21条)。
なお、厚生年金の標準報酬月額の上限は2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円へ段階的に引き上げられる予定です。この帯は引き上げの影響をそのまま受け、2027年9月以降は厚生年金の保険料が増える一方、将来の年金額にもその分が反映されます。増える額は厚生年金の標準報酬月額の上限引き上げに書きました。
70万円・90万円と並べる — 額面10万円の差と手取りの差
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 額面(月額・弊所試算の前提) | 社会保険料の本人負担(月額) | 所得税+住民税(月額) | 手取り(月額) | 手取りの割合 | 社会保険料の会社負担(月額) | 会社が用意する額(月額) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 70万円 | 95,259円 | 83,600円 | 521,141円 | 74.4% | 97,599円 | 797,599円 |
| 80万円 | 99,291円 | 113,400円 | 587,309円 | 73.4% | 101,631円 | 901,631円 |
| 90万円 | 103,827円 | 142,533円 | 653,640円 | 72.6% | 106,167円 | 1,006,167円 |
額面を10万円上げたときの手取りの増え方は、下の段でも上の段でも月約6.6万円とほぼ同じです。一方で会社が用意する額は月約10.4〜10.5万円ずつ増え、手取りの1.6倍のペースだと試算しています。
増えた額面の3分の2が手元に残り、残りが税金に回る計算です。社会保険料の本人負担の増え方が月4,000〜4,500円ほどにとどまるのは、厚生年金が頭打ちで健康保険の等級だけが上がるためで、手取りの割合が下がる主な理由は所得税の税率の帯が上がることです。
弊所試算では、月80万円の課税所得は約584万円で、所得税は20%の帯に収まります。上の段では課税所得が695万円を超え、超えた部分に23%の税率がかかります(所得税法89条1項)。
75万円・85万円など間の金額は、役員報酬の手取り早見表に同じ条件で5万円刻みで並べてあります。候補が2つ以上あるときは、早見表で隣り合う行を見比べてみてください。
会社の側から見る — 用意する総額は年約1,082.0万円
弊所試算では、会社が用意するのは、額面960万円に会社負担の社会保険料約122.0万円を足した約1,082.0万円です。この報酬を出すには少なくとも同額以上の粗利が要り、会社に利益を残すならさらに上乗せが要ると見ています。
毎月同額で払う役員報酬(定期同額給与)は損金になるため(法人税法34条1項1号)、法人側の税金はその分減ります。ただし、定期同額給与でも不相当に高額な部分の金額は損金にならず、その分の法人税は減りません(法人税法34条2項)。
役員報酬の改定は、原則として会計期間の開始から3か月以内に行い、改定の前後それぞれの期間では毎月同じ額を払います(法人税法施行令69条1項1号イ)。国税庁も、期の途中で増額した例について、増額前の額に上乗せして支給した部分が損金不算入になるという見解を示しています。
ただし、役員の職制上の地位の変更や職務の内容の重大な変更などやむを得ない事情による改定は、3か月を過ぎた期の途中でも、前後で毎月同じ額なら定期同額給与になります(法人税法施行令69条1項1号ロ)。経営の状況が著しく悪化したことなどの理由による減額も、期の途中で定期同額給与のまま行えます(法人税法施行令69条1項1号ハ)。報酬を上げるか法人に利益を残すかは、法人に利益を残す場合との比較にまとめています。
月80万円という水準で見ておきたいこと
月80万円は年収960万円の水準で、生活費に余裕を持たせつつ、会社にも利益を残せるかを見極める帯だと見ています。手取りだけでなく、次の点も一緒に見ておくと判断がぶれません。
表の税金は、給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除だけで計算しています。配偶者控除・扶養控除・生命保険料控除、iDeCoや小規模企業共済の掛金控除がある方は、控除の要件と所得の額に応じて課税所得を減らせます(所得税法75条・76条・83条・84条)。
同じ年収960万円でも、月給を抑えて賞与(事前確定届出給与)に寄せると社会保険料の計算が変わります。賞与の標準賞与額は、健康保険が年度573万円、厚生年金が1か月150万円で頭打ちになります(健康保険法45条1項・厚生年金保険法24条の4第1項)。
この帯では賞与に寄せる効果が出やすい一方、届出をせずに払った役員の賞与は損金になりません(法人税法34条1項2号)。仕組みは毎月払いと賞与払いの比較にまとめています。上限の詳しい数字は事前確定届出給与と賞与の社会保険料の上限を見てみてください。
まとめ — 額面80万円は「手取り58.7万円・会社の負担1,082万円」の設計
役員報酬80万円は、社長の手取りが月約58.7万円、会社が用意する額が年約1,082.0万円という設計です。この水準が会社の利益と生活の両方に見合うでしょうか。
ご自身の年齢と数字で確かめるときは、手取りシミュレーションで月額を細かく動かしてみてください。手取りと会社負担が並んで出るので、会社に残る利益との釣り合いも同時に見られます。
※本記事の金額は、社長おひとり・40歳未満(介護保険なし)・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・協会けんぽ東京の令和8年度料率・令和8年分の税制での概算です。40〜64歳は介護保険料が加わり、手取りは少し減ります。月あたりの金額は年額を12か月で割った平均で、実際の振込額とは異なる場合があります。
出典
- 協会けんぽ 令和8年度保険料率のお知らせ
- 協会けんぽ 令和8年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
- 厚生労働省 厚生年金等の標準報酬月額の上限の段階的引上げについて
- 国税庁 給与所得控除
- 国税庁 社会保険料控除
- 国税庁 所得税の税率
- 国税庁 質疑応答事例 定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)
- 東京都主税局 個人住民税(所得割・均等割・森林環境税・特別徴収)
- e-Gov法令検索 健康保険法40条(標準報酬月額)・41条(定時決定)・45条(標準賞与額)・99条(傷病手当金)・161条(保険料の負担)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法20条(標準報酬月額)・21条(定時決定)・24条の4(標準賞与額)・43条(年金額)・82条(保険料の負担)
- e-Gov法令検索 子ども・子育て支援法69条(拠出金の徴収及び納付義務)・70条(拠出金の額)
- 国税庁 相続税法基本通達3-20(弔慰金等の取扱い)
- e-Gov法令検索 地方税法321条の3(給与所得に係る特別徴収)・321条の5(特別徴収の方法)
- e-Gov法令検索 所得税法28条(給与所得)・89条(税率)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)・34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等)・70条(過大な役員給与の額)
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