配偶者と一緒に会社を経営している、またはこれから手伝ってもらう予定の社長に向けた記事です。同じ役員報酬の総額を、社長ひとりで受け取る場合・配偶者へ扶養の範囲で渡す場合・半分ずつ分ける場合の3通りで、税金・社会保険料・配偶者控除・会社負担まで全部入れて比べます。

この記事の要点

  • 年720万円でも年1,080万円でも、会社と世帯を合わせた負担がいちばん軽いのは配偶者へ年100万円だけ渡して扶養に残す分け方
  • ただしそれは配偶者が社会保険に加入しない場合の話。加入するなら半分ずつのほうが有利になり、順位が入れ替わる。役員が加入するかどうかは報酬額ではなく働き方の実態で決まる
  • 半分ずつ分けると税金は最も減るが、配偶者控除がなくなり、社会保険料は本人負担も会社負担も増える。世帯の手取りだけを見るか、会社まで含めるかでも順位は変わる
  • 保険料が減る分け方は、その分だけ将来受け取る厚生年金も減る

比べるときに入れる要素

配偶者に役員報酬を出すと、動く金額は所得税だけではありません。次の5つが同時に動きます。どれか1つでも欠けた比較は、有利不利の判定に使えません。

配偶者へ報酬を分けたときに動く5つの要素
要素動き方
所得税・住民税累進税率が分散し、給与所得控除と基礎控除を2人分使えるため下がる
配偶者控除・配偶者特別控除配偶者の合計所得が58万円を超えると配偶者控除が、133万円を超えると配偶者特別控除もなくなる
本人が負担する社会保険料厚生年金は標準報酬月額65万円が上限。1人で上限を超えていた報酬を2人に分けると、上限を超えていた部分にも保険料がかかる
会社が負担する社会保険料本人負担とほぼ同額が会社にもかかる。会社の経費(損金)になるため、法人税等がその分減る
将来の年金厚生年金の標準報酬が下がれば、老齢厚生年金の受給額も下がる

配偶者控除は、本人の合計所得金額が900万円以下なら38万円、900万円超950万円以下なら26万円、950万円超1,000万円以下なら13万円です(所得税法83条)。住民税では順に33万円・22万円・11万円になります(地方税法314条の2第1項10号)。配偶者の合計所得金額が58万円を超えると配偶者控除は使えず(所得税法2条1項33号)、そこから133万円までは配偶者特別控除に切り替わって段階的に減ります(所得税法83条の2)。給与だけなら、収入123万円までが合計所得58万円以内です。

試算1 — 年720万円を3通りに分ける

配偶者へ渡す金額が0円・年100万円・半分の順に並べています。②は配偶者控除を残したまま社会保険の扶養にも留まる分け方、③は税金がいちばん減る分け方です。

年720万円の役員報酬(弊所試算・金額はすべて1年あたり・40歳未満・東京都)
項目① 社長ひとり(月60万円)② 配偶者へ年100万円(社長 月51.7万円)③ 半分ずつ(2人とも月30万円)
配偶者控除あり(所38万円・住33万円)あり(所38万円・住33万円)なし
配偶者の社会保険扶養(負担なし)扶養のまま自分で加入
本人負担の社会保険料102.2万円88.0万円102.2万円
所得税+住民税61.1万円46.0万円41.5万円
世帯の手取り合計556.7万円586.0万円576.4万円
会社負担の社会保険料104.8万円90.2万円104.8万円
会社+世帯の合計(①との差)+40.7万円+19.6万円

税金だけを見れば③が最も軽くなります。それでも会社と世帯を合わせると②が上回るのは、②では配偶者控除が残り、社長の標準報酬月額が下がって本人負担と会社負担の社会保険料が両方とも減るからです。

②の前提は、配偶者が社会保険の扶養に残れることです。ここが崩れると結論が変わります。配偶者が役員として社会保険に加入すると、月8.3万円の報酬に対して配偶者本人が年14.7万円の保険料を負担し、会社もほぼ同額の年15.1万円を追加で負担します。世帯の手取りは586.0万円から571.3万円へ、会社負担は90.2万円から105.3万円へ動き、①との差は+40.7万円から+14.2万円まで縮みます。

この+14.2万円は、③の+19.6万円を下回ります。つまり配偶者が扶養に残れるなら②、加入するなら③が有利という逆転が起きます。分け方を決める前に、配偶者が扶養に残れるかどうかを先に確かめる必要があるのはこのためです。

配偶者が役員でも扶養でいられるのはどんなときか

役員は「雇われている人」ではありませんが、社会保険では法人に使用される者として扱われます。役員であっても、法人から労務の対償として報酬を受けている者は、法人に使用される者として被保険者になります(昭和24年7月28日保発第74号)。加入するかどうかの分かれ目は、報酬の多い少ないではなく常用的使用関係があるかどうかです。

判断の基準は、法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供があり、かつその報酬が業務の対価として経常的に支払われているかどうかとされています(昭和27年12月4日保文発第7241号・昭和32年2月21日保文発第1515号)。日本年金機構の疑義照会回答では、この判断について次の点が示されています。

役員が社会保険に加入するかどうかの判断で見られる点
見られる点疑義照会回答での扱い
事業所への定期的な出勤経常的な労務の提供を判断する一つの要素。ただし定期的な出勤がないことだけを理由に被保険者資格がないとはしない
他の職との兼務多くの職を兼ねていないかどうかを調査して判断する
業務の内容報酬が業務の内容に相応しいものか疑わしい場合は、報酬決定に至った経過や働き方を調査して判断する
報酬の性質会議への出席旅費や立替経費の弁償にとどまる支払い(実費弁償程度)は労務の対価に当たらない。弁償の額を超えて定期的に支払われていれば報酬とみる

回答では、これらの判断材料に優先順位はなく、複数の材料によりあくまでも実態に基づいて総合的に判断する、疑義が生じた場合は実態を聞き取ったうえで具体的事例に基づき照会すること、とされています。役員報酬を月8.3万円と決めれば自動的に扶養に残れる、という関係ではありません。

社会保険に加入しないと判断された場合に、はじめて配偶者として被扶養者になれるかを見ます。令和8年4月1日以降は、労働契約の内容から見込まれる年間収入が130万円未満で、同一世帯なら被保険者の年間収入の2分の1未満であることが要件です(60歳以上または一定の障害がある場合は180万円未満、19歳以上23歳未満は150万円未満)。②の年100万円は、130万円未満であり、社長の年620万円の半分も下回るため、収入の面では要件を満たします。

つまり②を選べるのは、配偶者の働き方が常用的使用関係に当たらないと判断され、かつ収入要件も満たす場合です。非常勤で、他に本業があり、役員会で求めに応じて意見を述べるにとどまるような関わり方であれば加入しない扱いになり得ますが、最終的な判断は年金事務所が実態を見て行います。分け方を決める前に、想定している働き方を具体的に説明して確認してください。

試算2 — 年1,080万円を3通りに分ける

厚生年金の保険料は標準報酬月額65万円が上限です。①の月90万円では上限を超えた部分に厚生年金がかかりませんが、③の月45万円ずつなら2人とも上限の内側に入るため、報酬の全額に厚生年金がかかります。

年1,080万円の役員報酬(弊所試算・金額はすべて1年あたり・40歳未満・東京都)
項目① 社長ひとり(月90万円)② 配偶者へ年100万円(社長 月81.7万円)③ 半分ずつ(2人とも月45万円)
配偶者控除あり(所38万円・住33万円)あり(所38万円・住33万円)なし
配偶者の社会保険扶養(負担なし)扶養のまま自分で加入
本人負担の社会保険料125.8万円120.8万円153.3万円
所得税+住民税160.5万円132.0万円84.2万円
世帯の手取り合計793.7万円827.2万円842.5万円
会社負担の社会保険料128.6万円123.6万円157.1万円
会社+世帯の合計(①との差)+37.5万円+26.4万円

ここで順位が入れ替わります。世帯の手取りだけを見ると③が最も多く、①との差は+48.8万円です。しかし③は会社負担の社会保険料が年28.5万円増えます。この会社負担は損金になり法人税等が減るため正味では年22.4万円の増加ですが(所得400万円以下の部分の実効税率21.37%で計算)、それを差し引くと会社と世帯の合計では②が上回ります。

役員報酬を払うのは会社です。世帯の手取りだけで決めると、会社の負担増を見落とします。

この水準でも、②の前提が崩れたときの動きは試算1と同じです。配偶者が社会保険に加入すると、配偶者本人の保険料が年14.7万円、会社負担が年15.1万円増えます。世帯の手取りは827.2万円から812.5万円へ、会社負担は123.6万円から138.7万円へ動き、①との差は+37.5万円から+10.9万円まで縮みます。

こうなると、③の+26.4万円が最も有利になります。年720万円のときと同じく、扶養に残れるなら②、加入するなら③という順序です。年1,080万円では③の税の減り方が大きい(①より76.2万円少ない)ため、加入する場合の②と③の開きは年720万円のとき(5.4万円)より広がり、15.5万円になります。

役員報酬シミュレーションの画面。月額を変えたときの会社+社長の年間負担を並べて比較できる
役員報酬シミュレーションの画面。月額を変えたときの会社+社長の年間負担を並べて比較できる

保険料が減る分け方は年金も減る

②が有利に出るのは、社長の標準報酬月額が下がって社会保険料が減ることによる部分を含みます。保険料が減るということは、将来受け取る老齢厚生年金も減るということです。目先の手取りだけで決める話ではありません。

社長自身の年金が減る点は、②を選ぶかどうかの判断材料になります。目先の手取りと将来の受取額のどちらを取るかは、退職金や小規模企業共済など会社を辞めるときの設計と合わせて考える部分です。

注意点 — 実態と手続き

まとめ

配偶者への報酬の分散は、税金だけを見れば分けるほど有利に働きます。しかし配偶者控除の喪失、厚生年金の上限、会社負担の社会保険料と法人税、将来の年金まで入れると、今回の2つの水準ではいずれも「扶養の範囲で渡す」分け方が会社と世帯の合計では上回りました。ただしこれは配偶者が社会保険に加入しない場合の結果で、加入するなら半分ずつが上回ります。金額を決める前に、配偶者の働き方が常用的使用関係に当たるかどうかを確かめてください。

弊所では、夫婦それぞれの報酬額のパターン別に、税金・社会保険料・会社負担・将来の年金まで並べた試算をお出しします。実行の際は必ず事前にご相談ください。

※本記事の金額は、いずれも40歳未満(介護保険なし)・東京都の令和8年度料率・所得控除は給与所得控除と基礎控除と社会保険料控除と配偶者控除のみの概算です。40〜64歳は介護保険1.62%が加わります。