事前確定届出給与 — 制度の仕組みと社会保険料への影響
事前確定届出給与は、役員の賞与の支給日と金額をあらかじめ税務署へ届け出て、そのとおりに支給した場合に限り経費 (損金) にできる制度です。制度の趣旨・届出の期限・社会保険料が変わる仕組み・注意点を、税理士・公認会計士がまとめました。
同じ年収でも、「毎月均等」と「低い月給+年1回の賞与」では社会保険料の年間合計が変わります。その差がいくらになるかは、シミュレーションにあなたの数字を入れてその場で確かめられます。
議事録 (合同会社は同意書) と届出書・付表1 は、専用のページでその場で作れます。
このページについて — 気になるところから読めます
役員報酬全体の決め方・計算 (定期同額給与の基本・手取り・標準報酬月額) は「役員報酬ガイド」にまとめています。
制度の趣旨 — なぜ事前の届出が要るのか
制度 — なぜ事前の届出が要るのか
法人が役員に支払う給与のうち、毎月同じ額を支払う給与 (定期同額給与) は経費 (損金) になりますが、役員の賞与は、そのままでは原則として経費になりません。決算の直前に賞与の額を動かして、利益を調整することを防ぐためです。
事前確定届出給与は、支給する日と金額をあらかじめ税務署へ届け出て、届出のとおりに支給した場合に限り、役員の賞与を経費として認める制度です。届出には期限があります (株主総会などで決めた日から1か月後まで。合同会社では社員の決定の日から数えます。ただし、事業年度が始まった日から4か月後のほうが早いときは、そちらまで。会社を作った1年目などには別の定めがあります)。期限を過ぎた年は、この方法は使えません。
社会保険料が変わる仕組み
仕組み — 賞与の上限のはたらき
毎月の社会保険料は、その月の給与の額をもとに計算されます。一方、賞与にかかる社会保険料には上限があり (健康保険は年度の累計573万円・厚生年金は1か月あたり150万円)、それを超える部分には保険料がかかりません。
| 項目 | 払い方A毎月均等 | 払い方B低い月給+賞与 | 差額B - A |
|---|---|---|---|
| 年間の報酬総額 | 6,456,000円 | 6,456,000円 | 同額 |
| うち 毎月の報酬 (12か月) | 538,000円 × 12 | 80,000円 × 12 | |
| うち 賞与 (年1回) | - | 5,496,000円 | |
| 社会保険料 (本人負担) | 916,106円 | 559,256円 | -356,850円 |
| 社会保険料 (会社負担) | 939,348円 | 568,458円 | -370,890円 |
| 社会保険料 合計 | 1,855,454円 | 1,127,714円 | -727,740円 |
| 所得税・住民税 (本人) | 520,800円 | 593,000円 | +72,200円 |
| 法人税等の増加 (会社) | - | 86,000円 | +86,000円 |
| 実質の負担 合計 | 2,376,254円 | 1,806,714円 | -569,540円 |
→ 表は横にスクロールできます
社会保険料だけを見ると 727,740円 減りますが、保険料が減った分だけ所得税・住民税と法人税等が増えます。会社と個人を合わせた実質の差は 569,540円 です。
| 年間の報酬総額 | 毎月8万円 + 賞与年 1 回でまとめて | 毎月15万円 + 賞与年 1 回でまとめて | 毎月25万円 + 賞与年 1 回でまとめて |
|---|---|---|---|
| 480万円 | 418,730円実質 338,030円 | 279,900円実質 225,800円 | 55,980円実質 44,980円 |
| 600万円 | 642,650円実質 503,250円 | 503,820円実質 394,520円 | 279,900円実質 219,300円 |
| 800万円 | 1,110,578円実質 824,278円 | 887,076円実質 658,376円 | 615,780円実質 456,980円 |
| 1,000万円 | 1,312,178円実質 973,578円 | 1,088,676円実質 807,676円 | 743,796円実質 551,696円 |
| 1,200万円 | 1,513,778円実質 1,263,678円 | 1,290,276円実質 1,076,976円 | 945,396円実質 788,996円 |
上段は社会保険料 (本人負担 + 会社負担) の年間の差、下段の「実質」は個人の所得税・住民税と法人税等の増加を差し引いた負担減です。
→ 表は横にスクロールできます
このため、同じ年収を「低い月給+年1回の賞与」という形で支払うと、月々の保険料が下がり、賞与側は上限で頭打ちになることで、年間の社会保険料の合計が変わります。ただし、個人負担の保険料が減ると社会保険料控除も減るため所得税・住民税は少し増え、会社負担の保険料が減った分は法人の利益が増えて法人税等も増えます。実質の差は、保険料の差そのものより小さくなります。なお、社会保険で「賞与」として扱われるのは、名目ではなく性質で見て年3回以下の支給です。年4回以上に分けて払うと毎月の報酬 (標準報酬月額) の扱いになり、この効果は出ません。
実行前に必ず知っておきたい注意点
注意点 — 届出厳守・年金・資金繰り・税額
届出と1日・1円でもずれると経費になりません
届け出た支給日・金額と実際の支給が異なると、原則として、賞与の全額が経費 (損金) になりません。届出の期限にも、支給日の管理にも、正確な段取りが必要です。同じ職務執行期間に2回以上の支給を定めたときは、そのうち1回でも届出と違う支給があると、原則としてその期間の支給の全部が経費 (損金) になりません (当期は届出どおりに支給し、翌期に違えた場合は、翌期の分だけを損金不算入として差し支えないとされています)。
将来受け取る年金は下がります
厚生年金は、保険料のもとになる毎月の報酬額が将来の年金額の計算にも使われます。月々の報酬を低くする期間が続けば、受け取る年金は下がります。
毎月の生活費は賞与でまかなうことになります
月給を低くする分、毎月入ってくるお金は減ります。日々の資金繰りや、住宅ローンなどの審査に影響することがあります。
月給を下げたままだと役員退職金の目安も下がります
役員退職金の適正額は、実務では「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」で見積もることが多いため、月額を大きく下げたまま退職を迎えると、退職金として経費にできる目安も下がることがあります (法令上の基準は法人税法施行令70条2号の「業務に従事した期間、その退職の事情、同種同規模の法人の支給の状況等」で、最終報酬月額そのものは条文にありません)。退職が近い役員がいる会社は、無料相談でご確認ください。
税金は少し増えます
個人負担の保険料が減ると社会保険料控除も減るため、所得税・住民税は少し増えます。会社側でも法人税等が増えるため、効果は会社と個人を合わせた実質で見る必要があります。
手続きと期限 — 決めてから提出まで
手続き — 議事録 → 届出書 → 提出
支給額を決めたら、手続きは 3 つです。議事録 (合同会社は総社員の同意書) と届出書・付表1 は、専用のページで同じ入力からその場で作れます。
決めて、議事録に残す
株主総会 (合同会社は総社員の同意) で「誰に・いつ・いくら」を決め、議事録を作ります。
届出書と付表1 を書く
国税庁の様式に決めた内容を書き写します。専用ページでは様式に重ねた PDF で保存できます。
期限までに税務署へ提出
原則、決めた日から 1 か月後まで (期首から 4 か月後のほうが早ければそちら)。e-Tax でも提出できます。
| どんな年か | いつまでに届け出るか | 3月決算の会社の例 |
|---|---|---|
| ふつうの年株主総会などで、賞与の支給日と金額を決めた年 | 決めた日から1か月後までただし、事業年度が始まった日 (3月決算なら4月1日) から4か月後のほうが早いときは、そちらまで | 6月25日に決めた→ 7月25日まで |
| 会社を作った1年目設立と同時に役員の仕事が始まる場合 | 会社を作った日から2か月後まで設立した年だけの決まりです | 設立の日から数えます |
| 役職が変わるなどの事情があった年税法でいう「臨時改定事由」 | 上の期限と、その事情が起きた日から1か月後の、遅いほうまでこの場合だけ「遅いほう」です。期限が延びる向きに働きます | 事情が起きた日から数えます |
→ 表は横にスクロールできます
社長ひとりの会社でも、賞与の支給日と金額を決めたら議事録に残しておきます。期限を過ぎた年は、この方法は使えません。
よくあるご質問
事前確定届出給与とは何ですか?
役員の賞与の支給日と金額をあらかじめ税務署へ届け出て、そのとおりに支給した場合に限り、賞与を経費 (損金) にできる制度です。役員の賞与が利益の調整に使われることを防ぐための仕組みで、届出のとおりに支給しなかった場合は、賞与の全額が経費にならないことがあります。
届出はいつまでに必要ですか?
株主総会などで支給を決めた日から1か月後までです。ただし、事業年度が始まった日から4か月後のほうが早いときは、そちらが期限になります。会社を作った1年目や、役職が変わるなどの事情があった年には別の定めがあります。期限を過ぎた年はこの方法を使えないため、決算・株主総会の時期とあわせた段取りが必要です。ただし、届出が遅れたことにやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、期限内に届け出たものとして扱われることがあります (法人税法施行令69条7項)。認められる場面は限られますので、期限内の届出を前提に段取りしてください。
社会保険料はなぜ変わるのですか?
賞与にかかる社会保険料には上限があるためです (健康保険は年度の累計573万円・厚生年金は1か月あたり150万円)。同じ年収でも「低い月給+年1回の賞与」という支払い方にすると、年間の社会保険料の合計が変わります。ただし保険料が減る分、個人の所得税・住民税と法人税等は少し増えます。なお、社会保険で「賞与」として扱われるのは、名目ではなく性質で見て年3回以下の支給です。年4回以上に分けて払うと毎月の報酬 (標準報酬月額) の扱いになり、この効果は出ません。
デメリットはありますか?
あります。厚生年金の保険料のもとになる報酬額が下がるため、将来受け取る年金も下がります。月給を低くする分、毎月の生活費は賞与でまかなうことになり、資金繰りや住宅ローンの審査に影響することがあります。また、届出どおりの日付・金額で支給できなかった場合は、賞与の全額が経費にならないことがあります。
自分の場合はいくら変わりますか?
年収と支払い分け方によって変わります。事前確定届出給与シミュレーションで、あなたの数字を入れてその場で試算できます。実行の際は、届出の期限・支給日の管理・年金への影響まで含めて、必ず事前にご相談ください。
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