事前確定届出給与で役員に賞与を払うと、社会保険料の計算は月給とは別の物差しになります。何がどう変わるのかを、同じ年収600万円を3通りに払い分けた弊所の実額試算で、1行ずつ確かめていきます。
事前確定届出給与で役員に賞与を払うと、社会保険料の計算は月給とは別の物差しになります。何がどう変わるのかを、同じ年収600万円を3通りに払い分けた弊所の実額試算で、1行ずつ確かめていきます。
この記事の要点
事前確定届出給与とは、役員の職務について「所定の時期に確定した額を支給する」と定め、その定めを税務署へ届け出たうえで支給する給与です(法人税法34条1項2号)。役員報酬が利益の操作に使われないよう、支給の約束を先に固定させておくのが制度の趣旨です。
一方、社会保険の側から見ると、年3回以下の支給は「賞与」として扱われ、月給とは別の計算になります(年4回以上は報酬扱い。性質の違う決算賞与は定例の賞与とは別に数えます)。この二つの物差しの違いが、社会保険料が下がる仕組みの正体です。
月給の保険料は、報酬月額を等級表に当てはめた「標準報酬月額」に料率を掛けて出します(健康保険法40条・厚生年金保険法20条)。等級には上限があり、厚生年金は月額65万円で頭打ちです。
賞与の保険料は、次の手順で出します。
賞与にかかる社会保険料の出し方
標準賞与額を出す
支給額の1,000円未満を切り捨てる(健康保険法45条・厚生年金保険法24条の4)
上限で頭打ちにする
健康保険は年度(4月〜翌年3月)の累計573万円まで、厚生年金は1回(同じ月に2回以上なら合算)150万円まで
料率を掛ける
健康保険9.85%+子ども・子育て支援金0.23%、厚生年金18.3%(協会けんぽ東京・令和8年度・40歳未満。いずれも労使合計の率)
会社と本人で分ける
健康保険・支援金・厚生年金は労使折半(支援金の本人負担は0.115%。本人負担分は端数処理で1円単位のずれが出る)。子ども・子育て拠出金0.36%は会社だけが負担
月給を低く抑えて年1回の賞与に寄せると、賞与の厚生年金が150万円で頭打ちになる分だけ、年間の保険料が下がります。ここが、月給だけで払う場合との分かれ目です。
同じ年収600万円を、月給だけで払うA案、月給を少し抑えて賞与を足すB案、月給を大きく抑えて賞与に寄せるC案の3通りで払った場合を見てみましょう。内訳は表の見出しのとおりです。
| 項目 | A案 月50万円×12 | B案 月30万円+賞与240万円 | C案 月10万円+賞与480万円 |
|---|---|---|---|
| 月給にかかる保険料(会社+本人) | 1,724,400円 | 1,034,640円 | 344,880円 |
| 賞与にかかる保険料(会社+本人) | 0円 | 521,820円 | 763,740円 |
| 社会保険料の合計 | 1,724,400円 | 1,556,460円 | 1,108,620円 |
| うち本人負担 | 851,400円 | 769,050円 | 549,450円 |
| うち会社負担 | 873,000円 | 787,410円 | 559,170円 |
C案では、賞与480万円のうち厚生年金の標準賞与額が150万円で頭打ちになります。
健康保険は年度累計の上限の範囲内なので賞与の全額にかかりますが、厚生年金が大きく減るため、社会保険料の合計はA案より約61.6万円下がりました。
B案の賞与240万円でも厚生年金は150万円で頭打ちになりますが、月給30万円の部分に月々の保険料がかかるため、下がり幅はC案より小さくなります。C案のように月給を極端に抑える配分は、下の注意点の影響が大きく、避けた方がよいとする見方もあります。
なお、産前産後・育児休業中に支給した賞与は要件を満たせば保険料が免除され、資格を失った月に払う賞与は保険料の対象になりません。
社会保険料が下がると、本人の社会保険料控除も減るので、所得税・住民税は増えます。会社負担の保険料が減った分だけ法人の課税所得も増え、法人税等も増えます。差し引きの実質は、次のとおりです。
| 項目 | A案 | B案 | C案 |
|---|---|---|---|
| 社会保険料の合計(会社+本人) | 1,724,400円 | 1,556,460円 | 1,108,620円 |
| 本人の所得税・住民税 | 496,900円 | 513,500円 | 558,000円 |
| 法人税等の増加(法人の所得500万円の前提) | 0円 | 19,700円 | 72,500円 |
| A案と比べた実質の差 | — | 131,640円 | 482,180円 |
※住民税は、市区町村が前年の所得から決める税額を先回りして示した見込み額です。
国税庁は、複数回の支給を定めた場合、その職務執行期間の支給の全部が定めどおりかどうかで判定するとしています。1回目を届出どおり払い、2回目を減額した例では、原則としてその期間の支給全部が損金不算入で、翌事業年度の分だけが定めと違ったときはその分だけを損金不算入として差し支えない、という整理です。
また、ある役員だけ届出額と違う支給をしても、届出どおりに支給した他の役員の給与まで損金不算入になることはない、としています。届出の要件は役員ごとに見る、ということですね。
事前確定届出給与の社会保険料は、賞与の標準賞与額に上限があることで月給払いより下がります。ただし、下がった分は税金と将来の年金に形を変えて戻ってきます。あなたの年収と払い方では、実質の差はどのくらいでしょうか。
下のシミュレーションでは、年収と月給の組み合わせを変えて、社会保険料・税金・法人税等まで含めた実質の差を確かめられます。実行する場合は届出の期限や記載内容の確認が欠かせませんので、必ず事前にご相談ください。
※本記事の金額は、40歳未満(介護保険の対象外)・協会けんぽ東京・令和8年度料率(子ども・子育て支援金を含む)・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・法人の所得500万円の前提での概算です。前提が変わると金額も変わります。
出典
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社には株主総会がなく、業務に関する事項は社員(出資者)の決定で決めます(社員が2人以上なら原則その過半数・一人会社なら本人の決定 — 会社法590条)。役員報酬のような重要事項は定款の定めか総社員の同意で決め、定款の変更には原則として総社員の同意が必要です(同637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
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