経営セーフティ共済は、取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったときに、無担保・無保証・無利子でお金を借りられる制度です。国の機関である中小機構が運営し、掛金は法人なら損金、個人事業主なら必要経費になります。掛金の全額が経費になることから節税策として語られることが多い制度ですが、正確には「税を先送りする制度」です。
ここでは制度の要点と、掛金が経費になる仕組み、そしてこの制度でいちばん大切な「解約するとき」の考え方を、税理士・公認会計士が実務の目線でご説明します。ご自身の数字での試算は、無料のシミュレーションからどうぞ。
業種ごとに「資本金の額または出資の総額」と「常時使用する従業員数」の基準があり、どちらかを満たせば加入できます。製造業・建設業・運輸業その他の業種は3億円以下または300人以下、卸売業は1億円以下または100人以下、サービス業は5,000万円以下または100人以下、小売業は5,000万円以下または50人以下です。企業組合・協業組合などの組合も加入できます。開業から1年に満たない方、経理内容が不明な方、所得税・法人税を滞納している方は加入できません。
加入したあとに増やすことも、事業規模の縮小や資金繰りの悪化などの理由があれば減らすこともできます。掛金の振替日は毎月27日です。加入申込みの翌々月に、申込月から3か月分がまとめて引き落とされる点にご注意ください。
800万円が積立限度額です。上限に達すると自動的に請求が止まり、掛止めの手続きは要りません。月200,000円で積み立てた場合は40か月、月100,000円なら80か月で上限に達します。青天井に積める制度ではないため、いつ上限に届くかを最初に見ておく必要があります。
中小機構の加入者必携は、根拠として租税特別措置法第28条第1項第2号 (個人) および同法第66条の11第1項第2号 (法人) を挙げています。小規模企業共済のような「所得控除」ではなく「経費」である点が重要で、個人事業主の場合は事業所得そのものが下がるため、所得税・住民税だけでなく国民健康保険料と個人事業税まで下がります。
この制度をご案内するとき、弊所が最初にお伝えしているのがこの点です。掛金は払った年の経費になりますが、解約して受け取る解約手当金は、その年の益金 (法人の場合) または事業所得の収入金額 (個人の場合) にまるごと算入されます。つまり、積み立てている間に減った税は、消えたのではなく解約する年に戻ってきます。
利益が出た年の税負担を下げられます。月200,000円なら年間2,400,000円、決算月に翌年1年分を前納すれば最大4,800,000円を1年の経費にできます。
800万円まで積み立てて解約すれば、その年に800万円の利益が一度に乗ります。ほかに利益が出ている年に解約すると、入口で下げた税率より高い税率で課税され、通算では損をすることさえあります。
解約手当金という利益に、同じ年の大きな損金をぶつけて相殺する。これがこの制度を活かす唯一の方法です。何も準備せずに解約すると、繰り延べた税をそのまま払うだけで終わります。いつ・何にぶつけて解約するかを、加入する時点で決めておく必要があります。
小規模企業共済は、受け取るときに退職所得控除や公的年金等控除が使えるため、出口でも税が大きく圧縮されます。経営セーフティ共済にはその優遇がなく、受け取った額がそのまま課税対象です。同じ「共済」でも性格がまったく異なる制度だとお考えください。
経営セーフティ共済シミュレーションでは、積立期に軽くなる税と、解約する年に戻る税を並べて、通算でいくら手元に残るかを確認できます。
節税の話題が先行しがちですが、この制度の本来の目的は連鎖倒産の防止です。取引先が倒産して売掛金が回収できなくなったとき、掛金総額の10倍 (上限8,000万円) と、回収困難になった売掛金債権等の額とのいずれか少ない額まで、無担保・無保証・無利子で借りられます。
加えて、取引先の倒産により売掛金債権等の回収が困難となったこと、倒産日から6か月以内に貸付請求をしていることが必要です。加入してすぐには使えない点にご注意ください。
利息は付きませんが、貸付額の10分の1に相当する額が納付済みの掛金から控除され、その掛金の権利は消滅します。2,000万円借りれば200万円の掛金が失われる計算です。実質的な負担がある点は、加入前に必ず知っておいてください。
制度上の倒産は、法的整理 (破産・再生・更生手続開始、特別清算開始の申立て)、手形交換所またはでんさいネットによる取引停止処分、弁護士等による支払停止の通知 (私的整理)、災害による不渡り、特定非常災害による支払不能の5つです。取引先が夜逃げした場合は該当しません。
5,000万円未満は5年 (54回)、5,000万円以上6,500万円未満は6年 (66回)、6,500万円以上8,000万円以下は7年 (78回) で、いずれも6か月の据置期間を含みます。期日までに返済しないと年14.6%の違約金がかかります。
「掛金として払ってしまうと、いざというときに使えないのではないか」というご心配をよくいただきます。取引先の倒産がなくても、臨時に事業資金が必要になったときには、解約手当金の95%を上限に借りられる一時貸付金があります。
借りられる額は掛金納付月数で決まり、掛金総額に12か月から23か月は75%、24か月から29か月は80%、30か月から35か月は85%、36か月から39か月は90%、40か月以上は95%を掛け、さらに95%を掛けた範囲です。掛金総額が800万円に達していれば760万円まで借りられます。30万円以上5万円単位、期間は1年の期限一括償還、利率は年0.9% (令和7年4月1日現在)、担保も保証人も要りません。利息は借入時に一括前払いです。
借りられる枠の目安はシミュレーションの画面でも確認できます。
自分の意思でやめる任意解約の場合、受け取れる解約手当金は掛金納付月数によって次のとおり変わります。40か月に届いて、はじめて掛金の全額が戻ります。
解約手当金は支給されません。始める前に、少なくとも1年間は払い続けられる金額かどうかをご確認ください。
12か月から23か月は80%、24か月から29か月は85%、30か月から35か月は90%、36か月から39か月は95%です。この期間に解約すると元本割れします。
元本割れがなくなるのが40か月です。ただし増える制度ではないため、40か月を超えても受け取れる額は掛金総額のままです。利息や運用益は付きません。
12か月分以上の掛金を滞納したときなどに中小機構が行う機構解約は支給率が5ポイント低くなり、契約者の死亡・解散・会社分割・事業の全部譲渡によるみなし解約は逆に高くなります。上の表は自分の意思でやめる任意解約の率です。
かつては「40か月まで積んで解約し、利益が出た年にまた入り直す」という使い方ができました。この点は令和6年10月1日から変わっています。
令和6年10月1日以降に共済契約を解約し、再度共済契約を締結 (再加入) する場合、その解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金については、必要経費または損金の額に算入できません。掛金の支払い自体はできますが、経費にはならないということです。
解約と再加入を繰り返す使い方は、この改正で実質的に封じられました。今から加入される方は、長く持ち続ける前提で、出口を1回だけ設計するのが基本になります。
意外と見落とされるのがこの点です。掛金を払っただけでは経費になりません。中小機構の加入者必携は「納付した掛金を必要経費または損金の額に算入する場合には、確定申告書に所定の明細書を添付することになっています」と定めています。
「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」(別表十 (七)) に加えて、租税特別措置の適用状況の透明化等に関する法律 (平成22年法律第8号) により「適用額明細書」の添付も必要です。必携には「適用額明細書を添付しなかった場合は損金の額への算入が認められません」と明記されています。なお、本制度の掛金に告示番号はないため、告示番号欄の記入は不要です。
確定申告書に添付します。掛金を単に経費として計上しただけでは要件を満たしません。
必携が載せている条文 (租税特別措置法66条の11第3項・同法28条3項) には、添付がなかったことについて税務署長がやむを得ない事情があると認め、あとから明細書の提出があったときはこの限りでない、という但書きがあります。ただし認められるかどうかは税務署の判断であり、適用額明細書のほうは故意に添付しなかったと認められる場合の救済が明文で外されています。申告のたびに確認する運用にしておくのが確実です。
必携は「個人事業の場合、掛金は、事業所得以外の収入 (不動産所得等) の必要経費として、算入が認められません」と注記しています。不動産賃貸だけを営んでいる方は、掛金を経費にできない点にご注意ください。
掛金は前納できます。前納の期間が1年以内であれば、支払った日の属する年分または事業年度で全額を必要経費・損金に算入できます (加入者必携は根拠として租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて28の3、租税特別措置法関係通達 (法人税編) 66の11-3 を挙げています)。
たとえば12月決算の法人が、月200,000円で加入して毎月払い、決算月の12月に当月分と翌年1月から12月までの12か月分をまとめて納付すると、その事業年度に最大4,800,000円を損金にできます。前納の期間が1年を超えるものは一括では落とせず、期間の経過に応じて配分します。
手続きには期限があります。掛金前納申出書は、前納を希望する月の5日までに中小機構が受理する必要があります。12月決算なら12月5日までです。決算直前に思い立っても間に合わないため、決算の2か月前には方針を決めておくことをおすすめします。
有利に使える制度ですが、始め方と終わり方を誤ると効果が大きく減ります。弊所がご案内するときに、必ずお伝えしている点です。
役員退職金を出す予定も、大きな設備投資も、赤字になる見込みもない。そういう状態で解約すると、繰り延べた税をそのまま払って終わります。加入前に出口の当てを考えておいてください。
利息も運用益も付きません。800万円積んで戻るのは800万円です。手元資金を800万円まで拘束する制度でもあるため、資金繰りに余裕がある範囲の掛金にとどめてください。
掛金を費用として処理すると利益と純資産がその分だけ小さく見え、金融機関の評価に影響することがあります。必携が載せている租税特別措置法66条の11第1項は「その支出した金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する」と定めるだけで、帳簿上も費用として処理すること (損金経理) は要件になっていません。そのため、会計上は資産として計上したうえで申告書で減算する処理も考えられます (どちらでも税負担は変わりません)。融資を予定している法人では、どちらの処理にするかを決算を組む前にご相談ください。
この制度は取引先事業者に対する売掛金債権等が回収困難になったときの貸付制度です。一般消費者を取引先とする事業者、金融業者、不動産業者などは、そもそも対象となる売掛金債権等が生じず、共済金の貸付けの対象にならない場合があります。しおりにも注意書きがあります。
個人事業主やマイクロ法人の役員の方からは、どちらに入るべきかというご質問をよくいただきます。名前は似ていますが、目的も税務上の扱いも別の制度です。両方に加入することもできます。
経営セーフティ共済は法人または事業が契約し、掛金は事業の経費です。小規模企業共済は経営者個人が契約し、掛金は個人の所得控除です。法人の役員が小規模企業共済に入る場合、掛金は役員個人が自分の所得から払います。
ここが最大の違いです。小規模企業共済は一括受取りなら退職所得、分割受取りなら公的年金等の雑所得として、大きな控除を受けたあとに課税されます。経営セーフティ共済にその仕組みはありません。
経営セーフティ共済は月200,000円まで払えますが総額800万円で打ち止めです。小規模企業共済は月70,000円までですが、積立総額の上限はありません。短期間に大きく圧縮したいなら前者、長く積んで退職金を作るなら後者という違いになります。
法人で利益が出ていて、数年内に役員退職金の予定があるなら経営セーフティ共済が噛み合います。個人の手取りを増やしながら退職金を作りたいなら小規模企業共済です。実際にはご事業の段階と資金繰りで答えが変わるため、両方の試算をお持ちしたうえでご相談いただくのが確実です。
掛金でいくら税が軽くなるか、いつ800万円に届くか、解約する年にいくら戻すことになるか、通算で手元にいくら残るか、いくらまで借りられるか。これらを1つの画面で確認できます。入力した数字がサーバーへ送信されることはありません。
※本ページの制度の内容は、中小機構「経営セーフティ共済 制度のしおり」(令和8年1月改訂版) および「中小企業倒産防止共済加入者必携」(令和5年11月版) にもとづいています。貸付利率など最新の取り扱いは中小機構のご案内をご確認ください。個別のご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。
掛金を払った年の税は減りますが、解約したときに解約手当金の全額が益金 (法人) または事業所得の収入金額 (個人) に算入されるため、税は戻ってきます。制度自体に減税の効果はなく、税を払う時期を動かす仕組みです。効果を残せるかどうかは、解約する年に役員退職金などの損金をぶつけられるかどうかで決まります。
元本割れします。任意解約の場合、掛金納付月数が12か月未満だと掛け捨てで1円も戻らず、12か月から23か月は掛金総額の80%、24か月から29か月は85%、30か月から35か月は90%、36か月から39か月は95%です。40か月以上でようやく100%になります。40か月を超えても利息や運用益は付かないため、戻るのは掛金と同額です。
加入し直すこと自体はできますが、令和6年10月1日以降に解約して再加入する場合、その解約の日から2年を経過する日までの間に支出する掛金は、必要経費または損金の額に算入できません。40か月ごとに解約と再加入を繰り返して経費を作る使い方は、この改正で実質的にできなくなりました。
掛金の総額が積立限度額の800万円に達すると、自動的に請求が止まります。掛止めの手続きは要りません。以後は掛金の支払いがないまま、解約手当金と貸付けの枠だけが維持されます。上限に達したあとは、いつ解約するかだけが残された論点になります。
できます。引き続き1年以上事業を行っていて、業種ごとの資本金または従業員数の基準を満たせば加入できます。ただし、掛金を必要経費にできるのは事業所得だけで、不動産所得など事業所得以外の収入からは必要経費に算入できません。不動産賃貸だけを営んでいる方はご注意ください。
あります。法人は「特定の基金に対する負担金等の損金算入に関する明細書」(別表十 (七)) と「適用額明細書」の添付が必要で、適用額明細書を添付しなかった場合は損金算入が認められません。個人は「特定の基金に対する負担金等の必要経費算入に関する明細書」を確定申告書に添付します。掛金を帳簿に経費計上しただけでは要件を満たさないため、申告書の作成時にご確認ください。
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