事前確定届出給与を使うとき、いちばん迷うのが「月給をいくらにして、賞与をいくらにするか」ではないでしょうか。配分で何が変わるのかを、年収600万円の3通りの実額試算と、決めるときの5つの物差しで整理します。
事前確定届出給与を使うとき、いちばん迷うのが「月給をいくらにして、賞与をいくらにするか」ではないでしょうか。配分で何が変わるのかを、年収600万円の3通りの実額試算と、決めるときの5つの物差しで整理します。
この記事の要点
事前確定届出給与は、役員の職務について「所定の時期に確定した額を支給する」と定め、税務署へ届け出たうえで支給する給与です(法人税法34条1項2号)。社会保険では年3回以下の支給は賞与として扱われ、標準賞与額の上限は健康保険が年度累計573万円、厚生年金が1か月当たり150万円です。同じ月に複数回支給した賞与は合算して上限を適用します(健康保険法45条・厚生年金保険法24条の4)。
この上限によって年間の社会保険料が下がる場合がありますが、効果は月給・賞与の額や支給月で変わります。制度の趣旨は、役員報酬が利益の操作に使われないよう支給の約束を先に固定させることにあります。
税務上の届出をしただけで、社会保険上も賞与になるとは限りません。「役員賞与」という名称だけでなく、給与の分割支給になっていないか、支給規程と実際の支給方法を確認します。年4回以上支給される賞与は標準報酬月額の対象です。給与の分割支給など報酬に当たる実態がある場合は、この表の賞与扱いを前提とする保険料の差をそのまま使わず、年金事務所等に確認してください。
同じ年収600万円を、月給だけで払うA案、月給を少し抑えて賞与を足すB案、月給を大きく抑えて賞与に寄せるC案で払った場合を並べます。内訳は表の見出しのとおりです。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 項目 | A案 月50万円×12 | B案 月30万円+賞与240万円 | C案 月10万円+賞与480万円 |
|---|---|---|---|
| 社会保険料の合計(会社+本人) | 1,724,400円 | 1,556,460円 | 1,108,620円 |
| うち本人負担 | 851,400円 | 769,050円 | 549,450円 |
| 本人の所得税・住民税 | 460,200円 | 476,800円 | 521,200円 |
| 法人税等の増加(法人の所得500万円の前提) | 0円 | 19,700円 | 72,500円 |
| A案と比べた実質の差 | — | 131,640円 | 482,280円 |
賞与を年1回払う今回の3案では、賞与に寄せた案ほど社会保険料が下がります。ただし、社会保険料控除が減る分だけ本人の税金は増え、会社負担が減る分だけ法人税等も増えるため、その差し引きを「実質の差」としています。
※住民税は、市区町村が前年の所得から決める税額を先回りして示した見込み額です。
金額の差は分かりました。では、月給を下げていいかどうかは何で決めるのでしょうか。月給は次の5つに関わりますが、保険料や給付の計算に使う「標準報酬月額」は報酬を等級に当てはめた額で、月給そのものとは異なります。
| 物差し | 月給を厚くすると | 賞与に寄せると |
|---|---|---|
| 1. 生活費 | 毎月の手取りで生活費をまかなえる | 賞与月まで生活費が足りず、役員貸付金が生まれやすい |
| 2. 年金と万一の保障 | 傷病手当金・出産手当金の算定基礎となる標準報酬月額を確保しやすい | 標準報酬月額の低下は傷病手当金・出産手当金に影響する。厚生年金は標準賞与額も計算に入るため、月給だけで増減を判断しない |
| 3. 融資・住宅ローン | 年収として評価される総額は同じ。毎月の収入の安定が見えやすい | 総額は同じでも、月々の収入が低く見える場合がある |
| 4. 退職金・弔慰金 | 役員退職金の目安(最終報酬月額×在任年数×功績倍率)が大きく計算できる | 最終報酬月額が低いままだと、損金にできる目安も小さく計算される |
| 5. 法人側の税金 | 会社負担の社会保険料が損金になる | 会社負担が減った分の利益に法人税等がかかる |
老齢・障害・遺族厚生年金の報酬比例部分には、標準報酬月額だけでなく標準賞与額も反映されます。賞与の上限を超える部分は計算の基礎に入らないため、年間の標準報酬月額と標準賞与額を合わせて比較する必要があります。傷病手当金・出産手当金とは計算の仕組みを分けて考えます。
金額を決めたら、税務上の要件を満たす手続きが続きます。
事前確定届出給与の4段階
決議する
株主総会(合同会社は総社員の同意)で支給日と金額を決める
届け出る
原則は、決議日(職務執行開始日が先ならその開始日)から1か月と、会計期間開始日から4か月のいずれか早い日まで。特定の申告期限延長の指定を受けた法人は後者が指定月数に3を加えた月数となる。設立時に開始する職務について定めた新設法人は設立日から2か月まで(法人税法施行令69条4項)
支給する
届け出た日に届け出た額をそのまま払う
賞与支払届を出す
支給日から5日以内に日本年金機構へ届け出る。同月の複数回支給は合算して確認する
届出の期限は、決議の時期と会計期間の関係で変わります。ご自身の行を次の表で確かめてみましょう。
| どんな年か | いつまでに届け出るか | 3月決算の会社の例 |
|---|---|---|
| ふつうの年株主総会などで、賞与の支給日と金額を決めた年 | 決めた日から1か月後までただし、事業年度が始まった日 (3月決算なら4月1日) から4か月後のほうが早いときは、そちらまで | 6月25日に決めた→ 7月25日まで |
| 会社を作った1年目設立と同時に役員の仕事が始まる場合 | 会社を作った日から2か月後まで設立した年だけの決まりです | 設立の日から数えます |
| 役職が変わるなどの事情があった年税法でいう「臨時改定事由」 | 上の期限と、その事情が起きた日から1か月後の、遅いほうまでこの場合だけ「遅いほう」です。期限が延びる向きに働きます | 事情が起きた日から数えます |
→ 表は横にスクロールできます
社長ひとりの会社でも、賞与の支給日と金額を決めたら議事録に残しておきます。期限を過ぎた年は、この方法は使えません。
事前確定届出給与の金額は、社会保険料の差だけで決めると、生活費・給付・退職金の土台を削ることになります。5つの物差しで月給の下限を決めてから賞与を置く — この順番なら、数字の差と暮らしの両方を守れます。
下のシミュレーションでは、年収と月給の組み合わせを変えて実質の差を確かめられます。金額が決まったら、議事録のひな形と届出の期限をその場で作れる道具もご用意しています。実行の際は、届出の期限や記載内容の確認も含めて、必ず事前にご相談ください。
※本記事の金額は、所得税は令和8年分、保険料は令和8年度料率(子ども・子育て支援金を含む)での概算です。40歳未満(介護保険の対象外)・協会けんぽ東京・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・法人の所得500万円・賞与年1回を前提としています。前提が変わると金額も変わります。
出典
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