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事前確定届出給与の金額の決め方 — 月給と賞与の配分を5つの物差しで設計し、年収600万円の3通りを実額で比べる

事前確定届出給与を使うとき、いちばん迷うのが「月給をいくらにして、賞与をいくらにするか」ではないでしょうか。配分で何が変わるのかを、年収600万円の3通りの実額試算と、決めるときの5つの物差しで整理します。

この記事の要点

  • 年収600万円を比較する今回の3案では、月給を抑えた案ほど社会保険料が下がる一方、本人の税金は増える。3案の実質の差は最大で年約48.2万円
  • 月給は生活費・年金や給付・融資・退職金の土台になる。賞与は賞与支給月のまとまった資金が要る
  • 決めた金額は届け出たとおりに払う必要があり、変更が認められるのは臨時改定事由などに限られる。決めたら決議・届出まで一気に済ませる

住民税は、市区町村が前年の所得から決める税額を先回りして示した見込み額です。 本記事の金額は、所得税は令和8年分、保険料は令和8年度料率(子ども・子育て支援金を含む)での概算です。40歳未満・協会けんぽ東京・給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・A案で報酬と会社負担保険料を引いた後の法人所得500万円。B案は賞与年1回、C案は賞与年1回の年額比較です。前提が変わると金額も変わります。

仕組みのおさらい — 月給と賞与で、社会保険料の物差しが変わる

事前確定届出給与は、役員の職務について「所定の時期に確定した額を支給する」と定め、税務署へ届け出たうえで支給する給与です(法人税法34条1項2号)。社会保険では年3回以下の支給は賞与として扱われ、標準賞与額の上限は健康保険が年度累計573万円、厚生年金が1か月当たり150万円です。同じ月に複数回支給した賞与は合算して上限を適用します(健康保険法45条・厚生年金保険法24条の4)。

この上限によって年間の社会保険料が下がる場合がありますが、効果は月給・賞与の額や支給月で変わります。制度の趣旨は、役員報酬が利益の操作に使われないよう支給の約束を先に固定させることにあります。

税務上の届出をしただけで、社会保険上も賞与になるとは限りません。「役員賞与」という名称だけでなく、給与の分割支給になっていないか、支給規程と実際の支給方法を確認します。年4回以上支給される賞与は標準報酬月額の対象です。給与の分割支給など報酬に当たる実態がある場合は、この表の賞与扱いを前提とする保険料の差をそのまま使わず、年金事務所等に確認してください。

配分で何が変わるか — 年収600万円を3通りに分けると

同じ年収600万円を、月給だけで払うA案、月給と賞与を配分するB案・C案で払った場合を並べます。内訳は表の見出しのとおりです。

試算表の月給の保険料は等級表に丸めない概算です。実際の手続きでは、健康保険と厚生年金それぞれの等級表で標準報酬月額を決めます。端数処理や加入期間も確認するため、表の概算と実際の請求額は異なる場合があります。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

配分別の社会保険料・税金・実質の差(弊所試算・金額はすべて年額・A案との比較)
項目A案 月50万円×12B案 月30万円+賞与240万円C案 月10万円+賞与480万円
社会保険料の合計(会社+本人)1,724,400円1,556,460円1,108,620円
うち本人負担851,400円769,050円549,450円
本人の所得税・住民税462,600円479,300円523,700円
A案との法人税等の差(A案で報酬と会社負担保険料を引いた後の法人所得500万円の前提)0円19,700円72,500円
A案と比べた実質の差—131,540円482,180円

※社長おひとり・40歳未満・協会けんぽ東京、令和8年度料率・令和8年分税制。給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映し、住民税はその所得に対応する翌年度の見込み額です。年収600万円・B案は賞与年1回、C案は賞与年1回の年額比較です。A案で報酬と会社負担保険料を引いた後の法人所得500万円の法人税等の差を含む実質差です。

今回の3案では、賞与に寄せた案ほど社会保険料が下がります。保険料が減ると社会保険料控除や会社の損金も変わりますが、もともとの課税所得や税率によって、税金の増減は異なります。A案との本人の所得税・住民税の差は、B案が約1.7万円増える、C案が約6.1万円増えるです。

法人税等の差はB案が約2.0万円増える、C案が約7.3万円増えるです。保険料の差から税負担の差を引いて実質の差を求めています。

※住民税は、市区町村が前年の所得から決める税額を先回りして示した見込み額です。

決めるときの5つの物差し — 数字の差の裏側にあるもの

金額の差は分かりました。では、月給を下げていいかどうかは何で決めるのでしょうか。月給は次の5つに関わりますが、保険料や給付の計算に使う「標準報酬月額」は報酬を等級に当てはめた額で、月給そのものとは異なります。

月給の高さが効くもの
物差し月給を厚くすると賞与に寄せると
1. 生活費毎月の手取りで生活費をまかなえる賞与月まで生活費が足りず、役員貸付金が生まれやすい
2. 年金と万一の保障傷病手当金・出産手当金の算定基礎となる標準報酬月額を確保しやすい標準報酬月額の低下は傷病手当金・出産手当金に影響する。厚生年金は標準賞与額も計算に入るため、月給だけで増減を判断しない
3. 融資・住宅ローン年収として評価される総額は同じ。毎月の収入の安定が見えやすい総額は同じでも、月々の収入が低く見える場合がある
4. 退職金・弔慰金役員退職金の目安(最終報酬月額×在任年数×功績倍率)が大きく計算できる最終報酬月額が低いままだと、損金にできる目安も小さく計算される
5. 法人側の税金会社負担の社会保険料が損金になる会社負担が減った分の利益に法人税等がかかる

老齢・障害・遺族厚生年金の報酬比例部分には、標準報酬月額だけでなく標準賞与額も反映されます。賞与の上限を超える部分は計算の基礎に入らないため、年間の標準報酬月額と標準賞与額を合わせて比較する必要があります。傷病手当金・出産手当金とは計算の仕組みを分けて考えます。

払い方を決める前に、資金と手続きを3段階で確かめる

  1. 決算期・利益見込み・生活費・月別資金繰り表を用意し、年収総額、月給、賞与額と支給日を候補ごとに書き出します。
  2. 同じ年収で税と保険料を比べ、賞与までの生活費不足、支給日の現預金、将来の年金・給付、借入への影響を別に確かめます。
  3. 支給額と日を守れる候補を残し、決議日・職務執行開始日・決算期から届出期限を確認します。資金繰り表と候補を用意し、決議・届出・支給・記録保存の予定を決めます。

決めたあとの手続き — 決議から賞与支払届まで

金額を決めたら、税務上の要件を満たす手続きが続きます。

事前確定届出給与の4段階

  1. 決議する

    株主総会(合同会社は総社員の同意)で支給日と金額を決める

  2. 届け出る

    原則は、決議日(職務執行開始日が先ならその開始日)から1か月と、会計期間開始日から4か月のいずれか早い日までです。一定の通算法人は後者が5か月、申告期限延長の指定を受けたそのほかの法人は指定月数に3を加えた月数です。設立時に開始する職務について定めた新設法人は、設立日から2か月までです(法人税法施行令69条4項)

  3. 支給する

    届け出た日に届け出た額をそのまま払う

  4. 賞与支払届を出す

    支給日から5日以内に日本年金機構へ届け出る。同月の複数回支給は合算して確認する

届出の期限は、決議の時期と会計期間の関係で変わります。ご自身の行を次の表で確かめてみましょう。

いつまでに税務署へ届け出るか
どんな年かいつまでに届け出るか3月決算の会社の例
ふつうの年株主総会などで、賞与の支給日と金額を決めた年決めた日から1か月後までただし、事業年度が始まった日 (3月決算なら4月1日) から4か月後のほうが早いときは、そちらまで6月25日に決めた→ 計算上は7月25日、提出できる最終日は7月27日
会社を作った1年目設立と同時に役員の仕事が始まる場合会社を作った日から2か月後まで設立した年だけの決まりです設立の日から数えます
役職が変わるなどの事情があった年役職や職務内容の重大な変更などの臨時改定事由により、新たに賞与の支給日・額を定めた場合上の期限と、その事情が起きた日から1か月後の、遅いほうまでこの場合だけ「遅いほう」です。期限が延びる向きに働きます。その役員に直前の職務で事前確定届出給与の定めがあった場合は除きます (法人税法施行令69条4項2号)。届出済みの定めを変更する場合は、別の変更届出期限です (同条5項)事情が起きた日から数えます

→ 表は横にスクロールできます

社長ひとりの会社でも、賞与の支給日と金額を決めたら議事録に残しておくと安心です。期限を過ぎた年は、原則としてこの方法は使えません。届出がなかったことにやむを得ない事情があると税務署長が認めるときは、期限までに届け出たものとして扱われます (法人税法施行令69条)。

根拠: 国税庁「事前確定届出給与に関する届出」の提出時期 (法人税法施行令69条4項)。日付の例は令和8年の通常の年決算で、決議日と職務執行開始日が同じ場合です。決めた日が役員としての仕事を始める日より後のときは、仕事を始める日から数えます。法人税の申告期限は、法人税法75条の2第1項では原則1か月の延長とされています。その申告期限の延長を受けても、次の例外に該当しない法人の届出期限の(ロ)は4か月のままです (法人税法施行令69条4項1号)。同条1項1号イ(1)に掲げる通算法人は(ロ)が5か月、同号イ(2)の月数の指定を受けた法人は「指定を受けた月数 + 3か月」になります (法人税法施行令69条4項1号)。ご自身のケースの期限は、無料相談でご確認ください。

まとめ — 「下げない月給」を先に決め、賞与は後から置く

事前確定届出給与の金額は、社会保険料の差だけで決めると、生活費・給付・退職金の土台を削ることになります。5つの物差しで月給の下限を決めてから賞与を置く — この順番なら、数字の差と暮らしの両方を守れます。

事前確定届出給与シミュレーションでは、年収と月給の組み合わせを変えて実質の差を確かめられます。金額が決まったら、議事録・届出書の作成と期限計算で、議事録のひな形の作成と届出期限の計算を進められます。実行の際は、届出の期限や記載内容の確認も含めて、必ず事前にご相談ください。

※本記事の金額は、所得税は令和8年分、保険料は令和8年度料率(子ども・子育て支援金を含む)での概算です。40歳未満・協会けんぽ東京・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・A案で報酬と会社負担保険料を引いた後の法人所得500万円。B案は賞与年1回、C案は賞与年1回の年額比較です。前提が変わると金額も変わります。

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※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。

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