「掛金を控除しても、受け取るときに課税されるなら意味がない」— 小規模企業共済について、そんな声を聞くことがあります。入口(掛金の所得控除)と出口(共済金の税金)を通しで並べて、どこまで本当かを弊所の実額試算で確かめます。
「掛金を控除しても、受け取るときに課税されるなら意味がない」— 小規模企業共済について、そんな声を聞くことがあります。入口(掛金の所得控除)と出口(共済金の税金)を通しで並べて、どこまで本当かを弊所の実額試算で確かめます。
この記事の要点
小規模企業共済は、中小機構(独立行政法人中小企業基盤整備機構)が運営する、小規模企業の経営者・役員・個人事業主のための退職金制度です。掛金は月1,000円〜7万円の範囲で500円単位で決められ、加入後の増額・減額もできます。
共済金は、廃業や役員の退任などのときに受け取ります。受け取る事由によって共済金A・共済金B・準共済金・解約手当金の4種類に分かれ、納付月数や請求事由によって受取額が変わります。受け取り方は一括・分割・併用から選べますが、分割と併用には請求の事由が60歳以上で生じたときで共済金が300万円以上などの要件があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運営 | 中小機構(国の機関) |
| 加入できる人 | 常時使用する従業員が20人以下(商業・サービス業は5人以下。ただし宿泊業・娯楽業は20人以下)の個人事業主や会社の役員など。会社員や事業専従者、医療法人・学校法人・NPO法人・社会福祉法人などの役員、登記されていない相談役・顧問は加入できない |
| 掛金 | 月1,000円〜7万円(500円単位)。全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除) |
| 受け取り方 | 一括(退職所得扱い)・分割(公的年金等の雑所得扱い・60歳以上などの要件あり)・併用 |
| 任意解約 | 一時所得扱い(65歳以上は退職所得扱い)。法人成りに伴う受け取りは通常の任意解約と区別し、加入資格・請求事由・加入時期に応じた所得区分を中小機構の案内で確認する。12か月未満は掛け捨て、240か月未満は掛金合計額を下回る |
| 貸付制度 | 納付12か月以上などの要件のもと、掛金の7〜9割の範囲(10万円〜2,000万円)で事業資金を借りられる |
老齢給付として共済金Bを受け取るには、65歳以上で掛金納付月数が180か月以上必要です。この要件を満たせば、事業を続けたまま請求できます。65歳以上の任意解約が退職所得になる取扱いとは、請求事由も受取額も別です。
従業員数の要件は加入時のものです。加入後に従業員が増えて人数の要件を超えても、契約は続けられます。
掛金は全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得から引かれます(所得税法75条。旧第二種共済契約の掛金は除きます)。事業所得600万円の個人事業主が月3万円を掛けると、弊所の試算では所得税・住民税が年約11万円軽くなりました。
所得が高い方ほど、同じ掛金で軽くなる税額は大きくなります。所得と掛金の組み合わせごとの目安は、次の早見表で確かめてみましょう。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
| 事業所得 (掛金を引く前) | 掛金 月1万円 | 掛金 月3万円 | 掛金 月7万円 |
|---|---|---|---|
| 4,000,000円 | 18,200円 | 54,400円 | 126,900円 |
| 6,000,000円 | 36,500円 | 109,600円 | 228,700円 |
| 8,000,000円 | 36,500円 | 109,500円 | 255,600円 |
| 10,000,000円 | 40,200円 | 120,600円 | 274,200円 |
→ 表は横にスクロールできます
同じ掛金でも、所得が高い方ほど軽くなる税額は大きくなります (適用される税率が高いためです)。あなたの数字ではシミュレーションでその場で確かめられます。
一括で受け取る共済金は、税法上は退職金と同じ「退職所得」として扱われます(所得税法31条3号・所得税法施行令72条3項3号)。退職所得は、受け取った額から退職所得控除を引いた残りの2分の1にだけ税金がかかります(所得税法30条2項)。
退職所得控除は、勤続年数20年以下なら1年あたり40万円、20年を超える部分は1年あたり70万円です(同条3項)。20年積み立てれば800万円まで税金がかからない計算になります。
先ほどの個人事業主と、役員報酬月50万円の会社役員が掛金の上限の月7万円を掛けた場合を、20年後に一括で受け取るまで通して見てみましょう。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 項目 | 個人事業主(事業所得600万円・掛金3万円) | 会社役員(役員報酬50万円・掛金7万円) |
|---|---|---|
| 受け取り時の扱い | 退職所得(控除の範囲内) | 退職所得(控除を超えた分の2分の1に課税) |
| 掛金の総額(20年分) | 720万円 | 1,680万円 |
| 積立期に軽くなった所得税・住民税の合計 | 約219.2万円 | 約306.6万円 |
| 実質の負担(掛金−軽くなった税) | 約500.8万円 | 約1,373.4万円 |
| 受け取る共済金の目安(一括) | 約797.6万円 | 約1,861.2万円 |
| 退職所得控除(20年) | 800万円 | 800万円 |
| 受け取り時の所得税・住民税 | 0円 | 約117.7万円 |
| 通しの手残り増(共済金−受け取り時の税−実質の負担) | 約296.8万円 | 約370.0万円 |
個人事業主の例では、共済金が退職所得控除の800万円に収まるため、受け取り時の税金は0円です。入口で軽くなった約219.2万円がそのまま残ります。
役員の例では共済金が控除を超えるので、受け取り時に約117.7万円の税金がかかります。それでも入口で軽くなった約306.6万円のほうが大きく、通しの手残りは約370.0万円増えました。出口で課税されることは事実ですが、本稿の前提では「意味がない」とは言えない結果です。
この比較に含めた負担は所得税・住民税です。国民健康保険料や社会保険料は掛金で変わらないため、差額には影響しません(掛金を払うために役員報酬を増やせば、その分の社会保険料は増えます)。
長く続けて、廃業や退任という「退職」の形で一括受け取りに持ち込めるかどうか。ここが、この制度を活かせるかどうかの分かれ目です。
小規模企業共済の出口で課税されるのは本当です。ただ、本稿の2例では入口の控除と出口の課税を通しても手残りが増えました。他の退職金との控除調整や解約の時期、将来の税制改正によって結果は変わりますので、あなたの掛金と年数でも確かめてみましょう。
下のシミュレーションでは、立場・所得・掛金・年数・受け取り方を入れると、今の節税額・将来の受取額・受け取り時の税金を通しで確かめられます。加入や掛金の変更は、廃業・退任の時期の見通しとあわせて事前にご相談ください。
※本記事の金額は、個人事業主は事業所得600万円・39歳以下・東京都江東区の令和8年度料率・所得控除は青色申告特別控除65万円・社会保険料控除・基礎控除と掛金控除のみ、会社役員は役員報酬月50万円・40歳未満・協会けんぽ東京・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除と掛金控除のみの概算です。共済金は中小機構の共済金の目安表(掛金月額1万円・共済金B)を掛金に比例させた概算で、受け取り時の税金は退職所得控除後の2分の1に所得税(復興特別所得税を含む)と住民税をかけて計算しています。
※所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の前提です。積立期の給与・事業所得に対する住民税は、その所得に対応する翌年度の見込み額です。20年間の所得・掛金・税制を現在の前提に固定した比較であり、将来20年間の税額や受取額を保証するものではありません。
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