事前確定届出給与とは — 制度の趣旨と社会保険料が下がる仕組み
役員への賞与を経費(損金)にするための届出制度 — それが事前確定届出給与です。この記事では、制度の趣旨と、この制度で社会保険料が下がる仕組み、実行前に知っておくべき注意点を整理します。
この記事の要点
- 事前確定届出給与は、事前に届け出たとおりに支給した役員賞与を経費にできる制度
- 同じ年収645.6万円を毎月均等と月8万円+年1回の賞与で比較すると、保険料は年約72.8万円減る計算です。会社と本人の税を含む負担減は年約56.9万円です(下記条件での概算)。
- 「届出どおりの支給」が絶対条件。デメリットも理解したうえで、実行の際は必ず事前のご相談を
40歳未満・協会けんぽ東京の令和8年度料率での例です。会社利益は役員報酬と会社負担の社会保険料を引く前の1,200万円。月53.8万円と、月8万円+年1回549.6万円の賞与を比べています。将来の年金・給付や借入審査への影響は、この差額に含めていません。
制度の趣旨 — 役員賞与を経費にするための事前届出
役員の給与は、原則として毎月同額のもの(定期同額給与)だけが経費になります。
利益が出たら期末に賞与を出して法人税を減らす、といった後出しの調整を防ぐためのルールです。
金額が違ったり支給日がずれたりすると全額が経費にならない厳しさは、「先に確定させる」というこの制度の性格から来ています。国税庁の通達は、届け出た支給額と実際の支給額が異なる場合は原則としてその支給額の全額が損金不算入になるとし(法人税基本通達9-2-14)、複数回の支給のうち、いずれかが届出と違えば、その職務執行期間の支給全体で判定するのが原則だという見解も示しています。
制度の仕組みや手続きの全体像から確認したい方は、事前確定届出給与の専門ページをご覧ください。
社会保険料が下がる仕組み — 賞与の保険料には上限がある
社会保険料は毎月の給与だけでなく賞与にもかかりますが、賞与には計算の上限があります。
厚生年金は1か月当たり150万円まで、健康保険は年度の累計573万円までしか賞与の保険料の計算対象になりません。同じ月に複数回支給した賞与は合算します。
そこで事前確定届出給与を使って「低い月給+年1回の大きな賞与」という払い方にすると、上限を超えた部分に社会保険料がかからなくなるのです。
実際にいくら変わるのか
同じ年間の報酬総額645.6万円を、表の2通りの払い方で比べてみましょう。
Aは毎月均等(月53.8万円)、Bは低い月給(月8万円)+年1回の賞与549.6万円という払い方です。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| A: 毎月均等 | B: 低い月給+賞与 | |
|---|---|---|
| 社会保険料(会社+本人) | 約185.5万円 | 約112.8万円 |
| 所得税+住民税 | 約52.3万円 | 約59.6万円 |
| 保険料+個人の税 | 約237.9万円 | 約172.3万円 |
※年収645.6万円、40歳未満・協会けんぽ東京・令和8年度料率・令和8年分税制です。月53.8万円と月8万円+年1回549.6万円を比べ、給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映します。会社利益は報酬と会社負担保険料控除前1,200万円で、表中の保険料+個人税の差と法人税等を含む実質差を区別します。
社会保険料は年約72.8万円減る結果です。保険料が下がる分、所得税・住民税と会社の法人税等は少し増えますが、差し引きでも実質約56.9万円の負担減です。同じ年収でも、払い方だけでここまで動くのは意外ではないでしょうか。
※会社負担の保険料が減る分だけ法人の経費も減るため、法人税等は約8.6万円増える計算です(役員報酬と会社負担の社会保険料を引く前の会社の利益を1,200万円と仮定)。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
同じ年収6,456,000円を2つの払い方で払った場合の、年間の社会保険料 (会社 + 本人の合計)
数字で見る — 税と法人税等まで含めた実質の差 (検算用)
| 項目 | 払い方A毎月均等 | 払い方B低い月給+賞与 | 差額B - A |
|---|---|---|---|
| 年間の報酬総額 | 6,456,000円 | 6,456,000円 | 同額 |
| うち 毎月の報酬 (12か月) | 538,000円 × 12 | 80,000円 × 12 | |
| うち 賞与 (年1回) | - | 5,496,000円 | |
| 社会保険料 (本人負担) | 916,106円 | 559,256円 | -356,850円 |
| 社会保険料 (会社負担) | 939,348円 | 568,458円 | -370,890円 |
| 社会保険料 合計 | 1,855,454円 | 1,127,714円 | -727,740円 |
| 所得税・住民税 (本人) | 523,200円 | 595,500円 | +72,300円 |
| 法人税等の増加 (会社) | - | 86,000円 | +86,000円 |
| 実質の負担 合計 | 2,378,654円 | 1,809,214円 | -569,440円 |
→ 表は横にスクロールできます
社会保険料だけでは727,740円減ります。保険料の差に伴う所得税・住民税と法人税等の差も反映すると、会社と個人を合わせた負担は569,440円減ります。
会社の利益が違うと、実質の差はどう変わるか
次は年間報酬を600万円にそろえ、毎月均等に払う形と、低い月給に賞与を組み合わせる形を比較します。会社利益だけを変えた表です。
毎月均等なら月50万円、組み合わせる形は「月8万円+年1回の賞与504万円」です。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 報酬等を引く前の会社利益 | 保険料の減少 | 税を含む負担減 |
|---|---|---|
| 600万円 | 64.3万円 | 57.9万円 |
| 1,200万円 | 64.3万円 | 50.3万円 |
| 2,000万円 | 64.3万円 | 46.9万円 |
※年間報酬600万円、40歳未満、協会けんぽ東京の令和8年度料率による概算です。会社利益は役員報酬と会社負担の社会保険料を引く前の額です。所得税は令和8年分で、給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映しています。
※保険料は等級表に丸めない概算です。将来の年金・給付、借入審査、欠損金の翌期以降の利用による影響は含めていません。
保険料が下がる額は同じでも、税負担を含めた差は会社利益によって変わります。
ご自身の年間報酬と月給で比べる場合は、事前確定届出給与シミュレーションで保険料の差と実質の差を確認できます。
実行前に知っておくべき注意点
効果の裏側には、次のリスクと負担があります。
- 届出どおりの支給が絶対条件 — 金額が違ったり、支給日がずれたりすると、賞与の全額が経費になりません
- 資金繰り — 年1回の大きな支給に耐えられるか。賞与の月に現金が用意できないと制度ごと崩れます
- 将来の年金 — 標準報酬が下がる分、厚生年金の受取額も下がります
- 融資や審査 — 月給が低く見えるため、住宅ローン等の審査では説明が必要になることがあります
メリットと引き換えに失うものを理解したうえで、実行するかどうかを判断することが大切です。
金額と日付を決める前に、3つを並べて確かめる
- 支給日に使えるお金。月別の資金繰り表に賞与と納税の予定を入れ、支給日に必要な現預金を確保できるか確認します。
- 毎月の生活に使うお金。変更後の月給の手取りと生活費を並べ、賞与までの月々に不足が出ないか確かめます。
- 税・保険料以外に変わること。将来の年金や給付、借入先への確認事項を、上の金額比較とは別に整理します。
確認できた候補について、決議日・職務執行開始日・決算期から届出期限を確かめます。資金繰り表と支給額・支給日の候補を用意し、決議・届出・支給・記録保存の予定を決めます。
まとめ — 実行の際は必ず事前にご相談を
事前確定届出給与は、届出という手続きの厳格さと引き換えに効果が生まれる制度です。
支給額と支給日を決めたあとは、議事録・届出書・付表の作成画面で必要な入力項目と書面の見本を確認できます。
※本記事の金額は、社長おひとり・40歳未満・給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除・協会けんぽ東京の令和8年度料率・令和8年分税制での概算です。※将来の年金額や給付への影響もあわせてご説明したうえで、実行するかどうかをご判断いただきます。
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