マイクロ法人と個人事業の「二刀流」— どの事業を法人に移すべきか
個人事業を続けながら小さな法人をひとつ作り、社会保険はそちらで入る — いわゆる「二刀流」です。ネットで話題の手法ですが、成立する条件と落とし穴を整理します。
この記事の要点
- 二刀流の狙いは、所得に連動して増える国保・国民年金を、低額で固定できる社会保険に置き換えること
- 弊所の試算では、前年の所得1,300万円の例で、低額報酬の社会保険へ替えた保険料差は年約106.7万円軽い。税や維持費を含めた最終的な節約額は別に比べる
- 「同じ事業の付け替え」は認められない。法人に移す事業の実態が絶対条件
40〜59歳・単身、国保は江東区・社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率です。報酬月4.5万円で会社と本人の保険料を合算した二刀流の例です。事業の実態を分けることが前提で、保険料差だけを最終的な節約額にはしません。
仕組み — 保険の入り口を法人に変える
個人事業主は国民健康保険+国民年金に入りますが、この保険料は所得に応じて増え、弊所の比較例(前年の所得1,300万円)では年約134.5万円(上限到達)になります。
ここで小さな法人を作って役員報酬を月4.5万円に設定すると、社会保険(健康保険+厚生年金)にはその法人の報酬額で加入することになり、保険料は会社負担と合わせて年約27.8万円になります。比較する両方を40〜59歳・単身の前提にそろえています。
個人事業の利益がいくら増えても、この保険料は変わりません。
※この表の試算年度: 保険料は令和8年度の計算前提(所得税の試算ではありません)。
| 入り方 | 保険料の決まり方 | 年間の保険料 |
|---|---|---|
| 国保+国民年金(個人事業のみ) | 所得に応じて増える | 上限で約134.5万円 |
| 社会保険(マイクロ法人・報酬 月4.5万円) | 報酬額で固定 | 約27.8万円 |
※40〜59歳・単身・国保は江東区・社保は協会けんぽ東京・令和8年度の年額です。この所得の国保+国民年金と月4.5万円の会社+本人の社保を比較し、税や維持費は含みません。
保険料の決まり方以外も含めた制度の骨組みの違いは、次の表のとおりです。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
| 項目 | 個人事業のみ | 個人事業 + マイクロ法人 |
|---|---|---|
| 医療保険 | 国民健康保険 (世帯全員分) | 法人の健康保険 (家族は条件を満たせば被扶養者) |
| 年金 | 国民年金 (月17,920円・令和8年度) | 厚生年金 (国民年金に上乗せ) |
| 保険料の基準 | 前年の所得。所得が増えるほど上限まで増える | 法人から受け取る役員報酬の月額。個人事業の所得とは切り離される |
| 家族の保険料 | 家族の人数に応じてかかる | 収入などの条件を満たす家族は、追加の保険料なし (被扶養者) |
| 追加でかかる固定費・事務 | なし | 法人住民税の均等割 (年70,000円ほど)・決算・給与計算・社会保険の手続きが毎年続く |
→ 表は横にスクロールできます
保険料の基準が「所得」から「役員報酬の月額」へ変わることが、この形の仕組みの核心です。ただし法人の固定費と事務が毎年加わるため、差し引きの損得は数字しだいで変わります。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
個人のまま続けた場合と、法人化した場合の年間負担
数字で見る — 何にいくらかかるか (検算用)
| 項目 | 個人のまま | 法人化した場合法人 + 社長 |
|---|---|---|
| 事業の利益 (売上 - 経費) | 13,000,000円 | 13,000,000円 |
| うち役員報酬 (月60万円 × 12か月) | - | 7,200,000円 |
| 国民健康保険 + 国民年金 | 1,345,040円 | - |
| 社会保険料 (本人負担) | - | 1,080,000円 |
| 社会保険料 (会社負担) | - | 1,105,920円 |
| 個人事業税 | 480,952円 | - |
| 所得税 | 1,768,600円 | 304,700円 |
| 住民税 | 1,011,800円 | 389,500円 |
| 法人税等 (赤字でもかかる均等割を含む) | - | 1,085,400円 |
| 年間の負担 合計 | 4,606,392円 | 3,965,520円 |
→ 表は横にスクロールできます
この前提では、法人化で、税・保険料の負担が年間640,872円軽くなります。分岐点は役員報酬の設計で動くため、一律の正解額はありません。あなたの数字での答えは法人化シミュレーションでその場で出せます。
同じ利益500万円で、保険料・税金・維持費を順に比べる
次は、保険料だけの例とは条件を分け、2つの事業を合わせた年間利益500万円のモデルで比べます。両方を個人で続ける場合と、利益100万円の事業を法人へ移し、利益400万円の事業を個人に残す場合です。事業の実態を伴う区分が確認できているものと仮定します。
| 比べる範囲 | 個人のまま | 二刀流 | 二刀流にすると |
|---|---|---|---|
| 保険料だけ | 79.7万円 | 27.8万円 | 約51.8万円軽い |
| 税金・均等割と保険料の合計 | 134.8万円 | 86.1万円 | 約48.7万円軽い |
| 追加の税理士報酬(仮定) | 追加なし | 12.0万円 | 支出が12.0万円増える |
| 上の追加報酬により減る法人税等 | 0円 | 2.6万円 | 税負担が約2.6万円減る |
| 追加報酬とその税への影響を含む合計 | 134.8万円 | 95.6万円 | 約39.3万円軽い |
※40〜59歳・単身・扶養なし、国保は東京都江東区、社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率、所得税は令和8年分です。利益は通常の経費を引き、個人事業税・青色申告特別控除・役員報酬・会社負担の社会保険料を引く前の額。国保はその所得が前年にも続いたものとして比べ、移行初年度の納付時期の差は含めません。
※二刀流の役員報酬は月4.5万円。本人・会社双方の社会保険料を含み、標準報酬月額の等級で計算しています。個人事業税の対象事業として、個人側の青色申告特別控除65万円、社会保険料控除・基礎控除、給与がある側の給与所得控除を反映しています。法人住民税の均等割は法人税等に含まれています。
※追加税理士報酬12万円は比較用の仮定で、料金の相場や当事務所の見積額ではありません。税理士報酬が法人の経費になることで減る税金も反映しています。設立・解散の一時費用、税理士報酬以外の追加維持費、消費税、将来の年金・給付は含みません。
保険料だけなら約51.8万円の差ですが、税金まで含めると約48.7万円、仮定した追加報酬まで含めると約39.3万円の差です。低い役員報酬だけで生活する例ではなく、個人に残る事業の所得もある例です。法人に移せる事業の実態と、実際に増える費用を確認してから、自分の条件で比べます。
どの事業を法人に移すか
二刀流は「個人事業と法人の事業が別もの」であることが前提です。
たとえば本業のコンサルは個人のまま、不動産賃貸や物販など性質の異なる事業を法人に持たせる、といった切り分けが基本です。
移す事業には、法人の維持コスト(均等割 年7万円+税理士報酬など)を賄えるだけの安定した収益があることも必要です。
向いている人・向かない人
ご自身は、どちらに近いでしょうか。
まとめ — 制度の合わせ技こそ設計が命
二刀流は、法人化・役員報酬・社会保険の知識を全部使う「合わせ技」です。
効果は大きい一方で、事業の切り分けという実態面の要件を外すと崩れ、法人の維持コストや将来の年金が薄くなるといったデメリットもあります。
※本記事の金額は東京都(国保は江東区)の令和8年度料率での概算です。国保の上限額は市区町村で異なります。※制度の適用可否は個別の事実関係によります。実行前に必ずご相談ください。
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
※有利・不利を比べるときは: 法人化の有利・不利は、保険料の削減額と法人の維持費の引き算だけでは決まりません。健康保険の傷病手当金・出産手当金や厚生年金の上乗せが付く一方、国民年金基金・付加年金は使えなくなります。これらも同じ土俵に載せてご判断ください。
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