個人事業主が法人化を考え始めたら、最初に見るべき3つの数字
「そろそろ法人にしたほうが得ですか?」— 個人事業主の方から最も多くいただくご質問です。ネットには「利益800万円が目安」といった一般論があふれていますが、実際の分かれ目はお一人おひとりの数字で変わります。
この記事の要点
- 法人化の損得は「利益」「社会保険料まで含めた年間の総負担」「課税売上高」の3つを、最初に確認する
- 税金だけの比較は答えを誤る。社会保険料を入れた総負担で並べて比べる
- 3つを確認し、報酬・家族・費用の前提もそろえて比べる。モデルケースでは年間640,872円の差が出た
金額例は利益1,300万円・報酬月60万円、会社と本人の税・保険料を合算した年間比較です。消費税の免税は資本金だけでは決まらず、インボイス登録等の条件を別に確認します。40歳・扶養なし・国保は東京都江東区・社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率、令和8年分です。個人側は青色申告特別控除65万円・社会保険料控除・基礎控除、法人化後の本人は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映した等級表に丸めない概算で、個人事業税5%の業種の例です。
数字① 事業の利益 — 損得の土台になる数字
個人事業の所得税は、利益が増えるほど税率が上がる仕組みです(最高45%)。一方、法人税等の実効税率はおおむね一定の範囲に収まります。利益が小さいうちは個人のほうが軽く、利益が大きくなるほど法人が有利になる — この逆転が起きる水準を、ご自身の利益と照らして確かめるのが出発点です。
数字② 社会保険料まで含めた「年間の総負担」
法人化の比較でいちばん見落とされるのが社会保険料です。個人と法人では、入る制度そのものが変わります。
| 個人事業のまま | 法人化すると | |
|---|---|---|
| 税金 | 所得税(税率は利益に応じて上昇)+住民税+事業税 | 法人税等+役員報酬にかかる所得税・住民税 |
| 社会保険 | 国民健康保険+国民年金。所得に応じて増える | 健康保険+厚生年金(加入義務あり)。役員報酬の額で決まる |
| 調整の余地 | 保険料は所得で自動的に決まる | 役員報酬の設計しだいで大きく変えられる |
モデルケース — 差は年間640,872円
一例として、売上2,000万円・経費700万円(利益1,300万円)のモデルケースを見てみましょう。
役員報酬を月60万円とすると、税金と社会保険料を合わせた年間負担は、個人のまま続ける場合より約64.1万円軽い結果です(令和8年度料率・令和8年分の概算)。内訳は次の表のとおりです。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
個人のまま続けた場合と、法人化した場合の年間負担
数字で見る — 何にいくらかかるか (検算用)
| 項目 | 個人のまま | 法人化した場合法人 + 社長 |
|---|---|---|
| 事業の利益 (売上 - 経費) | 13,000,000円 | 13,000,000円 |
| うち役員報酬 (月60万円 × 12か月) | - | 7,200,000円 |
| 国民健康保険 + 国民年金 | 1,345,040円 | - |
| 社会保険料 (本人負担) | - | 1,080,000円 |
| 社会保険料 (会社負担) | - | 1,105,920円 |
| 個人事業税 | 480,952円 | - |
| 所得税 | 1,768,600円 | 304,700円 |
| 住民税 | 1,011,800円 | 389,500円 |
| 法人税等 (赤字でもかかる均等割を含む) | - | 1,085,400円 |
| 年間の負担 合計 | 4,606,392円 | 3,965,520円 |
→ 表は横にスクロールできます
この前提では、法人化で、税・保険料の負担が年間640,872円軽くなります。分岐点は役員報酬の設計で動くため、一律の正解額はありません。あなたの数字での答えは法人化シミュレーションでその場で出せます。
もちろんこれはモデルケースの数字で、利益の水準や役員報酬の設定で結果は大きく変わります。だからこそ、一般論ではなくご自身の数字で確かめる価値があります。
数字③ 課税売上高 — 消費税の位置づけ
3つ目は消費税です。新しく設立した法人は、資本金1,000万円未満などの条件を満たせば、設立1期目・2期目は基準期間がなく、各期の条件を満たす場合は消費税の納税義務が免除されるのが原則です。期首の資本金だけでなく、特定期間・特定新規設立法人・インボイス登録等も確認します。個人事業で課税事業者になったタイミングと、法人設立のタイミングをどう組むかで、この免除期間を活かせるかが変わります。
法人化を決める前に、資料と負担を3段階で確かめる
- 確定申告書・売上と経費の見込み・国保通知・家計の支出を用意し、現在の利益と毎月の生活費を書き出します。
- 個人のままと法人化後を同じ利益と家族の条件で比べ、報酬候補ごとの手取り、設立費、毎年の維持費、利益が下がる年も並べます。
- 個人継続と法人化の候補を整理します。申告書・国保通知・利益の見込みを用意し、開始時期と消費税の扱いを相談のご案内から確認します。
まとめ — 3つの数字を確かめるチェックリスト
- 事業の利益: 個人と法人の税率の逆転が起きる水準に近づいているか
- 年間の総負担: 税金に社会保険料まで含めて比べたか
- 課税売上高: 消費税の免除期間とインボイスの扱いを確認したか
料金は決算・申告料まで含んだ月額顧問料で、すべて料金ページに掲載しています。
※本文中の金額は令和8年度の協会けんぽ(東京都)の料率等に基づく概算です。制度の内容は執筆時点のものです。
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
※有利・不利を比べるときは: 法人化の有利・不利は、保険料の削減額と法人の維持費の引き算だけでは決まりません。設立時の登録免許税などと、やめるときの解散・清算の費用は、毎年の維持費とは別にかかります。健康保険の傷病手当金・出産手当金や厚生年金の上乗せが付く一方、国民年金基金・付加年金は使えなくなります。法人へ移す事業には、契約・請求・業務内容の区分という実体が必要です。これらも同じ土俵に載せてご判断ください。
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