法人化をやめて個人事業に戻る「個人成り」— 手順・期間と判断のポイント
「法人化したけれど、思ったより負担が重い。個人に戻れないだろうか」— そんなご相談は珍しくありません。法人をやめて個人事業に戻る「個人成り」は可能ですが、設立よりも手間と時間がかかります。手順と判断のポイントを整理しました。
この記事の要点
- 個人成りには会社の解散・清算という法律上の手続きが必要で、官報公告だけで2か月以上かかる
- 戻りたくなる主な理由は、均等割・社会保険料・事務負担という「利益が出なくても続く負担」
- 完全に閉じる前に、役員報酬の見直しや休眠という中間の選択肢も比べる価値がある
なぜ「戻りたい」となるのか — 続く固定負担
法人には、利益が出なくても続く負担があります。赤字の年でもかかる法人住民税の均等割が年7万円ほど。社会保険料は、役員報酬を最低水準にしても会社+本人で年約27.8万円です(40〜64歳・弊所試算)。
事務も、決算・申告だけでは終わりません。毎月の給与計算、源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届と、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。売上が想定より伸びなかったとき、この固定費と手間が重く感じられて「個人に戻りたい」となるのが典型です。
個人成りの手順 — 解散から清算結了まで
会社を閉じて個人に戻る流れは、おおまかに次のとおりです。
解散から清算結了、個人の開業まで
株主総会で解散を決議する
会社法471条。合同会社では総社員の同意による解散(同641条)
解散と清算人の登記をする
債権者に向けて官報に公告する
この期間は2か月を下回れないと定められています(株式会社は会社法499条、合同会社は同660条)
社会保険をやめる届(適用事業所全喪届)を年金事務所へ出す
従業員がいれば雇用保険・労働保険の手続き、給与を払っていれば給与支払事務所の廃止届も
税務署・都道府県・市区町村へ異動届を出す
解散までの事業年度・清算中の事業年度の申告をする
財産の整理と分配を終え、残余財産確定の申告をする
確定から原則1か月以内。そのうえで清算結了の登記をする
個人側で開業届を出す
青色申告をするなら承認申請も出し直す(開業から2か月以内。1月15日までの開業ならその年3月15日まで — 所得税法144条)
公告期間だけで2か月あるため、全体では数か月がかりの手続きです。登記の登録免許税や官報の掲載料など、閉じるためだけの実費もかかります。
見落としやすい3点 — インボイス・資産の引き継ぎ・残余財産の税金
届出の一覧から漏れやすいのが、次の3点です。
- インボイスの登録は引き継がれない — 会社で受けていた適格請求書発行事業者の登録は、個人には引き継がれません。取引先との関係で必要なら、個人として登録を申請し直します(登録すれば個人でも消費税の申告が続きます)
- 資産・契約・許認可の引き継ぎ — 車両や設備は会社から個人への売却として移し、事務所の賃貸借や取引先との契約は名義を巻き直します。許認可は会社のものを引き継げず、原則として個人で取り直しです
- 残余財産の分配には税金がかかる — 清算で残った財産のうち、資本金などを超える部分は配当とみなされ、社長個人の所得税・住民税の対象になります(所得税法25条)。会社に利益が残っているほど、閉じるときの税負担は重くなります
閉じる前に比べたい2つの中間案
完全に閉じる前に、次の2つも並べてみてください。
- 役員報酬と経費構造の見直し — 負担の中心が社会保険料なら、報酬設計の変更で数字が変わることがあります。閉じる判断は、見直し後の数字で行うのが順序です
- 休眠 — 事業を止めて会社を残す形です。閉じる費用はかかりませんが、会社が残る以上、申告などの義務は続きます。均等割の扱いは自治体によって異なります
どちらも「戻る」より軽い選択肢ですが、根本の負担が消えるわけではありません。数年単位でみてどちらが安いか、実額で比べることになります。
判断のポイント — 「続けた場合の負担」と「閉じる費用」を並べる
まとめ — 「戻る」も数字で決める
今の法人を続けた場合・閉じた場合の年間負担がいくら違うのか、まずはそこから一緒に整理しますので、お気軽にご相談ください。
※本記事の金額は、東京都・令和8年度料率での概算です。解散・清算の手続きや税務は会社の状況によって変わるため、実行前に個別にご確認ください。
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