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インボイス登録済みの個人事業主が法人化するとき — 登録番号は引き継げない。法人の登録・個人の廃業・消費税の申告方式の順番を整理

コラム

インボイスの登録番号を持ったまま法人化すると、その番号はどうなるのか。個人事業主から会社へ移るときの登録・廃業・消費税の申告方式の順番を、つまずきやすい点とあわせて整理します。

この記事の要点

  • 登録番号は事業者ごとに付くもので、個人の番号を法人に引き継ぐことはできない。法人は設立後に別の番号を新しく取る
  • 設立した課税期間の末日までに「事業開始日から登録を希望」と書いて申請すれば、設立日にさかのぼって登録できる
  • 法人化の時期で、法人1期目に2割特例を使えるかが変わる。令和8年10月1日以後に始まる事業年度は使えず、簡易課税か本則課税になる

登録番号は引き継げない — 法人は「別の事業者」

インボイス(適格請求書発行事業者)の登録は、事業者ごとに受けるものです(消費税法57条の2第1項)。個人事業主のときの登録番号は本人のもので、設立した法人は別の事業者ですから、法人は新たに登録申請をして「T+13桁の法人番号」の登録番号を取ります。

登録できるのは課税事業者に限られます。新しく設立した法人は基準期間(2期前)が無いため原則として免税事業者ですが、登録を受けると免税にはならず、登録日から課税事業者として消費税を納めます(消費税法9条1項)。なお、資本金1,000万円以上で設立した法人と、特定新規設立法人は、登録の有無にかかわらず1期目から課税事業者です(消費税法12条の2第1項・12条の3第1項)。特定新規設立法人とは、設立の時点で、ある株主とその親族や関係法人などのグループに株式の50%超を直接・間接に持たれていて、かつそのグループのいずれかの者の、法人の基準期間に当たる期間の課税売上高が5億円を超える法人です。個人の株主が支配している場合も対象になります。

法人化の前後で変わるもの
項目個人事業主のとき法人化後
登録番号T+13桁の個人の番号法人番号をもとにした別の番号(新規に申請)
登録の効力事業廃止届出書の提出で、廃止日の翌日に失効申請して登録された日から(設立日にさかのぼる方法あり)
消費税の納税義務登録している間は課税事業者登録すれば1期目から課税事業者
申告方式2割特例・3割特例・簡易・本則事業年度の始まりで使える方式が変わる(下の表)

法人側の手続き — 設立日から登録するには「課税期間の末日」までに申請

法人が設立日からインボイスを交付したいときは、設立した課税期間(1期目)の末日までに登録申請書を出し、「事業を開始した課税期間の初日から登録を受けようとする旨」を記載します。この形で登録されると、1期目の初日(設立日)から登録を受けたものとみなされます(消費税法施行令70条の4)。

1期目の末日が土日祝日や12月29日〜31日に当たっても、この区切りは翌開庁日に延びません。国税庁のインボイスQ&A(問11)は、課税期間の末日が休日などに当たる場合であっても、その日までに登録申請書の提出がなければ特例の適用を受けることはできないと注記しています。末日が休日に当たる年は、その前の開庁日までに出しておきます。

登録番号が通知されるまでには時間がかかるため、設立直後の請求書には番号を書けないことがあります。国税庁は、登録番号が分かってから改めて番号を伝える方法を認めていますので、取引先にはその旨を先に伝えておきます。

個人から法人へ移るときの全体の順番を、先に確かめてみましょう。

個人から法人へ移るときの順番

  1. 法人を設立する

    設立の登記が済んだら、法人番号が付く

  2. 法人の登録申請を出す

    1期目の末日までに、「事業開始日から登録を希望」と書いて申請する(消費税法施行令70条の4)

  3. 個人の事業を廃止する

    法人へ資産を売り終えたあとに「事業廃止届出書」を出す(消費税法57条1項)。個人の登録は廃止日の翌日に失効する

  4. 法人の申告方式を選ぶ

    事業年度の始まりの時期で使える方式が変わる。簡易課税を使うなら1期目の課税期間中に届出を出す(消費税法37条)

個人側の手続き — 資産を法人売ってから廃業届

個人で使っていた車両や備品などの事業用資産は、法人へ売る(譲渡)か、個人が持ったまま法人に貸す(賃貸)かのどちらかで引き継ぐのが一般的で、現物出資や贈与はあまり使われません。売るときの価額は時価が基本ですが、車両や備品のように市場価格がはっきりしないものは、時価が分からなければ帳簿価額(未償却残高)で売る処理も認められています。ただし、法人へ時価の2分の1に満たない価額で売ると、時価で売ったものとみなして譲渡所得が計算されます(所得税法59条1項2号・所得税法施行令169条)。

登録している個人は課税事業者ですから、事業に使っていた車両や備品の売却も消費税の課税対象です(消費税法基本通達5-1-7)。法人が設立されるまでの取引はすべて個人に帰属するので、法人へ売るときの請求書(インボイス)は個人の登録番号で交付します。もっとも、このインボイスが効くのは、法人が本則課税で仕入税額控除を受ける場合です。法人が2割特例や簡易課税を使うなら、控除する税額は売上の消費税から計算するため、個人のインボイスの有無で法人の納税額は変わりません。

国税庁は、法人に資産を買い取ってもらった後に事業廃止届出書を出す形で問題ないとしています。廃止の届出を先に出してしまうと、廃止日の翌日に登録の効力が失われ、その後の法人への売却にインボイスを交付できません。法人が本則課税で仕入税額控除を受けるつもりなら、この順番を守ります。

消費税の申告方式 — 法人化の時期で「2割特例」が使えるかが変わる

免税事業者からインボイス登録をした事業者が使える2割特例は、インボイス制度の開始日から3年を経過する日までの日を含む課税期間に限られる経過措置です(平成28年改正法附則51条の2)。具体的には、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日を含む課税期間です。法人の1期目に令和8年9月30日が含まれていれば使えますが、令和8年10月1日以後に始まる事業年度では使えません。また、時期の条件を満たしていても、資本金1,000万円以上で設立した法人や、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間は、登録がなくても課税事業者になる場合なので2割特例の対象外です。3割特例は個人事業者だけの制度で、法人にはありません。

税込の年間売上880万円・消費税のかかる経費が税込220万円・第5種(サービス業)の法人が、登録して1期目を迎えた場合を比べます。

※この表の試算年度: 令和8年の消費税制度。

法人1期目の納付見込額(弊所試算・国税と地方消費税の合計・金額はすべて1年あたり)
申告方式納付見込額(年額)
2割特例(1期目に令和8年9月30日を含む場合だけ)16万円
簡易課税(第5種・みなし仕入率50%)40万円
本則課税(実際の経費から計算)60万円

1期目が令和8年9月30日を含む法人なら2割特例の16万円ですが、令和8年10月1日以後に設立した法人はこの行が消え、簡易課税の40万円が最も軽い方式になります。同じ売上で年24万円の差が、設立の時期だけで生まれます。

まとめ — 「番号は取り直し」「廃業届は資産を売った後」「方式は設立の時期次第」

登録番号は法人で取り直し、個人の廃業届は法人への資産の売却が終わってから、法人の申告方式は設立の時期で決まる — この3つの順番を押さえておけば、法人化のインボイス手続きで慌てることはありません。あなたの設立予定の時期なら、1期目に使える方式はどれでしょうか。

下のシミュレーションでは、売上・経費・業種を入れると、本則課税・簡易課税・2割特例の納付見込額を並べて確かめられます。法人化の時期と申告方式の組み合わせは、設立の前にご相談ください。

※本記事の金額は、標準税率10%の売上・経費だけで計算した概算です(国税7.8%と地方消費税2.2%の合計・百円未満切捨て)。軽減税率や期の途中の設立は反映していません。

※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。

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※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。

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