マイクロ法人について調べると、必ずと言っていいほど「役員報酬は月4.5万円がベスト」という情報にたどり着きます。この通説の根拠と、当てはまらない人を先に整理します。

この記事の要点

  • 月4.5万円は「社会保険料を最低額で固定し、給与の所得税をゼロにする」ための数字。根拠はある
  • ただし前提は個人事業との二刀流。法人の稼ぎだけで生活する人には当てはまらない
  • 何を優先するか(保険料・年金・融資)で最適額は変わる。自分の数字での試算が近道

通説の根拠 — 保険料の下げ止まりと所得税ゼロ

健康保険と厚生年金の保険料は、給与の額そのものではなく「標準報酬月額」という区分で決まります。この区分には下限があるため、報酬をいくら下げても、保険料はある水準から下がらなくなります。月4.5万円は、その下げ止まりのぎりぎり手前を突いた数字です。

月4.5万円(年54万円)にすると何が起きるか
項目結果
健康保険の標準報酬下限の58,000円で計算 — これ以上は下がらない
厚生年金の標準報酬下限の88,000円で計算 — これ以上は下がらない
社会保険料(会社負担+本人負担)月22,267円(年間約26.7万円)でほぼ固定
給与にかかる所得税0円(年54万円は給与所得控除65万円に全額収まる)

※40歳未満・東京都・令和8年度の協会けんぽ料率での概算です。

国民健康保険+国民年金では所得が増えるほど保険料も増えていくのに対し、この金額でほぼ固定される — これがマイクロ法人の社会保険メリットの中心です。

見落とされがちな前提 — 「個人事業との二刀流」

お気づきの通り、月4.5万円(年54万円)だけで生活はできません。この通説は、生活費は個人事業の稼ぎでまかない、法人は社会保険に加入するための器として使う「二刀流」の形が前提です。この前提が崩れる人には、そのまま当てはまりません。

通説が外れる4つのケース — あなたはどれに近いですか

あなたの状況月4.5万円の通説は
法人の事業だけで生活する成り立たない。生活費・法人税とのバランスで別途設計
法人に大きな利益が残る最適とは限らない。報酬側と法人側の負担の合計で最適点が動く
将来の年金・給付も厚くしたい厚生年金や傷病手当金・出産手当金が薄くなる。安さと表裏一体
住宅ローンや融資を控えている所得が低く見えるため、審査で不利に働くことがある

とくに2つ目は誤解の多いところです。報酬を下げるほど法人に利益が残り、法人税等の負担が増えます。「報酬にかかる負担」と「法人にかかる負担」の合計がいちばん小さくなる報酬額は、利益の水準によって一人ひとり違います。

役員報酬シミュレーションの画面。月額70万円と50万円の場合の会社+社長の年間負担を並べて比較
役員報酬シミュレーションの画面。月額70万円と50万円の場合の会社+社長の年間負担を並べて比較

弊所ではこの試算を、実際の売上・利益・生活費から作ります。報酬の月額を変えると会社+社長の年間負担がどう動くか、実例をトップページに載せています。

よくある質問

Q. 月4.5万円よりさらに下げれば、保険料はもっと安くなりますか?

なりません。標準報酬には下限(健康保険58,000円・厚生年金88,000円)があり、それより下は同じ保険料です。下げるほど手取りが減るだけになります。

Q. 一度決めた役員報酬は、あとから自由に変えられますか?

原則として、事業年度の開始から3か月以内に決めるのが基本ルールです。年度の途中で自由に上げ下げすると税務上の不利益が生じることがあるため、変えるタイミングの設計が大切です。変更の実務は今後のコラムで詳しく取り上げます。

結論 — 「正解」はあなたの目的で変わります

月4.5万円は「社会保険料の最小化」という一つの目的に対する答えにすぎません。年金や給付の厚み、融資の予定、法人に残る利益まで並べたうえで、あなたにとっての最適額を決める。弊所では、売上・利益・生活費から、役員報酬をいくらにすると手取りがどう変わるかを試算してお示しします。

※本文中の金額は令和8年度の協会けんぽ(東京都)の料率・令和7年分以降の給与所得控除に基づく概算です。