法人化の損益分岐点 — 利益いくらから法人が得になるのか
「利益がいくらを超えたら法人にすべきですか」— 法人化のご相談で、いちばん多い質問です。この記事では、分岐点がどう決まるのか、そしてなぜ「一律の正解」が存在しないのかを、実際の試算で示します。
この記事の要点
- 利益が小さいうちは個人が有利、大きくなるほど法人が有利になる「逆転」が起きる
- 弊所の試算では、利益500万円なら法人が年約10.5万円重い、利益800万円なら法人が年約24.3万円軽い結果だった (前提つき)
- 分岐点は役員報酬の設計しだいで動く。だから「あなたの数字」での試算が必要
40歳・扶養なし、国保は東京都江東区・社会保険は協会けんぽ東京、令和8年分税制・令和8年度料率の例です。利益は役員報酬と会社負担保険料を引く前で、個人側は青色申告特別控除(上限65万円)・社会保険料控除・基礎控除を反映し、個人事業税は対象の業種(5%)として計算します。既存表は利益と報酬の両方が変わる比較で、利益500万円を固定した追加表とは分けて読みます。
なぜ逆転が起きるのか
個人事業の所得税は、利益が増えるほど税率が上がる累進課税です(住民税・事業税・国民健康保険も利益に連動して増えます)。
一方、法人化すると利益は「役員報酬(給与)」と「法人に残る利益」に分かれ、給与には給与所得控除という大きな控除がつき、法人側の税率はおおむね一定の範囲に収まります。
この構造の違いから、利益がある水準を超えたところで個人と法人の負担が逆転します。
実際に計算してみると
同じ前提(40歳・個人事業税は対象の業種(5%)・協会けんぽ東京の料率)で、利益と役員報酬をともに変えた例の年間総負担(税金+社会保険料)を試算しました。ご自身の利益に近い行を見てみてください。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 年間の利益 | 個人のまま | 法人化した場合 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 500万円(報酬 月25万円) | 134.8万円 | 145.3万円 | 法人が約10.5万円重い |
| 800万円(報酬 月40万円) | 260.7万円 | 236.4万円 | 法人が約24.3万円軽い |
| 1,300万円(報酬 月60万円) | 460.6万円 | 396.6万円 | 法人が約64.1万円軽い |
年間の利益500万円(報酬 月25万円)
法人が約10.5万円重い
年間の利益800万円(報酬 月40万円)
法人が約24.3万円軽い
年間の利益1,300万円(報酬 月60万円)
法人が約64.1万円軽い
※40歳・扶養なし、個人事業税は対象の業種(5%)。個人側は青色申告特別控除(上限65万円)・社会保険料控除・基礎控除、法人化後は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映。国保は東京都江東区、社保は協会けんぽ東京、令和8年分税制・令和8年度料率の年間概算です。利益と報酬が各行で異なります。利益は報酬と会社負担保険料を引く前です。設立費・税理士報酬・消費税は別です。
この前提では、分岐点はおおよそ利益500万円と800万円のあいだにあります。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
個人のまま続けた場合と、法人化した場合の年間負担
数字で見る — 何にいくらかかるか (検算用)
| 項目 | 個人のまま | 法人化した場合法人 + 社長 |
|---|---|---|
| 事業の利益 (売上 - 経費) | 13,000,000円 | 13,000,000円 |
| うち役員報酬 (月60万円 × 12か月) | - | 7,200,000円 |
| 国民健康保険 + 国民年金 | 1,345,040円 | - |
| 社会保険料 (本人負担) | - | 1,080,000円 |
| 社会保険料 (会社負担) | - | 1,105,920円 |
| 個人事業税 | 480,952円 | - |
| 所得税 | 1,768,600円 | 304,700円 |
| 住民税 | 1,011,800円 | 389,500円 |
| 法人税等 (赤字でもかかる均等割を含む) | - | 1,085,400円 |
| 年間の負担 合計 | 4,606,392円 | 3,965,520円 |
→ 表は横にスクロールできます
この前提では、法人化で、税・保険料の負担が年間640,872円軽くなります。分岐点は役員報酬の設計で動くため、一律の正解額はありません。あなたの数字での答えは法人化シミュレーションでその場で出せます。
分岐点は「役員報酬の設計」で動く
上の表で気づいていただきたいのは、法人化の結果が役員報酬をいくらに設定するかで変わることです。
同じ利益でも、報酬を高くすれば社会保険料と給与側の税金が増え、低くすれば法人に利益が残って法人税等が増えます。
同じ利益500万円で、役員報酬だけを変えて比べる
次は利益を同じ額にそろえ、役員報酬だけを月15万円・25万円・35万円に変えて比べます。利益の増減による違いと、報酬の設定による違いを分けて確認するための表です。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 役員報酬(月額) | 個人のまま(年額) | 法人化(年額) | 法人化すると |
|---|---|---|---|
| 15万円 | 134.8万円 | 127.9万円 | 約6.9万円軽い |
| 25万円 | 134.8万円 | 145.3万円 | 約10.5万円重い |
| 35万円 | 134.8万円 | 163.0万円 | 約28.2万円重い |
※40歳・扶養なし。国保は東京都江東区、社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率、所得税は令和8年分です。利益は売上から経費を引いた額で、役員報酬・会社負担の社会保険料を引く前です。
※個人側は青色申告特別控除65万円・社会保険料控除・基礎控除を反映し、個人事業税の対象事業として計算しています。法人化後の本人は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映しています。保険料は等級表に丸めない概算で、設立費・税理士報酬・消費税は含めていません。
この例では、月15万円なら年約6.9万円軽い結果です。
一方、月25万円なら年約10.5万円重い結果です。低い報酬を勧める表ではありません。毎月の生活費をまかなえるか、会社にいくら残すかも合わせて考えます。
自分の売上・経費・役員報酬で比べる場合は、法人化シミュレーションで年間負担の差を確認できます。
法人化には維持コストもあります
数字の差に加えて、消費税の免税期間や信用力といった要素もあわせて判断します。
法人化を決める前に、資料と負担を3段階で確かめる
- 確定申告書・売上と経費の見込み・国保通知・家計の支出を用意し、現在の利益と毎月の生活費を書き出します。
- 個人のままと法人化後を同じ利益と家族の条件で比べ、報酬候補ごとの手取り、設立費、毎年の維持費、利益が下がる年も並べます。
- 個人継続と法人化の候補を整理します。申告書・国保通知・利益の見込みを用意し、開始時期と消費税の扱いを相談のご案内から確認します。
まとめ — 分かれ目は試算で見える
弊所では、あなたの実際の売上と経費から個人と法人の総負担を並べて試算し、報酬をいくらにすると差が最大になるかまで含めてお示しします。
※個人側は青色申告特別控除65万円・社会保険料控除・基礎控除を反映し、個人事業税の対象事業の例です。法人化後の本人は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除を反映します。国保は東京都江東区、社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率、所得税は令和8年分です。等級表に丸めない概算で、設立費・税理士報酬・消費税は別です。
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
※有利・不利を比べるときは: 法人化の有利・不利は、保険料の削減額と法人の維持費の引き算だけでは決まりません。設立時の登録免許税などと、やめるときの解散・清算の費用は、毎年の維持費とは別にかかります。健康保険の傷病手当金・出産手当金や厚生年金の上乗せが付く一方、国民年金基金・付加年金は使えなくなります。法人へ移す事業には、契約・請求・業務内容の区分という実体が必要です。これらも同じ土俵に載せてご判断ください。
※この比較に含めた負担: 個人のままの金額は所得税・住民税・国民健康保険・国民年金・個人事業税(対象業種のみ)の合計、法人化後の金額は法人税など法人側の税金(赤字でもかかる均等割を含む)+社会保険料(会社負担と本人負担の両方)+社長個人の所得税・住民税の合計で試算しています。
この記事の内容は、あなたの数字でその場で試算できます。
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