個人事業で配偶者に青色事業専従者給与を払ってきた方が法人化するとき、家族への給与の扱いは大きく変わります。何がなくなり、何が新しく始まるのかを順に整理します。
個人事業で配偶者に青色事業専従者給与を払ってきた方が法人化するとき、家族への給与の扱いは大きく変わります。何がなくなり、何が新しく始まるのかを順に整理します。
この記事の要点
生計を一にする家族へ払った給与は、個人事業では原則として必要経費になりません(所得税法56条)。
その例外が、青色申告を行う者に認められる青色事業専従者給与です(所得税法57条)。届出書をあらかじめ税務署へ出し、届出した金額の範囲内で、仕事の内容に見合う額を払った場合に限り必要経費にできます。なお白色申告では給与の代わりに控除の方式で、配偶者86万円・その他の親族50万円が上限です。
もう1つ大事な点があります。専従者給与を受け取る家族は、配偶者控除や扶養控除の対象になれません。
法人化後の家族への給与は、専従者給与ではなく、法人からの給与になります。
専従者給与のような事前の届出制度はありません。家族を従業員として雇って給与を払うか、役員に就けて役員報酬を払うか、という2択に変わります。どちらにするかで、適用される決まりが違ってきます。
家族を役員にして報酬を払う場合は、役員給与の決まりが適用されます(法人税法34条)。毎月同じ額で払うのが原則で、期の途中で増減した分は法人の経費(損金)になりません。
賞与を払うなら、支給日と金額をあらかじめ税務署へ届け出て、そのとおりに払う形(事前確定届出給与)が原則です。部長などの使用人の職務も兼ねる役員(使用人兼務役員)に払う使用人分の賞与は別扱いですが、社長の配偶者のように社長と同じ株主グループに属して持株の要件(本人と配偶者で5%超など)に当たる役員は使用人兼務役員になれないため、家族経営の会社ではこの例外はまず使えません(法人税法34条・法人税法施行令71条)。
また、仕事の実態に見合わない過大な部分は法人でも損金になりません。「働きに見合う金額まで」という考え方は、専従者給与の「相当な金額」と同じ発想が法人にも続くと捉えると分かりやすいでしょう。
家族を従業員として雇う場合は、毎月同額の縛りはなく、賞与も払えます。雇用契約を結び、勤務の実態に見合う給与を払うのが基本です。
ただし、役員の親族に払う給与には、次の2つの決まりが別にあります。
2つ目の決め手は、「経営に従事しているか」です。持株の要件は本人と配偶者の持分を合わせて見るため、社長が株式を持つ家族経営の会社なら、配偶者自身が1株も持っていなくても通常は満たしてしまいます。
経営に従事しているかは肩書ではなく実態で判断され、資金繰りや借入などの資金計画、採用や給与の決定などの人事、重要な契約や取引先との交渉、経営方針や計画の立案に加わっているかが目安です。国税不服審判所の裁決でも、人事や資金計画への関与、重要な契約への関与といった具体的な事実の有無で判断されています(国税不服審判所 平成28年3月31日裁決・裁決事例集No.102)。配偶者が担うのが日々の経理や事務の範囲なのか、こうした意思決定にまで及んでいるのかで、答えが分かれます。
経営にも関わってもらうなら、従業員の給与のつもりで期の途中に増減させると、損金にならない部分が出るおそれがあります。
| 項目 | 個人事業(青色事業専従者給与) | 法人(家族への給与) |
|---|---|---|
| 事前の届出 | 必要(届出額の範囲内で払う) | 毎月の給与は不要(役員の賞与は事前確定届出給与の届出が要る) |
| 金額の考え方 | 仕事に見合う相当な額まで | 同じ(役員は加えて毎月同額の決まり) |
| 配偶者控除・扶養控除 | 受け取る家族は対象外 | 金額などの要件を満たせば対象になれる |
とくに3行目は見落とされがちです。家族への給与を低めにして配偶者控除を受ける、という組み合わせは、専従者給与では選べず、法人化後は選べるようになります。どちらが有利かは給与の水準しだいで変わるため、法人化のタイミングで設計し直す価値があります。
法人化ではなく、個人事業を残して法人を追加する形(いわゆる二刀流)では、個人側の専従者給与を続けること自体は可能です。
ただし専従者給与の要件には「その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること」が含まれます。しかも、他に職業を持っている期間は、その仕事に従事する時間が短い場合などを除いて「専ら従事する期間」に数えません(所得税法施行令165条2項2号)。家族が法人側の仕事も担うようになると、この「専ら従事」を満たすかどうかが問題になります。両方から払う設計は、慎重に検討してください。
なお、年の途中で事業を始めた、法人化で個人事業をやめたなど、その年を通じて事業が営まれなかった年は、従事できる期間の2分の1を超えて専ら従事していれば足ります(所得税法施行令165条1項1号)。家族の側の死亡・長期の病気・婚姻その他相当の理由で従事できなかった期間がある場合も同じ扱いです(所得税法施行令165条1項2号)。国税庁は、就職や退職もこの「相当の理由」に含まれるという考え方を示しています。
家族への給与は、法人化で「届出の範囲内」という縛りが外れる一方、役員なら毎月同額という別の縛りが加わり、従業員にしても役員の親族への過大な給与は損金になりません。配偶者控除との組み合わせも含めると、選択肢はむしろ増えるのです。
ご家族の働き方に合う形はどれでしょうか。法人化をご検討の際は、家族の給与設計もセットで試算してみてください。
出典
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
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