事前確定届出給与と賞与の社会保険料の上限 — 厚生年金は1か月150万円・健康保険は年度573万円で頭打ちになる仕組みと、上限を超える賞与で何が起きるか
「事前確定届出給与で賞与を大きくすると、社会保険料が頭打ちになると聞いた」— この話の出どころは、賞与にかかる保険料の計算に上限があることです。上限がどこにあり、超えるとどうなり、その裏で何が変わるのかを、実額とあわせて整理しました。
この記事の要点
- 賞与の社会保険料は、1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に料率を掛けて計算する。上限は厚生年金が1か月あたり150万円、健康保険が年度(4月〜翌年3月)の累計で573万円
- 上限を超えた部分には保険料がかからない。賞与150万円の保険料は会社と本人で約43.1万円、300万円でも約58.2万円にとどまる
- 月給を下げて賞与に寄せると保険料は下がるが、標準報酬月額の低下で将来の年金や傷病手当金などの給付も下がる。届出どおりに払えないと賞与の全額が損金にならない
上限の仕組み — 月給は「等級」、賞与は「そのままの額」で計算する
月給にかかる社会保険料は、報酬月額を等級に当てはめた標準報酬月額に料率を掛けて決まります(健康保険法40条・厚生年金保険法20条)。一方、賞与は等級を使わず、支給額から1,000円未満を切り捨てた標準賞与額に同じ料率を掛けます(健康保険法45条・厚生年金保険法24条の4)。
この標準賞与額に上限があります。厚生年金は1か月あたり150万円、健康保険(介護保険を含む)は年度の累計で573万円です。ただし、この計算の対象になる賞与は3か月を超える期間ごとに受けるもの(支給が年3回以下のもの)に限られ、年4回以上支給する場合は報酬として標準報酬月額の側に含めます(健康保険法3条5項・6項、厚生年金保険法3条1項3号・4号)。
同じ月に2回払えば合算して150万円までで判定し、健康保険は年度内の賞与を足し上げて573万円に達した後は保険料がかかりません。
| 項目 | 月給 | 賞与 |
|---|---|---|
| 計算のもと | 標準報酬月額(等級表に当てはめる) | 標準賞与額(1,000円未満切捨て) |
| 上限(厚生年金) | 月65万円(32等級) | 1か月あたり150万円 |
| 上限(健康保険) | 月139万円(50等級) | 年度の累計で573万円 |
| 子ども・子育て支援金 | 健康保険とあわせて徴収 | 標準賞与額に0.23%を掛けて徴収 |
実額 — 賞与の額を上げていくと保険料はどう増えるか
40歳未満・協会けんぽ東京の令和8年度料率で、年1回の賞与にかかる社会保険料を並べました。
※この表の試算年度: 保険料は令和8年度の計算前提(所得税の試算ではありません)。
| 賞与の額 | 社会保険料の合計(会社+本人) | うち本人負担 |
|---|---|---|
| 100万円 | 287,400円 | 141,900円 |
| 150万円 | 431,100円 | 212,850円 |
| 200万円 | 481,500円 | 238,050円 |
| 300万円 | 582,300円 | 288,450円 |
| 500万円 | 783,900円 | 389,250円 |
上限の150万円までは賞与に比例して増えますが、それを超えると厚生年金が頭打ちになり、増えるのは健康保険と支援金の分だけです。300万円の賞与の保険料は、その半分の額のときの約1.35倍にとどまります。健康保険も年度の累計の上限を超えた部分にはかからないため、賞与が大きいほど保険料の割合は下がります。
事前確定届出給与との関係 — 月給を下げて賞与に寄せるとどうなるか
事前確定届出給与は、支給日と金額を事前に税務署へ届け出て、そのとおりに払った役員賞与を損金にできる制度です(法人税法34条1項2号)。役員報酬が利益の操作に使われないよう、事前に約束を固定した給与だけを認めるのが制度の趣旨です。この制度で年収の一部を賞与に回すと、月給の標準報酬月額が下がり、賞与の側は上限で頭打ちになるため、年間の社会保険料が下がります。
届出の期限は、原則として株主総会等の決議の日から1か月を経過する日と、会計期間の開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日です(法人税法施行令69条4項1号)。新しく設立した会社は設立の日以後2か月を経過する日までで、期限を過ぎると届出の要件を満たさず、その賞与は損金になりません(法人税法34条1項2号)。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 項目 | 毎月50万円(年額) | 月給30万円+賞与240万円(年額) |
|---|---|---|
| 社会保険料(会社+本人) | 1,724,400円 | 1,556,460円 |
| 所得税・住民税 | 462,600円 | 479,300円 |
| 会社負担の社会保険料 | 873,000円 | 787,410円 |
この例では社会保険料が年約16.8万円減り、所得税・住民税が約1.7万円増えます。
賞与240万円は厚生年金の上限150万円を超えているため、超えた90万円分に厚生年金の保険料はかかっていません。
裏で変わるもの — 給付・要件・手取り・退職金の4つのデメリット
社会保険料の負担と、給付の水準・資金繰り・審査への影響は同じ物差しの両側です。あなたの会社では、月給をいくらまで下げても生活と資金繰りが回るでしょうか。
まとめ — 上限の仕組みを知ったうえで、払い方は総合で決める
賞与の社会保険料の上限は、法律で決まった計算の仕組みです。事前確定届出給与で賞与に寄せれば保険料は下がりますが、給付の減少・届出どおりに払う義務・月々の手取りの薄さ・退職金の目安の低下がセットで付いてきます。下のシミュレーションで月給と賞与の配分を動かし、保険料・税金・手取りを並べて確かめてみてください。実行の際は、届出の記載と支給日の管理を含めて、必ず事前にご相談ください。
※本記事の金額は、社長おひとり・40歳未満(介護保険なし)・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・協会けんぽ東京の令和8年度料率・令和8年分の税制での概算です。住民税は市区町村が前年の所得から決める税額を先回りして示した見込み額です。
出典
- 日本年金機構 賞与にかかる保険料の計算
- 日本年金機構 従業員に賞与を支給したときの手続き
- 国税庁 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)
- 国税庁 届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い(事前確定届出給与)
- 国税庁 職務執行期間の中途で支給した事前確定届出給与
- e-Gov法令検索 健康保険法3条(報酬・賞与の定義)・40条(標準報酬月額)・45条(標準賞与額)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法3条(報酬・賞与の定義)・20条(標準報酬月額)・24条の4(標準賞与額)
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条4項(事前確定届出給与の届出期限)・70条2号(退職給与の相当な額)
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社の業務は、社員が2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き社員の過半数で決めます(会社法590条2項)。業務を執行する社員を定款で定め、その社員が2人以上あるときは、定款に別段の定めがある場合を除き業務執行社員の過半数で決めます(会社法591条1項)。定款を変更して報酬に関する定めを置く場合は、定款に別段の定めがある場合を除き総社員の同意が必要です(会社法637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
この記事の内容は、あなたの数字でその場で試算できます。
事前確定届出給与シミュレーションで実際にあなたの数字で試す→この記事のテーマで使える道具・専門ページ
議事録・届出書事前確定届出給与の議事録・届出書を作る (無料)→ 試算役員報酬・賞与と生活費の年間計画→ 専門ページ事前確定届出給与 (賞与の届出)→ 専門ページ社会保険料ガイド→この記事の内容、私の場合は? — 普段お使いの AI に相談
押すと、この記事の要点が質問文になって、選んだ AI に渡ります。
Gemini など、ほかの AI に貼り付けて使えます
AI によってはそのまま回答が始まります。回答は各 AI サービスによるもので、当事務所の見解ではありません。
※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。