創業1年目の役員報酬の決め方 — 売上の実績が無い時点で、生活費の下限・会社の固定費・預金が持つ月数から決める手順と、1期目は途中で上げられない原則
会社を作ったばかりで売上の実績が無いとき、役員報酬をいくらにするか。生活費の下限・会社の固定費・預金が持つ月数から決める手順と、1期目は途中で上げられない決まり、2期目の見直しの段取りを整理しました。
この記事の要点
- 売上の見込みで決めず、「生活費の下限」「会社の固定費」「預金が持つ月数」の3つから決める順番をお勧めしています
- 役員報酬は、会計期間の開始から3か月を経過する日までに決めた額を毎月同額で払うのが原則で、1期目の途中では上げられないと整理しています
- 弊所試算では、会社が用意する額は額面に会社負担の社会保険料が約15%上乗せされた金額で、月25万円の報酬なら月約28.8万円と試算しています
結論 — 売上の見込みでなく、3つの数字から決める
創業1年目は売上の実績が無く、利益の何割という決め方は使えないと考えています。代わりに、社長の生活費の下限、会社の固定費、会社の預金が持つ月数の3つから決めることをお勧めしています。順番は次のとおりです。
創業1年目の役員報酬を決める3段階
生活費の下限を出す
家賃・食費・保険・ローンなど、毎月必ず出ていく額を手取りで合計する
会社の固定費を足す
事務所の家賃・外注費・借入の返済など、売上が無くても出ていく額を月で出す
預金が持つ月数で確かめる
資本金と借入の残高を、1)と2)に会社負担の保険料を足した額で割り、売上が立つまでの月数を上回るかを見る
手取りの下限から額面に戻すときは、社会保険料と税金の分を上乗せします。弊所試算では、月25万円の額面で手取りは月約20.1万円で、35万円の行も下の表に並べました。手取りの額が先に決まっているなら、額面は手取りシミュレーションで逆算できます。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 額面(月額・弊所試算の前提) | 社長の手取り(月額) | 社会保険料の会社負担(月額) | 会社が用意する額(月額) |
|---|---|---|---|
| 25万円 | 201,064円 | 37,830円 | 287,830円 |
| 35万円 | 277,699円 | 52,380円 | 402,380円 |
会社が用意する額は、額面に会社負担の社会保険料を足した金額です。預金が持つ月数を数えるときは、額面でなくこの列の額で割ってみてください。月あたりの金額は年額を12か月で割った平均で、手取りは40歳未満・所得控除は給与所得控除と社会保険料控除と基礎控除だけの前提です。
前職の給与と同額にしたときの会社の負担 — 額面に15%が上乗せ
前職の月給と同じ額にする決め方は分かりやすい反面、会社には額面のほかに会社負担の社会保険料がかかります。健康保険・厚生年金の保険料は標準報酬月額に料率を掛け、本人と会社で半分ずつ負担します(健康保険法161条1項・厚生年金保険法82条1項)。会社はさらに、厚生年金の標準報酬月額にかかる子ども・子育て拠出金を納めます(子ども・子育て支援法69条・70条)。
弊所試算では、月35万円の報酬で会社負担は月52,380円、1年で約62.9万円です。前職の給与が手取りで決まっていたなら、同じ手取りを役員報酬で出すには額面をその分高くする必要があり、会社員のときに勤め先が負担していた保険料の半分を、今度は自分の会社が払うことになると見込んでおきましょう。
設立した会社は社会保険の新規適用届を出し、役員の資格取得届で報酬月額を届け出ます(厚生年金保険法27条・健康保険法48条)。日本年金機構の案内では、事業主だけの法人事業所も加入の対象で、新規適用届の期限は事実発生から5日以内です。資格取得届には報酬月額を書くので、設立の登記が済んだら報酬の額を先に固めておきましょう。手続きの全体は法人の社会保険の加入手続きにまとめています。
1期目は途中で上げられない — 期首3か月の原則と例外
原則
役員報酬を損金にするには毎月同額で払う定期同額給与にし、額の改定は会計期間の開始から3か月を経過する日までに行います。
法人税法34条1項1号・法人税法施行令69条1項1号イ
ただし
役員の地位や職務の内容が大きく変わる臨時改定事由と、経営の状況が著しく悪化した業績悪化改定事由による改定は、期の途中でも定期同額給与として扱われます。
法人税法施行令69条1項1号ロ・ハ
1期目の会計期間は設立の日から始まるので、設立の日から3か月を経過する日までに決めた額が、その期の報酬になります。売上が思ったより伸びたからといって期の途中で上げると、上乗せした部分は損金になりません(法人税法34条1項1号・法人税法施行令69条1項1号)。国税庁も、期の途中で増額した例について、増額前の額に上乗せして支給した部分が損金不算入になるという見解を示しています。
業績悪化改定事由は、一時的な資金繰りの都合や業績目標に届かなかっただけでは当たりません(法人税基本通達9-2-13)。下げる方向でも認められるのは経営の状況が著しく悪化した場合などに限られるので(法人税法施行令69条1項1号ハ)、最初から無理のない額にしておく方が安全だと考えています。変更の時期の数え方は役員報酬の変更時期はいつまで?に書きました。
設立から2期目の期首までの段取り — 届出・賞与・住民税
設立から役員報酬を決めるまで
- 設立の日起点
- 5日以内社会保険の新規適用届と資格取得届(日本年金機構の案内)
- 2か月を経過する日賞与(事前確定届出給与)を出すなら届出書
- 3か月を経過する日役員報酬の額の決定と議事録
2期目の額は、決算の数字が固まるのを待たず、期末の2か月ほど前から案を作っておきましょう。
役員報酬の額は株主総会(合同会社は社員の同意)で決め、1人の会社でも議事録や同意書を残しておきましょう。役員報酬の議事録はこのサイトで作れます。合同会社の手順は合同会社の役員報酬の決め方にまとめています。
賞与(事前確定届出給与)も出したいなら、新しく設立した会社は設立の日以後2か月を経過する日までに届出書を出します(法人税法施行令69条4項1号)。届出をせずに払った役員の賞与は損金になりません(法人税法34条1項2号)。届け出た支給額と実際の支給額が異なるときも事前確定届出給与に当たらず、原則としてその支給額の全額が損金になりません(法人税基本通達9-2-14)。1年目は売上の見込みが立たないので、賞与は2期目から検討する会社が多いと見ています。
住民税は、前年の所得をもとに市区町村が決めた税額を、6月から翌年5月まで毎月の報酬から天引きする仕組みです(地方税法321条の3・321条の5)。設立1期目は会社の天引きがまだ始まらず、前年の所得に対する分は自分で納めることがあります。詳しくは役員報酬と住民税に書きました。
まとめ — 無理のない額に決め、2期目の期首に見直す
創業1年目の役員報酬は、生活費の下限と会社の固定費、預金が持つ月数から、無理のない額に決めるのが基本だと考えています。売上が見えてきたら、2期目の会計期間の開始から3か月を経過する日までに上げる段取りを組んでみてください。
ご自身の数字で確かめるときは、役員報酬シミュレーションで額面を動かすと、手取りと会社負担、会社に残る利益が並んで出ます。創業期の考え方の全体は役員報酬ガイドの創業期の案内にまとめています。
※本記事の金額は、社長おひとり・40歳未満(介護保険なし)・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・協会けんぽ東京の令和8年度料率・令和8年分の税制での概算です。月あたりの金額は年額を12か月で割った平均で、実際の振込額とは異なる場合があります。
出典
- 国税庁 No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 質疑応答事例 定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)
- 国税庁 質疑応答事例 過大役員給与の判定基準
- 国税庁 役員給与に関するQ&A
- 国税庁 法人税基本通達9-2-13(経営の状況の著しい悪化に類する理由)
- 日本年金機構 新規適用の手続き
- 東京都主税局 個人住民税(所得割・均等割・特別徴収)
- 協会けんぽ 令和8年度保険料率のお知らせ
- 協会けんぽ 令和8年3月分からの健康保険・厚生年金保険の保険料額表(東京都)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算)・34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等)・70条(過大な役員給与の額)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法27条(届出)・43条(年金額)・82条(保険料の負担)
- e-Gov法令検索 健康保険法48条(届出)・99条(傷病手当金)・161条(保険料の負担)
- e-Gov法令検索 子ども・子育て支援法69条(拠出金の徴収及び納付義務)・70条(拠出金の額)
- e-Gov法令検索 地方税法321条の3(給与所得に係る特別徴収)・321条の5(特別徴収の方法)
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