役員報酬と住民税 — 天引きはいつから始まるか・会社を作った1年目に引かれない理由・特別徴収と普通徴収の違い
「役員報酬を決めたのに、給与明細に住民税が載っていない」— 会社を作って初めて役員報酬を受け取る方から、よく受ける質問です。住民税は所得税と違って会社が計算する税ではなく、市区町村が前年の所得から決めた税額を会社が預かって納めるだけの仕組みです。いつから、いくら、どの経路で引かれるのかを整理しました。
この記事の要点
- 住民税は前年の所得をもとに市区町村が税額を決め、会社経由の通知どおりに6月から翌年5月まで毎月の役員報酬から天引きする(特別徴収)。会社は預かった税を翌月10日までに納める
- 会社を作った1年目は、前年分の給与支払報告書を新しい会社が出していないため、前の勤め先や個人事業の所得にかかる住民税は本人が納付書で納める(普通徴収)ことが多い。負担そのものは変わらない
- 月30万円の役員報酬なら、翌年度の住民税は年152,300円(弊所試算)。月あたり約1.3万円が天引きされる
住民税は「前年の所得」に「市区町村が」かける税
所得税は会社が毎月の報酬から源泉徴収し、年末調整で精算します。住民税は違います。市区町村が前年1月から12月の所得をもとに税額を決め、6月から翌年5月の12回に分けて給与から天引きするよう会社に通知します(地方税法321条の3・321条の4)。会社が税額を計算する場面はありません。
通知は毎年5月31日までに、会社を経由して本人に届きます(地方税法321条の4第2項)。会社はその額を毎月の報酬から預かり、翌月10日までに市区町村へ納めます(地方税法321条の5)。給与を受ける人が常時10人未満の会社は、市区町村の承認を受けて納付を年2回にまとめられます(地方税法321条の5の2)。
源泉所得税にも同じ仕組みがあります。給与を受ける人が常時10人未満の会社は、税務署長の承認を受ければ、1月から6月分を7月10日まで、7月から12月分を翌年1月20日までの年2回にまとめて納められます(所得税法216条)。
| 項目 | 所得税 | 住民税 |
|---|---|---|
| 税額を決めるのは誰か | 会社(毎月の源泉徴収と年末調整) | 市区町村(前年の所得から決定) |
| 何をもとにするか | その月の報酬 | 前年1〜12月の所得 |
| いつ引かれるか | 報酬を払う月ごと | 6月から翌年5月の12回 |
| 会社の納付期限 | 翌月10日(常時10人未満なら承認を受けて年2回) | 翌月10日(承認を受ければ年2回) |
会社を作った年から天引きが始まるまで
1年目
前年に給与を払っていないため、新しい会社から出す給与支払報告書が無い。前年の所得(前の勤め先の給与や個人事業の所得)にかかる住民税は、本人に届く納税通知書で納める(普通徴収)
翌年1月31日まで
会社が前年分の役員報酬の給与支払報告書を、本人が1月1日時点で住んでいる市区町村へ出す(地方税法317条の6)
5月31日まで
市区町村が特別徴収の税額を会社経由で通知する
6月から翌年5月
通知された額を毎月の報酬から天引きし、翌月10日までに納める
前年に給与を受け、その年度の初日(4月1日)にも給与を受けている人の住民税は、市区町村が給与の支払者を特別徴収義務者に指定して天引きで徴収するのが原則です(地方税法321条の3第1項・321条の4第1項)。給与支払報告書は、前年に給与を払った会社が翌年1月31日までに市区町村へ出すものです(地方税法317条の6)。
会社を作った1年目は、新しい会社がまだこの報告書を出していません。このため市区町村が新しい会社を特別徴収義務者として把握できず、本人が納付書で納める普通徴収になることが多いとお伝えしています。
2年目の6月からは、会社が出した給与支払報告書をもとに天引きへ切り替わるのが原則です。ただし、総従業員数が2人以下などの理由に当たるときは、普通徴収切替理由書で申告すれば、市区町村の判断で普通徴収とされることがあります。認められる理由は自治体ごとに異なり、理由書を出さなければ原則どおり特別徴収になるため、提出先の市区町村の案内で確かめておきましょう。
会社を作った1年目 — 天引きが無いのは「かからない」からではない
1年目に天引きが無くても、住民税がかからないわけではなく、前年に所得があればその年の1月1日に住所のある市区町村が課税します(地方税法39条・294条1項)。ただし、前年の合計所得が一定額以下の方などは非課税です(地方税法295条)。所得割は前年の所得に対してかかるため(地方税法32条1項)、その住民税は本人あてに納税通知書が届き、6月・8月・10月・翌年1月の4回に分けて納めます(普通徴収・地方税法320条)。
1月1日から4月30日までに前の勤め先を退職した方の住民税は、5月31日までに支払われる給与や退職金が残りの税額を超えるときは、前の勤め先が5月分までの残りをまとめて天引きしなければなりません(地方税法321条の5第2項)。
天引きに切り替えたいときは、会社から市区町村へ特別徴収への切替の届出を出します。切り替えられるのは原則としてまだ納期限の来ていない分に限られ、納付済みの分は戻せません。ただし、申出が年度の終わりに近い翌年4月になると、新しい会社に徴収させるのが難しいと市区町村長が認めたときは切り替えられないことがあります(地方税法321条の4第5項)。この2点を踏まえて、早めに動くようお勧めしています。
どの経路で納めても、税額は前年の所得で決まるため負担の総額は同じです(地方税法32条1項)。ご自身の1年目は、どちらの状態でしょうか。
実額 — 月30万円の役員報酬にかかる住民税
月30万円(年360万円)の役員報酬を1年間受け取ったとき、翌年度にかかる住民税を弊所の試算で示します。
所得割は前年の課税所得の10%(区市町村民税6%・都民税4%)です(地方税法314条の3・35条)。これに定額の均等割(区市町村民税3,000円・都民税1,000円)と森林環境税1,000円が加わり(地方税法310条・38条)、調整控除を差し引きます(地方税法314条の6・37条)。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 内訳 | 金額(年額) |
|---|---|
| 所得割(課税所得の10%) | 149,900円 |
| 均等割 | 4,000円 |
| 森林環境税 | 1,000円 |
| 調整控除(差し引く額) | 2,500円 |
| 住民税の合計(弊所試算) | 152,300円 |
※弊所試算では、区市町村民税と都民税の所得割を、それぞれ調整控除を引いてから100円未満で切り捨てているため、表の内訳を足した額と合計は100円ずれます。
月あたりに直すと約1.3万円です。2年目の6月からは、この額が毎月の手取りから減ります。役員報酬を上げれば翌年度の住民税も増えるため、報酬を決めるときは翌年度の住民税まで含めた手取りで見ておくと安心です。
まとめ — 「前年の所得に、市区町村が、翌年6月から」
住民税は前年の所得に市区町村がかける税で、会社は預かって納めるだけです。会社を作った1年目に天引きが無くても負担が無いわけではなく、2年目の6月から手取りが変わります。下の手取りシミュレーションでは、住民税の見込みを含めた手取りを月額ごとに試せます。ご自身の役員報酬で確かめてみてください。
※本記事の住民税は、社長おひとり・40歳未満・所得控除は給与所得控除・社会保険料控除・基礎控除のみ・令和8年分の税制での概算で、市区町村が前年の所得から決める税額を先回りして示した見込み額です。
出典
- 総務省 地方税の仕組み(普通徴収と特別徴収)
- 総務省 個人住民税の特別徴収の推進について
- e-Gov法令検索 所得税法216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)
- 東京都主税局 個人住民税(所得割・均等割・森林環境税・特別徴収)
- e-Gov法令検索 地方税法32条(所得割の課税標準)・35条(所得割の税率)・39条(賦課期日)・294条(市町村民税の納税義務者等)・37条(調整控除)・38条(均等割の税率)・310条(均等割の税率)・314条の3(所得割の税率)・314条の6(調整控除)・317条の6(給与支払報告書等の提出義務)・320条(普通徴収に係る個人の市町村民税の納期)・321条の3(給与所得に係る個人の市町村民税の特別徴収)・321条の4(給与所得に係る特別徴収義務者の指定等)・321条の5(給与所得に係る特別徴収税額の納入の義務等)・321条の5の2(給与所得に係る特別徴収税額の納期の特例)
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