大家の確定申告は自分でできるか — 自分で済む人の目安と、税理士に頼む5つの線(物件数・大きな修繕・売った年・相続した年・法人化)、渡す資料
「大家の確定申告は、自分でできるものなのか」— そんな疑問をお持ちの方に向けて、自分で済む目安と、税理士に頼んだ方がよい5つの線、頼むときに渡す資料を整理します。線を越える年だけ頼む、という使い方もできます。
この記事の要点
- 区分マンション1〜2室で、借入の利子・固定資産税・減価償却の計算が去年と変わらない年は、自分で作れる方が多い
- 頼む線は5つ: 10室・5棟の事業的規模、大きな修繕(修繕費か資本的支出か)、物件を売った年、相続した年、法人化を考える年
- 税理士に頼むときは、契約書と入金の記録・固定資産税の通知・保険の証明・修繕の領収書・借入の返済予定表・前年の申告書の控えをそろえて渡しましょう
自分で済む大家の目安 — 去年と同じ計算の繰り返しなら
不動産所得の金額は、家賃などの総収入金額から必要経費を引いた金額です(所得税法26条2項)。経費の中心は、固定資産税、火災保険料、修繕費、建物と設備の減価償却費、借入金の利子、管理会社への管理料です。これを青色申告決算書(不動産所得用)か収支内訳書に書き、申告書に写すのが大家の確定申告です。
区分マンションを1〜2室貸していて、2年目以降で減価償却の金額が前年の申告書の控えに載っており、その年に売買も大きな修繕も無い方なら、国税庁の確定申告書等作成コーナーで自分で作れる方が多いと考えています。減価償却費は前年の明細の未償却残高を写し、固定資産税と保険料と利子は通知書と返済予定表の数字を入れるだけだからです。
ただし、不動産所得が赤字になった年は、去年の写しでは済みません。必要経費に入れた借入金の利子のうち土地等を取得するための分があると、申告書第一表の不動産所得の欄は0にし、赤字がその利子より大きいときだけ差額を書くので、給与などと合計する赤字が小さくなります。
頼む線1 — 10室・5棟の事業的規模になると、控除と経費の扱いが変わる
建物の貸付けが事業として行われているかどうかは、社会通念上の規模で判定しますが、貸せる独立した室数がおおむね10室以上か、独立した家屋がおおむね5棟以上なら、事業として扱われます(所得税基本通達26-9)。この線を越えると、青色申告の控除・家族への給与・建物の損失の扱いが変わります。
| 項目 | 事業的規模(10室・5棟) | それ以外の規模 |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除(令和8年分まで・年額) | 複式簿記などの条件で55万円、さらにe-Taxか優良な電子帳簿で65万円 | 10万円の控除だけ |
| 家族への給与 | 青色事業専従者給与か、白色の事業専従者控除を必要経費にできる | できない |
| 建物の取壊し・除却の損失 | 全額を必要経費にできる | その年の不動産所得の金額が限度 |
令和8年分までは、不動産所得を生ずべき事業を営む方が複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告すると、原則55万円の控除です。ただし、e-Taxで申告するか優良な電子帳簿を保存していれば65万円になります。
2027年1月1日施行の改正後の規定では55万円の区分が無くなり、65万円の控除もe-Taxで期限内に申告した年に限られるため、紙の申告では複式簿記で記帳していても受けられません(租税特別措置法25条の2)。複式簿記で記帳している方は、e-Taxでの申告に切り替えておくと安心です。
家族への給与は、事業に専従する親族に払った青色事業専従者給与が必要経費になります(所得税法57条1項)。事業的規模で白色申告の方は、専従する家族1人ごとに配偶者86万円・それ以外の家族50万円(所得の金額による上限あり)を事業専従者控除として必要経費とみなします(所得税法57条3項)。建物の取壊しなどの損失は、事業なら全額、それ以外の規模ならその年の不動産所得の金額を限度に必要経費です(所得税法51条1項・4項)。
事業的規模に満たない大家の方でも、ほかに事業所得があれば、複式簿記による控除を受けられる場合があります。室数が10室に近づいてきた年は、控除や家族への給与の扱いが変わる年なので、その年から税理士に頼む方も少なくありません。
頼む線2 — 大きな修繕をした年は、修繕費か資本的支出かで税額が変わる
修理や改良のために払った金額のうち、建物の価値を高めたり耐久性を増したりする部分は、原則として資本的支出で、その年の経費ではなく減価償却で何年かに分けて経費にします(所得税基本通達37-10)。避難階段の取付けのように物理的に付け加えた部分や、用途を変えるための模様替えが資本的支出の例です。ただし、1つの計画で同じ建物に行う修理・改良の金額が20万円に満たないときや、おおむね3年以内の周期で行うことが過去の実績から明らかなときは、修繕費として申告してよいことになっています(所得税基本通達37-12)。
どちらか明らかでない金額は、60万円未満か、その建物の前年末の取得価額のおおむね10%以下なら、修繕費として申告してよいことになっています(所得税基本通達37-13)。それでも分けられない金額は、支出の30%と前年末の取得価額の10%のどちらか少ない方を修繕費、残りを資本的支出とする扱いを続けて使えます(所得税基本通達37-14)。
修繕費と資本的支出の分かれ目は不動産所得の必要経費も見てください。外壁や屋根の大きな工事をした年は、見積書と工事の内容が分かる書類をそろえて、申告だけ税理士に頼む方が安全ではないでしょうか。
頼む線3〜5 — 売った年・相続した年・法人化を考える年
物件を売った年は、家賃の不動産所得とは別に、売った利益に対する譲渡所得の申告が加わります。売った年の1月1日で所有期間が5年を超える長期譲渡なら所得税は15%、5年以下の短期譲渡なら30%です(租税特別措置法31条1項・32条1項)。取得費の計算の流れと過去の申告書の控えの使い方は、不動産を売った年の確定申告を見てください。
相続した年は、亡くなった方の1月1日から亡くなった日までの家賃について、相続人が相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をします(所得税法125条1項)。家賃の分け方と、相続人自身の申告での減価償却の計算は、家賃収入のある賃貸物件を相続した年の確定申告を見てください。
法人化を考える年は、個人の申告だけでなく、建物を法人へ移す形や時期の判断が入ります。家賃収入の規模ごとの損得は家賃収入の法人化の専門ページで、数字を入れて確かめてみてください。店舗や駐車場の賃料がある方は、消費税の線も大家の消費税で確かめておくと安心です。
頼むときに渡す資料 — 6組そろえば申告書まで進む
弊所は、個人の確定申告だけのご依頼も受けています。資料は弊所のGoogle ドライブの共有フォルダに写真やPDFで入れていただき、やり取りはLINEなどのチャットツールやメールで進めます。料金と受付の範囲は確定申告のページに載せていますので、線を越える年の相談先として参考にしてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき
- 国税庁 タックスアンサー No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁 令和7年分 青色申告決算書(不動産所得用)の書き方
- 国税庁 質疑応答事例 業務的規模の不動産所得と赤字の事業所得がある場合の青色申告特別控除
- 国税庁 所得税基本通達26-9(建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)
- 国税庁 所得税基本通達37-10(資本的支出の例示)・37-12(少額又は周期の短い費用の必要経費算入)・37-13(形式基準による修繕費の判定)・37-14(資本的支出と修繕費の区分の特例)
- e-Gov法令検索 所得税法26条(不動産所得)・51条(資産損失の必要経費算入)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・125条(年の中途で死亡した場合の確定申告)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)・31条(長期譲渡所得の課税の特例)・32条(短期譲渡所得の課税の特例)
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
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