家賃収入の確定申告のやり方 — 不動産所得の計算、5棟10室で変わる青色申告の控除、赤字のときの土地の借入金の利子の制限
「アパートの家賃が入るようになったけれど、申告はどう計算するのか」— 会社員や年金暮らしで家賃収入のある方に向けて、不動産所得の計算、5棟10室で変わる青色申告の控除、赤字のときの土地の借入金の利子の制限を整理します。令和8年分(2027年2月16日から3月15日に申告する分)に使える形で書きます。
この記事の要点
- 不動産所得は、家賃・共益費・礼金・更新料などの総収入金額から、固定資産税・損害保険料・修繕費・借入金の利子・減価償却費などの必要経費を引いた額(所得税法26条2項・37条1項)
- 青色申告特別控除は、貸付けが事業的規模(アパートはおおむね10室以上・独立家屋はおおむね5棟以上)で複式簿記・期限内申告・e-Taxなどの要件を満たすと65万円。満たない貸付けだけなら10万円(租税特別措置法25条の2・所得税基本通達26-9)
- 不動産所得の赤字は給与所得などと損益通算できるが、土地を取得するための借入金の利子に相当する部分は生じなかったものとみなされる(所得税法69条1項・租税特別措置法41条の4第1項)
全体の形 — 収入から経費を引いた「不動産所得」を、給与と合わせて申告する
土地や建物を貸して得る所得は不動産所得で、その年の総収入金額から必要経費を引いて計算します(所得税法26条1項・2項)。会社員の方は、年末調整を受けた給与とこの不動産所得を1枚の申告書に載せ、給与から引かれた所得税との差額を納める(または還付を受ける)形です。まず、収入に何を入れるかから見ていきましょう。
| 受け取るもの | 扱い |
|---|---|
| 家賃・地代・共益費 | 契約で支払日が決まっていればその支払日の年の収入。決まっていなければ受け取った日(所得税基本通達36-5)。滞納分も支払日が来ていれば収入に入れる |
| 礼金・権利金・更新料 | 物件の引渡しを伴うものは引渡しの日、伴わないものは契約の効力が生じた日の年の収入(所得税基本通達36-6) |
| 敷金・保証金 | 返すものは収入にならない。初めから返さないと決まっている部分は引渡しの日、途中や退去時に返さないと決まった部分はその日の年の収入(所得税基本通達36-7) |
原則
給与を1か所から受け、その全部が源泉徴収の対象で、給与の収入が2,000万円以下の方は、給与と退職所得以外の所得の合計が20万円以下なら所得税の確定申告書を出さなくてよいとされています。
所得税法121条1項1号
ただし
20万円は家賃の額ではなく、必要経費を引いたあとの不動産所得の額で見ます。
所得税法121条1項1号
勤め先にその事業用として不動産を貸している方や、自分が役員の同族会社から家賃や貸付金の利子を受け取っている方は、20万円以下でも申告が要ります(所得税法121条1項ただし書・所得税法施行令262条の2)。役員本人だけでなく、役員の親族(親族だった方を含む)、事実上の配偶者、役員から生計を維持されている方が、その会社から給与のほかに家賃などを受け取る場合も同じです。
所得税法施行令262条の2
医療費控除や寄附金控除(ワンストップ特例を使わないふるさと納税)、住宅ローン控除の1年目などで確定申告書を出す年は、20万円以下の不動産所得も含めて申告します。申告書にはその年分の総所得金額を書くためです。
所得税法120条1項
所得税の申告をしない年も、住民税の申告は市区町村へ別に出します。
地方税法317条の2第1項
家賃から引ける費用 — 代表的なものと、物件を買った年に迷うもの
必要経費は、家賃収入を得るために直接要した費用と、貸付けの業務について生じた費用です(所得税法37条1項)。代表的なものは次のとおりです。
- 固定資産税・都市計画税、損害保険料、管理委託料、共用部分の水道光熱費
- 借入金の利子(元本の返済は経費になりません)
- 入居者の募集にかかった広告料・仲介手数料、修繕費
- 建物と設備の減価償却費(次の節)、税理士に頼んだときの報酬
一方、所得税と住民税、自宅として使っている部分にかかる費用は必要経費になりません(所得税法45条1項1号・2号・4号)。生計を一にする親族(同じ財布で暮らす家族)から借りたお金の利子も、必要経費になりません(所得税法56条)。
原則
壊れた箇所を直す、元の状態に戻すための支出は修繕費として、その年の必要経費になります。
所得税基本通達37-11
ただし
建物の価値を高める、耐久性を増す部分(避難階段の取付け、用途変更のための改装など)は資本的支出で、減価償却を通じて何年かに分けて経費にします。
所得税基本通達37-10
どちらか明らかでない支出は、その額が60万円未満か、その建物の前年末の取得価額のおおむね10%以下なら、修繕費として申告したものが認められます。
所得税基本通達37-13
なお、一つの修理・改良の金額が20万円未満のときや、おおむね3年以内の周期で行う修理・改良は、価値を高める部分があっても、修繕費として申告すればその年の必要経費にできます。
減価償却 — 建物の代金は耐用年数で割って、毎年少しずつ経費にする
建物と設備の取得価額は、買った年に全額を経費にするのではなく、償却費として毎年の必要経費に分けて入れます(所得税法49条1項)。平成19年4月1日以後に取得した建物は定額法で、毎年同じ額です(所得税法施行令120条の2第1項1号)。土地は時の経過で価値が減らないので、減価償却の対象になりません(所得税法施行令6条)。
設備や備品には例外があります。一定の要件を満たす青色申告の方は、取得価額が10万円以上30万円未満の減価償却資産を、使い始めた年の必要経費に入れられる特例があります。
令和8年4月1日以後に取得したものは40万円未満まで広がり、取得価額の合計が300万円に達するまでが対象です。令和11年3月31日までに取得したものに限られます。
| 構造 | 耐用年数 |
|---|---|
| 木造 | 22年 |
| 木骨モルタル造 | 20年 |
| 金属造(骨格材の肉厚3mm以下) | 19年 |
| 金属造(同3mm超4mm以下) | 27年 |
| 金属造(同4mm超) | 34年 |
| れんが造・石造・ブロック造 | 38年 |
| 鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造 | 47年 |
中古の建物は、使える年数の見積りが難しければ、簡便法で耐用年数を出せます。法定耐用年数の一部が過ぎていれば「法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%」、全部過ぎていれば「法定耐用年数×20%」です(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号)。1年未満の端数は切り捨て、2年未満は2年です(同省令3条1項2号・5項)。貸すために取得価額の50%を超える改修をしたときは、この簡便法は使えません(同省令3条1項ただし書)。
事業的規模 — 「5棟10室」で控除と経費の扱いが変わる
建物の貸付けが事業として行われているかは、社会通念上事業と呼べる規模かで判定します。貸すことができる独立した室数がおおむね10以上か、独立家屋でおおむね5棟以上なら、特に反証がない限り事業として扱われます(所得税基本通達26-9)。この線で変わるのは、次の4つです。
| 項目 | 事業的規模 | 事業的規模に満たない |
|---|---|---|
| 青色申告特別控除(年額) | 最大65万円(複式簿記・貸借対照表の添付・期限内申告・e-Taxか優良な電子帳簿) | 最大10万円 |
| 家族への給与(青色事業専従者給与) | 届出の範囲で必要経費 | 必要経費にならない |
| 建物の取壊し・除却の損失 | 全額が必要経費 | その年の不動産所得が限度 |
| 回収できなくなった家賃 | 回収不能になった年の必要経費 | 収入に入れた年にさかのぼり、その家賃のうち一定額までが無かったものとして計算し直す |
根拠は上から順に、租税特別措置法25条の2、所得税法57条1項、所得税法51条1項・4項、所得税法51条2項・64条1項・152条です。
原則
55万円・65万円の控除は、事業的規模の不動産所得か事業所得を生ずべき事業を営む青色申告者が対象です。
租税特別措置法25条の2
ただし
事業所得も営んでいる方は、不動産の貸付けが事業的規模に満たなくても対象になります。控除は、不動産所得の金額と事業所得の金額の合計額が上限です。
租税特別措置法25条の2
期限後に申告した年分は、帳簿がそろっていても控除は10万円です。
租税特別措置法25条の2
表の家族への給与は、生計を一にする15歳以上の配偶者や親族で、貸付けの事業に専ら従事する方(青色事業専従者)に、届出書に書いた方法と金額の範囲内で支払ったものに限られます。労務の対価として相当と認められる額が必要経費になり、専ら従事していない家族に払った給与は対象になりません(所得税法57条1項)。
届出書は、適用を受ける年の3月15日まで(1月16日以後に新たに貸付けの事業を始めたときは、始めた日から2か月以内)に税務署長へ出します(所得税法57条2項)。給与を受けた家族は、その年の同一生計配偶者や扶養親族になれないので、配偶者控除・扶養控除が使えなくなる分も見て決めます。
表の回収できなくなった家賃の計算し直しは、回収不能になった日の翌日から2か月以内に、更正の請求をして行います(所得税法152条)。無かったものとみなす額には上限があり、その年の不動産所得が赤字のときは生じないため、更正の請求はできません。
個人事業税(不動産貸付業)は所得税とは別の線で判定され、都道府県の認定基準に当たると対象になります(地方税法72条の2第3項・8項4号)。東京都の基準は、家賃収入の法人化の専門ページにまとめています。
令和8年分の申告と、青色申告を始める届出
- 2026年12月31日令和8年分の収入と経費の区切り。帳簿を年内の分まで記録する
- 2027年2月16日令和8年分の申告の受付が始まる(所得税法120条1項)
- 2027年3月15日令和8年分の申告と納付の期限(所得税法120条1項・128条)。令和9年分から青色申告にする承認申請書もこの日まで(所得税法144条)
令和8年分を青色で申告できるのは、2026年3月15日まで(令和8年1月16日以後に貸し始めた方はその日から2か月以内)に承認申請書を出した方です。まだなら、令和9年分から始めましょう。
赤字のとき — 給与と通算できる。ただし土地の借入金の利子の分は除く
原則
不動産所得が赤字なら、その赤字は給与所得など他の所得から差し引けます。
所得税法69条1項
ただし
必要経費に入れた借入金の利子のうち、土地を取得するために借りた分に相当する赤字は、生じなかったものとみなされます(租税特別措置法41条の4第1項)。生じなかったものとみなす額は、土地の利子が赤字より大きければ赤字の全額、赤字以下なら土地の利子の額です。
租税特別措置法施行令26条の6第1項
別荘のように、主に趣味・娯楽・保養の目的で持つ家屋は「生活に通常必要でない資産」に当たります(所得税法施行令178条1項2号)。その貸付けで生じた赤字は、ほかの生活に通常必要でない資産の所得から引ける分を除き、生じなかったものとみなされ、給与などから差し引けません。
所得税法69条2項
国外にある中古建物の赤字のうち、簡便法で計算した減価償却費に相当する部分も、生じなかったものとみなされます。
租税特別措置法41条の4の3第1項
1つの契約で同じ相手から土地と建物を買い、借入金が土地と建物に分けられていないときは、借入金はまず建物の代金に充てられ、残りが土地に充てられたものとして計算できます(租税特別措置法施行令26条の6第2項)。建物の代金を先に埋めるので、土地の利子とされる部分は小さくなります。
通算してもなお残る赤字は、青色申告なら翌年以後3年間、各年の所得から差し引けます(所得税法70条1項)。ただし、赤字が出た年分に確定申告書を出し、その後の年分も続けて確定申告書を出している場合に限られます(所得税法70条4項)。
申告の書類と手順 — 決算書を作ってから申告書に写す
家賃収入の確定申告の流れ
帳簿をつける
収入と経費を年内に記録しておきましょう。65万円の控除を目指すなら複式簿記で
決算書を作る
青色申告なら「所得税青色申告決算書(不動産所得用)」、白色申告なら「収支内訳書(不動産所得用)」に収入・経費・減価償却費を書く
申告書に写す
確定申告書第一表・第二表に不動産所得と給与所得を載せ、所得控除と税額を計算する
出して納める
e-Taxで送信し(65万円の控除の要件の1つ)、3月15日までに納める
ご自身の物件は、5棟10室の線のどちら側にあるでしょうか。
家賃収入が増えてきたら、個人のまま続けるか法人で持つかを比べる段に入ります。弊所の家賃収入の法人化の専門ページでは、個人のままと法人に移した場合の年間の負担の違いを整理しています。まずは今年の申告を正しく済ませ、そのうえで数字を見比べてみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁 タックスアンサー No.1376 不動産所得の収入計上時期
- 国税庁 タックスアンサー No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁 タックスアンサー No.1379 修繕費とならないものの判定
- 国税庁 タックスアンサー No.2100 減価償却のあらまし
- 国税庁 タックスアンサー No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 タックスアンサー No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
- 国税庁 タックスアンサー No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など
- 国税庁 タックスアンサー No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人
- 国税庁 質疑応答事例 業務的規模の不動産所得と赤字の事業所得がある場合の青色申告特別控除
- 国税庁 質疑応答事例 賃貸用の土地建物を購入した際に支払った仲介手数料の取扱いについて
- 国税庁 質疑応答事例 賃貸用アパートを購入した際に支払った固定資産税及び都市計画税相当額の清算金の取扱いについて
- 国税庁 質疑応答事例 事業に至らない規模の不動産貸付において未収家賃が回収不能となった場合
- e-Gov法令検索 所得税法26条(不動産所得)・37条(必要経費)・45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・49条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)・51条(資産損失の必要経費算入)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・64条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)・69条(損益通算)・70条(純損失の繰越控除)・120条(確定所得申告)・121条(確定所得申告を要しない場合)・128条(確定申告による納付)・144条(青色申告の承認の申請)・152条(各種所得の金額に異動を生じた場合の更正の請求の特例)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令6条(減価償却資産の範囲)・120条の2(減価償却資産の償却の方法)・126条(減価償却資産の取得価額)・132条(年の中途で業務の用に供した減価償却資産等の償却費の特例)・178条(生活に通常必要でない資産の災害による損失額の計算等)・262条の2(給与所得以外の所得が少額であつても確定申告書の提出を要する場合)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)・41条の4(不動産所得に係る損益通算の特例)・41条の4の3(国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令26条の6(不動産所得に係る損益通算の特例)
- e-Gov法令検索 減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条(中古資産の耐用年数等)・別表第一(建物の耐用年数)・別表第八(定額法の償却率表)
- e-Gov法令検索 地方税法72条の2(事業税の納税義務者等)・317条の2(市町村民税の申告等)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(令和9年1月1日施行・令和8年法律第12号による改正後)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。令和9年分以後の青色申告特別控除は令和8年法律第12号による改正後の額(紙の申告は10万円・e-Taxは65万円・所定の電子帳簿の保存で75万円)になります。ただし、前々年分の不動産所得の総収入金額が1,000万円を超える事業的規模の貸付けでは、取引を詳細に記録した帳簿(複式簿記)が無いと10万円の控除も受けられなくなります(租税特別措置法25条の2。令和9年1月1日施行の改正後)。
この記事のテーマで使える道具・専門ページ
試算家賃収入の法人化シミュレーション→ 専門ページ家賃収入の法人化 (いくらから・移し方)→ 準備診断個人事業主の決算・確定申告準備診断→ 専門ページ個人の確定申告→この記事の内容、私の場合は? — 普段お使いの AI に相談
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