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会社員の大家の法人化はいくらから — 勤め先の社会保険が動かないので分岐点が違う・役員報酬0円と二以上事業所

「給与のほかに家賃収入がある。法人にしたほうが得なのだろうか」— 勤め先の健康保険・厚生年金に入ったまま物件を貸している会社員の方に向けた記事です。法人化の分岐点がなぜ個人事業主と違うのか、役員報酬を0円にする形と受け取る形で何が変わるのかを、弊所の実額試算で整理しました。

この記事の要点

  • 給与600万円の会社員が家賃収入1,500万円(経費600万円)を法人に移すと、年約86.5万円軽くなる(役員報酬0円・弊所試算)
  • 会社員は勤め先の社会保険が動かないので、家賃収入にかかる税率の差だけで決まり、個人事業主より分岐点が低いと見ています
  • 役員報酬0円なら法人の社会保険に入らない。受け取るなら勤め先との二以上事業所勤務になり、差は縮む

まず数字から — 家賃収入1,500万円の会社員なら、法人化で年約86.5万円軽い

給与収入600万円の会社員(45歳)が、家賃収入1,500万円・経費600万円の物件を貸しているケースで見てみましょう。個人のままのとき、家賃収入の分にかかっている税は、弊所の試算でこうなります。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

個人のまま貸した場合に家賃収入の分にかかる税(弊所試算・年額・給与にかかる分を除く)
内訳年額
所得税約195.6万円
住民税約80.6万円
個人事業税約29.0万円
合計約305.3万円

同じ物件を法人に移し、役員報酬を受け取らない形にすると、法人に残る利益に法人税等がかかります。弊所の試算では、法人税等(法人税・地方法人税・法人事業税・法人住民税の合計。赤字でもかかる均等割7万円を含む)は年約218.7万円で、個人のままとの差は年約86.5万円です。決算・申告の事務や税理士報酬などの毎年の固定費は、弊所の試算の差額には入れていません。

※弊所の試算では、勤め先の給与にかかる所得税・住民税と社会保険料は法人を作っても同じ額がかかるものとして、差額に入れていません。上の表は「家賃収入にかかる税」を並べたものです。

なぜ個人事業主と分岐点が違うのか — 給与が低い段の税率を先に使っているから

所得税は、給与所得と不動産所得を合計した課税所得に、5%から45%までの7段階の税率をかけて計算します(所得税法89条)。給与が先に低い段を使うため、あとから足される家賃収入の分は、その上の段の税率で課税されています。

給与600万円の方なら、家賃収入の分は20%から33%の段にかかります。法人に移すと、この部分が法人税等の率に置き換わります。ほかに収入のない個人事業主は、家賃収入が5%の段から始まるため、同じ家賃収入でも法人化で軽くなる額が小さくなります。

原則

法人税の税率は23.2%で、資本金1億円以下の法人は年800万円以下の所得の部分が19%です。

法人税法66条1項・2項

ただし

令和9年3月31日までに開始する事業年度は、適用除外事業者や通算法人を除き、この年800万円以下の部分が15%(その事業年度の所得が年10億円を超えるときは17%)に軽減されています。

租税特別措置法42条の3の2第1項

弊所の試算は15%で計算しているので、軽減が延長されなければ、令和9年4月以後に始まる事業年度の差額は少し縮みます。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

家賃収入の額と法人化の差(弊所試算・年額・給与600万円の会社員・役員報酬0円)
家賃収入と経費個人のまま(年額)法人化した場合(年額)法人化との差(年額)
家賃収入500万円・経費200万円約71.4万円約71.1万円約0.3万円軽い
家賃収入1,000万円・経費400万円約175.9万円約138.8万円約37.1万円軽い
家賃収入1,500万円・経費600万円約305.3万円約218.7万円約86.5万円軽い
家賃収入2,000万円・経費800万円約444.4万円約319.5万円約124.9万円軽い

家賃収入と経費家賃収入500万円・経費200万円

約0.3万円軽い

個人のまま(年額)約71.4万円
法人化した場合(年額)約71.1万円

家賃収入と経費家賃収入1,000万円・経費400万円

約37.1万円軽い

個人のまま(年額)約175.9万円
法人化した場合(年額)約138.8万円

家賃収入と経費家賃収入1,500万円・経費600万円

約86.5万円軽い

個人のまま(年額)約305.3万円
法人化した場合(年額)約218.7万円

家賃収入と経費家賃収入2,000万円・経費800万円

約124.9万円軽い

個人のまま(年額)約444.4万円
法人化した場合(年額)約319.5万円

※金額は家賃収入の分にかかる税(個人は所得税・住民税・個人事業税、法人は法人税等)です。勤め先の給与にかかる税と社会保険料は法人化の前後で同じ額がかかるため、差額には影響しません。ご自身の家賃収入はどの行に近いでしょうか。

役員報酬は0円にするか、受け取るか — 受け取ると勤め先との二以上事業所勤務になる

会社員の大家が法人を作るときの一番の分かれ目は、法人から役員報酬を受け取るかどうかです。

法人の役員が厚生年金保険・健康保険の被保険者になるのは、法人から労務の対償として報酬を受けている場合です(昭和24年7月28日保発第74号)。役員報酬を受け取らなければ法人の被保険者にならず、勤め先の健康保険・厚生年金のままです。生活費は給与でまかない、家賃収入は法人に残して法人税等を払う、という形になります。

役員報酬を受け取ると、勤め先と法人の2か所で報酬を受けることになり、標準報酬月額は2か所の報酬月額を合算した額で決まります(健康保険法44条3項)。保険料は、その合算の標準報酬月額にかかる保険料を、それぞれの事業所の報酬月額の割合で按分して負担します(健康保険法施行令47条1項)。

役員報酬を受け取るときの社会保険の手続き

  1. 届け出る

    「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を本人が出し、主となる事業所(保険者)を選ぶ

  2. 合算で決まる

    勤め先の月給と役員報酬を合算した額で標準報酬月額が決まり直る

  3. 按分して払う

    合算の等級の保険料を、勤め先と法人が報酬月額の割合で分けて負担する。勤め先の給与明細の保険料も計算し直される

上の例で役員報酬を月20万円受け取ると、法人が負担する社会保険料と本人負担の増加分が加わり、法人化の差は弊所の試算で年約41.9万円に縮みます(受け取らない場合は年約86.5万円)。役員報酬を受け取る形は、法人に貯まったお金を個人に移したい場合や、勤め先を辞めたあとの備えとして選ぶことになります。

見落としやすい2点 — 給与との損益通算が消える・住民税の納め方

原則

不動産所得の赤字は、給与所得など他の所得から差し引く損益通算ができます。

所得税法69条

ただし

土地を取得するために借りた借入金の利子に相当する部分の赤字は、損益通算の対象になりません。

租税特別措置法41条の4

法人に移したあとの赤字は法人の欠損金になり、青色申告なら翌事業年度以後10年間の所得から差し引けますが、ご自身の給与とは通算できません。

法人税法57条

大規模修繕の年や、入居が決まらない年に赤字が出る物件は、個人のままなら給与の税が戻る形で赤字が効きます。法人化するとこの効き方が変わるので、修繕の予定がある物件は、その年も含めて比べることをお勧めします。

住民税は、給与所得者に給与以外の所得があるとき、確定申告書に普通徴収を希望する旨を記載すれば、給与から天引きする特別徴収に合算されません(地方税法321条の3第2項)。

建物を移す一度きりの費用も入れて、何年で取り戻せるかで決める

個人の物件を法人の所有にするには、個人から法人へ建物を売る形になり、法人側に登録免許税と不動産取得税、個人側に譲渡所得の税がかかります。登録免許税は、売買による所有権の移転なら不動産の価額の1,000分の20です(登録免許税法別表第一)。ただし、土地の売買による所有権の移転の登記は、令和11年3月31日までに受ければ1,000分の15に軽減されています(租税特別措置法72条1項)。

不動産取得税の標準税率は4%です(地方税法73条の15)。令和9年3月31日までに取得した土地と住宅なら不動産取得税は3%に軽減され、宅地は課税標準も価格の2分の1になります。

土地は評価額が大きく、移すとこれらの税もそのぶん増えるため、土地は個人に残して建物だけを移し、法人から地代を払う形が一般的だと考えています。この形では、土地の賃貸借契約に将来無償で返すことを定め、「土地の無償返還に関する届出書」を個人と法人の連名で税務署に出しておかないと、権利金の分を法人が贈与されたものとして認定課税を受けます(法人税基本通達13-1-3・13-1-7)。区分所有のマンションは、敷地の権利を建物と切り離せないので、この形は使えないと考えています。

年約86.5万円の差があるケースで、建物を移す費用が300万円なら、取り戻すまでおよそ3年半です。法人化の判断は、毎年の差額だけでなく、この年数が続けられる年数に収まるかで決めることをお勧めします。移す形の選び方と費用の内訳は、このサイトの「家賃収入の法人化はいくらから得か」でまとめています。

ご自身の給与・家賃収入・経費・役員報酬を入れると、法人化の差額と、建物を移す費用を取り戻す年数まで、このサイトの家賃収入の法人化シミュレーションでその場で出せます。

出典

※本記事の金額は、給与収入600万円の会社員・45歳・青色申告特別控除65万円(事業的規模)・個人事業税5%・基礎控除のみ反映・東京都の令和8年度料率での概算です。勤め先の給与にかかる税と社会保険料は法人化の前後で同じ額がかかるため、差額には影響しません。

※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。

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※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。

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