副業の収入が育ってきた会社員の方から「自分もマイクロ法人を作れば得なのか」というご質問を受けることがあります。この記事では、作れるかどうかの結論と、個人事業主の場合との決定的な違いを整理します。

この記事の要点

  • 法人の設立自体は会社員でもできる(勤務先の就業規則は別の問題)
  • マイクロ法人の保険料メリットは「国保・国民年金からの切り替え」なので、すでに社保に入っている会社員には効かない
  • 役員報酬を取ると社会保険は2か所勤務の扱いになり、届出と保険料の合算・按分が必要になる

設立はできる — ただし就業規則は別問題

会社員が法人を設立して役員になること自体を禁じる法律はありません。

ただし勤務先の就業規則で副業や役員就任が制限されていることは多く、これは税や社会保険とは別に確認しておくべき問題です。

個人事業主のマイクロ法人と何が違うのか

個人事業主のマイクロ法人が注目されるいちばんの理由は、国民健康保険・国民年金を法人の健康保険・厚生年金に切り替えることで、保険料の負担が変わる点にあります。

会社員はすでに勤務先で健康保険・厚生年金に加入しています。切り替えるべき国保がそもそも無いため、個人事業主向けに語られるメリットの中心部分が当てはまりません。

個人事業主と会社員の違い
観点個人事業主が作る場合会社員が作る場合
作る前の社会保険国民健康保険+国民年金勤務先の健康保険+厚生年金
役員報酬を取ったとき法人の社会保険に切り替わる勤務先と法人の2か所勤務の扱いになる
保険料の決まり方法人の役員報酬をもとに決まる2か所の報酬を合算して決め、両者で按分
保険料の切り替え効果ある(ここが看板)無い

役員報酬を取ると「二以上事業所勤務」になる

マイクロ法人から役員報酬を受け取ると、勤務先と自分の法人の両方で社会保険の加入要件を満たすことになります。

この場合、日本年金機構へ「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を事実発生から10日以内に提出し、どちらを主な事業所にするかを選びます。保険料は2か所の報酬月額を合算して標準報酬月額を決め、それぞれの報酬額に応じて按分されます。

按分された保険料は勤務先の給与計算にも反映されるため、勤務先に法人の存在が伝わる前提で考える必要があります。「こっそり作って報酬を取る」ことと両立しない仕組みです。

役員報酬をゼロにするとどうなるか

役員報酬がゼロなら、保険料の計算のもとになる報酬が無いため、その法人での社会保険の加入は生じないのが実務の取り扱いです。届出や按分の問題は避けられます。

ただしその場合、残るのは「副業の利益を法人に残し、法人の税率で納める」という通常の法人化の損得の話です。保険料の効果を期待してのマイクロ法人とは、目的がまったく別物になります。

確定申告はほぼ必須になる

法人から役員報酬を取ると、給与を2か所から受けることになります。所得税法121条1項には、給与所得者の確定申告を不要とする特例がありますが、2か所以上から給与を受ける人がこの特例を使えるのは、従たる給与とその他の所得の合計が20万円以下の場合などに限られます。

また、一人法人は通常、法人税法上の同族会社に当たります。同族会社の役員が、その会社から給与のほかに貸付金の利子や賃貸料などを受け取っている場合はこの特例が使えず、20万円以下でも確定申告が必要です(所得税法121条1項・所得税法施行令262条の2)。

それでも検討する価値がある場合

将来の独立を見すえて法人の器を先に作っておく場合や、副業の利益を役員報酬で取らずに法人へ残して育てる場合など、保険料以外の目的で法人化が合理的なこともあります。

その場合も、法人住民税の均等割(年7万円ほど)などの固定負担と、決算・申告の事務が毎年続くことは織り込んでおく必要があります。

法人化シミュレーションの画面。個人のままと法人化した場合の年間負担を並べて比較できる
法人化シミュレーションの画面。個人のままと法人化した場合の年間負担を並べて比較できる

まとめ — 「作れるか」と「効くか」は別の質問

会社員のマイクロ法人は、作れるかで言えば作れます。しかし、個人事業主向けに語られる保険料のメリットはそのまま当てはまらず、届出・勤務先への影響・固定負担という現実が付いてきます。

損得は副業の利益水準と目的によって大きく違います。実行の際は、必ず事前にご相談ください。

※本記事の金額は協会けんぽ東京の令和8年度料率での概算です。