「マイクロ法人は違法」「グレーな手法」という記事や動画を見て、不安になった個人事業主の方向けの記事です。何が制度の枠内で、どこからが問題になりうるのか、条文を根拠に線引きを整理します。
この記事の要点
- 法人を設立し、法律どおりに社会保険へ加入すること自体は適法
- 問題になりうるのは、事業の実体がない「形だけの付け替え」
- 線引きの軸は「その事業を本当に法人が行っているか」。契約・請求・帳簿の名義と実態をそろえる
なぜ「違法」「グレー」と言われるのか
マイクロ法人は、個人事業の一部を法人に移し、低めの役員報酬を設定することで社会保険料の負担が変わる仕組みとして知られるようになりました。
「保険料のためだけに法人を作ってよいのか」という見え方から、違法ではないか・グレーではないかという議論が生まれています。
ただ、この議論は「設立そのもの」と「運用の実態」を分けて考えると整理できます。
制度のうえでは適法 — 設立も社会保険の加入も法律どおり
株式会社や合同会社の設立に、事業の規模や売上の下限はありません。一人で法人を作ることは制度として認められています。
そして、法人から役員報酬を受け取る人は健康保険・厚生年金に加入します。これは有利になるように選んだ結果ではなく、法律で決まっている加入の仕組みにそのまま従ったものです。
つまり「法人を作り、役員報酬を決め、その結果として保険料が変わる」こと自体は、制度の枠内の話です。
問題になりうるのは「実体のない付け替え」
一方で、税の世界には「形式より実質」で判断する決まりがあります。
所得税法12条(実質所得者課税の原則)は、収益の「法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の者がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する者に帰属するものとして」課税すると定めています。個人が行っている事業の売上を名義だけ法人に付け替えても、実質が個人のままなら個人の所得として課税されるということです。
また、一人法人のような同族会社には、法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)があります。「これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより」税額を計算できる、という規定です。
どちらの条文も、法人を作ったこと自体を問題にするものではありません。問われるのは「その法人に事業の実体があるか」「取引の形に説明が付くか」です。
線引きの目安 — 事業の実体をそろえる
| 観点 | 実体のある形 | 問題になりうる形 |
|---|---|---|
| 契約・請求 | 法人の事業は法人名義で契約・請求する | 契約も請求も個人のまま、売上だけ法人に計上 |
| 事業の区分 | 法人に移す事業が、個人に残す事業とは別の事業である | 同じ仕事を理由なく個人と法人に振り分ける |
| お金の流れ | 法人の口座で入金・支払を管理する | 個人口座に入った売上をあとから法人に付け替え |
| 記録 | 法人として帳簿を付け、決算・申告を行う | 帳簿がなく、実態を聞かれても説明できない |
※同じ事業の一部を恣意的に法人へ付け替える形は、実質所得者課税の原則(所得税法12条)や同族会社等の行為又は計算の否認(法人税法132条)に抵触し、税務上否認されるおそれがあります。名義と実態が食い違う取引をめぐって所得の帰属が争われ、個人への課税が認められた公表裁決も存在します。
忘れがちな現実の負担
適法に運営する場合でも、法人には売上に関係なく続く負担があります。役員報酬を月4.5万円にしても社会保険料は年約27.8万円(会社負担+本人負担・40〜64歳)、法人住民税の均等割が年7万円で、合わせて年約34.8万円の固定負担です(弊所試算)。
「違法かどうか」の前に、この固定負担と事務に見合う効果があるかの試算も欠かせません。

まとめ — 「作ってよいか」より「実体を作れるか」
マイクロ法人は、設立すること自体が違法なのではなく、実体のない運用が問題を生みます。
事業の分け方に説明が付くか・固定負担に見合うかは、事業の中身と所得水準によって大きく違います。実行の際は、必ず事前にご相談ください。
※本記事の金額は40〜64歳・協会けんぽ東京の令和8年度料率での概算です。