マイクロ法人のデメリット — 向かない人の条件
マイクロ法人は社会保険料の負担を抑える方法として有名になりましたが、誰にでも合う仕組みではありません。この記事では、デメリットを数字で示したうえで「向かない人」の条件を整理します。
この記事の要点
- 法人には売上がゼロでも続く固定負担がある。社会保険料+法人住民税の均等割で年約34.8万円(弊所試算)
- 法人決算・登記・社会保険の手続きなど、個人事業には無かった事務が確実に増える
- 国保が元々安い人(所得が低めの人)は、節約額が固定負担と手間に見合わないことがある
既存の固定負担は、報酬月4.5万円の会社と本人の社会保険料に均等割を足した額です。所得税・住民税・個人事業税などの増減まで反映した最終差ではありません。新しい比較表では税・保険料の全体と追加の維持費、その税効果を分けて確かめます。
デメリット1 — 売上ゼロでも固定負担が続く
法人を作ると、役員報酬を最低水準の月4.5万円にしても、社会保険料は年約27.8万円(会社負担+本人負担・40〜64歳)かかります。40歳未満でも年約26.7万円です。
このほか、法人の決算・申告を税理士に頼めばその費用も加わります。
同じ利益500万円で、保険料・税金・維持費を順に比べる
次は、保険料だけの例とは条件を分け、2つの事業を合わせた年間利益500万円のモデルで比べます。両方を個人で続ける場合と、利益100万円の事業を法人へ移し、利益400万円の事業を個人に残す場合です。事業の実態を伴う区分が確認できているものと仮定します。
| 比べる範囲 | 個人のまま | 二刀流 | 二刀流にすると |
|---|---|---|---|
| 保険料だけ | 79.7万円 | 27.8万円 | 約51.8万円軽い |
| 税金・均等割と保険料の合計 | 134.8万円 | 86.1万円 | 約48.7万円軽い |
| 追加の税理士報酬(仮定) | 追加なし | 12.0万円 | 支出が12.0万円増える |
| 上の追加報酬により減る法人税等 | 0円 | 2.6万円 | 税負担が約2.6万円減る |
| 追加報酬とその税への影響を含む合計 | 134.8万円 | 95.6万円 | 約39.3万円軽い |
※40〜59歳・単身・扶養なし、国保は東京都江東区、社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率、所得税は令和8年分です。利益は通常の経費を引き、個人事業税・青色申告特別控除・役員報酬・会社負担の社会保険料を引く前の額。国保はその所得が前年にも続いたものとして比べ、移行初年度の納付時期の差は含めません。
※二刀流の役員報酬は月4.5万円。本人・会社双方の社会保険料を含み、標準報酬月額の等級で計算しています。個人事業税の対象事業として、個人側の青色申告特別控除65万円、社会保険料控除・基礎控除、給与がある側の給与所得控除を反映しています。法人住民税の均等割は法人税等に含まれています。
※追加税理士報酬12万円は比較用の仮定で、料金の相場や当事務所の見積額ではありません。税理士報酬が法人の経費になることで減る税金も反映しています。設立・解散の一時費用、税理士報酬以外の追加維持費、消費税、将来の年金・給付は含みません。
保険料だけなら約51.8万円の差ですが、税金まで含めると約48.7万円、仮定した追加報酬まで含めると約39.3万円の差です。低い役員報酬だけで生活する例ではなく、個人に残る事業の所得もある例です。法人に移せる事業の実態と、実際に増える費用を確認してから、自分の条件で比べます。
デメリット2 — 事務負担が確実に増える
法人になると、日々の記帳に加えて法人税・法人住民税の申告、社会保険の各種届出、役員の任期にあわせた登記などが必要になります。
個人の確定申告に比べて、法人の決算・申告を自力で行うハードルは大きく上がります。
デメリット3 — やめるときにも手間と費用がかかる
法人は「作るより閉じるほうが大変」です。事業をやめるときは解散・清算という法的な手続きが必要で、登記などの実費と時間がかかります。
向かない人の条件 — 数字で見る
デメリットを踏まえると、次のような方にはマイクロ法人は向きません。
- 所得が低めで、そもそも国保+国民年金の負担が小さい人
- 社会保険料の節約額が、固定負担+事務の手間を上回らない人
- 法人に移す事業と個人に残す事業を分けられない人(二刀流が組めない人)
なお、同じ事業の売上を理由なく個人と法人に振り分けると、恣意的な売上の分散と見られ、税務上否認されるおそれがあります。
※計算図の税・保険料の基準(該当する項目): 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度。
個人のまま続けた場合と、法人化した場合の年間負担
数字で見る — 何にいくらかかるか (検算用)
| 項目 | 個人のまま | 法人化した場合法人 + 社長 |
|---|---|---|
| 事業の利益 (売上 - 経費) | 13,000,000円 | 13,000,000円 |
| うち役員報酬 (月60万円 × 12か月) | - | 7,200,000円 |
| 国民健康保険 + 国民年金 | 1,345,040円 | - |
| 社会保険料 (本人負担) | - | 1,080,000円 |
| 社会保険料 (会社負担) | - | 1,105,920円 |
| 個人事業税 | 480,952円 | - |
| 所得税 | 1,768,600円 | 304,700円 |
| 住民税 | 1,011,800円 | 389,500円 |
| 法人税等 (赤字でもかかる均等割を含む) | - | 1,085,400円 |
| 年間の負担 合計 | 4,606,392円 | 3,965,520円 |
→ 表は横にスクロールできます
この前提では、法人化で、税・保険料の負担が年間640,872円軽くなります。分岐点は役員報酬の設計で動くため、一律の正解額はありません。あなたの数字での答えは法人化シミュレーションでその場で出せます。
二刀流を始める前に、事業と維持費を3段階で確かめる
- 事業ごとの契約・売上と経費、国保通知、家族の収入、生活費を用意し、個人に残す事業と法人へ移す事業を書き出します。
- 契約・請求・入金を実態に沿って分けられるかを確かめます。本人・家族の保険料と所得税・住民税・個人事業税、法人税等と均等割を含む年間負担の差を比べ、さらに追加維持費とその税効果を反映します。法人の売上が下がる年も資金が続くか確認します。
- 移す事業と報酬の候補を残すか個人のまま続けるかを整理します。扶養は保険者に確認し、契約・国保通知・家族の収入資料を用意して相談のご案内へ進みます。
まとめ — 数字で確かめてから決める
ご自身の所得では、どちらに転びそうでしょうか。マイクロ法人は、所得水準と事業の分け方しだいで「大きく得」にも「手間だけ増えて損」にもなります。
弊所では、あなたの所得で節約額と固定負担を並べて試算し、作るべきかどうかから率直にお伝えしています。二刀流の仕組みと維持費はマイクロ法人ガイドで確かめてみてください。自分の事業と家族の条件を整理する場合は相談のご案内をご覧ください。
出典
※元の固定負担と所得200万円の例は、40〜64歳・国保は東京都江東区・社会保険は協会けんぽ東京の令和8年度料率です。国保は前年の所得を賦課基準とする一人分、法人の報酬は月4.5万円で、会社と本人の保険料に均等割を足しています。この例の差には所得税・住民税・個人事業税の増減を含みません。追加比較表は上に示した別の前提で、税金と維持費まで反映しています。
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
※有利・不利を比べるときは: 法人化の有利・不利は、保険料の削減額と法人の維持費の引き算だけでは決まりません。健康保険の傷病手当金・出産手当金や厚生年金の上乗せが付く一方、国民年金基金・付加年金は使えなくなります。これらも同じ土俵に載せてご判断ください。
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※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。