家賃収入のある賃貸物件を相続した年の確定申告 — 家賃の分け方、取得費と減価償却の引き継ぎ、準確定申告
「父のアパートを相続したが、今年の家賃は誰がどう申告するのか」— 家賃収入のある物件を相続した方に向けて、亡くなった方の準確定申告と相続人の申告の分け方、遺産分割までの家賃の帰属、取得価額と減価償却の引き継ぎを整理します。令和8年中に相続が始まった場合(令和8年分の申告)に使える形で書きます。
この記事の要点
- 亡くなった方の1月1日から死亡日までの所得は、相続人が相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告をする。死亡日のあとに支払日が来る家賃は、相続人の不動産所得(所得税法125条1項・所得税基本通達36-5)
- 遺産分割が決まるまでの家賃は、相続人が法定相続分に応じて取得し、それぞれが申告する。分割が決まっても、それより前の家賃はさかのぼって直さない(最高裁平成17年9月8日判決)
- 相続した建物の取得価額は亡くなった方から引き継ぎ、中古資産としての見積りはしない。青色申告の承認は引き継がれず、相続人が期限内に自分で申請する(所得税法施行令126条2項・所得税法144条・所得税基本通達144-1)
全体の形 — 死亡日で「亡くなった方の申告」と「相続人の申告」に分かれる
年の途中で亡くなった方の所得税は、相続人が1月1日から死亡日までの所得を計算し、相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内に申告と納税をします(所得税法125条1項)。これが準確定申告です。死亡日のあとの家賃は相続人の所得になり、翌年の確定申告で申告します。
前年分の確定申告書を出さないまま、1月1日から3月15日までの間に亡くなったときは、前年分と本年分の両方を、相続の開始を知った日の翌日から4か月以内に準確定申告します。前年分の申告が済んでいるかは、最初に確かめておきましょう。
どちらの申告に入れるかは、家賃の支払日で分けます。契約や慣習で支払日が決まっている家賃は、その支払日の収入です(所得税基本通達36-5)。死亡日までに支払日が来た家賃は亡くなった方の準確定申告に、死亡日のあとに支払日が来る家賃は相続人の申告に入れます。
| 家賃の支払日 | 誰の所得か | 申告の種類 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 1月1日〜死亡日 | 亡くなった方 | 相続人が出す準確定申告(所得税法125条1項) | 相続の開始を知った日の翌日から4か月以内 |
| 死亡日の翌日〜遺産分割の日 | 相続人全員(法定相続分で分ける・最高裁平成17年9月8日判決) | 各相続人の令和8年分の確定申告 | 2027年3月15日 |
| 遺産分割の日の翌日〜12月31日 | 物件を取得した相続人 | その相続人の令和8年分の確定申告 | 2027年3月15日 |
相続人が2人以上いるときは、準確定申告書は各相続人が連署した1通の書面で出します。他の相続人の氏名を付記して別々に出すこともできますが、その場合は出した内容の要領を他の相続人に遅滞なく知らせます(所得税法施行令263条2項・3項)。
遺産分割が決まるまでの家賃 — 法定相続分で分け、あとからさかのぼらない
相続人が2人以上いると、遺産分割が決まるまで相続財産は相続人の共有で、各相続人は相続分に応じて権利義務を引き継ぎます(民法898条・899条)。相続財産から生じる家賃も、原則として各相続人がその相続分に応じて取得し、それぞれの所得として申告します。配偶者と子が相続人なら、法定相続分は配偶者が2分の1、子が全員で2分の1です(民法900条1号)。
遺産分割には相続開始の時にさかのぼる効力がありますが(民法909条)、分割までの家賃債権は遺産とは別の財産で、各相続人が相続分に応じて確定的に取得したものとされています(最高裁平成17年9月8日判決)。分割の結果で、前の家賃の申告をさかのぼって直す扱いにはなりません。ただし、分割が決まった日のあとの家賃は、物件を取得した相続人が収益を享受する人として、その人の所得で申告する形になると見ています。相続人の間で、分割までの家賃の分け方は話し合えているでしょうか。
相続人の1人が分割までの家賃を全部受け取って申告しても、他の相続人の相続分の家賃までその人の所得になるわけではありません。収益は、それを享受する人に帰属します(所得税法12条)。また、遺言で物件を取得する人が指定されているときは、法定相続分で分けるこの扱いは当てはまらず、死亡後の家賃はその人の所得として申告する形になると見ています。遺言の有無は、最初に確かめてください。
取得価額と減価償却の引き継ぎ — 中古の見積りはせず、亡くなった方の計算を続ける
相続した建物の減価償却は、亡くなった方の取得価額をそのまま引き継ぎます。相続で取得した減価償却資産の取得価額は、取得した人が引き続き所有していたものとみなした場合の取得価額です(所得税法施行令126条2項)。中古資産として使用可能期間を見積もる方法は使わず、取得価額・耐用年数・経過年数・未償却残高を引き継いで計算します。
一方、償却の方法は引き継ぎません。平成19年4月1日以後に取得した建物の償却方法は定額法です(所得税法施行令120条の2第1項1号)。相続による取得も、ここでいう取得に含まれます。亡くなった方が旧定額法で償却していた古い建物でも、相続人は定額法で、同じ耐用年数の償却率を使って計算します。
将来この建物を売るときも、取得費と取得の時期は亡くなった方のものを引き継ぎます(所得税法60条1項1号)。取得費からは、貸していた期間の償却費の累積額を差し引きます(所得税法38条2項1号)。
固定資産税・青色申告・消費税 — 相続した年に忘れやすい3つ
亡くなった方の準確定申告に入れる固定資産税は、死亡の時までに納付すべきことが具体的に確定したものです(所得税基本通達37-6)。納期が分かれている固定資産税は、各納期の税額をその納期の開始日か実際に納めた日の年分に入れる方法も選べます(所得税基本通達37-6)。亡くなった方の経費にしなかった分は、物件を引き継いで貸す相続人の必要経費になります(所得税基本通達37-5)。
青色申告の承認は亡くなった方のもので、相続人には引き継がれません。相続人が青色で申告するには、自分で承認申請書を出します(所得税法143条・144条)。期限は、亡くなった方が青色だったかどうかで変わります(所得税基本通達144-1)。
原則
相続人が青色申告の承認を受けるには、その年3月15日まで(1月16日以後に新たに業務を始めたときは、始めた日から2か月以内)に承認申請書を出します。
所得税法144条
ただし
亡くなった方が青色で、その業務を相続して新たに業務を始めた相続人は、準確定申告書の提出期限まで(承認があったとみなされる日が先に来るときはその日まで)に出せば差し支えありません。
所得税基本通達144-1
相続人がすでに不動産所得などの業務を営んでいて、相続で新たに業務を始めたことにならないときは、通達の期限は使えず、原則の期限で申請します。
所得税法144条
| 亡くなった方 | 死亡日 | 申請の期限 |
|---|---|---|
| 白色申告(承認なし) | 1月16日以後 | 業務を承継した日から2か月以内 |
| 青色申告 | 1月1日〜8月31日 | 死亡の日から4か月以内(準確定申告の期限まで) |
| 青色申告 | 9月1日〜10月31日 | その年12月31日 |
| 青色申告 | 11月1日〜12月31日 | 翌年2月15日 |
表の根拠は上から順に、所得税法144条、所得税基本通達144-1、所得税法147条です。承認の申請に処分がないまま12月31日(11月1日以後に業務を始めた人は翌年2月15日)が来ると、その日に承認があったものとみなされます(所得税法147条)。
事業的規模の貸付けを引き継いだときは、開業の届出書も、相続があった年分の確定申告期限までに出します(所得税法229条)。
まとめ — 支払日で2つに分け、4か月の期限から逆算する
賃貸物件を相続した年の申告の流れ
家賃を支払日で分ける
死亡日までに支払日が来た家賃は準確定申告、そのあとは相続人の申告(所得税基本通達36-5)
準確定申告を出す
相続人全員の連署(または各別に出して他の相続人に通知)で、4か月以内に(所得税法施行令263条2項・3項)
青色の申請を出す
期限は上の表のとおり。白色のまま申告するなら申請は要らない
減価償却を引き継ぐ
亡くなった方の取得価額・耐用年数・未償却残高をそのまま使い、償却費は月割で分ける
相続人の確定申告を出す
分割前は法定相続分、分割後は取得した相続人が申告。期限は翌年3月15日
準確定申告(令和8年6月10日に相続が始まった場合)
- 2026年6月10日相続の開始(死亡日)。1月1日からこの日までが準確定申告の対象
- 2026年7月戸籍で相続人を確定し、家賃の通帳と賃貸借契約書をそろえる
- 2026年10月10日準確定申告と納税の期限(所得税法125条1項)。亡くなった方が青色で、相続で新たに業務を始めた相続人なら、青色申告承認申請書もこの日まで(所得税基本通達144-1)
4か月は相続税の資料集めと重なります。家賃の通帳と賃貸借契約書は、最初の週に確保しておきましょう。
相続した物件を共有のまま貸し続けるときの申告や、売るときの税金は、それぞれ別の整理が要ります。まずは家賃を支払日で2つに分け、4か月の期限から逆算して準備を始めてみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
- 国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度
- 国税庁 タックスアンサー No.1376 不動産所得の収入計上時期
- 国税庁 タックスアンサー No.1399 新たに不動産の貸付けを始めたときの届出など
- 国税庁 タックスアンサー No.6531 新規開業又は法人の新規設立のとき
- 国税庁 タックスアンサー No.3270 相続や贈与によって取得した土地・建物の取得費と取得の時期
- 国税庁 質疑応答事例 限定承認をした相続財産から生じる家賃
- 国税庁 質疑応答事例 相続により取得した減価償却資産の耐用年数
- 国税庁 質疑応答事例 平成19年4月1日以降に相続により減価償却資産を取得した場合
- 国税庁 質疑応答事例 死亡した父親が所有していた賃貸用不動産に係る固定資産税の必要経費算入
- 国税庁 質疑応答事例 集合住宅の家賃、共益費、管理料等の課税・非課税の判定
- 裁判所 最高裁判所第一小法廷 平成17年9月8日判決(共同相続に係る不動産から生ずる賃料債権の帰属と後にされた遺産分割の効力)
- e-Gov法令検索 所得税法12条(実質所得者課税の原則)・26条(不動産所得)・38条(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)・60条(贈与等により取得した資産の取得費等)・120条(確定所得申告)・125条(年の中途で死亡した場合の確定申告)・143条(青色申告)・144条(青色申告の承認の申請)・147条(青色申告の承認があつたものとみなす場合)・229条(開業等の届出)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令120条の2(減価償却資産の償却の方法)・126条(減価償却資産の取得価額)・132条(年の中途で業務の用に供した減価償却資産等の償却費の特例)・134条(減価償却資産の償却累積額による償却費の特例)・263条(死亡の場合の確定申告の特例)
- e-Gov法令検索 消費税法6条(非課税)・10条(相続があつた場合の納税義務の免除の特例)・別表第二
- e-Gov法令検索 相続税法9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
- e-Gov法令検索 民法898条(共同相続の効力)・899条・900条(法定相続分)・909条(遺産の分割の効力)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。相続税の申告、小規模宅地等の特例、相続した物件を売るときの税額の計算は扱っていません。限定承認をした場合は、減価償却や取得費の引き継ぎの扱いが異なります。
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