役員社宅で家賃を会社の経費にする仕組み — 賃貸料相当額の計算式と、給与扱いにならない家賃の決め方
「自宅の家賃を会社の経費にできると聞いたが、どこまで本当か」— 役員社宅の仕組みは、会社が住まいを借りて(または持って)役員に貸し、役員から一定の家賃を受け取る形です。賃貸料相当額の計算式と、家賃を決めるときに見落としやすい注意点を整理します。
この記事の要点
- 会社が借りた(持っている)住宅を役員に貸し、役員から「賃貸料相当額」以上の家賃を受け取っていれば、社宅の貸与による経済的利益は給与になりません(所得税基本通達36-15・36-40)
- 小規模な住宅(木造132㎡以下・それ以外99㎡以下)の賃貸料相当額は、それ以外の住宅とは別の算式で計算します(所得税基本通達36-41)。月額の算式と計算例は下の表に載せました
- 受け取る家賃が賃貸料相当額に足りない分は給与(経済的利益)として課税され、社会保険では受け取った家賃を差し引いた現物給与が報酬に加わります
仕組み — 会社が借りて役員に貸し、賃貸料相当額以上の家賃を受け取る
役員社宅は、会社が住宅を所有するか家主から借り、それを役員に貸す形です。会社が家主に払う家賃は会社の費用で、役員から受け取る家賃は会社の収入になります(法人税法22条2項・3項)。この差額が、会社が負担する住居費です。
役員の側では、原則として、住宅を無償か低い家賃で借りると、通常支払うべき家賃との差額が経済的利益として給与になります(所得税法36条・所得税基本通達36-15)。この「通常支払うべき家賃」の線が賃貸料相当額(通達の言葉では「通常の賃貸料の額」)で、役員からこれ以上の家賃を受け取っていれば差額は生じません(所得税基本通達36-40)。
原則
役員から受け取る家賃が賃貸料相当額以上なら、社宅の貸与による経済的利益はなく、給与として課税されません。
所得税基本通達36-15・36-40
ただし
無償で貸す、または賃貸料相当額より低い家賃しか受け取っていないときは、賃貸料相当額との差額が給与として課税されます。
所得税基本通達36-15・法人税基本通達9-2-9
役員が複数いて、全員からそれぞれの住宅の状況に応じたバランスのとれた家賃を受け取っている場合は、合計で判定できます。受け取る家賃の合計が全員分の賃貸料相当額の合計以上なら、個別に足りない役員がいても、役員全員について経済的利益はないものとされます。
所得税基本通達36-44
なお、現金で支給する住宅手当や、役員本人が直接契約している部屋の家賃を会社が負担する形は、社宅の貸与とは認められず、給与として課税されます。
賃貸料相当額の計算 — 小規模な住宅は3つの式の合計
賃貸料相当額は月額で、住宅の床面積によって算式が変わります。木造(法定耐用年数30年以下)なら床面積132㎡以下、それ以外なら99㎡以下の住宅が「小規模な住宅」で、次の表の1行目の算式で計算します(所得税基本通達36-41)。区分所有のマンションは、共用部分の床面積を按分して専有部分に加えた面積で判定します。
| 住宅の区分 | 算式(月額) |
|---|---|
| 小規模な住宅(木造132㎡以下・それ以外99㎡以下) | 建物の固定資産税の課税標準額×0.2% + 12円×(総床面積㎡÷3.3) + 敷地の固定資産税の課税標準額×0.22% |
| 小規模でない住宅・自社所有 | (建物の課税標準額×12%(法定耐用年数30年超の建物は10%) + 敷地の課税標準額×6%)÷12 |
| 小規模でない住宅・借上げ | 会社が払う家賃の50%と、上の自社所有の算式の額のいずれか多い方 |
会社が払う家賃が月15万円なら、役員が32,040円を払えば給与課税はなく、残りの117,960円が会社の負担になります。
固定資産税の課税標準額の調べ方 — 自社所有は課税明細書、借上げは貸主に確かめる
算式の「固定資産税の課税標準額」は、1月1日時点の価格として固定資産課税台帳に登録されている額です。自社所有なら、市区町村から届く固定資産税の納税通知書に付いている課税明細書に建物と土地の額が載っているので、まず手元の課税明細書を見てみましょう。借り上げている住宅では会社に通知は来ないので、貸主(家主や管理会社)に課税明細書の写しなどを頼むことになります。
貸主から返事がもらえないときは、借りている会社が市区町村に固定資産課税台帳の事項の証明書(評価証明書)を請求できます(地方税法382条の3・地方税法施行令52条の15)。対価を払って家屋を借りている人は、その家屋と敷地について請求できる定めなので、賃貸借契約書を持って役所へ行けば、貸主を通さずに確かめられます。
サブリースなど、会社の契約の相手が所有者でない管理会社のとき(転貸借)は、転貸借契約書だけでは足りず、所有者と管理会社の間の契約書(原契約書)の写しも求められます(東京都主税局・京都市・西宮市の案内)。管理会社が所有者の代理人として契約している形でも、所有者がその管理会社に委任したことを示す書類(委任状など)の写しが要ります(東京都主税局の案内)。どちらも管理会社に出してもらうほかなく、断られれば役所でも課税標準額は確かめられません。その場合は、管理会社に課税明細書の写しを頼むか、上の「ひとこと」のとおり家賃の50%を受け取る形をお勧めします。
課税標準額は原則として3年ごとに見直され、改訂されたときは、改訂後の額に対する固定資産税の第1期の納期限がある月の翌月分から計算し直します(所得税基本通達36-42)。新築で課税標準額がまだ無い住宅は、状況の似た住宅の課税標準額に比準した額で計算します(所得税基本通達36-42)。1棟の建物の一部を借りているときは、建物全体の課税標準額と床面積から按分します(所得税基本通達36-42)。
役員社宅を始めるときの5段階
会社名義で契約する
家主との賃貸借契約は会社が借主になる。役員が契約した部屋の家賃を会社が払う形にしない
課税標準額を確かめる
自社所有は課税明細書、借上げは貸主への依頼か評価証明書の請求(転貸借なら原契約書の写しも要る)で、建物と敷地の額を取る
賃貸料相当額を計算して家賃を決める
上の算式で月額を出し、役員から受け取る家賃を決めて社宅規程や議事録に残す
毎月受け取る
役員報酬から天引きするなど、受け取った記録が残る形にする
評価替えの年に見直す
課税標準額が改訂された年と、転居した年は計算し直す
受け取る家賃が足りないとき — 差額は給与で、毎月同じ額なら定期同額給与
役員から受け取る家賃が賃貸料相当額より少ないと、原則として差額は役員の給与(経済的利益)です。会社はこの差額を毎月の役員報酬に上乗せして源泉徴収します(所得税法183条)。役員が複数のときは、上の「ただし」のとおり全員分の合計で判定できます(所得税基本通達36-44)。
法人税では、この差額は「継続的に供与される経済的な利益のうち、その供与される利益の額が毎月おおむね一定であるもの」に当たります(法人税法施行令69条1項2号・法人税基本通達9-2-11)。これは定期同額給与に含まれ、損金になります(法人税法34条1項1号・法人税法施行令69条1項2号)。毎月の額が著しく変動するものはここから外れます(法人税基本通達9-2-11)。差額が出る形にするなら、毎月同じ額になる家賃の決め方にしておくことが前提です。
使用人(従業員)に貸す社宅は線が違います。使用人は床面積にかかわらず小規模な住宅の算式で計算し(所得税基本通達36-45)、受け取る家賃がその50%以上なら経済的利益はないものとされます(所得税基本通達36-47)。役員にはこの50%の線はなく、賃貸料相当額との差額が給与になります(上の役員全員の合計で判定する場合を除きます)。
| 項目 | 役員 | 使用人(従業員) |
|---|---|---|
| 賃貸料相当額の算式 | 床面積で小規模かどうかを分けて計算(所得税基本通達36-40・36-41) | 床面積にかかわらず小規模な住宅の算式(所得税基本通達36-45) |
| 給与にならない家賃の線 | 賃貸料相当額以上(所得税基本通達36-15・36-40)。役員が複数なら全員の合計で判定できる(所得税基本通達36-44) | 賃貸料相当額の50%以上(所得税基本通達36-47) |
社会保険では現物給与 — 所得税と物差しが違う
社会保険(健康保険・厚生年金)では、住宅の貸与は報酬の一部(現物給与)で、その価額はその地方の時価によって厚生労働大臣が定めます(健康保険法46条・厚生年金保険法25条)。都道府県ごとの額は、日本年金機構の一覧表で確かめられます。役員も被保険者なら同じで、役員報酬の金銭の額に住宅の価額を足して標準報酬月額を決めます。ただし、健康保険組合に入っている会社では、組合の規約で別の価額を定めていることがあります(健康保険法46条2項)。
住宅の価額は、令和8年10月1日からは「畳1畳あたり」ではなく「住宅の総面積1㎡あたり」の額で、台所・トイレ・浴室・廊下も面積に含めます(別棟の物置・車庫と共用部分は除きます)。東京都は1㎡あたり月1,330円です(健康保険組合の規約で別の価額を定めている場合を除きます)。役員から家賃を受け取っているときは、この価額から受け取った家賃を差し引いた額が現物給与になります。価額の改正は固定的賃金の変動に当たり、随時改定(月額変更届)が必要になることがあります。
上の66㎡のマンションを東京都の事業所で貸す例では、次のようになります。
- 住宅の価額: 66㎡×1,330円=87,780円
- 役員から受け取る家賃: 32,040円
- 現物給与として報酬に加わる額: 87,780円-32,040円=55,740円
所得税では給与にならない家賃の線を守っていても、社会保険の標準報酬月額にはこの分が加わります。
まとめ — 家賃の線を守れば会社の費用、下回れば給与
役員社宅は、会社が契約し、賃貸料相当額以上の家賃を役員から受け取る、という2つを守れば、会社が払う家賃と受け取る家賃の差額が会社の負担になり、役員に給与課税は生じません。線を下回った分は給与で、社会保険では家賃を引いた現物給与が別に報酬に加わります。役員が複数で、全員分の合計で判定して足りているときは例外です(所得税基本通達36-44)。
なお、役員が自分の名義で持つ家を会社が借り上げて役員に貸す形にすると、役員には会社から受け取る家賃収入(不動産所得)が生じます(所得税法26条)。
役員報酬の額と社宅の家賃は、手取り・社会保険料・会社に残る利益がまとめて動く組み合わせです。役員報酬の決め方と合わせて考えたい方は、弊所の役員報酬ガイドと下の記事をご覧ください。社宅の家賃をいくらにするかは、物件の課税標準額が分かってから決めれば間に合うと見ています。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2600 役員に社宅などを貸したとき
- 国税庁 タックスアンサー No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき
- 国税庁 質疑応答事例 社宅に係る通常の賃貸料の額を計算する場合の固定資産税の課税標準額
- 国税庁 質疑応答事例 役員に貸与したマンションの共用部分の取扱い
- 国税庁 個別通達 使用者が役員に貸与した住宅等に係る通常の賃貸料の額の計算に当たっての取扱いについて(平成7年4月3日 課法8-1・課所4-4)
- 国税庁 所得税基本通達36-40〜36-48(給与等とされる経済的利益の評価)
- 国税庁 所得税基本通達36-15(経済的利益)
- 国税庁 法人税基本通達9-2-9〜9-2-11(経済的な利益の供与・継続的に供与される経済的利益の意義)
- e-Gov法令検索 所得税法26条(不動産所得)・28条(給与所得)・36条(収入金額)・183条(源泉徴収義務)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令84条の2(法人等の資産の専属的利用による経済的利益の額)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)・34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等)
- e-Gov法令検索 地方税法382条の3(固定資産課税台帳に記載をされている事項の証明書の交付)
- e-Gov法令検索 地方税法施行令52条の15(証明書の交付を請求できる者の範囲)
- 東京都主税局 固定資産に関する証明等(23区内) 賃借人・地上権者等の申請(転貸借・サブリースの場合は転貸借契約書の原本と原契約書の写し、所有者の代理人と契約している場合は委任関係を証する書類の写し)
- 京都市 借地・借家人等の取扱い(転貸借の場合は転貸借契約書及び所有者と賃貸借人の契約書)
- 西宮市 固定資産(土地・家屋)公課証明書について(転借人は賃貸借契約書と転貸借契約書の両方が必要)
- e-Gov法令検索 健康保険法46条(現物給与の価額)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法25条(現物給与の価額)
- 日本年金機構 全国現物給与価額一覧表(厚生労働大臣が定める現物給与の価額)
- 日本年金機構 令和8年度 現物給与の価額(都道府県別の一覧表とQ&A・住宅は令和8年10月1日から総面積1㎡あたり)
- 日本年金機構 令和8年4月1日から現物給与価額が改正されます
※本記事の取扱いは令和8年4月1日現在の法令・通達と、令和8年10月1日から適用される現物給与の価額によるものです。例の数字は架空のもので、実際の額は物件の課税標準額・床面積・所在地によって変わります。
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