事前確定届出給与の源泉徴収と仕訳 — 賞与の源泉所得税の計算・納付の期限・未払いの処理
「届け出た日に賞与を払う。源泉はいくら引けばいい?」— 事前確定届出給与を初めて支給する月に、多くの社長が立ち止まるところです。源泉所得税の計算のしかた、納付の期限、仕訳、届け出た日に払えなかったときの扱いを、順に整理します。
この記事の要点
- 事前確定届出給与は、源泉徴収では「賞与」として扱う。税額は原則、賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表で求めるが、賞与(社会保険料控除後)が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超えるときと、前月に給与がないときは、月額表を使う計算になる。低い月給と大きな賞与の組み合わせでは、ほぼこちらになる
- 天引きした源泉所得税は翌月10日まで、納期の特例なら1〜6月分を7月10日・7〜12月分を翌年1月20日までに納め、納付書では「役員賞与」の欄に書く。住民税は賞与からは天引きしない(毎月の給与から12分の1ずつ)
- 仕訳は、賞与の総額を費用にし、源泉所得税と本人負担の社会保険料を預り金に分け、差額を振り込む。届け出た支給日に払えないと賞与の全額が経費にならないおそれがあり、未払いのまま1年たつと、払っていなくても源泉徴収と納付の義務が生じる
まず結論 — 事前確定届出給与は「賞与」として源泉徴収する
役員に給与を払う会社は、支払いの際に所得税を源泉徴収し、翌月10日までに国に納めます(所得税法183条1項)。事前確定届出給与もこの給与のひとつで、源泉徴収の計算では「賞与」に当たります(所得税基本通達183-1の2)。毎月の役員報酬と同じ月額表でそのまま引くのではなく、賞与の計算方法を使う、というのが出発点です。ただし、毎月の報酬を受けていない非常勤役員などに、毎年決まった時期に定額を払う定めのものは、賞与から除かれます(所得税基本通達183-1の2)。
賞与の税額の求め方は3つに分かれます(所得税法186条)。どれになるかは、前月の給与と賞与の大きさの関係で決まり、どちらも社会保険料を引いた後の額で比べます(所得税基本通達186-4)。
| 場面 | 使う表 | 計算のしかた |
|---|---|---|
| 前月に給与があり、賞与(社会保険料控除後)が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍以下 | 算出率の表 | 前月の給与(社会保険料控除後)と扶養親族等の数で率を引き、賞与(社会保険料控除後)に掛ける |
| 前月に給与があり、賞与(社会保険料控除後)が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超える | 月額表 | 賞与(社会保険料控除後)の6分の1に前月の給与(社会保険料控除後)を足した額の税額から、前月の給与だけの税額を引き、6倍する |
| 前月に給与がない | 月額表 | 賞与(社会保険料控除後)の6分の1の額の税額を求め、6倍する |
※賞与の計算の基礎となった期間が6か月を超えるときは、6分の1と6倍を12分の1と12倍に読み替えます(所得税法186条1項)。
月給を低く抑えて賞与を大きくする払い方では、賞与が前月の給与の10倍を超えて2つ目の計算になることがあります。月給10万円なら社会保険料控除後は10万円を下回るので、賞与(社会保険料控除後)が100万円を超えた時点で10倍を超えます。意外に低い線ではないでしょうか。賞与が前月の給与(社会保険料控除後)の10倍を超えるかどうかを、支給日の前に必ず確かめてください。
計算の3通りを国税庁の例で確かめる — 算出率の表・10倍超・前月給与なし
まず算出率の表を使う通常の形です。令和8年分の表では、扶養親族等が0人なら、前月の給与(社会保険料控除後)が8.2万円未満で率0%、8.2万〜9.4万円で2.042%、9.4万〜26万円で4.084%と、前月の給与が大きいほど率が上がります。率には復興特別所得税が含まれていて、賞与(社会保険料控除後)に掛けた額の円未満の端数は切り捨てます。
国税庁が示す令和8年分の計算例を、3つの場面で並べます。
前月の給与の10倍を超えるときの計算(所得税法186条2項)
賞与を6で割る
賞与(社会保険料控除後)を6で割る(計算期間が6か月超なら12)。1円未満は切り捨て
前月の給与を足す
手順1の額に、前月の給与(社会保険料控除後)を足す
月額表で税額を引く
手順2の額を月額表の甲欄に当てはめ、扶養親族等の数に応じた税額を求める
前月の給与の税額を引く
手順3の税額から、前月の給与だけに対する月額表の税額を引く
6を掛ける
手順4の差額に6(12で割ったなら12)を掛けた額が、賞与から源泉徴収する税額
※令和8年中に支払う賞与には、令和8年分の算出率の表と月額表を使います(令和7年分以前の表は使いません)。
※令和9年分以後は、所得税と復興特別所得税に防衛特別所得税が加わり、算出率の表と月額表も改正されたものに替わります。支払う年の表を国税庁のページで確かめてください。
納付 — 翌月10日か、納期の特例の7月10日・翌年1月20日。納付書は「役員賞与」の欄に
天引きした税は、賞与を支払った月の翌月10日までに納めます(所得税法183条1項)。給与の支給人員が常時10人未満で納期の特例の承認を受けている会社なら、賞与から引いた分も半年分にまとめられ、1〜6月に支払った分は7月10日、7〜12月に支払った分は翌年1月20日が期限です(所得税法216条)。
納付書(所得税徴収高計算書)には「賞与(役員賞与を除く。)」とは別に「役員賞与」の欄があり、事前確定届出給与の源泉所得税はここに書きます。隣の「同上の支払確定年月日」の欄には、その賞与の支払いが確定した日を書きます。
| 手続き | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 賞与支払届を年金事務所へ出す | 支払った日から5日以内 | 健康保険法施行規則27条 |
| 源泉所得税を納める | 翌月10日(納期の特例なら7月10日・翌年1月20日) | 所得税法183条・216条 |
| 社会保険料(本人負担分と会社負担分)を納める | 翌月末日 | 健康保険法164条 |
| 住民税 | 賞与からは徴収しない(年税額の12分の1を6月から翌年5月まで毎月の給与から天引き) | 地方税法321条の5 |
賞与からは、本人負担分の社会保険料も天引きできます(健康保険法167条2項・厚生年金保険法84条2項)。保険料の計算のもとになる標準賞与額(賞与の千円未満を切り捨てた額)は、健康保険が年度の累計573万円、厚生年金が1か月150万円で頭打ちです(健康保険法45条・厚生年金保険法24条の4)。賞与が大きいときの保険料の実額は、下の関連記事で確かめてみてください。
住民税は、市区町村から通知された年税額の12分の1を、6月から翌年5月まで毎月の給与を払う際に天引きする仕組みです(地方税法321条の5第1項)。賞与の月に上乗せして引くことはありません。
仕訳 — 支給日は「費用・預り金・振込」の3つに分ける
事前確定届出給与の仕訳は、毎月の役員報酬と同じ型です。賞与の総額を費用にし、天引きした源泉所得税と本人負担の社会保険料を預り金に分け、差額を振り込みます。納付のときに預り金を消し込めば、天引きした額と納めた額が帳簿の上で一致します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 支給日 | 役員報酬(賞与の総額) | 普通預金(差引の振込額)・預り金(源泉所得税)・預り金(本人負担の社会保険料) |
| 源泉所得税の納付日(翌月10日か納期の特例の期限) | 預り金(源泉所得税) | 普通預金 |
| 社会保険料の納付日(翌月末日) | 預り金(本人負担の社会保険料)・法定福利費(会社負担分) | 普通預金 |
本人負担分の社会保険料の科目は、預り金のほか、会社負担分とまとめて法定福利費にする形でもよいと考えています。どちらでも、天引きした分を納付のときに消し込める形にしておきましょう。
損金になるかは、使った科目ではなく、届け出た日に届け出た額を支給したかで決まります(法人税法34条1項2号・法人税基本通達9-2-14)。年末調整では、賞与を含めてその年に支払うべきことが確定した給与の全部で年税額を計算し、毎月と賞与で引いた源泉所得税の合計との差を精算します(所得税法190条)。
届け出た支給日に払えなかったとき — 法人税・源泉徴収・本人の所得の3つで考える
資金繰りの都合で届け出た日に払えない、一部しか払えないという場面は、3つの面に分けて考えます。
まず法人税です。事前確定届出給与は、支給時期と支給金額が事前に確定し、実際にその定めのとおりに支給される給与に限られます(法人税基本通達9-2-14)。届け出た額と違う額を支給すると、原則としてその支給額の全額が損金になりません(法人税法34条1項2号・法人税基本通達9-2-14)。
同じ役員に年2回など複数回の支給を届け出ているときは、その職務執行期間の支給の全部が定めどおりに行われたかで判定します。1回でも届出と違う額になると、原則として、定めどおりに払った回も含めて全額が損金になりません。ただし、その事業年度の支給は定めどおりで、翌事業年度の支給だけが違ったときは、翌事業年度に支給した分だけを損金不算入として差し支えないとされています。
この判定は役員ごとに行うので、届出と違う支給をした役員がいても、届出どおりに支給したほかの役員の給与まで損金不算入になることはありません。支給日に未払金として計上して後日払う形の危うさと、支給しないと決めるときの手順は、別の記事で整理しています。
次に源泉徴収です。損金になるかどうかと源泉徴収は別の話で、損金不算入になった賞与でも、支払う際には源泉徴収が要ります(所得税法183条1項)。未払いの間の扱いは、原則と例外に分かれます。
原則
源泉徴収は給与を支払う際に行うので、賞与が未払いの間は徴収も納付も生じません。
所得税法183条1項
ただし
役員に対する賞与は、支払いの確定した日から1年を経過した日までに支払われないと、その日に支払いがあったものとみなされ、払っていなくても源泉徴収と翌月10日までの納付が要ります。
所得税法183条2項
本人の側では、株主総会の決議などで支給日が定められている給与は、その支給日が収入の時期です(所得税基本通達36-9)。届け出た支給日に払えなくても、その年に支給期の来た給与として年末調整の対象になり、源泉徴収票には未払いの額と徴収していない税額を内書きします(所得税法190条)。
仕訳は、支給日に「役員報酬 / 未払金」で賞与の総額を計上し、実際に払った日に未払金を消して源泉所得税と本人負担の社会保険料を預り金に振り替える形にしておきましょう。
事前確定届出給与は届出と支給日の管理に目が向きがちですが、支給月の源泉徴収・納付・仕訳まで含めて1年の流れを組んでおくと、賞与の月に慌てずに済みます。月給と賞与の配分で手取りと保険料がどう変わるかは、下のシミュレーションで試してみてください。支給月の資金と手続きの段取りは、実行の前にご相談ください。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法183条(源泉徴収義務)・186条(賞与に係る徴収税額)・190条(年末調整)・216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- 所得税基本通達183-1の2(賞与の意義)
- 所得税基本通達186-1(賞与から控除する源泉控除対象配偶者及び源泉控除対象親族に係る控除)・186-4(賞与の金額が前月中の通常の給与等の金額の10倍に相当する金額を超えるかどうかの判定)
- 所得税基本通達36-9(給与所得の収入金額の収入すべき時期)
- 法人税基本通達9-2-14(事前確定届出給与の意義)
- 国税庁タックスアンサー No.2523 賞与に対する源泉徴収(令和8年分の計算例)
- 国税庁タックスアンサー No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
- 国税庁タックスアンサー No.2509 給与所得の収入金額の収入すべき時期
- 国税庁 令和8年分 源泉徴収税額表
- 国税庁 賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表(令和8年分)
- 国税庁 令和8年版 源泉徴収のあらまし 所得税徴収高計算書(納付書)の記載例
- 国税庁 質疑応答事例 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)
- 国税庁 質疑応答事例 「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い
- 国税庁 質疑応答事例 給与等の支払を受ける者が常時10人未満であるかどうかの判定
- 国税庁 質疑応答事例 未払の給与がある場合の記載方法(源泉徴収票の内書き)
- e-Gov法令検索 健康保険法45条(標準賞与額の決定)・164条(保険料の納付)・167条(保険料の源泉控除)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法24条の4(標準賞与額の決定)・84条(保険料の源泉控除)
- e-Gov法令検索 健康保険法施行規則27条(賞与額の届出)
- e-Gov法令検索 地方税法321条の5(給与所得に係る特別徴収税額の納入の義務等)
- 日本年金機構 従業員に賞与を支給したときの手続き(賞与支払届)
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社の業務は、社員が2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き社員の過半数で決めます(会社法590条2項)。業務を執行する社員を定款で定め、その社員が2人以上あるときは、定款に別段の定めがある場合を除き業務執行社員の過半数で決めます(会社法591条1項)。定款を変更して報酬に関する定めを置く場合は、定款に別段の定めがある場合を除き総社員の同意が必要です(会社法637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
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