個人事業主の確定申告の必要経費 — 家事按分の割合の決め方と、認められにくい支出の線引き
「自宅の家賃は何割まで経費にしていいのか」— 自宅で仕事をする個人事業主の方が、確定申告の時期にいちばん迷う点だと見ています。家事按分の割合の決め方と、線引きの難しい支出の扱いを、条文と通達に沿って整理します。
この記事の要点
- 自宅の家賃・水道光熱費・通信費・車のように仕事と私用の両方に使う支出(家事関連費)は、業務の遂行上必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分だけが必要経費になる(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条)
- 「何割まで」という決まりは無い。面積・時間・走行距離など支出の性質に合う物差しを1つ選び、計算の根拠を残す。業務に使う部分が50%以下でも、区分できればその部分を必要経費にして差し支えない(所得税基本通達45-2)
- 所得税・住民税、罰金、国民健康保険料・国民年金保険料、本人の生活費などの家事上の費用は必要経費にならない。生計を一にする家族への支払いも原則として必要経費にならない(所得税法45条・56条・74条)
まず結論 — 業務の遂行上必要な部分を「明らかに区分」できる分だけが必要経費
必要経費になるのは、売上原価と、その年の販売費・一般管理費など業務について生じた費用です(所得税法37条)。一方、食費や家族の生活費のような家事上の経費(家事費)と、これに関連する経費(家事関連費)は、原則として必要経費に算入しません(所得税法45条1項1号)。
家事関連費とは、自宅兼事務所の家賃や水道光熱費のように、1つの支出が家事と業務の両方にかかわる費用のことです。必要経費になるのは、その主たる部分が業務の遂行上必要で、かつ必要な部分を明らかに区分できる場合の、その部分だけです(所得税法施行令96条1号)。
「主たる部分」かどうかは、支出のうち業務に必要な部分が50%を超えるかで判定します。ただし、50%以下でも、必要な部分を明らかに区分できるときは、その金額を必要経費に算入して差し支えないとされています(所得税基本通達45-2)。つまり実務では、割合の大小より「区分できるか」が決め手です。
原則
家事上の経費と、これに関連する経費は、事業所得の計算上必要経費に算入しません。
所得税法45条1項1号
ただし
家事関連費のうち、主たる部分が業務の遂行上必要で、必要な部分を明らかに区分できるときは、その部分が必要経費になります。
所得税法施行令96条1号
青色申告の方は、取引の記録などに基づいて業務の遂行上直接必要だったことが明らかにされる部分も必要経費になります。
所得税法施行令96条2号
区分の判定は、業務の内容・経費の内容・家族や使用人の構成・店舗併用の家屋など資産の利用状況を総合して行います(所得税基本通達45-1)。業種や働き方で答えが変わるので、ほかの人の割合をそのまま借りてくることはできません。
家事按分の決め方 — 支出ごとの物差しと、残しておく根拠
家事按分に「家賃は3割まで」のような決まった割合はありません。支出の性質に合う物差しを選び、その物差しで計算した割合を使います。まずは間取り図を広げて、仕事に使っている場所を塗ってみましょう。よく使う物差しと、計算の根拠として残す書類は次のとおりです。
| 支出 | 物差しの例 | 残しておく根拠 |
|---|---|---|
| 家賃(賃貸) | 仕事に使う部屋の床面積の割合 | 賃貸借契約書と間取り図を残しておきましょう |
| 電気代 | 床面積の割合、または仕事に使う時間の割合 | 仕事に使った時間を記録しておきましょう |
| スマホ・ネットの通信費 | 業務の通話・通信の割合、または使う日数・時間の割合 | 通話明細や利用の記録をとっておきましょう |
| 車(ガソリン代・保険料・減価償却費) | 走行距離の割合 | 日付・行き先・用件入りの走行記録を付けておきましょう |
| 持ち家 | 建物の減価償却費・固定資産税・住宅ローンの利子に床面積の割合 | 登記事項証明書・固定資産税の通知・返済予定表を手元に置いておきましょう |
家賃は、仕事に使う部屋の床面積の割合で分けることをお勧めします。仕事専用の部屋が無く居間の一角で働いているなら、机まわりの面積か仕事に使う時間で区分しておきましょう。持ち家なら、建物の減価償却費と固定資産税のうち業務に使う部分が必要経費になります(所得税法49条・所得税基本通達37-5)。住宅ローンの利子も業務のための借入金の利子として業務に使う部分が必要経費になりますが、元本の返済は借りたお金を戻しているだけなので、必要経費には入れないと考えておきましょう。
家事按分を決めてから申告書に載せるまで
物差しを選ぶ
家賃と電気代は床面積、車は走行距離、通信費は明細か使う時間。支出ごとに1つに決める
割合を計算して記録する
計算の元になった面積・時間・距離と、その数字が分かる書類を残す。青色申告は、取引の記録に基づいて区分できる部分が必要経費になる(所得税法施行令96条2号)
毎年同じ物差しで通す
仕事部屋を増やした・車を替えたなど、割合が変わる理由があった年だけ見直し、理由を書き残す
認められにくい支出の線引き — 条文で決まっているもの
家事按分の前に、そもそも必要経費にならないと条文で決まっている支出があります。確定申告で帳簿に混ざりやすいものを表にまとめました。
| 支出 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 所得税・住民税 | 必要経費にならない | 所得税法45条1項2号・4号 |
| 国民健康保険料・国民年金保険料 | 必要経費ではなく、所得控除(社会保険料控除)で引く | 所得税法74条 |
| 罰金・科料・過料 | 必要経費にならない | 所得税法45条1項7号 |
| 生計を一にする家族への給与・外注費・家賃 | 必要経費にならない(青色事業専従者給与と事業専従者控除を除く) | 所得税法56条・57条 |
| 本人の生活費・食事 | 家事上の経費(家事費)で、必要経費にならない | 所得税法45条1項1号 |
| 10万円以上のパソコン・備品 | その年の経費ではなく、減価償却で数年に分ける | 所得税法49条・所得税法施行令138条 |
所得税と住民税は必要経費になりません(所得税法45条1項2号・4号)。一方、業務に使う資産の固定資産税は、業務に使う部分が必要経費になります(所得税基本通達37-5)。個人事業税も全額が必要経費になります。国民健康保険料と国民年金保険料は経費ではなく、所得から引く社会保険料控除として確定申告書に書きます(所得税法74条)。
本人のスーツや靴、健康診断や人間ドックの費用は、仕事以外の生活にも関わり、業務に必要な部分を明らかに区分しにくいので、必要経費には入れないと考えておきましょう。
生計を一にする配偶者や親に払う給与・外注費・家賃は、名目を問わず必要経費になりません。例外は、届け出た範囲で払う青色事業専従者給与と、白色申告の事業専従者控除です(所得税法57条)。一方、生計を一にする親から業務のために借りた土地・建物にかかる固定資産税は、家族の資産でも借りた側の必要経費になります。くわしくは家族への外注費の記事に書いています。
10万円以上で1年を超えて使うパソコンや備品は、買った年に全額を経費にせず、減価償却で数年に分けます(所得税法49条・所得税法施行令138条)。青色申告の方には、令和11年3月31日までに取得した40万円未満の資産を、年300万円までその年の必要経費にできる特例があります(租税特別措置法28条の2)。
迷いやすい支出 — 「仕事の役に立つ」だけでは足りない
必要経費になるのは、業務について生じた費用です(所得税法37条)。取引先との飲食や打ち合わせのカフェ代、仕事に関係する本の代金は、相手や目的が業務だと説明できる範囲で、この費用に当たると考えています。技能や知識の習得・研修の費用は、業務の遂行に直接必要なもので、通常必要とされる範囲に限って必要経費です(所得税基本通達37-24)。
一方、同じ飲食でも友人との会食や、仕事に役立つことはあっても私的な性格の強い習い事・ジムの会費は、家事費か家事関連費に当たると考えておきましょう。業務に必要な部分を区分できなければ、必要経費になりません(所得税法45条1項1号・所得税法施行令96条)。
なお、在宅の内職や外交員・集金人のように、特定の相手から仕事を受ける家内労働者等には、必要経費の特例があります。実際の必要経費が69万円に満たなくても、69万円(令和7年分は65万円。給与所得がある方はそこから給与所得控除額を引いた残額。収入金額が上限)を必要経費にできます(租税特別措置法27条)。
ご自身の按分の割合を、どう出したか一言で言えるでしょうか。家事按分は、割合を高くする工夫より、区分の根拠を1枚残す手間の方が効きます。確定申告の準備で支出の仕分けに迷っている方は、確定申告のページの料金と進め方もあわせてご覧ください。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法37条(必要経費)・45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・49条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・74条(社会保険料控除)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令96条(家事関連費)・138条(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法27条(家内労働者等の事業所得等の所得計算の特例)・28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)
- 国税庁 所得税基本通達45-1(主たる部分等の判定等)・45-2(業務の遂行上必要な部分)
- 国税庁 所得税基本通達37-5(固定資産税等の必要経費算入)
- 国税庁 所得税基本通達37-24(技能の習得又は研修等のために支出した費用)
- 国税庁タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
- 国税庁タックスアンサー No.2215 固定資産税、登録免許税又は不動産取得税を支払った場合
- 国税庁タックスアンサー No.1810 家内労働者等の必要経費の特例
※本記事の家事按分の例は計算の仕方を示すためのもので、割合は業務の内容や資産の利用状況で変わります。
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