出張旅費規程のひな形と作り方 — 書く項目・日当と宿泊費の決め方・一人社長の会社でも使えるか
「日当を出すには旅費規程が要ると聞いたけれど、何を書けばいいの?」— 一人社長や小さな会社の方から、よくいただく疑問です。出張旅費規程に書く項目をひな形の形で示し、日当と宿泊費の額の決め方、一人社長の会社で作るときの注意点を、法令と通達、財務省の調査に沿って整理します。
この記事の要点
- 規程の柱は、出張の定義・旅費の種類・役職ごとの額・精算の手続きの4つ。日当が非課税になるのは、その旅行に通常必要とされる範囲内の金品だけ(所得税法9条1項4号)
- 額の判定は、役員と従業員の全員を通じてバランスの取れた基準か、同業種・同規模の他社の水準に照らして相当か、の2点(所得税基本通達9-3)。財務省の調査では、国内出張の日当の平均は1日2,621円、宿泊費の定額や上限の平均は1泊10,672円
- 一人社長の会社でも作れる。取締役(合同会社は社員)の決定で定め、適用範囲は役員と従業員の全員にし、出張のたびに日付・行き先・用件の記録を残す
規程に書く4つの柱 — ひな形の条文と書き方の例
出張の日当や宿泊費は、役員や従業員がその旅行に通常必要とされる範囲内で受け取る限り所得税が非課税で、会社では旅費交通費として損金になります(所得税法9条1項4号・法人税法22条3項2号)。その範囲内かどうかは、支給額が役員と従業員の全員を通じてバランスの取れた基準で計算されているかなどで判定されます(所得税基本通達9-3)。この基準を文書にしたものが旅費規程です。
書く柱は、出張の定義・旅費の種類・役職ごとの額・精算の手続きの4つに絞ってよいと考えています。条ごとの書き方の例を表にしました。○の部分に、ご自身の会社の数字を入れてお使いください。
| 条 | 定める事項 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 第1条 目的・適用範囲 | 役員と従業員の全員に適用する | この規程は、役員及び従業員が業務のため出張する場合の旅費について定める |
| 第2条 出張の定義 | 距離や宿泊の有無で線を引く | 勤務地から片道○km以上の移動を伴う業務を出張とし、日帰り出張と宿泊出張に分ける |
| 第3条 旅費の種類 | 交通費・宿泊費・日当の3つに分けるのがお勧めです | 交通費は実費、宿泊費は上限付きの実費、日当は別表の定額とする |
| 第4条 支給額 | 役職ごとの日当と宿泊費の上限を別表にまとめるのがお勧めです | 別表のとおり(日帰り日当○円・宿泊日当○円・宿泊費の上限1泊○円) |
| 第5条 精算 | 申請・報告・期限・添付書類を決めておきましょう | 出張の終了後○日以内に出張報告書と領収書を添えて精算する |
| 第6条 施行 | 決めた日と改廃の手続き | この規程は○年○月○日から施行する。改廃は取締役の決定による |
第2条の線引きは、財務省の調査では「往復行程(距離)により判断している」会社が49.4%、「宿泊の有無により判断している」会社が44.8%でした。距離で線を引くなら、ふだんの打ち合わせの移動が入らない距離にしてみましょう。ご自身の出張を思い浮かべて、どこからが「出張」でしょうか。適用範囲は役員と従業員の全員にし、社長だけを対象にした規程にはしない形をお勧めします。
日当と宿泊費の額の決め方 — 2つのものさしと財務省の調査
通達が挙げる判定のものさしは2つです(所得税基本通達9-3)。1つは、支給額が役員と従業員の全員を通じて適正なバランスが保たれている基準で計算されているか。もう1つは、同業種・同規模の他社が一般的に支給している金額に照らして相当か、です。
2つ目のものさしの参考になるのが、財務省が上場企業に行ったアンケート(令和5年8月・有効回答551社)です。日当を支給する会社のうち、役職で段を分けていない会社が31.6%、2段が16.8%、3段が17.5%でした。段の数(報告書の呼び方では役職1区分・2区分・3区分)ごとの平均額はこうなっています。
| 役職の分け方 | 1段目 | 2段目 | 3段目 |
|---|---|---|---|
| 役職1区分(154社・段を分けない) | 1日1,898円 | — | — |
| 役職2区分(82社・2段) | 1日1,646円 | 1日2,891円 | — |
| 役職3区分(85社・3段) | 1日1,851円 | 1日2,641円 | 1日4,206円 |
日当を支給する会社全体では、各社の平均額の平均が1日2,621円でした(各社の最低額の平均は1日1,780円、最高額の平均は1日3,786円)。
一人社長の会社なら段は1つで、1日2,000円前後が同業・同規模の水準に近い額と考えています。役職で段を分けるときも、3段の会社の上の段の平均が1日4,206円ですから、役員だけが他社の水準から大きく離れた額にならないようにしましょう。
宿泊費は、上限付きの実費支給が43.7%、定額支給が28.9%、実費支給が24.0%でした。定額や上限を決めている会社の平均額は1泊10,672円です(各社の最低額の平均は1泊8,330円)。宿泊費を定額にする場合も、通常必要な範囲かどうかで判定されるため、この水準から大きく離れた定額は避けましょう。ご自身の会社の出張先のホテル代は、この水準に収まっているでしょうか。
原則
規程に基づく日当・宿泊費は、その旅行に通常必要とされる範囲内なら、受け取る側の所得税が非課税です。
所得税法9条1項4号・所得税基本通達9-3
ただし
通常必要とされる範囲を超える部分は、給与所得の収入金額になります。
所得税基本通達9-4
旅費の名義で役員に支給したもののうち、業務のために使ったことが明らかでないものは役員給与として扱われ、定期同額給与などに当たらない限り損金になりません。
法人税法34条1項・法人税基本通達9-2-9
一人社長の会社で作るときの3つの注意 — 適用範囲・決め方・記録
一人社長の会社でも旅費規程は作れると考えています。ただ、全員を通じたバランスというものさしが働きにくい分、同業・同規模の水準と、業務のための出張かどうかが直接に問われます。注意は3つです。
1つ目は適用範囲です。社長だけを対象にした規程ではなく、役員と従業員の全員に適用する形で作り、将来従業員を雇ったときも同じ規程で支給できるようにしておきましょう。役職で額に差を付けるのは自然ですが、役員だけが極端に高い段になると、全員を通じたバランスの点で説明が難しくなると考えています。
2つ目は決め方です。取締役会を置かない株式会社の業務は取締役が執行し、取締役が2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き、過半数で決めます(会社法348条1項・2項)。合同会社は社員が業務を執行し、2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き、社員の過半数で決めます(会社法590条1項・2項)。
一人社長なら自分の決定になりますが、決めた日付と内容を書面に残しておきましょう。就業規則の作成と行政官庁(労働基準監督署)への届出の義務があるのは、常時10人以上の労働者を使用する使用者です(労働基準法89条)。
3つ目は記録です。業務との関係が説明できない旅費は役員給与になり、損金になりません(法人税法34条1項・法人税基本通達9-2-9)。会社の代表者が会合に出席した交通費・宿泊費・日当が、事業の遂行上必要とは認められず役員給与とされた例もあります(国税不服審判所 平成27年7月28日裁決・裁決事例集No.100)。出張のたびに、日付・行き先・用件・相手先を書いた出張報告書と領収書を残してください。
運用の流れとよくある誤解 — 出張1回ごとの4つの段取り
出張1回ごとの流れ
出張の前に申請する
行き先・用件・日程を決め、規程の出張に当たるかを確かめておきましょう
出張する
交通費・宿泊費の領収書を受け取り、訪問の記録(相手先・議事メモ)を残す
報告書を出して精算する
規程の期限内に出張報告書と領収書を添え、日当は規程の額で精算する
帳簿に書く
役員や従業員に支給する国内出張の交通費・宿泊費・日当は、旅費である旨など一定の事項を帳簿に書けばインボイスがなくても仕入税額控除を受けられる(消費税法施行令49条1項1号ニ・消費税法施行規則15条の4第2号)。ただし、会社がホテルなどに直接払う宿泊費は、原則として適格請求書と帳簿の両方の保存が必要
旅費規程は、作ること自体より、額の根拠と出張の記録をそろえて運用を続けることに意味があります。ひな形の○を自社の数字に置き換えたら、額と適用範囲が他社の水準や規程の趣旨から外れていないか、実行の前に一度ご相談ください。
出典
- 国税庁 所得税基本通達9-3(非課税とされる旅費の範囲)・9-4(非課税とされる旅費の範囲を超えるものの所得区分)
- 国税庁 法人税基本通達9-2-9(債務の免除による利益その他の経済的な利益)
- 国税庁 タックスアンサー No.6459 出張旅費、宿泊費、日当、通勤手当などの取扱い
- 財務省 民間企業における出張旅費規程等に関するアンケート 報告書(国内出張の日当・宿泊料の支給方法と支給額)
- 国税不服審判所 平成27年7月28日裁決(裁決事例集No.100) 代表者の会合への出席に係る旅費・日当を役員給与とした事例
- e-Gov法令検索 所得税法9条(非課税所得)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)・34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 会社法348条(業務の執行)・590条(業務の執行)
- e-Gov法令検索 労働基準法89条(作成及び届出の義務)
- e-Gov法令検索 消費税法施行令49条(課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の記載事項等)
- e-Gov法令検索 消費税法施行規則15条の4(請求書等の交付又は提供を受けることが困難な課税仕入れ)
※本記事の取扱いは、令和8年4月1日現在の法令・通達によるものです。財務省のアンケートの数字は、報告書(令和5年8月)の集計値をそのまま載せています。
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