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家賃収入の法人化をしないほうがいい大家 — 税金が逆に増える規模、建物を移す費用、借入の引き継ぎ、相続の評価

「家賃収入があるなら法人化したほうが得」という説明は、ある規模から上の大家にしか当てはまらないと考えています。税金が逆に増える規模、建物を移す費用、借入の引き継ぎ、相続の評価の4点から、法人化を見送ったほうがよい条件を整理します。

この記事の要点

  • 家賃収入から経費を引いた利益が小さいうちは、法人化すると負担が増える。家賃収入800万円・経費3割の専業大家が役員報酬を出さない形だと、弊所試算で年約4.3万円重くなる
  • 役員報酬を出す形なら負担は軽くなるが、建物を移す登録免許税・不動産取得税・設立費用を年間の差で取り戻すのに、家賃収入600万円では約23年かかる
  • 借入は銀行の承諾なしに法人へ引き継げず、法人には長期譲渡の軽い税率が無い。相続では、法人が3年以内に取得した土地・建物は通常の取引価額で評価される

まず結論 — 見送ったほうがよい4つの条件

家賃収入の法人化で負担が軽くなるのは、個人の所得税・住民税と国民健康保険料の合計が、法人税等と社会保険料の合計を上回る規模からだと見ています。法人には利益が無くても法人住民税の均等割(年7万円)がかかり(地方税法52条1項・312条1項)、役員報酬を出せば毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整という事務が増えます。次の4つのどれかに当てはまる方は、今は見送ったほうがよいと考えています。

税金が逆に増える規模 — 役員報酬を出さない形は、弊所試算で利益500万円台まで法人のほうが重い

では、どの規模から法人のほうが軽くなるのでしょうか。役員報酬を出さない形では、法人の利益に法人税等がかかる一方で、本人は法人化後も国民健康保険と国民年金のままです。利益が小さいうちは個人の低い税率で納めるほうが軽く、均等割の分だけ法人が不利になります。弊所の試算では、家賃収入800万円・経費3割までは個人のままのほうが軽く、1,000万円から法人のほうが軽くなります。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

役員報酬を出さない法人化と個人のままの年間の負担(弊所試算・年額・40〜64歳の専業大家・事業的規模・経費は家賃収入の3割)
家賃収入と経費(年額)個人のまま(年額)法人化・役員報酬0円(年額)どちらが軽いか(年額)
家賃収入600万円・経費180万円約108.7万円約127.1万円個人が約18.3万円軽い
家賃収入800万円・経費240万円約155.2万円約159.5万円個人が約4.3万円軽い
家賃収入1,000万円・経費300万円約218.1万円約192.0万円法人が約26.1万円軽い
家賃収入1,200万円・経費360万円約277.0万円約228.6万円法人が約48.4万円軽い
家賃収入1,500万円・経費450万円約359.5万円約299.1万円法人が約60.4万円軽い

家賃収入と経費(年額)家賃収入600万円・経費180万円

個人が約18.3万円軽い

個人のまま(年額)約108.7万円
法人化・役員報酬0円(年額)約127.1万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入800万円・経費240万円

個人が約4.3万円軽い

個人のまま(年額)約155.2万円
法人化・役員報酬0円(年額)約159.5万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入1,000万円・経費300万円

法人が約26.1万円軽い

個人のまま(年額)約218.1万円
法人化・役員報酬0円(年額)約192.0万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入1,200万円・経費360万円

法人が約48.4万円軽い

個人のまま(年額)約277.0万円
法人化・役員報酬0円(年額)約228.6万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入1,500万円・経費450万円

法人が約60.4万円軽い

個人のまま(年額)約359.5万円
法人化・役員報酬0円(年額)約299.1万円

※この比較に含めた負担: 個人のままは所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料・国民年金保険料。法人化した場合は法人税等(均等割を含む)と、役員報酬が無いため法人化後も続く本人の国民健康保険料・国民年金保険料。

差が年4万円程度の規模では、設立の費用や決算・申告の手間で消えてしまうと考えています。この前提で法人化が効き始めるのは、家賃収入1,000万円(利益700万円)前後からと試算しています。

役員報酬を出す形でも、弊所試算では建物を移す費用を取り戻せない規模がある

役員報酬を月10万円出す形にすると、本人は法人の健康保険・厚生年金に移り、給与所得控除も使えるので、同じ前提でも法人のほうが軽くなります。ただし、今ある建物を法人へ売って移すには一度きりの費用がかかります。年間の差で何年で取り戻せるかが、踏み切るかどうかの物差しです。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

役員報酬を月10万円出す法人化と個人のままの年間の負担(弊所試算・年額・40〜64歳の専業大家・事業的規模・経費は家賃収入の3割)
家賃収入と経費(年額)個人のまま(年額)法人化・役員報酬月10万円(年額)法人化との差(年額)
家賃収入600万円・経費180万円約108.7万円約104.1万円約4.7万円軽い
家賃収入800万円・経費240万円約155.2万円約134.4万円約20.8万円軽い
家賃収入1,000万円・経費300万円約218.1万円約166.8万円約51.2万円軽い
家賃収入1,200万円・経費360万円約277.0万円約199.3万円約77.8万円軽い
家賃収入1,500万円・経費450万円約359.5万円約259.5万円約100.0万円軽い

家賃収入と経費(年額)家賃収入600万円・経費180万円

約4.7万円軽い

個人のまま(年額)約108.7万円
法人化・役員報酬月10万円(年額)約104.1万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入800万円・経費240万円

約20.8万円軽い

個人のまま(年額)約155.2万円
法人化・役員報酬月10万円(年額)約134.4万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入1,000万円・経費300万円

約51.2万円軽い

個人のまま(年額)約218.1万円
法人化・役員報酬月10万円(年額)約166.8万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入1,200万円・経費360万円

約77.8万円軽い

個人のまま(年額)約277.0万円
法人化・役員報酬月10万円(年額)約199.3万円

家賃収入と経費(年額)家賃収入1,500万円・経費450万円

約100.0万円軽い

個人のまま(年額)約359.5万円
法人化・役員報酬月10万円(年額)約259.5万円

※この比較に含めた負担: 個人のままは所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料・国民年金保険料。法人化した場合は法人税等(均等割を含む)・役員の健康保険・厚生年金(会社負担と本人負担)・役員報酬にかかる所得税・住民税。

法人に残った利益は個人の生活費に自由には使えず、生活費に回すには役員報酬や配当などで取り出すことになる点に注意しましょう。役員報酬を増やすと法人税等は減り、本人の所得税・住民税と保険料は増えるので、月10万円では生活費が足りない方は、生活費に要る額で役員報酬を決めてから比べてください。

法人には決算・申告を税理士に頼む費用などの毎年の維持費も別にかかるので、取り戻すまでの年数は、表の差からこの維持費を引いた額で割り直して確かめてください。

建物の譲渡益は、売った価額から取得費と譲渡費用を引いて計算し、建物の取得費は所有期間中の減価償却費相当額を差し引いた額です。このため、買った値段以下で売っても譲渡益が出ることがあるので、移す費用には譲渡所得の税も見込んでおきましょう。取得費が分からないときや、実際の取得費が譲渡価額の5%より少ないときは、譲渡価額の5%を取得費とすることができます。

買ってから日が浅い建物は、移す費用がさらに重くなります。譲渡益が出る建物を売った年の1月1日で所有期間が5年以下なら、譲渡益に所得税30%・住民税9%がかかり、5年超の15%・5%のほぼ2倍です(租税特別措置法31条1項・32条1項)。移すなら所有5年超になる年まで待つか、その建物は個人に残します。

借入の引き継ぎ — 銀行の承諾がなければ法人へ移せない

建物に借入が残っている場合、借入を法人へ引き継ぐ免責的債務引受は、債務者と法人が契約したうえで、債権者である銀行が法人に対して承諾して初めて効力が生じます(民法472条3項)。承諾してもらえるかと、金利や保証人などの条件は、借入先の銀行に確かめてください。建物を移す前に銀行へ相談するのが順番で、承諾が取れない間は法人化の計画を進めないほうが安全です。

長期譲渡の軽い税率が無く、相続では3年以内の取得が時価評価になる

個人が所有5年超の建物を売るときの税率は所得税15%・住民税5%です(租税特別措置法31条1項)。法人にはこの軽い税率が無く、売却益は家賃の利益と合わせて法人税等の対象になります(法人税法66条)。将来売ることが決まっている物件は、個人で持ち続けたほうが軽いことがあります。

相続の評価も変わります。個人で持つ土地は路線価方式か倍率方式、建物は固定資産税評価額で評価します(財産評価基本通達11・89)。法人で持つと、相続するのは建物ではなく法人の株式や持分で、その純資産価額の計算では、法人が3年以内に取得した土地・建物を通常の取引価額で評価します(財産評価基本通達185)。移してから3年以内に相続が起きると、路線価や固定資産税評価額ではなく時価で評価される形になります。

ご自身の家賃収入・経費・役員報酬で差を見るには、このサイトの家賃収入の法人化シミュレーターに数字を入れてみてください。このサイトの試算は、建物を移す一度きりの費用を入れると取り戻すまでの年数も出します。法人化は税・保険料・一度きりの費用・保障・家族の人数が一緒に動くので、実行の際は必ず事前にご相談ください。

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※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。

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