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不動産オーナーのマイクロ法人と資産管理会社の違い — 家賃収入を法人に移す形と、個人事業を続けながら社会保険を法人に置く形

「資産管理会社を作ればいいのか、それともマイクロ法人なのか」— 不動産オーナーの方から、この2つの言葉が混ざったご相談を受けることがあります。同じ「法人を作る」話なのに、なぜ答えが分かれるのでしょうか。どちらも法人を1つ作る点は同じですが、法人に何を置くかが違い、動く税金と社会保険、一度きりの費用も違います。2つの形を並べて、原文の決まりに沿って整理しました。

この記事の要点

  • 資産管理会社は建物を法人に移し、家賃の全部を法人の収入にする形。法人税の税率と役員報酬の給与所得控除が効く反面、登録免許税・不動産取得税・譲渡所得の税という一度きりの費用がかかる
  • マイクロ法人は物件を個人に残したまま、管理料などの小さな収入を法人に置き、低い役員報酬で健康保険・厚生年金に入る形。国民健康保険料・国民年金保険料を別に納める必要がなくなり、建物を移す費用はかからない。ただし、報酬が法人で行う仕事の内容に見合っているかは、年金事務所が働き方の実態を調査して判断する
  • どちらも均等割7万円は赤字の年もかかり、給与計算・源泉所得税の納付・年末調整の事務が毎年続く。法人に置く仕事には実態が要る

2つの形は何が違うのか — 法人に置くのが「建物」か「小さな仕事」か

ここでは、家賃や地代が不動産所得となる個人の賃貸経営を対象に、2つの形を比較します。

「資産管理会社」は、個人が持つ建物を法人へ売り、家賃の全部を法人の収入にする形です。法人には家賃から経費と役員報酬を引いた利益が残り、法人税等がかかります。個人は役員報酬を給与として受け取り、社会保険は法人の健康保険・厚生年金に入ります。

「マイクロ法人」は、物件を個人に残したまま、小さな仕事を法人に置く形です。不動産オーナーの場合は、法人が物件の管理業務を受け持ち、個人から管理料を受け取る形が多いと考えています。個人の不動産所得はそのまま続き(所得税法26条)、法人からは低い役員報酬を受け取って健康保険・厚生年金に入ります。法人は事業主1人でも社会保険の適用事業所です。

資産管理会社とマイクロ法人の違い
項目資産管理会社(建物を法人に移す)マイクロ法人(物件は個人のまま)
法人に置くもの建物。その家賃は建物を持つ法人の収入になる管理などの小さな仕事。家賃は個人の不動産所得のまま(所得税法26条)
個人に残る所得役員報酬(給与所得)。土地を残せば地代も家賃の不動産所得と役員報酬(給与所得)
社会保険役員報酬を出せば法人の健康保険・厚生年金低い役員報酬で法人の健康保険・厚生年金
一度きりの費用設立の費用に加えて、建物の移転登記の登録免許税・不動産取得税・譲渡所得の税設立の費用。建物の移転に伴う税はかからない
毎年の固定費均等割7万円と決算・給与の事務均等割7万円と決算・給与の事務
消費税建物の売買に消費税がかかる。ただし売り手の個人が免税事業者(基準期間の課税売上高が1,000万円以下)なら、売った年の納税義務は免除。適格請求書発行事業者(インボイス登録)か、課税事業者を選ぶ届出書を出している人は、1,000万円以下でも免除されない。特定期間(前年1月1日〜6月30日)の課税売上高などが1,000万円を超えるときも免除されない管理料は課税売上。法人が免税事業者の間は納税なし。ただし適格請求書発行事業者の登録をした法人と、設立1期目・2期目の期首の資本金が1,000万円以上の法人は免除されない(設立後に増資した場合も、各期の期首の資本金で判定)。設立2期目に特定期間(設立1期目の中の期間)の課税売上高などが1,000万円を超えるとき、課税事業者を選ぶ届出書を出したとき、特定新規設立法人に当たるときも免除されない

表の費用は、法人の設立と建物の移転についての比較です。管理の仕事を法人が受託する場合は、賃貸住宅管理業の登録の要否と、その登録に伴う費用も別に確認しておきましょう。

何が軽くなるのか — 資産管理会社は税率の差、マイクロ法人は国保・国民年金の置き換え

資産管理会社で軽くなるのは、主に税率の差だと考えています。個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がりますが、法人税の税率は23.2%で、資本金1億円以下の法人は年800万円以下の所得の部分が19%です(法人税法66条1項・2項)。令和9年3月31日までに開始する事業年度は、適用除外事業者や通算法人を除き、この部分が15%(その事業年度の所得が年10億円を超えるときは17%)に軽減されています(租税特別措置法42条の3の2第1項)。役員報酬を出せば、その分には給与所得控除も効きます。

マイクロ法人で軽くできるのは、主に社会保険料だと考えています。ここでは、国民健康保険に加入し、国民年金の第1号被保険者である個人事業主の大家の方を想定します。

法人の役員として健康保険に入ると国民健康保険の被保険者ではなくなり(国民健康保険法6条)、厚生年金に入ると国民年金は第1号被保険者から第2号被保険者に変わります(国民年金法7条1項)。国民健康保険料は所得で決まる一方、健康保険・厚生年金の保険料は役員報酬の等級で決まるので、役員報酬が低ければ保険料も低くなります。

ただし、健康保険・厚生年金の被保険者になるのは、法人から労務の対償として報酬を受けている役員です(昭和24年7月28日保発第74号)。報酬が法人で行う仕事の内容に見合っているか疑わしいときは、年金事務所が報酬を決めた経過や働き方を調査し、常用的使用関係があるかを判断します。低い報酬ほど、法人が実際に行う仕事に見合う額かどうかが問われると考えています。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

資産管理会社にした場合の年間の負担(弊所試算・年額・家賃収入1,500万円・経費600万円・45歳の個人事業主の大家)
役員報酬(月額)個人のまま(年額)資産管理会社(年額)差(年額)
月0万円約301.5万円約248.7万円約52.7万円軽い
月10万円約301.5万円約213.2万円約88.3万円軽い
月20万円約301.5万円約226.4万円約75.1万円軽い
月30万円約301.5万円約240.7万円約60.8万円軽い

役員報酬(月額)月0万円

約52.7万円軽い

個人のまま(年額)約301.5万円
資産管理会社(年額)約248.7万円

役員報酬(月額)月10万円

約88.3万円軽い

個人のまま(年額)約301.5万円
資産管理会社(年額)約213.2万円

役員報酬(月額)月20万円

約75.1万円軽い

個人のまま(年額)約301.5万円
資産管理会社(年額)約226.4万円

役員報酬(月額)月30万円

約60.8万円軽い

個人のまま(年額)約301.5万円
資産管理会社(年額)約240.7万円

※この比較に含めた負担: 個人のままは所得税・住民税・個人事業税・国民健康保険料・国民年金保険料。資産管理会社は法人税等(均等割を含む)・健康保険・厚生年金の保険料(会社負担と本人負担)・役員報酬にかかる所得税・住民税。役員報酬0円の行は、個人が国民健康保険・国民年金のまま残る計算です。

※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。

マイクロ法人(管理料の形)にした場合の年間の負担(弊所試算・年額・家賃収入1,500万円・経費600万円に管理料120万円を加えた例・45歳)
役員報酬(月額)健康保険・厚生年金(会社と本人)個人の所得税・住民税・個人事業税法人税等合計(年額)
月6万円約27.8万円約169.2万円約14.2万円約211.2万円
月10万円約35.7万円約182.0万円約7.0万円約224.7万円
月20万円約72.9万円約212.9万円約7.0万円約292.7万円

※この比較に含めた負担: 健康保険・厚生年金の保険料(会社負担と本人負担)・個人の所得税・住民税・個人事業税・法人税等(均等割を含む)。弊所試算では、管理料120万円を個人の必要経費に入れ、法人の売上に置いています。

個人のまま(約301.5万円)と比べると、役員報酬が月6万円の行で約90.2万円軽くなります。

役員報酬を上げるほど法人は赤字になり、軽くなる額は月20万円の行で約8.7万円まで縮みます。

足りない現金は個人が法人に入れることになり、月10万円の行なら年に約25.1万円です。ご自身の家賃収入と経費なら、どの行に近いか当てはめてみましょう。

管理料は、法人が実際に行う管理業務に見合う額にすることが前提だと考えています。個人と法人の間で管理委託の契約書を作り、請求と振込の記録を残しておきましょう。

気をつけたい点 — 実態・資金・家族の保険

法人に置く仕事には、契約・請求・業務内容の区分という実態が要ると考えています。建物を移す形なら売買契約と、土地を残すときの賃貸借契約、管理を置く形なら管理委託の契約と、法人が実際に管理業務を行っている記録をそろえておきましょう。同じ家賃収入を理由なく個人と法人に振り分けると、恣意的な売上の分散と見られて税務上否認されるおそれがあると見ています。

将来土地を無償で返還する契約にする場合は、「土地の無償返還に関する届出書」の要否を確認し、土地所有者と法人の連名による届出を準備します。無償返還を契約で定めた後は、遅滞なく土地所有者の納税地を管轄する税務署へ提出します。

設立の登記の登録免許税は、どちらの形にも一度きりでかかります(登録免許税法別表第一)。建物を移す形には、そのうえに建物を動かすための税が加わります。建物の売買による所有権の移転登記の登録免許税は、不動産の価額の1,000分の20です(登録免許税法別表第一)。

不動産取得税の標準税率は4%です(地方税法73条の15)。令和9年3月31日までに取得した住宅は3%に軽減されています。個人の側には、建物の譲渡益に対する譲渡所得の税もかかります(租税特別措置法31条・32条)。

家族の分も動きます。配偶者や子が法人の健康保険の被扶養者になれば、その人たちは国民健康保険の被保険者ではなくなり、その分の保険料はかからなくなります(国民健康保険法6条5号)。国民健康保険は家族の人数分かかるので、家族が多いほどマイクロ法人の形で軽くなる額は大きくなります。ただし、保険料のうち基礎賦課額と呼ばれる部分には年67万円の上限があり(国民健康保険法施行令29条の7)、上限に達している世帯では人数が増えてもその分は増えません。

個人の所得税・住民税が動くのは、役員報酬の給与所得控除と社会保険料控除の範囲だと考えています。

2つの形に共通する進め方

  1. 形を決める

    建物を移すなら売買契約と土地の賃貸借契約、管理を置くなら管理委託の契約を先に用意しておきましょう

  2. 法人を作る

    設立の登記のあと、税務署へ法人設立届出書を出し、年金事務所へ社会保険の適用の届出をする

  3. 毎年続ける

    役員報酬の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届、決算と申告が毎年続くと見込んでおきましょう

どちらの形も、契約書と届出を先にそろえてから動かすことをお勧めします。家賃収入と経費、役員報酬を入れると、建物を移す形の差額はこのサイトの家賃収入の法人化シミュレーションでその場で出せます。実行の際は、必ず事前にご相談ください。

出典

※本記事の金額は、45歳・青色申告特別控除65万円(事業的規模)・個人事業税5%・基礎控除のみ反映・東京都の令和8年度料率(国民健康保険は江東区)での概算です。マイクロ法人の表は、管理料を家賃の8%(年120万円)と置いた例です。

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※免責事項: 本コラムは一般的な情報のご提供を目的とするもので、個別の事案に対する税務上の助言ではありません。内容は執筆時点の法令等にもとづいており、その後の改正などにより現在の取り扱いと異なることがあります。正確な記載に努めていますが内容を保証するものではなく、本コラムの情報にもとづいて行われたご判断について、当事務所は責任を負いかねます。実際の手続きやご判断にあたっては、税理士等の専門家にご相談ください。

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