建物だけを法人に移す大家の法人化 — 土地は個人に残して地代を受け取る形と「土地の無償返還に関する届出書」
「家賃収入を法人に移したいが、土地まで法人に売るのは費用が重そうだ」— そう感じている大家の方は多いのではないでしょうか。土地は個人に残し建物だけを法人へ移す形の仕組みを整理しました。地代をどう決めるか、届出書を出すと何が変わるか、相続税の評価はどうなるかまで、原文の決まりに沿って書いています。
この記事の要点
- 登録免許税と不動産取得税は評価額に率をかけるので、評価額の大きい土地を動かさなければ一度きりの費用は建物の分だけで済む
- 法人が個人に払う地代は、相当の地代(更地価額のおおむね年8%。平成元年の通達で当分の間は年6%)より低くても、「土地の無償返還に関する届出書」を出せば権利金の認定課税を受けない
- 届出書が出ている土地は、相続税の評価で自用地の価額の80%になり、法人の借地権は0として扱う
なぜ建物だけを移すのか — 土地を動かすと一度きりの費用が跳ね上がる
個人の物件を法人の所有にするには、個人から法人へ売る形になります。このとき法人側には、登録免許税と不動産取得税がかかります。
登録免許税は、売買による所有権の移転なら不動産の価額の1,000分の20です(登録免許税法別表第一)。土地の売買の登記は、令和11年3月31日まで1,000分の15に軽減されています(租税特別措置法72条1項)。不動産取得税の標準税率は4%です(地方税法73条の15)。令和9年3月31日までに取得した土地と住宅なら不動産取得税は3%に軽減され、宅地は課税標準も価格の2分の1になります。
どちらも固定資産税評価額に率をかける税なので、評価額が建物より大きいことの多い土地まで動かすと、費用がそのぶん増えます。土地を個人に残しても、建物を法人が持てば家賃の全部が法人の収入になるので、この形が広く選ばれていると考えています。
| 項目 | 建物だけを法人へ | 土地も法人へ |
|---|---|---|
| 登録免許税・不動産取得税 | 建物の分だけ | 土地と建物の両方 |
| 個人側の譲渡所得の税 | 建物の譲渡益に対して | 土地と建物の譲渡益に対して |
| 個人に残る所得 | 地代(不動産所得) | なし |
| 相続税の評価 | 土地は個人の財産のまま(届出書があれば自用地の価額の80%) | 土地も法人の財産(株式の価額に反映) |
地代はいくらにするか — 相当の地代の目安と、届出書で何が変わるか
通常は権利金をやり取りする地域で、権利金なしに土地を貸し借りするときは、相当の地代が目安になります。相当の地代は、法人税基本通達13-1-2では土地の更地価額に対しておおむね年8%程度の額で、平成元年3月30日直法2-2が当分の間は「年6%」としています。
原則
権利金をやり取りせず、地代が相当の地代に満たないときは、その差の分の権利金を法人が贈与されたものとして認定課税を受けます。
法人税基本通達13-1-3
ただし
契約書で将来土地を無償で返すことを定め、土地の所有者と法人の連名で「土地の無償返還に関する届出書」を税務署に出せば、相当の地代に満たない地代でも権利金の認定は行われません。
法人税基本通達13-1-7
地代を払わない使用貸借の形でも届出書は出せますが、その土地は相続税の評価で貸宅地の減額がなく、自用地としての価額のままになります。
昭和60年6月5日直資2-58 個別通達 8の注
建物だけを法人に移すときの3段階
契約する
建物の売買契約と、土地の賃貸借契約を結ぶ。賃貸借契約書に「将来土地を無償で返す」ことを書く
届け出る
「土地の無償返還に関する届出書」を土地の所有者と法人の連名で、遅滞なく税務署へ出す
払い続ける
決めた地代を法人が毎年払い、個人は受け取った地代を不動産所得として申告する
個人の側で何が起きるか — 地代は不動産所得、消費税は非課税
個人が受け取る地代は不動産所得です(所得税法26条)。土地の貸付けは消費税が非課税なので、地代に消費税はかかりません(消費税法6条・別表第二)。個人に地代の分の所得が残るぶん、法人化で軽くなる額は少し動きます。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 法人が個人に払う地代(年額) | 法人税等(年額) | 個人のままとの差(年額) |
|---|---|---|
| 地代0万円 | 約218.7万円 | 約86.5万円軽い |
| 地代60万円 | 約198.6万円 | 約96.6万円軽い |
| 地代120万円 | 約180.5万円 | 約92.7万円軽い |
| 地代240万円 | 約152.7万円 | 約83.0万円軽い |
※差額は、個人のまま貸した場合の所得税・住民税・個人事業税と、法人化した場合の法人税等・個人に残る地代の所得税・住民税を合算した年額です。勤め先の給与にかかる税と社会保険料は前後で同じ額がかかるため、差額には影響しません。
弊所試算では、地代を増やすと法人税等は減りますが、個人側の所得税・住民税が増えるので、差はある地代から縮んでいきます。地代の額は、相当の地代を上限の目安に、固定資産税との釣り合いや個人の税率も見て決めることをお勧めします。ご自身の土地なら、いくらの地代がちょうどよいか、表の行に当てはめて考えてみましょう。
建物を売るときにかかる税 — 時価より安く売ると、みなし譲渡になる
建物を法人へ売る個人の側には、譲渡益(売った金額から、減価償却費相当額を引いた後の取得費と譲渡費用を引いた額)に譲渡所得の税がかかります。売った年の1月1日で所有期間が5年を超えていれば所得税15%と住民税5%、5年以下なら所得税30%と住民税9%です(租税特別措置法31条・32条)。相続や贈与で取得した建物は、被相続人や贈与者が取得した日から所有期間を数えます(租税特別措置法施行令20条3項3号)。
消費税では、土地の譲渡は非課税です(消費税法別表第二)。建物の譲渡は、事業者が行う資産の譲渡として課税の対象になります(消費税法4条1項)。ただし、売る個人が免税事業者(消費税を納める義務が免除されている事業者)なら、建物の譲渡についても消費税を納める義務はありません。
買う側の法人は、住宅として貸す建物のうち税抜1,000万円以上のもの(居住用賃貸建物)について、支払った消費税の仕入税額控除ができません(消費税法30条10項・消費税法施行令25条の5)。
相続税の評価はどうなるか — 土地は80%、法人の借地権は0
届出書が出ている土地は、相続税の評価では貸宅地として自用地の価額の80%で評価し、法人が持つ借地権の価額は0として扱います(昭和60年6月5日直資2-58 5・8)。土地を個人に残す形は、建物の家賃を法人に移しながら、土地の評価を2割下げる効果も持つということです。
ただし、被相続人が同族関係者となっている同族会社に貸し付けている土地には、昭和43年10月28日直資3-22の適用があります(昭和60年6月5日直資2-58 個別通達 8 なお書き)。この場合、その法人の株式の評価では、自用地の価額の20%に当たる借地権の価額を純資産価額に算入します(昭和43年10月28日直資3-22)。個人の側で引いた2割が法人の株式の側に乗るので、相続まで見据えて形を決めるなら、この点も入れて比べることをお勧めします。
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出典
- 国税庁 C1-63 土地の無償返還に関する届出
- 国税庁 法人税基本通達 第13章 借地権の設定等に伴う所得の計算(13-1-2・13-1-3・13-1-7)
- 国税庁 法人税の借地権課税における相当の地代の取扱いについて(平成元年3月30日直法2-2)
- 国税庁 相当の地代を支払っている場合等の借地権等についての相続税及び贈与税の取扱いについて(昭和60年6月5日直資2-58)
- 国税庁 相当の地代を収受している貸宅地の評価について(昭和43年10月28日直資3-22)
- 国税庁タックスアンサー No.5732 相当の地代及び相当の地代の改訂
- 国税庁タックスアンサー No.6225 地代、家賃や権利金、敷金など
- 国税庁タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁タックスアンサー No.7191 登録免許税の税額表
- 国税庁タックスアンサー No.3208 長期譲渡所得の税額の計算
- 国税庁タックスアンサー No.3211 短期譲渡所得の税額の計算
- e-Gov法令検索 法人税法施行令137条(土地の使用に伴う対価についての所得の計算・相当の地代)
- e-Gov法令検索 所得税法26条(不動産所得)・59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令169条(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法31条(長期譲渡所得の課税の特例)・32条(短期譲渡所得の課税の特例)・72条(土地の売買による所有権の移転登記等の税率の軽減)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法施行令20条(長期譲渡所得の課税の特例・所有期間の判定)
- e-Gov法令検索 地方税法73条の15(不動産取得税の税率)
- 東京都主税局 不動産取得税(税率・令和9年3月31日までの土地と住宅の特例)
- e-Gov法令検索 消費税法4条(課税の対象)・6条(非課税)・9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)・30条(仕入れに係る消費税額の控除)
- e-Gov法令検索 消費税法施行令25条の5(高額特定資産の範囲等)
- e-Gov法令検索 登録免許税法 別表第一
※本記事の金額は、給与収入600万円の会社員・45歳・青色申告特別控除65万円(事業的規模)・個人事業税5%・基礎控除のみ反映・東京都の令和8年度料率での概算です。地代を受け取る個人の側は青色申告特別控除10万円で計算しています。
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
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