法人を設立したあと、個人事業の廃業届を出すべきかどうかで手が止まる方は多いものです。答えは「個人事業を続けるかどうか」で分かれます。この記事では、全部を法人へ移す場合と、個人事業を残す二刀流の場合に分けて整理します。
法人を設立したあと、個人事業の廃業届を出すべきかどうかで手が止まる方は多いものです。答えは「個人事業を続けるかどうか」で分かれます。この記事では、全部を法人へ移す場合と、個人事業を残す二刀流の場合に分けて整理します。
この記事の要点
法人成りの手続きは、書類の書き方より先に、事業の設計を決めるところから始まります。
| 選ぶ形 | 個人側の手続きの方向 |
|---|---|
| 全部を法人へ移す | 廃業届などの廃業関係の手続きをして個人事業を閉じる |
| 一部の事業を個人に残す(二刀流) | 残す事業の確定申告を続ける。法人へ移してやめる事業があれば「一部」の廃業届を出す(所得税法229条) |
ご自身の場合は、どちらの形に近いでしょうか。どちらが正解ということではなく、事業の中身と社会保険の設計で決まります。二刀流の向き不向きは、次の記事に詳しくまとめています。
事業の全部を法人へ引き継ぐなら、個人側では廃業に伴う一連の手続きを行います。税務署へ出す廃業届の期限は、廃止した年分の確定申告期限までです(所得税法229条)。青色申告の承認は、業務の全部をやめた年の翌年分から効力を失います(所得税法151条2項)。
従業員に給与を払っていた場合は、給与支払事務所等の廃止届出書も、廃止から1か月以内に出します(所得税法230条)。廃業届を出すときはこの届出書を省けるとする現行の規定は、令和9年1月1日から削られます(所得税法施行規則99条)。
都道府県税事務所への個人事業税の事業廃止の申告と、消費税の課税事業者だった場合の事業廃止届出書も関わってきます。廃業した年分の個人事業税は、課税の見込額をその年分の必要経費に入れることができます(所得税基本通達37-7)。
どの書類が必要かは、それまでの個人事業の状況(青色申告の有無・消費税の立場・従業員の有無)によって変わります。提出先も税務署と都道府県に分かれるため、漏れが起きやすいところです。
なお、廃業した年の分も、翌年の期限までに確定申告が要ります(所得税法120条)。法人の最初の事業年度は設立登記の日から始まる(法人税基本通達1-2-1)ので、その日を境に売上・経費を個人と法人で分けて集計します。
原則
個人事業を続ける二刀流なら、個人の業務は続いているので廃業届は出さず、青色申告の承認もそのまま続きます。
所得税法151条2項
ただし
2つ以上の事業を営んでいて、そのうち一部を法人へ移してやめるときは、「一部」にレ印を付け、やめる事業を書いた廃業届を出します。
所得税法229条
個人に残した仕事が事業と呼べる規模でなく、雑所得と判断されると、青色申告の対象から外れます。
所得税法143条
廃業届を出さない二刀流でも、従業員への給与の支払いをやめて給与の支払事務所を廃止したときは、給与支払事務所等の廃止届出書を1か月以内に出します。
所得税法230条
この場合に大切なのは、法人へ移す事業と個人に残す事業の区分です。契約・請求・入金の名義がどちらの事業なのかを、取引ごとにはっきり分けておくことをお勧めします。同じ事業の売上を理由なく法人と個人に振り分けると、名義だけを分けた恣意的な売上の分散と見られ、実際に収益を受ける側に帰属するものとして課税されるおそれがあります(所得税法12条・法人税法11条)。
実務でつまずきやすいのは、全部移すつもりなのに廃業の手続きだけが宙に浮いているケースです。私は、設立の前後で次の3つを先に決めておくことをお勧めしています。
続けるなら続ける、閉じるなら閉じる。設立の前後で慌ただしい時期だからこそ、一度立ち止まってこの判断を先に固めてみてください。決まってしまえば、その後の手続きは素直に流れます。
法人化した年にやることは、廃業届のほかにも法人側の届出・社会保険の加入・初年度の税務と数多くあります。全体像は次の記事にまとめていますので、あわせてご覧ください。
ご自身の場合はどちらの形が合うのか、迷われたらお気軽にご相談ください。事業の中身を伺ったうえで、手続きの段取りまで一緒に整理いたします。
※必要な届出の種類・期限は個々の状況で異なります。本記事は全体像の説明で、個別の手続きは実行前にご確認ください。
出典
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
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