法人化を税理士に相談するとき用意する資料 — 確定申告書・売上の内訳・生活費の3つで試算が変わる
法人化を税理士に相談するとき、何を持っていけばよいのか。試算の精度を決めるのは、直近の確定申告書、今年の売上と経費の見込み、毎月の生活費の3つだと考えています。なぜその3つで結果が変わるのか、申告書の控えが手元に無いときの取り方、面談までに決めておくと話が早いことを整理します。
この記事の要点
- 持っていく資料は、次の3つがお勧めです。直近2年分の確定申告書(青色申告決算書つき)、今年の売上と経費の年間見込み、毎月の生活費の目安と家族の状況
- 法人化の損得は売上の額ではなく、利益の水準と役員報酬の置き方で決まる。報酬は原則として事業年度の間は同じ額で払う決まりなので(法人税法34条1項)、生活費が報酬の下限になる
- 申告書の控えが無ければ、国税庁の申告書等情報取得サービスで直近3年分をPDFで取れる(マイナンバーカードとe-Tax・無料)。ただし直近年分を申請できるのは原則として翌年5月1日以降
3つの資料 — それぞれ何に使うか
| 資料 | 試算で使うところ | 手元に無いときの代わり |
|---|---|---|
| 直近2年分の確定申告書(青色申告決算書つき) | 所得の水準と推移。青色申告特別控除・専従者給与・減価償却の有無、社会保険料や生命保険料の控除額 | 申告書等情報取得サービスで直近3年分のPDFを取る(e-Tax・マイナンバーカード・無料。直近年分の申請は原則として翌年5月1日以降) |
| 今年の売上と経費の年間見込み | 法人にしたあとの利益と、役員報酬の原資。前年と傾向が違えば結果が入れ替わる | 直近月までの実績を12か月分に引き直して仮に置いてください |
| 毎月の生活費の目安と家族の状況 | 役員報酬の下限と、扶養に入る家族がいるかで変わる社会保険の設計 | 口座の引き落としとカードの明細を3か月分持っていってください |
確定申告書は、所得の「水準」と「推移」の両方を見るために2年分が要ります。1年分だと、たまたま良かった年か悪かった年かが分かりません。青色申告決算書の売上・経費の内訳と減価償却費を見ると、法人に移したときの経費の形がつかめると考えています。
今年の見込みは概算で構いませんので、分かる範囲で書き出してみてください。法人化の試算は来年以降の数字で行うので、前年の実績より今年の傾向のほうが結果に効くと見ています。生活費は役員報酬の下限を決めるために使います。会社に残した利益は社長が自由に使えるお金ではないので、生活費は役員報酬の中からまかなう前提で考えましょう。
なぜその3つか — 損得は利益と報酬の置き方で決まる
法人化で大きく変わるのは、所得税・住民税が法人税等と役員報酬の給与所得の税に分かれることと、国民健康保険・国民年金が社会保険(健康保険・厚生年金)に替わることの2つだと見ています。どちらも役員報酬の額で動きます。報酬は事業年度の途中で原則変えられず(法人税法34条1項)、低すぎれば生活費が足りず、高すぎれば社会保険料と所得税が増えます。
だから試算には、利益の水準(確定申告書と今年の見込み)と、報酬の下限(生活費)の両方が要ります。売上の額だけでは、法人化の損得は決まりません。ご自身の場合、生活費は月いくらになるでしょうか。
数字を先に当ててみたい方は、このサイトの法人化シミュレーションで概算を出せます。
申告書の控えが無いとき — 申告書等情報取得サービス
令和7年1月から、税務署は申告書の控えに収受日付印を押さなくなりました。控えが無い、または紛失した場合は、e-Taxの申告書等情報取得サービスで、直近3年分の所得税の申告書と青色申告決算書のPDFを無料で取れます。ただし、直近年分の申告書を申請できるのは原則として翌年5月1日以降で、法定申告期限(翌年3月15日)を過ぎて提出した場合は、さらに時間がかかることがあります。マイナンバーカードと、読み取りができるスマホかカードリーダーが要り、PDFは取得から180日間ダウンロードできます。
e-Taxで申告した人は、受信通知と申告データでも足ります。書面で提出する人は、出したばかりの年分を原則として翌年5月1日より前にはこのサービスで申請できないので、提出前に自分で控えを作っておきましょう。会計ソフトで申告書を作った人は、ソフトの中に申告書のデータが残っていないかも確かめてみてください。
面談までに決めておくこと — 目的・時期・範囲・家族
1. 目的 — 税と社会保険の負担を減らしたいのか、取引先との契約や信用のためか、将来の退職金や相続まで見るか
2. 時期 — いつから法人で動きたいか。設立日と事業年度の区切りで、消費税の免税期間や役員報酬の決め方が変わる
3. 範囲 — 事業の全部を法人に移すか、一部を個人に残す二刀流にするか
4. 家族 — 配偶者や親を役員・従業員にするか、扶養に入れるかを、家族で先に話し合っておきましょう
この4つが決まっていなくても相談はできますが、決まっているほど面談の時間を試算に使えると考えています。手元の申告書を2年分そろえて、今年の見込みを書き出してみましょう。
まとめ — 資料は3つ、決めるのは報酬の置き方
法人化の相談には、直近2年分の確定申告書、今年の売上と経費の見込み、毎月の生活費の3つを中心に、国民健康保険料の通知もあわせて持っていくことをお勧めします。損得を決めるのは売上ではなく、利益の水準と役員報酬の置き方で、そのために3つの資料が要ります。控えが無ければ申告書等情報取得サービスで取れるので、資料が無いことを理由に相談を先送りする必要はありません。ただし、出したばかりの年分を申請できるのは原則として翌年5月1日以降なので、その前に相談するなら自分で作った控えを用意しましょう。
※法人化の前に: 法人化すると、赤字の年でも法人住民税の均等割(年7万円ほど)が毎年かかります。増える事務も決算・申告や設立時の届出だけではありません。毎月の給与計算と源泉所得税の納付、年末調整、社会保険の算定基礎届など、個人事業には無かった手続きが毎年続きます。保険料や税金の差だけでなく、この固定費と手間まで含めてご判断ください。
※有利・不利を比べるときは: 法人化の有利・不利は、保険料の削減額と法人の維持費の引き算だけでは決まりません。設立時の登録免許税などと、やめるときの解散・清算の費用は、毎年の維持費とは別にかかります。健康保険の傷病手当金・出産手当金や厚生年金の上乗せが付く一方、国民年金基金・付加年金は使えなくなります。法人へ移す事業には、契約・請求・業務内容の区分という実体が必要です。これらも同じ土俵に載せてご判断ください。
※この比較に含めた負担: 個人のままの金額は所得税・住民税・国民健康保険・国民年金・個人事業税(対象業種のみ)の合計、法人化後の金額は法人税など法人側の税金(赤字でもかかる均等割を含む)+社会保険料(会社負担と本人負担の両方)+社長個人の所得税・住民税の合計で試算しています。
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