個人事業の車・パソコン・在庫を法人に引き継ぐ方法 — 売る・貸す・現物出資の違いと、低額譲渡(70%・2分の1)の線
法人化のとき、個人で使っていた車・パソコン・在庫をどう会社へ移すか。方法は時価で売る、貸す、現物出資の3つで、どれを選ぶかで個人の税・法人の処理・手間が変わります。それぞれの仕組みと、安く売りすぎたときに働く2つの線、消費税と会社法の手続を整理します。
この記事の要点
- 移す方法は時価で売る(売買)、個人名義のまま貸す(賃貸)、設立時に出資する(現物出資)の3つで、多くの資産は売買、まだ手放したくない車や不動産は賃貸をお勧めします
- 安く売ると線を越える。在庫は通常の販売価額のおおむね70%未満の対価だと差額が個人の事業所得の収入になり(所得税法40条)、車などの固定資産は時価の2分の1未満だと時価で売ったものとされる(所得税法59条)
- 個人が消費税の課税事業者なら、事業用資産の売却は課税売上。法人側は買った価額を取得価額にし、中古の耐用年数で償却する(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条)
3つの方法 — 売買・賃貸・現物出資の違い
会社の損金になるのは、原則として会社の売上原価・費用・損失の額です(法人税法22条3項)。個人の物を会社で使うなら、会社が買い取るか、借りて使う分の対価を払う形に整えておきましょう。移し方は次の3つです。
| 方法 | 個人側の税 | 法人側の処理 | 向く資産 |
|---|---|---|---|
| 時価で売る(売買) | 車・備品は譲渡所得(特別控除50万円)、在庫は事業所得の収入 | 買った価額を取得価額にし、中古の耐用年数で減価償却 | 車・パソコン・在庫・工具 |
| 貸す(賃貸) | 賃料を申告する(不動産は不動産所得、車などの動産は雑所得) | 賃料を経費にする。資産は個人名義のまま | まだ手放したくない車、自宅や店舗の不動産 |
| 現物出資 | 資産の譲渡として譲渡所得 | 定款に財産と価額を記載する。500万円超は検査役の調査か、弁護士・税理士などの証明 | 設立時に資本金を現金以外で用意するとき |
売るときの価額 — 時価と、越えてはいけない2つの線
売買の価額は、時価に合わせることをお勧めします。車は買取相場や査定額、パソコンや工具は中古品の売買価格、在庫は通常の販売価額が目安になります。帳簿価額(未償却残高)で売る例が多いのですが、時価と大きく離れていれば次の線に当たります。
原則
車などの固定資産を売ったときは、譲渡の収入から取得費と譲渡費用を引いて譲渡所得を計算します。
所得税法33条3項
ただし
対価が時価の2分の1未満のときは、時価で譲渡したものとみなして譲渡所得を計算します。
所得税法59条1項2号・所得税法施行令169条
取得価額10万円未満の備品や、一括償却資産にした20万円未満の備品(業務の性質上基本的に重要なものを除く)を売ったときは、譲渡所得ではなく事業所得か雑所得になり、譲渡所得の特別控除は使えません。
在庫(棚卸資産)は譲渡所得ではなく事業所得の売上です(所得税法33条2項1号)。通常の販売価額のおおむね70%に満たない対価で売ると、差額のうち実質的に贈与と認められる額が個人の事業所得の収入に加わります(所得税法40条1項2号・所得税基本通達40-2・40-3)。型崩れや流行遅れで値引きが通常の商品なら、この規定は働きません(所得税基本通達40-2)。
貸す・現物出資する — 手間と向き不向き
貸す場合は個人名義のままで、法人は賃料を経費にします(法人税法22条3項)。賃料は同種の相場に合わせ、契約書を作っておくことをお勧めします。車や備品の貸付けも、反復・継続・独立して行えば事業としての資産の貸付けにあたり、個人が課税事業者なら賃料は消費税の課税売上になります(消費税法2条1項8号・4条1項・消費税法基本通達5-1-1)。手元の資産一覧を見て、法人が本当に買う必要がある物を数えてみてください。
現物出資は、設立時に資産を出資して資本金にする方法です。定款に出資する財産と価額を記載し(会社法28条1号)、価額の総額が500万円以下なら検査役の調査は要りません(会社法33条10項1号)。500万円を超えても、価額が相当であることについて弁護士・公認会計士・税理士などの証明(不動産は不動産鑑定士の鑑定評価も)を受ければ、調査は要りません(会社法33条10項3号)。ただし、発起人や設立時取締役などは、この証明をすることができません(会社法33条11項)。
個人側では、法人への現物出資も資産の譲渡にあたり、譲渡所得を計算します。対価が時価の2分の1未満なら、売買と同じく時価で譲渡したものとみなされます(所得税法59条1項2号・所得税法施行令169条)。現物出資(金銭以外の資産の出資)も消費税の資産の譲渡等に含まれ、個人が課税事業者なら課税売上になります(消費税法2条1項8号・4条1項・消費税法施行令2条1項2号)。設立の手続きが増えるので、少額の備品のためだけに選ぶ方法ではないと考えています。
引き継ぐ前に確かめる手順 — 一覧・時価・契約書・申告
1. 固定資産台帳から、移す資産の取得価額・未償却残高・取得日を一覧にする
2. 車は買取相場や査定額、備品は中古の売買価格、在庫は通常の販売価額で時価を決め、その根拠(見積書・相場の画面)を残す
3. 売買契約書(資産・価額・引渡日・支払方法)を個人と法人の間で作り、法人の口座から支払う
4. 一括償却資産のうち必要経費に入れていない分は、法人に引き継ぐ場合も、全て廃業した年分の事業所得の必要経費に入れる
5. 個人の確定申告で、車などの譲渡所得と在庫の売上を申告する
法人が買った中古資産は、使える残りの年数を見積もって耐用年数にでき、見積もりが難しいときは法定耐用年数と経過年数から計算する簡便法の年数を使えます(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項)。ただし、事業に使うために支出した資本的支出の額が取得価額の50%を超えるときは、簡便法の年数は使えません(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項)。
まとめ — 時価で売り、契約書を残す
個人の資産を法人へ移すなら、時価で売る形を基本にし、貸す・現物出資は向く資産に絞ることをお勧めします。在庫は70%、固定資産は2分の1という線を越えないこと、個人が課税事業者なら消費税の申告に含めること、契約書と時価の根拠を残すことの3つを確かめてみてください。
出典
- 国税庁 法人成りした場合の一括償却資産の必要経費算入
- 国税庁 譲渡所得の対象となる資産と課税方法
- 国税庁 所得税基本通達40-2(著しく低い価額の対価による譲渡の意義)・40-3(実質的に贈与をしたと認められる金額)
- 国税庁 消費税法基本通達5-1-1(事業としての意義)
- e-Gov法令検索 所得税法33条(譲渡所得)・38条(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)・40条(たな卸資産の贈与等の場合の総収入金額算入)・59条(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令139条(一括償却資産の必要経費算入)・169条(時価による譲渡とみなす低額譲渡の範囲)
- e-Gov法令検索 消費税法2条(定義)・4条(課税の対象)
- e-Gov法令検索 法人税法22条(各事業年度の所得の金額の計算の通則)
- e-Gov法令検索 会社法28条(定款の記載又は記録事項)・33条(定款の記載又は記録事項に関する検査役の選任)
- e-Gov法令検索 減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条(中古資産の耐用年数等)
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