ひとり社長は税理士に何を任せて何を自分でやるか — 記帳・給与・申告・届出の分担の決め方
「税理士には何を頼めばよくて、何を自分でやればいいのか」— 会社を作ったばかりのひとり社長の方には、仕事を3つに分けて考えるのをお勧めしています。資格のある人(税理士など)にしか頼めない仕事、自分でもできる仕事、自分でやると事故が起きやすい仕事の3つです。この分け方に沿って、分担の決め方を整理します。
この記事の要点
- 税理士業務は、税務代理・税務書類の作成・税務相談の3つ(税理士法2条1項)。行えるのは税理士・税理士法人と、国税局長に通知した弁護士・弁護士法人だけ(税理士法51条・52条)。無償で頼む場合も同じ
- 記帳(帳簿の入力)と届出書の提出は、自分でもできる。記帳は税理士業務そのものではなく、無資格の記帳代行にも頼める
- 給与の源泉徴収・納付・年末調整は、法律上は自分でできるが、期限と計算の間違いが起きやすい。ひとり社長が最初に任せるならここ
まず結論 — 3つに分けると分担は決まる
税理士の仕事は、税理士法で「税務代理」「税務書類の作成」「税務相談」の3つと定められています(税理士法2条1項)。この3つは、税理士・税理士法人と、国税局長に通知した弁護士・弁護士法人でなければ行えません(税理士法51条・52条)。報酬を払うかどうかは関係なく、無償で頼む場合も同じです。
| 区分 | 仕事 | 誰ができるか |
|---|---|---|
| 資格のある人にしか頼めない | 法人税・消費税の申告書の作成と提出の代理、税務調査の立会い、税務の相談 | 税理士・税理士法人(国税局長に通知した弁護士・弁護士法人を含む) |
| 自分でもできる | 日々の記帳、請求書・領収書の整理、設立や異動の届出書の提出、社会保険の手続き | 社長本人。記帳は無資格の記帳代行にも頼める |
| 自分でやると事故が起きやすい | 役員報酬の源泉徴収と納付、年末調整、源泉徴収票と給与支払報告書の提出 | 社長本人でもできる。弊所では最初に任せる範囲としてお勧めしています |
申告書を「自分で作る」のは税理士法の外です。税理士法が止めるのは、税理士でない他人に頼むことで、社長が自分の会社の申告書を自分で作って出すことはできます。いまの分担は、この表のどの段で線を引いているでしょうか。
税理士にしか頼めない3つ — 申告・調査・相談
税理士業務の3つは、税理士法2条1項に一号から三号まで並んでいます。
- 税務代理 — 申告や申請、税務署の調査への対応を本人に代わって行うこと
- 税務書類の作成 — 申告書や届出書を本人に代わって作ること(電子データで作る場合を含む)
- 税務相談 — 税額の計算や申告の内容について相談に応じること
原則
税理士業務は、税理士または税理士法人でなければ行えません。
税理士法52条
ただし
所属弁護士会を経て国税局長に通知した弁護士・弁護士法人は、その国税局の管轄区域内で税理士業務を行えます。
税理士法51条
会計帳簿の記帳の代行は税理士業務そのものではなく、税理士が税理士業務に付随して行える財務に関する事務とされているので、税理士でない人にも頼めます。
税理士法2条2項
知人の元経理担当者に申告書を作ってもらう、という形は、無償でも税理士法違反になります。税理士に頼むときは、日本税理士会連合会の税理士情報検索で登録を確かめられます。
自分でもできる仕事 — 記帳と届出
会社の帳簿の入力そのものは、税理士業務ではありません。会計ソフトに銀行とカードの明細を取り込み、内容を確かめて仕訳にする作業は、社長本人でも、税理士でない記帳代行にも頼めます。
届出書も同じです。設立の届出、役員報酬を決めたあとの届出、社会保険の新規適用届などは、様式に沿って自分で出せます。設立直後に出す届出の一覧と期限は、別の記事にまとめています。
自分でやると事故が起きやすい仕事 — 給与の源泉徴収と年末調整
法人は、役員報酬を払った時点で源泉徴収義務者になります(所得税法183条1項)。ひとり社長で従業員がいなくても、自分の役員報酬から所得税を天引きし、翌月10日までに納めます。
| 仕事 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設から1か月以内 | 所得税法230条 |
| 源泉所得税の納付 | 支払った月の翌月10日。納期の特例なら7月10日と翌年1月20日 | 所得税法183条・216条 |
| 年末調整 | その年最後の給与の支払いのとき | 所得税法190条 |
| 源泉徴収票・給与支払報告書 | 翌年1月31日まで | 所得税法226条・地方税法317条の6 |
原則
源泉徴収した所得税は、徴収した日の属する月の翌月10日までに国に納めます。
所得税法183条1項
ただし
給与の支払を受ける人が常時10人未満の会社は、申請して承認を受ければ、1月から6月分を7月10日、7月から12月分を翌年1月20日にまとめて納められます。
所得税法216条
納期の特例は、申請した月の翌月末日に承認があったものとみなされ、それまでの分は毎月納めたうえで、申請した月の翌月に徴収する分から適用されます。
所得税法217条5項
年末調整は、扶養控除等申告書を出している役員・使用人が対象で、給与が2,000万円を超える人は対象になりません(所得税法190条)。ひとり社長は、自分の年末調整を自分で計算することになります。計算そのものは会計ソフトや給与ソフトでできますが、控除の申告書の書き方や、翌年1月の源泉徴収票・給与支払報告書・法定調書合計表の提出まで含めると、1年に1回しかやらない作業の間違いが起きやすい場所です。
分担の決め方 — 3つの問いで線を引く
分担を決める3つの問い
役員報酬の仕訳を自分で切れるか
本人負担の社会保険料と源泉所得税を分けて仕訳できるなら記帳は自分で、できないなら記帳ごと任せるのをお勧めします
毎月の源泉納付と年1回の年末調整を自分で回せるか
回せるなら給与は自分で、1回でも期限を逃した経験があるなら任せるのが無難です
申告書と税務の相談は誰に頼むか
ここは税理士(または国税局長に通知した弁護士)にしか頼めない。記帳を自分でする場合も、決算と申告は税理士に頼む形をお勧めします
弊所では、記帳を自分でする社長にも、役員報酬の仕訳と源泉納付の期限だけは最初の3か月で一緒に確かめています。ここが回り始めると、税理士に払う料金も記帳を含めない範囲で済むようになります。
まとめ — 「頼めない仕事」から逆算する
税理士(国税局長に通知した弁護士を含む)にしか頼めないのは、申告書の作成と代理、税務調査への対応、税務の相談の3つです。記帳と届出は自分でもでき、給与の源泉徴収と年末調整は自分でできるが事故が起きやすい、という3つの分け方で、ひとり社長の分担は決まります。
頼む範囲を決めたら、料金は依頼する範囲と仕訳数で変わります。年間の料金の目安は、下の料金概算で確かめてみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.9204 にせ税理士にご注意
- 国税庁 タックスアンサー No.2798 弁護士や税理士等に支払う報酬・料金
- 国税庁 タックスアンサー No.2110 事業主がしなければならない源泉徴収
- 国税庁 タックスアンサー No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例
- 国税庁 タックスアンサー No.2662 年末調整のしかた
- 国税庁 質疑応答事例 給与等の支払を受ける者が常時10人未満であるかどうかの判定
- e-Gov法令検索 税理士法2条(税理士の業務)・51条(税理士業務を行う弁護士等)・52条(税理士業務の制限)
- e-Gov法令検索 所得税法183条(源泉徴収義務)・190条(年末調整)・204条(報酬・料金の源泉徴収義務)・216条(源泉徴収に係る所得税の納期の特例)・217条(納期の特例の承認申請)・226条(源泉徴収票)・230条(給与支払事務所等の開設等の届出)
- e-Gov法令検索 地方税法317条の6(給与支払報告書等の提出義務)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。弊所の分担の考え方は一つの目安で、会社の取引の内容や社長の経理の経験によって変わります。
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