事前確定届出給与の届出を忘れたら — 届けずに払った賞与の扱いと、翌期からの立て直し
「賞与は払った。でも、届出を出していなかった」— そんなふうに気づいたとき、会社と社長に何が起きるのか。届けずに払った賞与の扱い、今期にまだ打てる手、翌期からの立て直し方を順に整理します。
この記事の要点
- 届出をせずに払った役員賞与は、原則としてその全額が損金にならない。期限を過ぎてから届け出ても、その職務執行期間の賞与には効かない
- 損金にならなくても、本人の所得税、賞与の源泉徴収、社会保険の賞与支払届は届出のある賞与と同じように要る。毎月の役員報酬やほかの役員の賞与には影響しない
- 立て直しは翌期の定時株主総会から。決議の日から1か月を経過する日(会計期間の開始から4か月を経過する日が上限。申告書の提出期限の延長で月数の指定を受けた会社などは延びることがある)までに届け出て、届け出た日に届け出た額を払う
まず結論 — 届けずに払った賞与は、原則として全額が損金にならない
役員に払う給与のうち損金になるのは、定期同額給与・事前確定届出給与・業績連動給与のどれかに当たるものに限られます(法人税法34条1項)。臨時に払う賞与が事前確定届出給与に当たるには、原則として、支給日と金額の定めを所轄税務署長に届け出ていることが条件です(法人税法34条1項2号イ)。届出をしていなければ賞与は3つのどれにも当たらず、その全額が損金になりません。
損金にならない賞与の分だけ法人の課税所得が増え、法人税等も増えます。賞与を除いた法人の所得が500万円の会社で、弊所の試算ではこうなりました。
※この表の試算年度は未確認です。現行シミュレーションとの再照合が必要です。
| 届出なしの賞与の額 | 増える法人税等(年額) |
|---|---|
| 100万円 | 約23.2万円 |
| 200万円 | 約46.4万円 |
| 300万円 | 約69.5万円 |
※法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税を合わせた概算です。賞与を除いた所得の水準が違えば、増える額も変わります。
賞与の2割を超える額が、税金として上乗せになる計算です。思ったより大きい額ではないでしょうか。損金になるかは役員ごと・給与ごとに判定するので(法人税法34条1項)、届出のない賞与を払っても、定期同額給与の要件を満たす毎月の報酬はそのまま損金になり、届出をしたほかの役員の賞与にも影響しません。
届出を忘れても消えない手続き — 本人の課税・源泉徴収・社会保険
損金にならない賞与も、本人にとっては賞与という給与です。会社が余分な法人税等を払ったうえで、本人の税と保険料の手続きはいつもどおり要る、と考えてください。
| 項目 | 届出をした賞与 | 届出を忘れた賞与 |
|---|---|---|
| 会社の法人税等 | 届け出た日に届け出た額を払えば損金になる(法人税法34条1項2号) | 全額が損金にならず、その分の法人税等が増える(法人税法34条1項) |
| 本人の所得税 | 賞与は給与所得として課税される(所得税法28条1項) | 同じ。損金にならなくても本人の課税は変わらない |
| 源泉徴収 | 支払う際に賞与として源泉徴収し、翌月10日までに納める(所得税法183条1項・所得税基本通達183-1の2) | 同じ |
| 社会保険 | 支払った日から5日以内に賞与支払届を出す(健康保険法施行規則27条)。受けた賞与額に基づいて、その月の標準賞与額が決まる(健康保険法45条・厚生年金保険法24条の4) | 同じ |
| 毎月の役員報酬・ほかの役員の賞与 | 定期同額給与の要件を満たす毎月の報酬は損金になる(法人税法34条1項1号) | 影響しない |
源泉徴収の計算・納付と仕訳も、届出のある賞与と変わりません。届出を忘れたことで消える手続きは1つもなく、増えるのは会社の法人税等だけ、というのがこの表の読み方です。
期限を過ぎてから届け出ても、その期の賞与には効かない
届出の期限は、株主総会の決議の日から1か月を経過する日です。決議の日が職務の執行を開始する日より後なら、その開始の日から数えます。会計期間の開始の日から4か月(確定申告書の提出期限の延長で月数の指定を受けている会社は、その指定の月数に3を加えた月数など)を経過する日が上限です(法人税法施行令69条4項1号)。新しく設立した会社がその設立のときに始まる職務について定めた場合は、設立の日から2か月を経過する日です(法人税法施行令69条4項1号)。
3月決算の会社が5月25日の定時株主総会で決めた場合
- 5月25日定時株主総会で支給日と金額を決議
- 6月25日決議の日から1か月を経過する日
役員の職務の執行は、一般に定時株主総会から次の定時株主総会までが1つの期間です。あとから臨時株主総会を開いて賞与を決め直しても、職務の執行がすでに始まっていれば、期限はその開始の日から1か月のまま動きません(法人税法施行令69条4項1号)。期限のあとに出した届出では、その職務執行期間の賞与は事前確定届出給与になりません。
ただし、役員の地位や職務の内容が大きく変わったなどの事情(臨時改定事由)が生じ、それによってその役員の職務について支給日と金額を定めた場合は別です。上の期限と、臨時改定事由が生じた日から1か月を経過する日のうち、遅い日が届出の期限になります(法人税法施行令69条4項2号)。臨時改定事由が生じる直前の職務について、その役員にすでに支給日と金額の定めがあった場合は、この扱いから外れます(法人税法施行令69条4項2号)。
届出がなくても損金になりうる賞与 — 例外は2つ
原則
役員に払う臨時の賞与は、届出をしていなければ損金になりません。
法人税法34条1項
ただし
使用人兼務役員に払う従業員としての職務に対する賞与は、この損金不算入の対象から外れ、ほかの従業員と同じ時期に払えば届出がなくても損金になります。ほかの従業員の賞与と違う時期に払った分は、不相当に高額な給与として損金になりません。
法人税法34条2項・法人税法施行令70条3号
同族会社に当たらない会社が、毎月の給与を受けない役員に金銭で払う給与は、届出がなくても事前確定届出給与になります。
法人税法34条1項2号イ
使用人兼務役員に当たるのは、部長・課長など使用人としての職制上の地位を持ち、常時使用人としての職務に従事する役員に限られます(法人税法34条6項)。代表取締役、副社長・専務・常務など、合同会社などの業務を執行する社員、会計参与・監査役などは使用人兼務役員になれません(法人税法施行令71条1項)。同族会社で持株の要件を満たす役員もなれず、持株は本人と配偶者の分を合わせて見るので、株を持たない配偶者の役員も当たることがあります(法人税法施行令71条1項5号)。
一人会社の社長の賞与に1つ目の例外は使えず、2つ目の例外で同族会社かどうかは、定めをした日(新しく設立した会社が設立のときに始まる職務について定めた場合は設立の日)の現況で判定します(法人税法施行令69条6項)。
今期にまだ打てる手 — 支給日の前か、期首から3か月以内か
まだ払っていないなら、選べる道があります。1つ目は、今期は払わないという選択です。株主総会で決めた賞与でも、支給期が来る前に本人が辞退の意思を明示して辞退したものには、本人の所得税は課税されません(所得税基本通達28-10)。
2つ目は、賞与の代わりに毎月の報酬を上げる道です。会計期間の開始から3か月を経過する日までに毎月の報酬の額を改定し、改定後の各支給時期の額をそろえれば、定期同額給与として損金になります(法人税法施行令69条1項1号イ)。
この3か月は、確定申告書の提出期限の延長で月数の指定を受けている会社などでは延びることがあり、毎年決まった時期の改定が3か月より後になる特別の事情があれば、その時期の改定も認められます(法人税法施行令69条1項1号イ)。それ以外で期首から3か月を過ぎると、役員の地位や職務の内容が大きく変わったなどの事情(臨時改定事由)がない限り、この道は使えません(法人税法施行令69条1項1号ロ)。
払ってしまった賞与は、損金にならないことを前提に決算・申告で所得に加算し、翌期の設計に時間を使うことをお勧めします。
翌期からの立て直し — 定時株主総会・届出・支給の3段階
翌期からは、定時株主総会を起点に3段階で組み直します。
翌期からの立て直し
定時株主総会で決議する
役員ごとに支給日と金額を決め、議事録を残す(合同会社は社員の決定)
1か月以内に届け出る
決議の日から1か月を経過する日(会計期間の開始から4か月を経過する日が上限)までに、届出書と付表を所轄税務署へ出す(法人税法施行令69条4項1号)
届け出た日に届け出た額を払う
日付も金額も届出のとおりに払う。届け出た額と違う額を払うと、原則としてその支給額の全額が損金にならない(法人税基本通達9-2-14)
夏と冬のように同じ職務執行期間に2回以上払う定めを届け出たときは、原則としてその期間の支給の全部が届出どおりだったかで判定します。1回でも届出と違えば、届出どおりに払ったほかの回も含めて全額が損金になりません。ただし、当期の支給は届出どおりで翌事業年度の支給だけが違ったときは、損金にならないのは翌事業年度に払った分だけとして差し支えないとされています。
届出書・付表1と、株主総会議事録(合同会社は同意書)の文面は、このサイトの道具でその場で作れます。このサイトの道具では、届出の期限も一緒に計算できます。届け出たら、受付印のある控え(e-Taxなら受信通知)を議事録と一緒に保管しておきましょう。
届出を忘れた期は、賞与の分だけ法人税等を余分に払う結果になりますが、毎月の報酬やほかの役員の賞与まで崩れるわけではありません。翌期の月給と賞与の配分で社会保険料と税がどう変わるかは、下のシミュレーションで試してみてください。賞与の設計と届出の段取りは、実行の前にご相談ください。
出典
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等・届出期限・やむを得ない事情)・70条(過大な役員給与の額)・71条(使用人兼務役員とされない役員)
- e-Gov法令検索 所得税法28条(給与所得)・183条(源泉徴収義務)
- 法人税基本通達9-2-14(事前確定届出給与の意義)
- 所得税基本通達28-10(給与等の受領を辞退した場合)
- 所得税基本通達183-1の2(賞与の意義)
- 国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 事前確定届出給与に関する届出(C1-23)
- 国税庁 質疑応答事例 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)
- 国税庁 質疑応答事例 「事前確定届出給与に関する届出書」を提出している法人が特定の役員に当該届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い
- e-Gov法令検索 健康保険法施行規則27条(賞与額の届出)
- e-Gov法令検索 健康保険法45条(標準賞与額の決定)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法24条の4(標準賞与額の決定)
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