法人化の損得を考えるとき、見落とされがちなのが「持っているだけでかかるお金」です。法人化で本当に手残りが増えるのか、法人だけに生じる費用と、会社・本人を合わせた世帯負担を分けて確認してみましょう。
法人化の損得を考えるとき、見落とされがちなのが「持っているだけでかかるお金」です。法人化で本当に手残りが増えるのか、法人だけに生じる費用と、会社・本人を合わせた世帯負担を分けて確認してみましょう。
この記事の要点
法人住民税の均等割は、資本金等の額や従業者数に応じた定額の税金です。東京都特別区内の1つの区にだけ事務所等が1か所あり、資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下・12か月事業年度の法人を例に見てみましょう。
地方税法52条1項1号ホの年額2万円(道府県分)と312条1項1号ホの年額5万円(市町村分)を、734条2項により都が都民税として課す構成で、標準税率ベースでは年7万円です。赤字の年も売上ゼロの年もかかります。
複数の区・23区外・他県にも事務所等があれば、所在する自治体の数と場所によって金額の組み方が変わります。事務所等を有していた月数が12か月未満のときは、地方税法52条3項により暦に従って月数を数え、1か月未満のときは1か月とし、1か月に満たない端数は切り捨てて月数按分します。23区内だけなら東京都の都税条例、23区外・他県にも事務所等があれば各所在自治体の条例で実額を確認してください。
法人住民税の均等割は個人事業には生じません。法人を持った瞬間から始まる、いちばん分かりやすい維持費です。
この試算は、社長が経常的に役員報酬を受ける使用関係にあり、健康保険・厚生年金の被保険者となる法人を前提にします。役員報酬が月4.5万円の例では、健康保険+厚生年金等の会社負担と本人負担の合計は年約27.8万円(40〜64歳・弊所試算)、40歳未満なら年約26.7万円です。
この年額は、令和8年4月分の料率で計算した月額を12倍した比較用の年換算です。内訳は労使折半の健康保険(介護保険を含む)・厚生年金・子ども・子育て支援金(0.23%)に、会社だけが全額負担する子ども・子育て拠出金(厚生年金の標準報酬月額×0.36%・本人負担なし)を加えたものです。期の途中で40歳になる年は、40歳に達した月分から介護保険料が加わるので12か月一律にはなりません。年度途中の料率改定・賞与の有無・本人負担分の端数処理で、実際に納付する年額とは異なります。月4.5万円の例でも、健康保険は標準報酬月額58,000円、厚生年金は88,000円という下限等級で計算されるため、報酬額には比例しません。
月30万円なら会社+本人で年約103.5万円です(40歳未満・弊所試算)。
この合計のうち本人負担分は役員報酬から控除されるので、全額が法人だけの追加費用ではありません。社会保険料は「入れ替わる世帯負担」として、会社負担・本人負担・切替前の国民健康保険と国民年金を同じ地域・所得条件で並べて比べます。
法人税の確定申告は、原則として各事業年度終了の日の翌日から2か月以内に毎期必要です(法人税法74条1項)。法人都民税も、法人税の申告書の提出期限までに申告納付します(地方税法53条1項)。所得に連動する法人事業税(この記事の前提の法人のように資本金の額1億円以下で、払込資本50億円超の特定法人と完全支配関係がないなら所得割だけで、付加価値割・資本割はありません)も毎期の申告納付の対象で、赤字ならゼロになります。赤字でも均等割の申告納付は残り、税理士へ頼まない場合でも、申告そのものはなくなりません。
税理士に頼む場合の費用は事務所によりますが、弊所では取引の少ない法人なら記帳から決算・申告まで含めて月額2.5万円(税抜)でお引き受けしています。
役員報酬を支払う法人では、給与計算、源泉徴収・納付、年末調整や社会保険の届出も継続的な事務になります。会計ソフトや外注費などは利用する契約によって変わるため、税金・保険料とは分けて見積もります。消費税の申告など、その法人の取引に応じて必要となる手続きも確認しておきましょう。
| 項目 | 金額と見方(年額) |
|---|---|
| 法人住民税の均等割(法人固有・定額) | 7万円(標準税率ベース。実額は東京都の都税条例確認) |
| 社会保険料の会社負担分(報酬月4.5万円・40〜64歳) | 約14.1万円(法人の費用。会社だけが負担する拠出金を含む) |
| 社会保険料の本人負担分(同上) | 約13.7万円(役員報酬から差し引かれる世帯負担。会社負担分と合わせて約27.8万円) |
税理士報酬や会計ソフト代は法令上の義務ではない任意の費用なので、この表には入れません。弊所の月額2.5万円(税抜)の例も、上の3行とは別枠で見積もります。会社負担分は法人の費用、本人負担分は役員報酬から差し引かれる世帯負担なので、3行を一つの「法人維持費」として合計しません。法人固有の負担と世帯負担を分け、個人事業側の負担と同じ条件で比較します。
ご自身の数字ではどの負担が重いか、表の順に比べてみましょう。
上の表の負担は、株式会社でも合同会社でも同じです。会社の形で違うのは、金額ではなく次の義務の有無です。
| 義務 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 毎期の決算公告(会社法440条1項) | あり(掲載料は公告方法の選び方で生じない形にもできる) | なし |
| 任期満了に伴う重任登記(会社法332条) | あり(非公開会社は定款で任期を最長10年にできる) | なし(氏名・住所などに変更が生じたときの変更登記だけ) |
| みなし解散(会社法472条1項) | 対象(最後の登記から12年) | 対象外 |
株式会社ではこれに伴う費用(官報掲載料や登録免許税)が生じますが、その年額は選ぶ公告方法によって変わり、本記事の資料では確定できません。株式会社の決算公告は、官報に載せるなら年額は枠数で決まり、貸借対照表をウェブページで継続して提供する措置をとれば掲載料は生じない代わりにそのURLが登記事項になって既存の会社は変更登記(登録免許税1件3万円)が要り、公告方法そのものを電子公告にするなら定款変更と公告方法の変更登記が要り要旨ではなく全文を載せる、という3つの選び方があります。
法人化の前なら、個人事業のまま青色申告を続ける案も並べます。すでに法人がある場合の休業・解散は、本記事の共通維持費とは別に確認してください。株式会社か合同会社かで変わる義務は、前の節の表のとおりです。
法人化の判断では、法人固有の維持費だけでなく、会社負担と本人負担を合わせた世帯全体の負担も確認します。
弊所では、法人固有の費用と世帯負担を分け、個人事業側の国民健康保険・国民年金と同じ地域・所得条件で比べて法人化の判断材料をお出ししています。まずは下のシミュレーションで概算を確認し、社会保険料は世帯負担として別に比べてください。株式会社を選ぶなら、決算公告の方法(ウェブページでの継続開示・電子公告・官報)も先に決めておきます。
※本記事の金額は、東京都特別区内の1つの区にだけ事務所等が1か所ある資本金等の額1,000万円以下・従業者50人以下・12か月事業年度の法人、役員報酬を受け社会保険の被保険者となる社長おひとりの前提での概算です。健康保険・介護保険料率は令和8年3月分から、子ども・子育て支援金(0.23%・労使折半)は令和8年4月分からの東京支部料率、厚生年金は18.3%、子ども・子育て拠出金は会社が全額負担する0.36%を使い、年額は令和8年4月分の月額を12倍した比較用の換算です。役員報酬ゼロの場合は扱っていません。
※有利・不利を比べるときは: 法人化の有利・不利は、保険料の削減額と法人の維持費の引き算だけでは決まりません。健康保険の傷病手当金・出産手当金や厚生年金の上乗せが付く一方、国民年金基金・付加年金は使えなくなります。国民健康保険は家族の人数分かかりますが、社会保険の被扶養者には保険料がかかりません。法人へ移す事業には、契約・請求・業務内容の区分という実体が必要です。これらも同じ土俵に載せてご判断ください。
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