個人事業主の消費税はいくらから — 売上1,000万円の判定の仕方、納め始める年、申告方式の選び方を実額で整理
「売上が1,000万円を超えたら消費税がかかる」とは聞くけれど、いつから、いくら納めるのか。個人事業主の方に向けて、判定の仕方・納め始める年・申告方式の選び方を、弊所の実額試算とあわせて整理します。
この記事の要点
- 判定は「2年前(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えたか」。超えた年の翌々年から消費税を納める(相続で事業を引き継いだ人には別の判定がある)
- 前年の1月〜6月の売上か給与が1,000万円を超えた場合と、インボイス登録をした場合は、1,000万円以下でも納める
- 税込1,320万円の売上のサービス業なら、本則課税で年90万円・簡易課税で年60万円の計算。方式の選択と届出の期限が納税額を左右する
判定の物差し — 2年前の売上が1,000万円を超えたか
消費税を納める義務があるかどうかは、その年の基準期間の課税売上高で判定します。個人事業主の基準期間はその年の前々年で、課税売上高が1,000万円以下なら納税義務が免除されます(消費税法基本通達1-4-1)。
この課税売上高は、消費税を含まない税抜きの金額で数え、返品・値引き・割戻しで返した額(税抜き)は差し引きます(消費税法基本通達1-4-2)。ただし、前々年に免税事業者だった方は、その年の売上に消費税がかかっていないので、売上として受け取った(受け取るべき)金額の全額で数えます(消費税法基本通達1-4-5)。
「超えた年からすぐ納める」のではなく、超えた年の翌々年から納める、という時間差がある仕組みです。たとえば令和6年の売上が初めて1,000万円を超えた方は、令和8年分から課税事業者になります。
なお、相続で事業を引き継いだ方は、ご自身の前々年の売上が1,000万円以下でも、亡くなった方の売上によって納税義務が生じることがあります(消費税法10条)。
| 見る期間 | 何を見るか | 超えると |
|---|---|---|
| 前々年(基準期間) | 課税売上高が1,000万円を超えたか | 「見る期間」の翌々年から課税事業者 |
| 前年1月〜6月(特定期間) | 課税売上高か給与等の支払額が1,000万円を超えたか | 「見る期間」の翌年から課税事業者 |
| インボイス登録の有無 | 適格請求書発行事業者の登録をしたか | 登録日から課税事業者 |
1,000万円以下でも納める場合 — 特定期間とインボイス登録
前々年が1,000万円以下でも、前年の1月1日から6月30日まで(特定期間)の課税売上高が1,000万円を超えると、その年は納税義務が免除されません(消費税法9条の2第1項)。
ここで大事なのが、特定期間の判定は課税売上高の代わりに、その半年間に支払った給与等の額で行ってもよいという決まりです(消費税法9条の2第3項)。どちらで判定するかは事業者が選べるので、上半期の売上が1,000万円を超えていても、同じ半年間に支払った給与等が1,000万円以下なら、給与等の支払額で判定して免税のままでいられます。個人事業主で1月から6月の半年間に1,000万円を超える給与を払う方は多くないため、特定期間の判定で課税事業者になる個人事業主は実際には限られ、納め始める年を決めるのは多くの場合、前々年の売上です。
給与等の支払額で判定するときは、次の3つに気をつけてください。
・数えるのは所得税のかかる給与・賞与で、実際に支払った額。未払いの分と、通勤手当のような非課税の手当は入れない(消費税法基本通達1-5-23)
・事業主ご自身の生活費(事業主貸)は給与ではないので数えない
・売上と給与等の両方が1,000万円を超えた年は、どちらで判定しても超えるので免税にはならない
もう一つが、インボイス(適格請求書発行事業者)の登録です。基準期間や特定期間の判定は過去の売上を見て納め始める年を決めるので、超えた時点と納税が始まる時点に時間差があります。インボイス登録にはこの時間差がなく、登録した事業者は売上の大きさにかかわらず免税になりません(消費税法基本通達1-4-1の2)。免税事業者が登録した場合は、登録通知に記載された登録日からその日以後の売上について課税事業者になります(令和11年9月30日までの日を含む課税期間に登録する場合の経過措置・消費税法基本通達21-1-1)。取引先から求められて登録した方は、この経路で納税が始まっています。
納め始める年に備える — 手順と届出
免税から課税に変わる年は、届出と資金の準備が要ります。
課税事業者になる年に向けて
判定する
前々年の売上・前年上半期の売上と給与・インボイス登録の3つで、どの年から課税事業者になるかを確かめる
届け出る
基準期間の売上で課税事業者になるときは「消費税課税事業者届出書(基準期間用)」を速やかに提出する(消費税法57条1項)
方式を選ぶ
簡易課税を使うなら、原則として前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出す(消費税法37条)。本則課税の年に一定額以上の資産(調整対象固定資産・高額特定資産)を買った後は、しばらく届出書を出せない期間がある(消費税法37条3項)。免税事業者がインボイス登録で課税事業者になる年は、令和11年9月30日までの登録なら、その年のうちに出せば足りる経過措置がある。2割特例を使った翌年に簡易課税へ移る場合は、翌課税期間中の届出で足りる特例が2割特例の創設時(令和5年度税制改正)からあり、令和8年度税制改正でその期限が翌年の確定申告期限まで延びた
資金を分ける
売上に含まれる消費税分を毎月分けておく。申告と納付は翌年3月末
免税だった年に仕入れて課税事業者になった年の初めに残っている在庫は、その在庫にかかる消費税を課税事業者になった年の仕入税額控除に加える調整が受けられます(本則課税で申告する年に限られ、簡易課税や2割特例の年は対象外です)。国税庁がその計算方法を示していますので、在庫の多い業種の方は出典からご確認ください。
いくら納めるか — 税込1,320万円・サービス業の実額
売上が1,000万円を超えて課税事業者になった個人事業主の例で見てみましょう。税込の年間売上1,320万円、消費税のかかる経費が税込330万円、第5種(サービス業)の令和8年分です。
※この表の試算年度: 令和8年の消費税制度。
| 申告方式 | 納付見込額(年額) |
|---|---|
| 本則課税(実際の経費から計算) | 90万円 |
| 簡易課税(第5種・みなし仕入率50%) | 60万円 |
経費の少ないサービス業では、実際の経費から計算する本則課税より、売上の消費税の50%を仕入分とみなす簡易課税のほうが軽くなりました。年30万円の差は、方式の選択と届出の期限だけで決まります。
方式の選び方 — 業種と経費の割合で決まる
本則課税は実際に払った消費税を差し引く方式で、経費や設備投資の多い業種に向きます。簡易課税は業種ごとのみなし仕入率で仕入分を決める方式で、経費の少ない業種に向きます。いったん簡易課税を選ぶと原則として2年間は続けることになります(消費税法37条)。
まとめ — 「2年前の売上」で時期が決まり、「方式」で額が決まる
個人事業主の消費税は、前々年の売上1,000万円で納め始める年が決まり、本則・簡易のどちらを選ぶかで納める額が決まります。あなたの売上と業種なら、どの方式がいちばん軽いでしょうか。
下のシミュレーションでは、年分・売上・経費・業種を入れると、本則課税・簡易課税・2割特例・3割特例の納付見込額を並べて確かめられます。届出の期限は年によって違いますので、課税事業者になる見込みが出た時点でお早めにご相談ください。
※本記事の金額は、標準税率10%の売上・経費だけで計算した概算です(国税7.8%と地方消費税2.2%の合計・百円未満切捨て)。軽減税率や年の途中の開業は反映していません。
出典
- 国税庁 納税義務の免除
- 国税庁 国内取引の納税義務者
- 国税庁 特定期間の課税売上高による免税事業者の判定
- 国税庁 免税事業者が課税事業者となった場合等の棚卸資産に係る仕入控除税額の調整
- 国税庁 簡易課税制度
- 国税庁 2割特例の特設ページ
- 国税庁 消費税法基本通達 第1章第4節 納税義務の免除(1-4-1 納税義務が免除される課税期間・1-4-1の2 適格請求書発行事業者の場合・1-4-2 基準期間の課税売上高に含まれる範囲・1-4-5 基準期間が免税事業者であった場合の課税売上高)
- 国税庁 消費税法基本通達 第21章 経過措置(21-1-1 免税事業者に係る適格請求書発行事業者の登録申請に関する経過措置)
- e-Gov法令検索 消費税法9条(小規模事業者に係る納税義務の免除)・9条の2(特定期間)・37条(簡易課税)・57条(届出)・57条の2(適格請求書発行事業者の登録)
- e-Gov法令検索 消費税法施行令20条(事業を開始した日の属する課税期間等の範囲)
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