消費税の簡易課税と本則課税はどっちが得か — みなし仕入率と経費の割合で決まる分かれ目を実額で示す
「簡易課税にしたほうが得なのか、実額のほうがいいのか」— そんな迷いをお持ちの個人事業主の方に向けて、2つの方式の違いと分かれ目を、弊所の試算で整理しました。
この記事の要点
- 簡易課税は、売上の消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けた額を引く方式。経費の実額は関係ない
- 「消費税のかかる経費が売上に占める割合」がみなし仕入率より低ければ簡易課税、高ければ本則課税が軽くなる
- 売上660万円・第5種の試算では、経費が330万円未満なら簡易課税(納付30万円)のほうが軽い
2つの方式の違い — 「引く額」の出し方が違う
消費税の納付額は、売上の消費税から「引ける額(仕入控除税額)」を引いて決まります。本則課税は、仕入れや経費で実際に払った消費税を引きます。簡易課税は、実際の経費とは関係なく、売上の消費税に事業区分ごとのみなし仕入率を掛けた額を引きます(消費税法37条・消費税法施行令57条)。
つまり、簡易課税の納付額は売上だけで決まります。経費が多くても少なくても、納める額は同じです。
みなし仕入率 — 6つの事業区分
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業(仕入れた商品をそのまま事業者に売る) |
| 第2種 | 80% | 小売業(仕入れた商品をそのまま消費者に売る) |
| 第3種 | 70% | 製造業・建設業・農業など |
| 第4種 | 60% | 飲食店業など |
| 第5種 | 50% | サービス業・運輸通信業・金融保険業 |
| 第6種 | 40% | 不動産業 |
デザイナー・エンジニア・ライター・コンサルタントなど、フリーランスの多くは第5種です。2種類以上の事業がある方は、本来は事業ごとに区分して計算します。
分かれ目 — 経費の割合がみなし仕入率を下回るか
判断の物差しは1つです。消費税のかかる経費が売上の何割かを、自分の事業区分のみなし仕入率と比べます。経費の割合がみなし仕入率より低ければ簡易課税のほうが軽く、高ければ本則課税のほうが軽くなります。
第5種(みなし仕入率50%)なら、消費税のかかる経費が売上の5割未満かどうかが分かれ目です。人件費・社会保険料・保険料・税金・借入の利息には消費税がかからないので、この経費の割合には入りません。
実額で比べる — 売上660万円・第5種の例
税込の年間売上660万円・第5種(サービス業)の個人事業者で、消費税のかかる経費の額だけを変えて比べてみましょう。
※この表の試算年度: 令和9年の消費税制度。
| 消費税のかかる経費(税込) | 本則課税(年額) | 簡易課税(年額) |
|---|---|---|
| 55万円 | 55万円 | 30万円 |
| 110万円 | 50万円 | 30万円 |
| 220万円 | 40万円 | 30万円 |
| 330万円 | 30万円 | 30万円 |
経費が330万円(売上の5割)でちょうど同額になり、それより少なければ簡易課税が軽い結果です。経費110万円の場合、簡易課税のほうが年20万円少なくなります。
逆に経費が売上を上回る年、たとえば大きな設備を買った年は、本則課税なら払いすぎた消費税の還付を受けられます。同じ売上660万円で経費が770万円なら、本則課税で10万円の還付です。簡易課税では還付は生じません。
簡易課税を選ぶ前に知っておく3つの制約
- 届出は課税期間が始まる前まで。個人事業者なら、使いたい年の前年12月31日までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を出します(2割特例・3割特例を使った翌年は、その年の申告期限まででよい特例があります)
- いったん選ぶと、原則2年間はやめられません。翌年に設備投資があっても本則課税に戻せず、還付も受けられません
- 基準期間(2年前)の課税売上高が5,000万円を超える年は、届出を出していても簡易課税は使えません
2年先まで見通せているでしょうか。目先の1年が有利でも、翌年に大きな仕入れや設備投資の予定があるなら、簡易課税は慎重に判断します。
令和9年分・10年分は3割特例も並べて考える
インボイス登録を機に課税事業者になった個人事業者の方は、令和9年分と令和10年分に限り、届出なしで「3割特例」も選べます。第4種〜第6種の方は、簡易課税より3割特例のほうが軽くなるのが通常です。逆に第1種・第2種の方は簡易課税のほうが軽く、届出を出す価値があります。
まとめ — 分かれ目は「経費の割合」、決め手は「2年先の予定」
簡易課税か本則課税かは、経費の割合とみなし仕入率の比較でほぼ決まり、あとは2年間の縛りに耐えられるかです。下のシミュレーションで、あなたの売上・経費・業種を入れて、方式ごとの納付額を並べてみてください。届出の期限までその場で確認できます。
※本記事の金額は、標準税率10%の売上・経費だけで計算した概算です(国税7.8%と地方消費税2.2%の合計・百円未満切捨て)。軽減税率・売上の返品や値引き・年の途中の開業は反映していません。
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