開業1年目の確定申告 — 開業届は翌年3月15日まで、青色の申請は開業から2か月以内。開業前の支出は「開業費」で落とす
開業した年の確定申告は、申告の中身より先に「届出の期限」で差がつきます。今年、個人事業を始めた方に向けて、開業届と青色申告承認申請書の期限、そして開業前に使ったお金(開業費)の落とし方を、条文に沿って整理します。
この記事の要点
- 開業届は、開業した年分の確定申告期限までに出せば足ります(所得税法229条)。令和8年に開業した方なら、期限は2027年3月15日です
- 開業した年分から青色申告を使うには、承認申請書を開業の日から2か月以内(1月1日〜15日の開業はその年の3月15日まで)に出す必要があります(所得税法144条)。開業届より先に締まります
- 開業前に開業準備のために特別に支出した費用は「開業費」として、60か月の均等償却か、落とす年と額を自分で決める任意償却で必要経費にします(所得税法施行令7条1項1号・137条)
2つの期限 — 開業届は翌年3月15日まで、青色の申請は開業から2か月以内
開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)は、新たに事業を始めた事実があった日の属する年分の確定申告期限までに、税務署長へ出します(所得税法229条)。令和8年分の確定申告期限は2027年3月15日(月)なので(所得税法120条1項)、今年開業した方の開業届はこの日までに出せば足ります。
青色申告の承認申請書は、別の期限で動きます。青色で申告したい年の3月15日までが原則で、その年の1月16日以後に新たに業務を始めた場合は、業務を始めた日から2か月以内です(所得税法144条)。開業した年分から青色にしたいなら、開業届より先にこちらの期限が来ます。
開業した年分から青色申告を使うには(1月16日以後に開業した場合)
- 開業の日起点
- 2か月以内青色申告承認申請書を税務署へ(所得税法144条)。開業届もこのときに一緒に出せる
- 翌年3月15日開業届の期限(所得税法229条)と、開業した年分の確定申告・納付。青色の申請がここまでずれ込むと、青色は翌年分から
| 書類 | 期限 | 根拠 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 開業した年分の確定申告期限まで(令和8年分は2027年3月15日) | 所得税法229条 |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 開業の日から2か月以内(1月1日〜15日の開業はその年の3月15日まで) | 所得税法144条 |
| 青色事業専従者給与に関する届出書(家族に給与を払うなら) | 青色の申請と同じ(開業の日から2か月以内。1月15日までの開業は3月15日まで) | 所得税法57条2項 |
| 給与支払事務所等の開設届出書(人を雇って給与を払うなら) | 開設の日から1か月以内 | 所得税法230条 |
※青色事業専従者給与に関する届出書の期限は、専従者給与を必要経費にしたい年の3月15日までが原則です。その年の1月16日以後に開業したときや、開業後に新たに家族が専従者になったときは、その日から2か月以内です。
開業前に使ったお金は「開業費」— 入るもの・入らないもの
開業費とは、事業を開始するまでの間に、開業準備のために特別に支出する費用をいいます(所得税法施行令7条1項1号)。払った年の経費にするのではなく、いったん「繰延資産」という資産として持ち、開業後に償却して必要経費にしていきます(所得税法2条1項20号・50条)。
同じ開業前の支出でも、資産の取得に要した金額とされるべき費用と前払費用は、開業費から除かれます(所得税法施行令7条1項)。振り分けの目安を表にしました。手元の領収書を、ここで一度仕分けてみましょう。
| 開業前の支出 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 開業準備のために特別に支出した費用(市場調査、チラシや看板などの広告、開業セミナーの受講、打合せの交通費など) | 開業費(繰延資産)。開業後に償却して必要経費にする | 所得税法施行令7条1項1号 |
| 取得価額10万円以上のパソコン・什器・車両など | 開業費ではなく減価償却資産。耐用年数に応じて減価償却する | 所得税法施行令7条1項・138条 |
| 販売する商品や材料の仕入れ | 開業費ではなく売上原価。売り上げた年の必要経費になる | 所得税法37条1項 |
開業費の落とし方 — 60か月の均等償却か、任意償却か
開業費の償却費は、原則としてその額を60で割り、その年に業務を行っていた月数を掛けて計算します(所得税法施行令137条1項1号)。ただし、確定申告書に記載した金額をそのまま償却費にする「任意償却」も認められています(所得税法施行令137条3項)。
原則
開業費の償却費は、開業費の額を60で割り、その年に業務を行っていた期間の月数(1か月未満の端数は1か月)を掛けた金額です。
所得税法施行令137条1項1号・2項
ただし
開業費を支出した日の属する年は、その日からその年の業務の期間の末日までの月数を掛けます。
所得税法施行令137条1項1号
開業費の額の範囲内で確定申告書に記載した金額を、その年の償却費にすることができます。下限はないので、開業した年は0円にして、利益が出た年にまとめて落とすこともできます。
所得税法施行令137条3項
60か月を過ぎたあとでも、まだ落としていない残高はいつでも償却費にできるとされています。任意償却を使うなら、開業費の額と、過去の年分で必要経費にしていないことを明らかにしておく必要があります。
開業した年の申告で、ほかに押さえる2点 — 給与との合算と、赤字の扱い
会社を辞めて開業した方は、その年の1月から退職までの給与も同じ申告書に載せます。総所得金額は「事業所得の金額、給与所得の金額」などを合計して計算するので(所得税法22条2項)、勤め先の源泉徴収票を手元に用意します。
開業した年は、開業費を落とさなくても赤字になることが珍しくありません。事業所得の赤字は給与所得など他の所得から差し引くことができ(損益通算・所得税法69条1項)、給与から源泉徴収されていた所得税が申告で戻ることもあります(所得税法122条1項)。
原則
損益通算してもなお引き切れない赤字(純損失)は、青色申告書を提出した年に生じたものに限り、翌年以後3年間繰り越して控除できます。
所得税法70条1項
ただし
白色申告でも、変動所得の計算上生じた損失と被災事業用資産の損失に係る純損失は繰り越せます。
所得税法70条2項
どちらの繰越しも、純損失が生じた年分の確定申告書を出し、その後も連続して確定申告書を出している場合に限られます。
所得税法70条4項
所得が少ない年に申告を省くと、それより後の年は開業した年の赤字を差し引けなくなります。赤字を繰り越している間は、毎年の確定申告を続けましょう。
開業した年分を青色で申告できるかどうかで、赤字の使い道が変わります。承認申請書の2か月を守る意味は、特別控除だけではありません。ご自身の開業日から数えて、まだ間に合うでしょうか。
届出の期限、開業費の整理、赤字の扱い — 開業した年の申告には、1年目だけの論点が重なります。帳簿と資料の準備がどこまで進んでいるかは、弊所の個人事業主の決算・確定申告準備診断ツールをお勧めします。料金と進め方は、このサイトの確定申告のページで確かめてみてください。
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