役員報酬の臨時改定事由 — 社長の交代・職務の変更・病気で期中に変えられる場合
社長の急な交代や入院のように、期首に決めた役員報酬を動かさざるを得ない事情は、期の途中にも起こります。そのとき期中の変更でも経費(損金)のまま通る「臨時改定事由」とは何か、国税庁が示す例と手続きの順番を整理します。
この記事の要点
- 役員報酬(定期同額給与)は原則、期首から3か月以内にしか変えられない。ただし、役員の職制上の地位の変更・職務の内容の重大な変更・これらに類するやむを得ない事情(臨時改定事由)があれば、期の途中でも増額・減額できる
- 国税庁が認める例は、社長の退任で副社長が社長に就く、合併で職務が大幅に変わる、病気の入院で職務の一部ができない間だけ下げて復帰後に戻す、など。「部門の業績が好調」「利益が出そう」は当たらない
- 事由が起きたら間を空けずに決議して議事録に残し、改定の前と後の期間でそれぞれ同額を払う。事前確定届出給与も動かすなら、事由が生じた日から1か月を経過する日までに届け出る
まず結論 — 臨時改定事由があれば、期の途中でも増額・減額できる
役員に毎月払う報酬は、事業年度の各支給時期の額が同じ「定期同額給与」でなければ、原則として経費(損金)になりません(法人税法34条1項1号)。期首から3か月以内の定時の改定のほかに額を変えてよい場面は、2つだけです(法人税法施行令69条1項1号)。
1つは、役員の職制上の地位の変更、職務の内容の重大な変更、これらに類するやむを得ない事情による改定で、これを臨時改定事由といいます。もう1つは、経営状況の著しい悪化などによる減額(業績悪化改定事由)です。
臨時改定事由による改定は、減額に限られる業績悪化改定事由と違い、増額も減額もできます。改定の前と後で期間を区切り、それぞれの期間の各支給時期の額が同額なら、どちらの期間の報酬も定期同額給与として経費になります(法人税法施行令69条1項1号)。
国税庁は通達で、定時株主総会のあと社長が退任し、臨時株主総会の決議で副社長が社長に就任する場合と、合併で役員の職務の内容が大幅に変わる場合を例に挙げています(法人税基本通達9-2-12の3)。期首3か月の時点では予測しがたい偶発的な事情で、利益調整の意図がないものを期中の改定として認める、というのが国税庁の説明です。
国税庁が示す例 — 当たる場合・当たらない場合
どんな事情なら当たるかは、役員の職務内容など個々の実態に即して、あらかじめ決めた報酬を改定せざるを得ないやむを得ない事情があるかどうかで判断するとされています。国税庁が公表している例を並べると、線引きが見えてきます。
| 場面 | 当たるか | 決め手 |
|---|---|---|
| 定時株主総会のあとに社長が退任し、臨時株主総会の決議で副社長が社長に就任した | 当たる | 地位と職務の内容の両方に重大な変更がある(法人税基本通達9-2-12の3) |
| 代表取締役が急逝し、臨時株主総会で後任の取締役を代表取締役に選び、報酬を月50万円から前任者と同じ月100万円に増額した | 当たる | 代表者の急逝に伴う職制上の地位の変更。改定前の各月が50万円で同額、改定後の各月が100万円で同額なら、それぞれが定期同額給与 |
| 合併に伴い、役員の職務の内容が大幅に変わった | 当たる | 同じ地位にとどまっても、職務の内容の大幅な変更に当たる(法人税基本通達9-2-12の3) |
| 代表取締役が病気で2か月入院し、職務の一部ができない間だけ月60万円を月20万円に下げ、職務再開後に月60万円へ戻した | 当たる | 下げる改定も戻す改定も、職務の内容の重大な変更に類するやむを得ない事情(国税庁の役員給与に関するQ&A) |
| 不祥事の責任で一定期間だけ減額し、その後に元へ戻した | 当たる | 社会通念上相当と認められる範囲の減額と増額なら当たる(国税庁の通達の趣旨説明) |
| 定款や総会・取締役会の決議によらず「専務」と名乗らせて増額した | 当たらない | 職制上の地位は、定款等の規定や総会・取締役会の決議で付与されたものに限る(法人税基本通達9-2-12の3注) |
| 統括する部門の業績が好調なので、期の途中で増額した | 当たらない | 地位も職務も変わっていない。上乗せした部分が経費にならない(国税庁の公表事例) |
| 利益が出そうなので上げた、期首の見積りが甘かったので直した | 当たらない | 期首3か月までに予測しがたい偶発的な事情で利益調整の意図がないもの、という趣旨から外れる |
共通するのは、地位や職務が実際に変わったかどうかです。社長・会長・専務といった地位は、定款の規定や株主総会・取締役会の決議で付与されたものを指し、呼び名を変えただけでは当たりません(法人税基本通達9-2-12の3)。御社で起きた変化は、この表のどちら側に近いでしょうか。
病気・けがで職務ができないとき — 下げる・支給しない・戻す、いずれも臨時改定事由
役員が病気で入院し、当初予定していた職務の一部または全部ができなくなった場合、その間の報酬を減額すること、または支給しないことは、臨時改定事由による改定と認められます。退院して従前と同様の職務ができるようになったときに、入院前と同額へ戻す改定も同じです。国税庁が役員給与に関するQ&Aで示している取扱いで、事前確定届出給与の臨時改定事由も同様とされています。
入院中は、健康保険の傷病手当金も関わります。被保険者が療養のため働けないときは、働けなくなった日から3日を経過した日から傷病手当金が支給されます(健康保険法99条1項)。
ただし、報酬を受けられる期間は支給されず、受ける報酬の額が手当金の額より少ないときは、その差額が支給されます(健康保険法108条1項)。報酬をいくらまで下げるかは、この差額の仕組みと一緒に決めておきましょう。
手続きの順番 — 事由が起きたら、間を空けずに決議して記録する
臨時改定事由に当たるかは事実で決まりますが、後から示せるかどうかは記録で決まります。議事録(同意書)と、事由を裏付ける資料を会社で保管しておきましょう。
臨時改定事由で期の途中に変えるときの順番
事由を特定する
社長の交代なら退任・就任の日、合併なら効力発生日、病気なら診断書と入院の期間。地位の変更は、定款の規定や総会・取締役会の決議で裏付けられるものに限る
決議する
株式会社は、定款に定めがなければ株主総会の決議で報酬を定める(会社法361条1項)。合同会社は、定款に別段の定めがなければ社員の過半数で決める(会社法590条2項)。事由が起きたら間を空けずに開く
議事録(同意書)を作る
日時・場所、議事の経過の要領とその結果、出席した役員、議長、作成者の名前(会社法施行規則72条3項)に加え、改定の事由・新しい月額・いつの支給分からを書く
改定後は同じ額を払い続ける
改定前の最後の支給時期の翌日から期末までの各支給時期の額をそろえる(法人税法施行令69条1項1号)。病気で戻すときも、戻した後は同額で払う
賞与を事前確定届出給与として届け出ている会社は、臨時改定事由でその定めを新しく作る・変えるときに届出の期限があります。事由の直前の職務について定めがなかった役員に新しく定めるときは、原則の期限と、事由が生じた日から1か月を経過する日のいずれか遅い日までです(法人税法施行令69条4項2号)。すでに定めがある役員の分を変えるときは、事由が生じた日から1か月を経過する日までです(法人税法施行令69条5項1号)。
事前確定届出給与の定めも変えるなら
- 臨時改定事由が生じた日起点。社長の就任日、合併の効力発生日、入院の日など
- 決議の日株主総会(合同会社は社員の決定)で新しい支給日・金額を決め、議事録を残す
- 1か月を経過する日変更届出書を税務署へ出す
毎月の報酬(定期同額給与)の改定に届出はありません。この期限は、賞与の定めを動かすときだけのものです。
当たらないときの計算と、改定のあとに確かめること
臨時改定事由にも業績悪化改定事由にも当たらない期中の改定は、改定の前後をまたいで各支給時期の額が同額かどうかで見ます。国税庁の公表事例では、3月決算の会社が統括部門の業績好調を理由に期の途中で増額した例を、次のように区切って見ています。
| 期間 | 支給額(月額) | 定期同額給与になる部分(月額) | 経費にならない部分(月額×月数) |
|---|---|---|---|
| 4月・5月(前年の定時株主総会で決めた額) | 50万円 | 50万円 | なし |
| 6月〜翌年1月(5月の定時株主総会で同額に決議) | 50万円 | 50万円 | なし |
| 翌年2月・3月(2月の臨時株主総会で増額) | 70万円 | 50万円 | 20万円×2か月 |
上乗せした20万円×2か月分=40万円だけが経費にならず、50万円の部分は引き続き定期同額給与です。期の途中の減額が外れたときは逆に、減額前の各月の支給額のうち減額後の額を超える部分が経費になりません。
原則
臨時改定事由による改定は、改定の前と後の期間でそれぞれ各支給時期の額が同額なら、どちらの期間の報酬も定期同額給与として経費になります。
法人税法施行令69条1項1号ロ
ただし
事由が生じた日に遡って増額し、すでに払った月の差額をあとからまとめて支給した分は、終わった職務に対して事後に増やした給与として経費になりません。改定後の額でそろえるのは、改定前の最後の支給時期の翌日から期末までの各支給時期です。
法人税法施行令69条1項1号
新しい地位や職務に見合わない高い額にすると、不相当に高額な部分は臨時改定事由があっても経費になりません。
法人税法34条2項
社長から会長へ退くときの大幅な減額のように、地位や職務の内容が激変して実質的に退職したと同様の事情があるときは、分掌変更の際に退職給与として支給した給与を退職給与として扱える決まりが別にあります。
法人税基本通達9-2-32
期の途中の改定は、理由の良し悪しより先に「いつ・何が起きて・いつ決めたか」の記録で結果が決まります。交代や入院が見えた時点で、新しい月額で手取りと会社の負担がどう動くかを、下のシミュレーションで試してみてください。
出典
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入。2項は不相当に高額な部分)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等。1項1号ロの臨時改定事由・4項2号と5項1号の届出期限)
- 法人税基本通達9-2-12の3(職制上の地位の変更等)
- 法人税基本通達9-2-32(役員の分掌変更等の場合の退職給与)
- 国税庁「役員給与に関するQ&A」(平成20年12月・平成24年4月改訂)Q5 病気で入院した役員の給与の減額と復帰後の増額
- 国税庁 法人税基本通達の制定・改正の趣旨説明(平成19年)6 役員給与等(9-2-12の3の解説)
- 国税庁 質疑応答事例 役員の分掌変更に伴う増額改定(定期同額給与)
- 国税庁 質疑応答事例 定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)
- 国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- e-Gov法令検索 健康保険法99条(傷病手当金)・108条(報酬を受ける期間の調整)
- e-Gov法令検索 会社法361条(取締役の報酬等)・590条(業務の執行)
- e-Gov法令検索 会社法施行規則72条(議事録)
- 日本年金機構 随時改定(月額変更届)
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