賃貸物件の減価償却 — 大家の建物・設備の耐用年数と、中古物件の簡便法の計算
「中古で買ったアパートの建物代、何年で割ればいいのだろう」— 賃貸物件を持つ大家の方が、最初の確定申告でまず迷うのが減価償却です。建物と設備の分け方、耐用年数の決め方、中古物件の簡便法の計算を、条文に沿って順番に整理します。
この記事の要点
- 減価償却できるのは建物・建物附属設備・器具備品などで、土地はできない(所得税法施行令6条)。新築なら別表第一の法定耐用年数(木造の住宅22年・鉄筋コンクリート造47年など)で、償却方法は定額法(所得税法施行令120条の2第1項1号)
- 中古で買った建物や設備は、使える年数の見積りが難しければ簡便法で耐用年数を出せる。法定耐用年数の一部が過ぎていれば「法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%」、全部過ぎていれば「法定耐用年数×20%」(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号)
- 個人の減価償却費は、計上するかどうかを選べない。その年の償却費は政令の計算どおりの額で(所得税法49条1項)、計上しなかった年の分も売るときの取得費から差し引かれる(所得税法38条2項)
まず結論 — 建物・設備・備品に分け、新築は法定耐用年数、中古は簡便法で年数を決める
建物や設備のように時の経過で価値が減る資産の取得価額は、買った年に全額を経費にするのではなく、償却費として毎年の必要経費に分けて入れます(所得税法49条1項)。土地は時の経過で価値が減らないので、減価償却の対象になりません(所得税法施行令6条)。賃貸物件の減価償却は、次の順番で決めていきます。
賃貸物件の減価償却の決め方
土地と建物を分ける
売買契約書の内訳で建物の取得価額を出す。仲介手数料など買うために要した費用も、土地と建物に振り分けて取得価額に入れる(所得税法施行令126条1項1号)
建物と設備・備品を分ける
内訳が分かるなら、建物本体と建物附属設備(電気・給排水・冷暖房など)、器具備品に分ける
耐用年数を決める
新築は別表第一の法定耐用年数。中古は、使える年数を見積もるか、見積りが難しければ簡便法(下の節)で計算する
償却費を計算する
定額法で、取得価額×償却率。貸し始めた年は月割りにする(所得税法施行令132条1項1号)
| 資産 | 耐用年数 | 償却率 |
|---|---|---|
| 建物 木造(住宅用) | 22年 | 0.046 |
| 建物 金属造・骨格材の肉厚3mm以下(住宅用) | 19年 | 0.053 |
| 建物 金属造・骨格材の肉厚4mm超(住宅用) | 34年 | 0.030 |
| 建物 鉄筋コンクリート造(住宅用) | 47年 | 0.022 |
| 建物附属設備 電気設備(照明設備を含み、蓄電池電源設備を除く)、給排水・衛生設備・ガス設備 | 15年 | 0.067 |
| 建物附属設備 冷暖房設備(冷凍機の出力22kW以下) | 13年 | 0.077 |
| 建物附属設備 エレベーター | 17年 | 0.059 |
| 建物附属設備 消火・排煙・災害報知設備 | 8年 | 0.125 |
| 構築物 アスファルト敷の舗装路面(駐車場など) | 10年 | 0.100 |
| 器具備品 冷房用・暖房用機器、電気冷蔵庫・電気洗濯機 | 6年 | 0.167 |
同じ物件でも、建物本体は22年や47年、設備は15年前後、備品は6年と年数が大きく違います。ご自身の物件は、どの行に当たるでしょうか。
土地と建物を分け、建物と設備を分ける — 取得価額と区分の決まり
減価償却の出発点は建物の取得価額です。購入代価に、仲介手数料などその資産を買うために要した費用と、貸せる状態にするために直接要した費用を足した額が取得価額になります(所得税法施行令126条1項1号)。土地と建物を一括で買って契約書に内訳が無いときは、固定資産税評価額を基に計算するなど、合理的な方法で分けます。
区分マンションの1室を貸している方も、耐用年数は原則として建物全体の構造で見ます。鉄筋コンクリート造のマンションなら、住宅用の47年です。ただし、1つの建物が2以上の構造からなる場合の取扱いが当てはまるときは、この限りではありません。
建物附属設備とは、暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機など建物に附属する設備で(所得税法施行令6条1号)、別表第一では建物とは別に耐用年数が定められています。電気設備や給排水設備が15年、エレベーターが17年という具合です。一方、壁掛けのルームエアコンや備え付けの冷蔵庫のように建物に組み込まれていない機器は、器具及び備品の「冷房用又は暖房用機器」「電気冷蔵庫、電気洗濯機その他これらに類する電気又はガス機器」(6年)に当たると考えています。
自宅など業務に使っていなかった家屋を貸し始めたときは、取得価額をそのまま償却の出発点にはしません。まず貸していなかった期間の「減価の額」を、法定耐用年数の1.5倍の年数で旧定額法により計算し、取得価額から引いた残りを貸し始めた日の未償却残高とします。そのうえで貸し始めた後の償却費を計算し、中古で買った家なら、この後の償却には中古資産の見積耐用年数(簡便法)による償却率を使えます。
中古物件の耐用年数 — 簡便法の計算と、使えない場合
中古で買った建物や設備は、法定耐用年数ではなく、貸し始めた時以後に使える期間を見積もった年数を耐用年数にできます。ただし、買ってすぐに貸さなかったときは、買った時から引き続き貸していたものとして、買った時以後に使える期間を見積もります(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項1号)。見積りが難しいときは、次の簡便法で計算した年数によることができます(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項)。
簡便法で耐用年数を出す
法定耐用年数を確かめる
構造と用途で別表第一の年数を見る(木造の住宅なら22年)
経過年数を数える
新築されてから買った時までの期間。登記事項証明書の新築年月日で確かめましょう
式に当てはめる
一部が過ぎていれば「法定耐用年数-経過年数+経過年数×20%」、全部過ぎていれば「法定耐用年数×20%」(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号)
端数を処理する
1年未満の端数は切り捨て、2年に満たないときは2年にする(減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号・5項)
| 買った物件 | 計算 | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 木造の住宅(22年)・築8年 | (22-8)+8×20%=15.6年 | 15年 |
| 木造の住宅(22年)・築10年 | (22-10)+10×20%=14年 | 14年 |
| 木造の住宅(22年)・築25年(全部経過) | 22×20%=4.4年 | 4年 |
| 鉄筋コンクリート造の住宅(47年)・築15年 | (47-15)+15×20%=35年 | 35年 |
| 給排水設備(15年)・築10年 | (15-10)+10×20%=7年 | 7年 |
| 給排水設備(15年)・築25年(全部経過) | 15×20%=3年 | 3年 |
原則
中古の建物や設備は、法定耐用年数の残りに経過年数の20%を足した年数(全部過ぎたものは法定耐用年数の20%)で償却できます。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項2号
ただし
買った物件を貸すために行った資本的支出(大規模なリフォームなど)の額が、その物件の取得価額の50%を超えるときは、簡便法の年数は使えません。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条1項ただし書
贈与・相続(限定承認に係るものを除く)・遺贈(包括遺贈のうち限定承認に係るものを除く)で取得した建物は、簡便法などの見積りの年数は使えず、前の持ち主の取得価額・耐用年数・経過年数・未償却残高を引き継いで償却します。これらの贈与・相続・遺贈は所得税法60条1項1号の事由に当たり、その事由で取得した減価償却資産の取得価額は、取得した人が引き続き所有していたものとみなした場合の取得価額になります。
所得税法施行令126条2項
さらに、資本的支出の額が、同じものを新品で買う値段(再取得価額)の50%を超えるときは、使える年数の見積りもできず、法定耐用年数によることになります。
償却費の計算 — 定額法で取得価額×償却率、貸し始めた年は月割り
平成19年4月1日以後に取得した建物の償却方法は定額法で、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備と構築物も定額法です(所得税法施行令120条の2第1項1号)。器具備品は定率法も選べますが、届出をしていなければ法定の償却方法である定額法になります(所得税法施行令120条の2第1項2号・125条2号)。
ただし、平成19年3月31日以前に取得した器具備品で旧定率法を選んでいた方は、新たに届出をしていなければ、平成19年4月1日以後に取得した器具備品も定率法を選んだものとみなされます。大家の減価償却は、こうした方を除けば、定額法を押さえておけば足りると考えています。
毎年の償却費は、取得価額に定額法の償却率(別表第八)を掛けた額です。ただし、貸し始めた年と、年の途中で取り壊した年は、その年に業務に使っていた月数で月割りにします。
貸し始めた年は、1年分を12で割り、貸し始めた日からその年の12月31日までの月数を掛けます(所得税法施行令132条1項1号)。ただし、持ち主が年の途中で亡くなったり出国したりしたときは、12月31日ではなく、亡くなった日や出国の日までの月数で計算します(所得税法施行令132条1項1号・3号)。月数は暦に従って数え、1か月に満たない端数は1か月とします(所得税法施行令132条2項)。償却は取得価額から1円を引いた額まで続け、最後に1円が帳簿に残ります(所得税法施行令134条1項2号)。
個人の減価償却費は、計上するかどうかを選べません。必要経費に算入する償却費の額は、政令の計算どおりの金額と定められているためです(所得税法49条1項)。計上し忘れた年があっても、その年分の償却費は「必要経費に算入される額」として、売るときの取得費から差し引かれます(所得税法38条2項1号)。償却費を経費にしなかった年の分だけ損をする形になるので、毎年必ず計上しましょう。
設備や備品を買い足したとき — 10万円・20万円・40万円の線
退去のたびに買い替えるエアコンや照明器具、物件に備え付ける家具のような設備・備品には、取得価額の大きさで減価償却をせずに済ませられる決まりがあります。取得価額は、免税事業者なら消費税込みの金額で判定します。
| 取得価額 | 扱い | 根拠 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 全額をその年の必要経費にする | 所得税法施行令138条1項 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産として、3年間で3分の1ずつ必要経費にすることを選べる | 所得税法施行令139条1項 |
| 10万円以上40万円未満 | 青色申告の中小事業者は、年の合計300万円(業務を始めた年・やめた年は月数で按分した額)まで、全額をその年の必要経費にできる(令和11年3月31日までの取得) | 租税特別措置法28条の2第1項 |
| 上の特例を使わないもの | 耐用年数で減価償却する | 所得税法49条1項 |
※青色申告の方の40万円未満の特例について、令和8年3月31日までに取得したものには、経過措置により改正前の規定が適用されます(令和8年改正法(租税特別措置法関係)附則1条・35条)。改正前の規定では、対象は取得価額10万円以上30万円未満です。
原則
10万円未満の備品は、使い始めた年の必要経費に全額を入れます(所得税法施行令138条1項)。貸付けの用に供した資産は対象から外されていますが、大家が物件に備え付けて貸す備品は、主要な業務である不動産の貸付けに付随する貸付けなので、対象から外れません。
所得税法施行規則34条の2第1項3号
ただし
青色申告の方の40万円未満の特例は、確定申告書に取得価額の明細書を付けた場合に限られ、年の合計が300万円を超える分には使えません(租税特別措置法28条の2第1項・3項)。貸付けの業務を始めた年・やめた年の上限は、この額を12で割り、その年に業務を営んでいた月数を掛けた額に下がります。
租税特別措置法28条の2第1項
一括償却資産(20万円未満の3年均等)は、使い始めた年の確定申告書に対象額を書いた書類を付け、計算の書類を保存している場合に限られます。
所得税法施行令139条2項
まとめ — 分けて、年数を決めて、毎年必ず計上する
賃貸物件の減価償却は、土地と建物・建物と設備を分ける、新築は法定耐用年数で中古は簡便法で年数を貸し始めた年に決める、定額法で月割りして毎年必ず計上する — この3段で片づきます。最後に、よく聞く2つの誤解を挙げておきます。
建物の値段と耐用年数が決まれば、償却費は毎年同じ額です。修繕費と資本的支出の分かれ目、家賃収入の申告の全体の流れは、家賃収入の確定申告の記事にまとめています。家賃収入が増えて法人で持つ形も気になり始めた方は、家賃収入の法人化の専門ページで、個人のままとの年間の負担の違いを確かめてみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2100 減価償却のあらまし
- 国税庁 タックスアンサー No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)
- 国税庁 タックスアンサー No.5404 中古資産の耐用年数
- 国税庁 タックスアンサー No.2108 中古資産を非業務用から業務用に転用した場合の減価償却
- 国税庁 質疑応答事例 相続により取得した減価償却資産の耐用年数
- 国税庁 質疑応答事例 高層ビルを区分所有した場合の耐用年数
- 国税庁 質疑応答事例 土地付建物の仲介手数料の仕入税額控除(土地と建物の代金を区分する方法)
- e-Gov法令検索 所得税法38条(譲渡所得の金額の計算上控除する取得費)・49条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令6条(減価償却資産の範囲)・120条の2(減価償却資産の償却の方法)・125条(減価償却資産の法定償却方法)・126条(減価償却資産の取得価額)・132条(年の中途で業務の用に供した減価償却資産等の償却費の特例)・134条(減価償却資産の償却累積額による償却費の特例)・138条(少額の減価償却資産の取得価額の必要経費算入)・139条(一括償却資産の必要経費算入)
- e-Gov法令検索 所得税法施行規則34条の2(少額の減価償却資産の主要な業務として行う貸付けの判定)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法28条の2(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)・令和8年改正法(租税特別措置法関係)附則35条(中小事業者の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例に関する経過措置)・同附則1条(施行期日)
- e-Gov法令検索 減価償却資産の耐用年数等に関する省令3条(中古資産の耐用年数等)・別表第一(機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表)・別表第八(定額法の償却率表)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。平成19年4月1日以後に取得した物件を前提に書いています。
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