役員報酬を期中に増額したら — 増額分が損金にならない仕組みと、法人税等が増える実額
「今年は利益が出そうだから、自分の報酬を上げたい」— 期の途中でそう思ったとき、上乗せした分がどう扱われ、税金がいくら変わるのかを整理します。損金にならない仕組みと実額、代わりに取れる道を順に見ていきます。
この記事の要点
- 役員報酬(定期同額給与)を期首から3か月を過ぎて増額すると、職制上の地位の変更などの臨時改定事由がない限り、増額後の各月の支給額のうち増額前の額に上乗せした部分が損金にならない
- 損金にならない分だけ法人の所得が増え、法人税等も増える。上乗せ分を払ったあとの所得が500万円の会社で月20万円を6か月上乗せすると、法人税等は約27.8万円増える(弊所試算)。社長側では、上乗せ分に所得税・住民税・社会保険料がそのままかかる
- 上げるなら翌期の期首3か月以内の改定か、翌期の定時株主総会で届け出る事前確定届出給与で。期首にさかのぼって差額をまとめて払う形も損金にならない
まず結論 — 期首3か月を過ぎた増額は、上乗せした部分だけが損金にならない
役員に毎月払う報酬が損金になるのは、事業年度の各支給時期の支給額が同じ「定期同額給与」に当たる場合です(法人税法34条1項1号)。額を変えてよいのは、原則として期首から3か月を経過する日までの改定だけです(法人税法施行令69条1項1号イ)。確定申告書の提出期限の特例の指定を受けている会社では、この3か月が、その指定に係る月数に2を加えた月数になります(法人税法施行令69条1項1号イ)。
例外は、役員の職制上の地位の変更や職務の内容の重大な変更などやむを得ない事情(臨時改定事由)による改定と、経営状況の著しい悪化などによる減額(業績悪化改定事由)の2つです(法人税法施行令69条1項1号ロ・ハ)。「利益が出そうだから」「部門の業績が好調だから」という理由は、このどれにも当たりません。業績悪化改定事由は減額に限られるので、増額の根拠にはなりません(法人税法施行令69条1項1号ハ)。
3月決算の会社で、上げた額をそのまま損金にできる改定の時期
- 4月1日事業年度の開始(期首)
- 6月30日期首から3か月を経過する日。ここまでにした改定なら、改定後の各月の額をそろえて払えば定期同額給与として損金になる
- 10月支給分から増額臨時改定事由がなければ、増額前の額に上乗せした部分が損金にならない
当たらない時期に増額したとき損金にならないのは、増額後の各月の支給額のうち、増額前の額に上乗せした部分です。増額後の各月の額がそろっていれば、増額前の額に相当する部分は引き続き定期同額給与として損金になります。その年の役員報酬が全部損金にならなくなるわけではありません。
実額 — 損金にならない120万円で、法人税等はいくら増えるか
損金にならない上乗せ分は、法人税の申告で所得に加算します。会社から現金は出ていくのに、その分の法人税等は減りません。上乗せ分を払ったあとの所得が500万円の会社が、3月決算で10月支給分から報酬を上乗せした場合を、弊所で試算しました。
※この表の試算年度は未確認です。現行シミュレーションとの再照合が必要です。
| 上乗せする額(月額) | 損金にならない額(年額・10月〜3月の6か月分) | 増える法人税等(年額) |
|---|---|---|
| 月10万円 | 60万円 | 約13.9万円 |
| 月20万円 | 120万円 | 約27.8万円 |
| 月30万円 | 180万円 | 約41.7万円 |
※法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税(特別法人事業税を含む)を合わせた概算です。上乗せ分を払ったあとの所得が800万円の会社では税率の段が上がり、同じ120万円で約40.3万円になります。
表の「増える法人税等」は、同じ額を損金になる形(期首3か月以内の改定)で払った場合と比べた差です。上乗せした額の2割以上が、法人税等として上乗せになる計算です。思ったより大きい額ではないでしょうか。
期首に上げていれば — 同じ月70万円でも、1年の負担はこう動く
比べる相手は「期首3か月以内に上げていた場合」です。売上2,200万円・経費1,200万円の会社で、月額を据え置いた場合と期首から上げた場合の1年の負担を、会社と社長を合わせて並べました。
※この表の試算年度: 所得税は令和8年分、保険料は令和8年度の計算前提(個人の住民税のうち給与・事業所得分は翌年度の見込み額)。
| 内訳 | 月50万円のまま(年額) | 期首から月70万円(年額) | 差(年額) |
|---|---|---|---|
| 会社の法人税等(均等割を含む) | 約73.8万円 | 約16.3万円 | 約57.5万円減 |
| 社会保険料(会社負担+本人負担) | 約172.4万円 | 約230.2万円 | 約57.8万円増 |
| 社長の所得税・住民税 | 約46.3万円 | 約100.5万円 | 約54.2万円増 |
| 合計 | 約292.5万円 | 約347.0万円 | 約54.5万円増 |
内訳会社の法人税等(均等割を含む)
約57.5万円減
内訳社会保険料(会社負担+本人負担)
約57.8万円増
内訳社長の所得税・住民税
約54.2万円増
内訳合計
約54.5万円増
期首から改定した場合の会社+社長の年間負担(売上2,200万円・経費1,200万円・39歳以下・弊所試算・金額はすべて1年あたり)
期首から上げた場合でも、この会社では法人税等が約57.5万円減る一方、社会保険料と社長の所得税・住民税が合わせて約112.0万円増え、全体では年約54.5万円重くなります。期の途中で上げた場合は、増額した月以降についてこの右側の増え方(社会保険料と社長の税)だけを背負い、左側の法人税等の減り方は上乗せ分については受け取れません。
会社の現金は減り、社長が受け取る額は増えても、法人税等は減らない — これが期中増額の実像です。
増額したいときに取れる道 — 翌期の改定・事前確定届出給与・法人に残す
「今期の利益を社長に渡したい」なら、期中の増額ではなく次の形で考えます。損金にならない増額は、会社が法人税等を払ったうえで社長側にも所得税・住民税・社会保険料がかかる、二重の形だからです。期首から4か月を過ぎていれば、臨時改定事由でもない限り、今期の賞与をいまから事前確定届出給与として届け出ることもできません(法人税法施行令69条4項)。
利益が出た期に、社長の取り分を増やしたいとき
今期は法人に残す
期の途中で報酬を動かさず、利益は法人税等を払って会社に残す。渡し方は翌期の報酬か、将来の退職金で考える
翌期の期首3か月以内に月額を上げる
定時株主総会で決議し、改定後の各月の額をそろえて払う(法人税法施行令69条1項1号イ)。議事録(同意書)はこのサイトで作れます
まとまった額は事前確定届出給与で
翌期の定時株主総会で支給日と金額を決め、決議の日から1か月を経過する日(会計期間の開始から4か月を経過する日が上限)までに届け出て、届け出た日に届け出た額を払う(法人税法34条1項2号・法人税法施行令69条4項1号)
社会保険の随時改定も確かめる
月額を上げたら、3か月の報酬の平均が従来の標準報酬月額の基礎と比べて著しく高低を生じ、随時改定の対象になるかを確かめる(健康保険法43条1項・厚生年金保険法23条1項)
原則
改定の前と後のそれぞれの期間で各月の額が同じでも、定期同額給与に当たるのは、期首から3か月を経過する日までの改定や臨時改定事由による改定などの場合に限られます。
法人税法施行令69条1項1号
ただし
確定申告書の提出期限の特例の指定を受けている会社は、3か月ではなく、その指定に係る月数に2を加えた月数を経過する日までの改定が対象です。
法人税法施行令69条1項1号イ
役員の職制上の地位の変更や職務の内容の重大な変更などやむを得ない事情(臨時改定事由)による増額は、改定の前と後のそれぞれの期間で各支給時期の額が同じなら、どちらも定期同額給与として損金になります。定時株主総会のあと社長が退任して副社長が社長に就く場合や、合併に伴い役員の職務の内容が大幅に変わる場合が、その例です。
法人税基本通達9-2-12の3
毎年決まった時期に改定していて、その時期が期首3か月を過ぎることに特別の事情があると認められる会社は、その時期までの改定でよいとされています。
法人税法施行令69条1項1号イ
使用人としての職務を有する役員(使用人兼務役員)に払う、その使用人としての職務に対する給与は、役員給与の損金不算入の対象から外れます(法人税法34条1項)。代表取締役や、同族会社で一定の持株割合を満たす役員は使用人兼務役員とされない役員に当たるので、一人会社の社長の報酬には使えません。
法人税法施行令71条
定期同額給与に当たる形で上げても、不相当に高額な部分は損金になりません。
法人税法34条2項
期中の増額は、会社の法人税等が減らないまま、社長側の税と保険料だけが増える形です。今期の利益は法人に残し、翌期の期首3か月の設計に力を入れましょう。月額をいくらにすると会社と社長の負担がどう動くかは、下のシミュレーションで試してみてください。設計と手続きは、実行の前にご相談ください。
※本記事の金額は、39歳以下(介護保険非該当)・東京都の料率と、現行の法人税等の税率での弊所の概算です。前提が違えば額も変わります。
出典
- e-Gov法令検索 法人税法34条(役員給与の損金不算入。2項は不相当に高額な部分)
- e-Gov法令検索 法人税法施行令69条(定期同額給与の範囲等・事前確定届出給与の届出期限)・71条(使用人兼務役員とされない役員)
- 法人税基本通達9-2-12の3(職制上の地位の変更等)
- 国税庁タックスアンサー No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 質疑応答事例 定期給与の額を改定した場合の損金不算入額(定期同額給与)
- 国税庁 質疑応答事例 定期給与の増額改定に伴う一括支給額(定期同額給与)
- 国税庁 質疑応答事例 役員の分掌変更に伴う増額改定(定期同額給与)
- e-Gov法令検索 所得税法28条(給与所得)
- e-Gov法令検索 健康保険法43条(標準報酬月額の改定)
- e-Gov法令検索 厚生年金保険法23条(標準報酬月額の改定)
※合同会社の場合: 本文の「株主総会の決議」は株式会社の場合の手続きです。合同会社の業務は、社員が2人以上なら、定款に別段の定めがある場合を除き社員の過半数で決めます(会社法590条2項)。業務を執行する社員を定款で定め、その社員が2人以上あるときは、定款に別段の定めがある場合を除き業務執行社員の過半数で決めます(会社法591条1項)。定款を変更して報酬に関する定めを置く場合は、定款に別段の定めがある場合を除き総社員の同意が必要です(会社法637条)。いずれの場合も、同意書・決定書の形で日付と内容を書面に残します。税務の届出などで「株主総会等の決議」が求められる場面では、合同会社ではこの決定・同意がこれに当たります(法人税法施行令69条3項)。
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