個人事業主が赤字の年の確定申告 — 申告は要るか、青色の純損失の繰越控除3年・繰戻し還付・損益通算
「今年は赤字だから、申告しなくてもいいのでは」— 事業が赤字になった年の個人事業主の方に向けて、申告が要るかどうか、赤字を次の年に生かす繰越控除と繰戻し還付、給与などとの損益通算を整理します。令和8年分(2027年2月16日から3月15日に申告する分)に使える形で書きます。
この記事の要点
- 赤字の年でも、給与など他の所得と通算した後の所得が所得控除の合計を超え、源泉徴収や予定納税で納めた分を超える税額が残れば申告の義務がある(所得税法120条1項)。義務がなくても、赤字を翌年以後に生かすには確定損失申告書を出す(所得税法123条1項)
- 青色申告なら、損益通算しても残った赤字(純損失)を翌年以後3年にわたって各年の所得から引ける(所得税法70条1項)。前年も青色なら、前年分の所得税の還付を受ける繰戻しも選べる(所得税法140条1項)
- 事業の赤字は給与や不動産所得と損益通算できるが、雑所得に当たる副業の赤字は通算できない(所得税法69条1項)。住民税の繰越控除のためにも、赤字の年の申告を残しておく(地方税法313条8項)
申告は要るか — 義務の線と、出しておく理由
所得税の確定申告の義務は、事業の赤字だけでは決まりません。原則として、事業の赤字を給与などほかの所得と通算した後の所得の合計が所得控除の合計を超え、計算した税額が配当控除を超える人に申告の義務があります(所得税法120条1項)。ただし、源泉徴収された税額や予定納税の額の方が計算した税額より多く、引ききれない分が残るときは、所得が残っても申告の義務はありません(所得税法120条1項)。
たとえば会社員が副業の事業で赤字を出した年は、通算で税額が減り、給与から源泉徴収された税額の方が多くなるのがふつうなので、申告は義務ではなく還付を受けるための申告になります(所得税法122条1項)。給与の収入が2,000万円以下で1か所から受け、その全部が源泉徴収されている会社員は、給与・退職所得以外の所得が20万円以下ならもともと申告の義務がなく、副業が赤字の年もこれに当たります。義務が残るのは、たとえば不動産所得のように源泉徴収のない所得が通算後も残り、納める税が出る人です。
通算した後の所得が所得控除以下なら、申告の義務はありません。ただし、赤字を翌年以後に生かすには、義務がなくても確定損失申告書を出します(所得税法123条1項)。源泉徴収された税の還付を受けるための申告も、義務とは別に出せます(所得税法122条1項)。
| こんな人 | 申告で得られること |
|---|---|
| 給与や不動産所得がある | 事業の赤字と通算して、源泉徴収された所得税が戻る(所得税法69条1項・138条1項) |
| 青色申告で純損失が残る | 翌年以後3年にわたって各年の所得から引ける(所得税法70条1項) |
| 前年も青色で所得税を納めた | 前年分の所得税の還付を請求できる(所得税法140条1項) |
| 住民税・国民健康保険 | 純損失の繰越しは住民税の申告書の連続提出が条件(地方税法313条8項)。国民健康保険料の軽減(減額)も、世帯の所得の合計額を基準に判定される(国民健康保険法施行令29条の7第6項) |
ご自身の令和8年は、通算した後の所得が残るでしょうか。義務の有無にかかわらず、赤字の年こそ申告を出しておく方が、後の年の税が軽くなると考えています。
損益通算 — 事業の赤字は給与・不動産所得と相殺できる
事業所得の赤字は、まず給与所得や不動産所得、雑所得などの経常所得から引き、引ききれなければ譲渡所得や一時所得から引きます(所得税法69条1項・所得税法施行令198条1号・3号)。ただし、土地や建物、株式等の譲渡所得や先物取引の雑所得のように申告分離課税で計算する所得とは、事業の赤字を通算できません。会社員が副業の事業で赤字を出した年は、給与から源泉徴収された所得税の一部が申告によって戻ります(所得税法138条1項)。たとえば給与所得400万円の人が事業で120万円の赤字なら、総所得金額は280万円になります。
通算できるのは、不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の赤字だけです(所得税法69条1項)。副業が事業所得ではなく業務に係る雑所得に当たる場合、その赤字は給与と通算できません。事業所得と雑所得の分かれ目は、別の記事「会社員の副業の確定申告」で整理しています。
純損失の繰越控除 — 青色申告なら3年、白色は限られる
損益通算をしてもなお引ききれない赤字が純損失です。青色申告書を出した年に生じた純損失は、翌年以後3年にわたって、各年の総所得金額などから引けます(所得税法70条1項)。複数の年の純損失があるときは、古い年のものから先に引きます(所得税法施行令201条1項1号)。
使うには、純損失が生じた年分の確定申告書を出し、その後も毎年続けて確定申告書を出していることが条件です(所得税法70条4項)。期限後の申告書も確定申告書に含まれますが(所得税法2条1項37号)、純損失の年は期限内に出しておくのが無難です。白色申告の年の純損失で繰り越せるのは、変動所得の損失と災害による事業用資産の損失だけです(所得税法70条2項)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 令和8年分を青色申告書で申告し、損益通算してもなお残った赤字(所得税法70条1項) |
| 引ける年 | 令和9年分・10年分・11年分の所得(所得税法70条1項) |
| 条件 | 令和8年分の確定申告書(第四表)を出し、令和9年分以後も毎年確定申告書を出す(所得税法70条4項) |
| 白色申告の年 | 変動所得の損失・被災事業用資産の損失だけが対象(所得税法70条2項) |
| 住民税 | 前年前3年間の純損失を控除。住民税の申告書(確定申告書で代える)を毎年出す(地方税法313条8項・317条の3第1項) |
繰戻し還付 — 前年に納めた所得税を取り戻す
前年分も青色申告をしていた人は、繰越しの代わりに、純損失を前年の所得から引き直して前年分の所得税の還付を請求できます(所得税法140条1項)。請求は確定申告書の提出と同時に行い、原則として純損失の年の青色申告書を期限内に出した場合に限られます(所得税法140条1項・4項)。ただし、税務署長がやむを得ない事情があると認めるときは、期限後に出した申告書でも請求できます(所得税法140条4項)。戻るのは前年分の所得税の額が上限で(所得税法140条2項)、復興特別所得税は戻りません。
純損失の一部だけを繰り戻し、残りを翌年以後に繰り越すこともできます(所得税法140条1項)。還付請求書は申告書とは別の様式で、確定申告書の提出と同時に納税地の税務署長へ出します(所得税法140条1項・142条1項)。住民税では、純損失は前年前3年間に生じたものを所得から引く繰越控除で引きます(地方税法313条8項)。
原則
青色申告書を出した年の純損失は、翌年以後3年にわたって各年の所得から控除します。
所得税法70条1項
ただし
前年分も青色申告なら、純損失の全部または一部を前年の所得から引いて、前年分の所得税の還付を請求できます。
所得税法140条1項
白色申告の年の純損失は、変動所得の損失と被災事業用資産の損失に係る分だけを繰り越せます。
所得税法70条2項
まとめ — 赤字の年の申告の手順と期限
令和8年分の青色申告特別控除のうち55万円・65万円の控除は、原則として「不動産所得の金額又は事業所得の金額の合計額」を限度に引く仕組みです(租税特別措置法25条の2)。ただし、10万円の控除は、山林所得の金額も含めた合計額が限度になります(租税特別措置法25条の2)。事業所得が赤字の年でも、黒字の不動産所得があれば、その不動産所得の金額を限度に控除を受けられます。
令和9年分からは、期限内にe-Taxで申告することが65万円控除の条件になり、所定の電子保存要件も満たすと75万円になります(租税特別措置法25条の2。令和9年1月1日施行の改正後)。
赤字の年の申告書は第四表(損失申告用)を付け、純損失の額をそこに書きます。住民税は、確定申告書を出せば住民税の申告書を出したものとみなされます(地方税法317条の3第1項)。
赤字の年の申告(令和8年分)
損益通算の結果を出す
事業の赤字を給与や不動産所得から引き、残った赤字(純損失)の額を確かめる
繰越しか繰戻しかを決める
前年分が青色で所得税を納めていたなら繰戻しも選べる。一部ずつの組合せもできる
申告書を作る
第一表・第二表に青色申告決算書と、純損失を書く第四表(損失申告用)を付ける
繰戻しなら還付請求書も
申告書と同時に「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を出す(所得税法140条1項・142条1項)
翌年以後も毎年申告する
繰越控除は連続して確定申告書を出すことが条件(所得税法70条4項)
令和8年分に赤字が出た個人事業主
- 2027年2月16日確定損失申告書を出せる期間の始まり(所得税法123条1項)
- 2027年3月15日申告の期限。繰戻しの還付請求書は申告書と同時にこの日まで(所得税法140条1項・4項)
- 2028年3月15日令和9年分の申告。繰り越した純損失を引く最初の年
- 2030年3月15日令和11年分の申告。令和8年分の純損失を引ける最後の年(所得税法70条1項)
繰り越した額は、毎年の第四表で残高を確かめておきましょう。
赤字の年の申告は、納める税がない分だけ後回しになりがちです。翌年の自分に純損失を引き継ぐつもりで、第四表まで作ってみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.2070 青色申告制度
- 国税庁 タックスアンサー No.2250 損益通算
- 国税庁 タックスアンサー No.2020 確定申告
- 国税庁 A1-4 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求手続
- 国税庁 純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書の書き方(令和5年分以降用)
- 国税庁 質疑応答事例 業務的規模の不動産所得と赤字の事業所得がある場合の青色申告特別控除
- e-Gov法令検索 所得税法69条(損益通算)・70条(純損失の繰越控除)・120条(確定所得申告)・122条・123条(確定損失申告)・138条・140条(純損失の繰戻しによる還付の請求)・142条
- e-Gov法令検索 所得税法施行令198条(損益通算の順序)・201条(純損失の繰越控除)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(令和9年1月1日施行・令和8年法律第12号による改正後)
- e-Gov法令検索 地方税法313条(所得割の課税標準)・317条の3
- e-Gov法令検索 国民健康保険法施行令29条の7(市町村の保険料の賦課に関する基準)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。特定非常災害による純損失の5年の繰越し、相続があった場合の繰戻し、雑損失の繰越控除、法人の欠損金は扱っていません。繰戻しの例の所得税は所得税法89条の税率表で計算した額で、復興特別所得税を含みません。
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