事前確定届出給与を支給しないときの議事録の記載例 — 不支給の決議の書き方・合同会社の同意書・支給日より前に決める理由
「届け出た賞与を今年は払えそうにない。支給日の前に決めるとは聞いたけれど、議事録に何をどう書けばいいのか」— 事前確定届出給与の不支給を決めることにした社長に向けた記事です。株主総会議事録・役員の辞退届・合同会社の総社員の同意書の記載例を示し、支給日より前に決める理由を整理します。会社名と日付を差し替えれば、そのまま使える形にしました。
この記事の要点
- 不支給は支給日(支給期)が来る前に決め、会社の決議(議事録)と役員の辞退の意思表示(辞退届)の2つを書面で残す。支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退した給与は、役員に課税されない(所得税基本通達28-10)
- 届け出た支給額と実際の支給額が異なると事前確定届出給与に当たらず、原則としてその支給額の全額が損金不算入になる(法人税基本通達9-2-14)。全く支給しなければ損金に入れる給与がそもそも無い。複数回の定めの一部だけを変えると、職務執行期間の全体で判定されることがある
- 記載例は株式会社の臨時株主総会議事録、役員の辞退届、合同会社の総社員の同意書の3つ。株主総会議事録の記載事項は会社法施行規則72条3項、合同会社の業務は社員の過半数(業務執行社員を定款で定めていればその過半数)で決める(会社法318条1項・590条2項・591条1項)
支給日より前に決める理由 — 役員の課税と、会社の未払金を残さないため
事前確定届出給与は、所定の時期に確定した額を支給する定めに基づく給与で、届け出た額と実際の支給額が異なると、原則としてその支給額の全額が損金になりません(法人税法34条1項2号・法人税基本通達9-2-14)。全く支給しなければ損金に入れる給与がそもそも無く、この問題は起きないと考えています。残るのは、届け出た支給日より前に不支給を決めたかどうかです。
役員の側では、給与の支払を受けるべき者がその支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退した場合に限り、その給与は課税されません(所得税基本通達28-10)。支給期を過ぎてから未払の給与の支払債務を免除してもらう形になると、会社は免除を受けた時に支払があったものとして源泉徴収を行います(所得税基本通達181〜223共-2)。ただし、会社の債務超過の状態が相当期間継続し、その支払をすることができないと認められる場合に行われた免除は、この限りではありません(所得税基本通達181〜223共-2)。
会社の側でも、支給期を過ぎると未払の給与が帳簿に残り、あとで払わないことにしたときの扱いを別に考えることになります(法人税基本通達4-2-3)。
記載例1 — 株式会社の臨時株主総会議事録(不支給の決議)
株式会社の役員の報酬は、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めるので(会社法361条1項)、支給を決めた株主総会と同じ機関で不支給を決めます。議事録には、開催の日時と場所、議事の経過の要領とその結果、出席した取締役の氏名、議長の氏名、議事録を作成した取締役の氏名を書きます(会社法318条1項・会社法施行規則72条3項)。記載例は支給を決めたときの議事録と同じ形で、議案の部分だけが変わります。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 表題 | 臨時株主総会議事録 |
| 日時・場所 | 令和9年11月19日 午前10時 当会社本店会議室 |
| 出席 | 発行済株式総数○株、議決権のある株主総数○名、出席株主○名(議決権○個)。出席取締役 見本 太郎(議長) |
| 第1号議案 | 取締役 見本 太郎に対する事前確定届出給与の支給を取りやめる件 |
| 議事の経過 | 議長は、令和9年6月25日開催の定時株主総会で決議し所轄税務署長に届け出た、取締役 見本 太郎に対する令和9年12月10日支給予定の事前確定届出給与 金○○円について、当期の業績の見通しと資金の状況を踏まえ、その支給を取りやめたい旨を述べ、理由を説明した |
| 辞退の記録 | 取締役 見本 太郎は、本議案に先立ち、同給与の受領をその支給期の到来前に辞退する旨を書面で申し出ている |
| 結果 | 出席株主は審議の上、全員一致でこれを承認可決した |
| 閉会・作成 | 午前10時20分閉会。上記の決議を明確にするため本議事録を作成し、議長兼議事録作成者が記名押印する。令和9年11月19日 ハルカゼ株式会社 臨時株主総会 議長・議事録作成者 取締役 見本 太郎 |
一人会社では、株主全員の書面の同意で決議に代える方法もあります(会社法319条1項)。その場合は、提案の内容・提案した者の氏名・決議があったものとみなされた日・議事録を作った取締役の氏名を議事録に書きます(会社法施行規則72条4項1号)。どちらの形でも、議事録の日付は届け出た支給日より前にしておきましょう。
記載例2 — 役員の辞退届と、合同会社の総社員の同意書
辞退は役員本人の意思表示なので、会社の議事録とは別に、役員から会社あての辞退届を残します。日付は支給日より前で、議事録の日付と同じ日か、それより前にします(所得税基本通達28-10)。
合同会社には株主総会がなく、業務は定款に別段の定めがなければ社員の過半数で決め、業務執行社員を定款で定めているときはその過半数で決めます(会社法590条2項・591条1項)。報酬は社員全員に関わるので、支給を決めたときと同じく総社員の同意書の形で残すと、決定の日付と全員の意思を1枚で示せます。
| 項目 | 書き方の例 |
|---|---|
| 表題 | 事前確定届出給与の支給の取りやめに関する総社員の同意書 |
| 本文 | 当会社の社員全員は、令和9年6月25日付の総社員の同意書で定め所轄税務署長に届け出た、業務執行社員 見本 太郎に対する令和9年12月10日支給予定の事前確定届出給与 金○○円について、当期の業績の見通しと資金の状況を踏まえ、その支給を取りやめることに同意する |
| 辞退の記録 | 業務執行社員 見本 太郎は、同給与の受領をその支給期の到来前に辞退する |
| 日付・記名押印 | 令和9年11月19日 合同会社ハルカゼ 社員 見本 太郎 印、社員 見本 花子 印 |
払わない方が傷が浅い — 判定の単位と、減額して払うときの変更届
届け出た額と違う額を支給すると、原則としてその支給額の全額が損金になりません(法人税基本通達9-2-14)。届出の額より少ない額を払った場合も、差額ではなく払った額の全部が損金不算入です。複数回の支給を定めたときは、職務執行期間を1つの単位として、その全部が定めどおりに支給されたかで判定するのが原則だと国税庁は説明しています。ただし、事業年度中は定めどおりに支給し、翌事業年度に定めどおりに支給しなかった場合は、翌事業年度の支給分だけを損金不算入として差し支えないとされています。
事前確定届出給与は、法律の上で「その役員の職務につき」定める給与とされています(法人税法34条1項2号)。届出と違う支給をした役員がいても、ほかの役員の事前確定届出給与には影響しないと国税庁は説明しています。減額して払いたいときは、臨時改定事由か業績悪化改定事由があるときに限り、期限内に変更届出書を出して定めの内容を変える道があります(法人税法施行令69条5項)。業績悪化改定事由は減額の場合だけで、一時的な資金繰りの都合や単に業績目標値に達しなかったことは含まれません(法人税基本通達9-2-13)。
原則
事前確定届出給与は、届け出た支給日と額のとおりに支給することが損金算入の条件で、違う額を支給した場合はその支給額の全額が損金に算入されません。
法人税法34条1項2号・法人税基本通達9-2-14
ただし
全く支給しない場合は損金に入れる給与が無く、支給期の到来前に辞退の意思を明示して辞退した給与は役員にも課税されません。
所得税基本通達28-10
まとめ — 辞退届、議事録、賞与不支給報告書の順に
不支給を決めるまで(令和9年12月10日支給予定の例)
支給日の前に、払うか払わないかを決める
届出額どおりに払えるなら払う。払えないなら不支給か、事由があれば変更届(法人税法施行令69条5項)
役員が辞退届を会社に出す
支給期の到来前の日付で、辞退の意思を明示する(所得税基本通達28-10)
臨時株主総会(合同会社は総社員の同意)で不支給を決議する
議事録を作り、辞退届と一緒に本店で10年間保管する(会社法318条2項)
支給日に支給しない
給与計算で賞与の源泉徴収も、社会保険の賞与支払届もない
賞与支払予定月に誰にも払っていなければ賞与不支給報告書を出す
年金事務所へ。予定月の翌月までに届出がないと催告状が届く
事前確定届出給与を支給しないと決めるまで(令和9年12月10日支給予定の例)
- 2027年6月25日定時株主総会で支給を決議。決議の日から1か月を経過する日までに届出(法人税法施行令69条4項1号)
- 2027年11月19日辞退届の日付と、不支給を決める臨時株主総会。支給期の到来前に(所得税基本通達28-10)
- 2027年12月10日届け出ていた支給日。支給しない
- 2028年1月31日12月に誰にも賞与を払っていなければ、賞与不支給報告書を予定月の翌月までに出す
「支給期の到来前」の1日の差が、源泉徴収の有無を分けます。支給日の前日ではなく、ひと月前に決めておきましょう。
払わないと決めたら、まず辞退届の日付を入れ、その日に総会を開くところから始めてみてください。
出典
- 国税庁 C1-23 事前確定届出給与に関する届出
- 国税庁 C1-24 事前確定届出給与に関する変更届出
- 国税庁 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)
- 国税庁 賞与に対する源泉徴収
- 国税庁 定めどおりに支給されたかどうかの判定(事前確定届出給与)
- 国税庁 特定の役員に届出書の記載額と異なる支給をした場合の取扱い(事前確定届出給与)
- 国税庁 法人税基本通達 9-2-14(事前確定届出給与の意義)
- 国税庁 法人税基本通達 9-2-13(経営の状況の著しい悪化に類する理由)
- 国税庁 法人税基本通達 4-2-3(未払給与を支払わないこととした場合の特例)
- 国税庁 所得税基本通達 28-10(給与等の受領を辞退した場合)
- 国税庁 所得税基本通達 181〜223共-2(支払者が債務免除を受けた場合の源泉徴収)
- 日本年金機構 賞与を支給したとき、賞与支払予定月に賞与が不支給のとき
- 日本年金機構 従業員に賞与を支給したときの手続き
- 日本年金機構 賞与の支給がなかった場合、賞与支払届の提出は不要でしょうか
- e-Gov 法令検索 法人税法
- e-Gov 法令検索 法人税法施行令
- e-Gov 法令検索 会社法
- e-Gov 法令検索 会社法施行規則
- e-Gov 法令検索 健康保険法施行規則
- e-Gov 法令検索 厚生年金保険法施行規則
※記載例の会社名・氏名・日付は架空のもので、3月決算・6月25日の定時株主総会で決めた1回払いの例です。「金○○円」には届け出た額をそのまま入れます。取締役会設置会社や監査役がいる会社では、決議する機関と議事録の記載事項が変わります。
※社会保険料や源泉所得税の額の計算、賞与を払った場合の手続き、支給日を過ぎてからの辞退の細かな扱いは扱いません。
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