共有名義の賃貸物件の確定申告 — 家賃と経費は持分で分ける、名義だけで所得を分けられない理由、5棟10室の数え方
「夫婦で買ったアパートの家賃は、どちらが申告するのか」— 共有名義で物件を貸している方に向けて、家賃を持分で分ける決まり、名義や通帳だけで所得を片方に寄せられない理由、5棟10室の数え方を整理します。令和8年分(2027年2月16日から3月15日に申告する分)に使える形で書きます。
この記事の要点
- 共有物件の家賃と経費は、各共有者が持分に応じて使い、負担も持分に応じて負うという民法の決まりに沿って持分で分ける(民法249条1項・253条1項)。家賃などの収益は資産の真実の権利者に帰属するので、共有なら持分を持つ共有者それぞれが自分の不動産所得として申告する(所得税基本通達12-1)
- 家賃の振込先や通帳を片方にまとめても、所得は寄せられない。収益は資産の真実の権利者に帰属し、権利者がはっきりしなければ名義人が権利者と推定される(所得税法12条・所得税基本通達12-1)
- 5棟10室の線は、貸与できる独立した室数・棟数で判定する通達で、持分で割るとは書かれていない(所得税基本通達26-9)。青色申告の承認は共有者それぞれが受け、特別控除も承認を受けた人ごとにその人の不動産所得の金額から引く(所得税法143条・租税特別措置法25条の2)
全体の形 — 家賃も経費も「持分」で分けて、共有者それぞれが申告する
共有の物件は、各共有者が持分に応じて使い、管理の費用などの負担も持分に応じて負います(民法249条1項・253条1項)。家賃などの収益は、その資産の真実の権利者に帰属するので、共有なら持分を持つ共有者それぞれの所得になります(所得税基本通達12-1)。
それぞれの共有者は、自分の持分の家賃や共益費などを総収入金額に入れ、固定資産税や修繕費などの必要経費を持分で分けて引き、不動産所得を計算します(所得税法26条2項・37条1項)。計算の仕方そのものは、1人で持つ物件と同じです。分けるものを表にまとめます。
| 項目 | 共有のときの扱い |
|---|---|
| 家賃・共益費・礼金・更新料 | 資産の真実の権利者である各共有者それぞれの収入になる(所得税基本通達12-1)。不動産所得の金額は、総収入金額から必要経費を引いて計算する(所得税法26条2項) |
| 固定資産税・損害保険料・管理委託料・修繕費 | 各共有者が持分に応じて負担する額を(民法253条1項)、その業務について生じた費用として各自の必要経費にする(所得税法37条1項) |
| 減価償却費 | 自分が有する建物の償却費は、選んだ償却方法に基づき政令で定めるところにより計算した金額を、その人の不動産所得の必要経費にする(所得税法49条1項)。共有の建物では、取得価額のうち自分の持分に当たる額を基礎に各自が計算する。ただし、平成10年4月1日以後に取得した建物の償却方法は定額法(平成19年3月31日以前の取得は旧定額法)に限られ、定率法は選べない(所得税法施行令120条1項1号・120条の2第1項1号) |
| 借入金の利子 | 物件の取得のために自分が借りた借入金の利子は、その業務について生じた費用として、借りた人の必要経費にする(所得税法37条1項) |
| 青色申告の承認 | 共有者それぞれが申請し、それぞれが承認を受ける(所得税法143条・144条) |
| 青色申告特別控除 | 承認を受けている人ごとに、その人の不動産所得の金額から、控除額とその所得の金額のいずれか低い金額を引く(租税特別措置法25条の2) |
夫が会社員、妻が専業主婦の夫婦が持分2分の1ずつで持つなら、妻にも家賃の半分の不動産所得が生じ、妻の名前で申告書を出します。妻の所得が増えると夫の配偶者控除の判定にも関わるので、持分を決める前に確かめてみてください。
名義や通帳だけでは分けられない — 所得は「真実の権利者」で決まる
家賃を全部夫の口座に入れていても、夫だけの所得にはなりません。逆に、税金が安くなるからといって、夫の持分の家賃を妻の申告に寄せることもできません。収益の法律上の帰属者が単なる名義人で、ほかの人がその収益を享受するときは、収益は享受する人に帰属するからです(所得税法12条)。
誰が収益を享受する人かは、その資産の真実の権利者が誰かで判定します。権利者がはっきりしないときは、資産の名義人が真実の権利者と推定されます(所得税基本通達12-1)。登記の持分はこの推定の出発点で、口座や通帳の名義は資産そのものの名義ではないので、所得の帰属を決める材料にはなりません。
原則
家賃は資産の真実の権利者に帰属し、共有なら持分を持つ共有者それぞれの所得になります。
所得税基本通達12-1
ただし
権利者がはっきりしないときは、登記などの資産の名義人が真実の権利者と推定されます。
所得税基本通達12-1
共有者の一方が会社員で、持分の分の不動産所得が20万円以下なら、所得税の確定申告をしなくてよい場合があります(所得税法121条1項1号)。その年も住民税の申告は市区町村へ別に出します。
地方税法317条の2第1項
5棟10室の数え方 — 通達は室数・棟数で見る。持分で割るとは書かれていない
建物の貸付けが事業として行われているかは、社会通念上事業と呼べる規模かで判定します。貸与することができる独立した室数がおおむね10以上か、独立家屋でおおむね5棟以上なら、特に反証がない限り事業として扱われます(所得税基本通達26-9)。この通達は室数と棟数で線を引いていて、共有者の持分で室数を割るとは書いていません。
持分2分の1ずつで10室のアパートを持つ夫婦を、1人5室と数えるのか、2人とも10室と数えるのか。実務では建物全体の室数で判定する扱いが一般的で、弊所もそう見ています。事業的規模かどうかで変わるのは、主に青色申告特別控除の額と、家族への給与です。
共有者それぞれが事業的規模なら、それぞれが自分の不動産所得から最大65万円を引けます。控除を受けるのは青色申告の承認を受けている個人で、その人の不動産所得の金額から、控除額とその所得の金額のいずれか低い金額を引く形です(租税特別措置法25条の2)。
共有になる場面ごとの注意 — 夫婦で買った・親子で建てた・相続で引き継いだ
夫婦や親子で買うときは、持分を出したお金の割合に合わせます。出した割合より大きい持分を登記すると、その差の分を相手から贈与で受けたことになり得ます(相続税法基本通達9-9)。持分をあとから変えるのも、対価のない名義の書換えとして同じ扱いです(相続税法基本通達9-9)。
生計を一にする家族の間で、共有者の一方がもう一方に給与を払って経費にする形には、注意が要ります。家族への給与が必要経費になるのは、青色申告者が事業的規模の貸付けに専ら従事する家族に、届出の範囲で払う場合だけです(所得税法56条・57条1項)。共有者同士で給与をやり取りする形は扱いが定まっていない部分があるので、始める前に税理士に確かめることをお勧めします。
相続で共有になった物件は、遺産分割が決まるまでの申告の仕方が別にあり、この記事では扱いません。ここでの前提は、売買や新築のときから共有にした物件です。
共有の物件を初めて申告するとき
持分を確かめる
登記事項証明書で各共有者の持分を見る。売買契約書の資金の出し方と合っているかも確かめる
収入と経費を分ける
管理会社の年間精算書・固定資産税の課税明細・保険の証券を、持分で割った一覧にする
減価償却費を出す
建物の代金のうち自分の持分の分を取得価額にして、各自の償却費を計算する
それぞれが決算書と申告書を作る
青色申告決算書(不動産所得用)か収支内訳書(不動産所得用)を1人1通。申告書も1人1通
青色にするなら各自が申請
令和9年分から青色申告にする承認申請書は、共有者それぞれが2027年3月15日までに出す(所得税法144条)
まとめ — 分けるのは持分、数えるのは建物全体
共有名義の申告は、家賃も経費も持分で分けて、共有者それぞれが自分の申告書を出す、というのが全体の形です。口座や通帳の名義で所得を動かすことはできず、持分と違う分け方を続けると贈与の問題が出ます(所得税法12条・相続税法9条)。ご自身の物件は、持分どおりに申告できているでしょうか。
共有者それぞれの令和8年分の申告
- 2026年12月31日令和8年分の収入と経費は、その年中の分で計算する(所得税法26条2項)。持分で分けた一覧を年内の分まで作っておく
- 2027年2月16日令和8年分の申告の受付が始まる(所得税法120条1項)
- 2027年3月15日共有者それぞれの申告と納付の期限(所得税法120条1項・128条)。令和9年分から青色申告にする承認申請書もこの日まで(所得税法144条)
2人分の申告書を同じ日に出すと、持分の割り方のずれにその場で気づけます。
共有の物件が増えてきたら、個人のまま持ち続けるか法人で持つかを比べる段に入ります。弊所の家賃収入の法人化の専門ページでは、個人のままと法人に移した場合の年間の負担の違いを整理しています。まずは今年の申告を持分どおりに整え、そのうえで数字を見比べてみてください。
出典
- 国税庁 タックスアンサー No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の不動産貸付けとの区分
- 国税庁 タックスアンサー No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得)
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 国税庁 タックスアンサー No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除
- 国税庁 タックスアンサー No.4402 贈与税がかかる場合
- 国税庁 質疑応答事例 業務的規模の不動産所得と赤字の事業所得がある場合の青色申告特別控除
- e-Gov法令検索 所得税法12条(実質所得者課税の原則)・26条(不動産所得)・37条(必要経費)・49条(減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・120条(確定所得申告)・121条(確定所得申告を要しない場合)・128条(確定申告による納付)・143条(青色申告)・144条(青色申告の承認の申請)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(令和9年1月1日施行・令和8年法律第12号による改正後)
- e-Gov法令検索 相続税法9条(贈与又は遺贈により取得したものとみなす場合)
- e-Gov法令検索 民法249条(共有物の使用)・253条(共有物に関する負担)
- e-Gov法令検索 地方税法317条の2(市町村民税の申告等)
※本記事は令和8年4月1日現在の法令等によります。令和9年分以後の青色申告特別控除は令和8年法律第12号による改正後の額(紙の申告は10万円・e-Taxは65万円・所定の電子帳簿の保存で75万円)になります。ただし、前々年分の不動産所得の総収入金額が1,000万円を超える事業的規模の貸付けでは、取引を詳細に記録した帳簿(複式簿記)が無いと10万円の控除も受けられなくなります(租税特別措置法25条の2。令和9年1月1日施行の改正後)。
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