事業用の口座から生活費を引き出したら — 事業主貸・事業主借の仕組み、経費にならない支出(生活費・所得税・住民税・国民健康保険)、私用のカードで払った経費の入れ方
「生活費を事業用の口座から下ろしたが、帳簿では何の科目にすればよいのだろう」— 個人事業主の記帳で最初に迷うのがこの場面です。事業主貸と事業主借という2つの科目の役目、経費にならない支出の線引き、私用のカードで払った経費の入れ方を、順に見ていきましょう。
この記事の要点
- 事業用の口座から引き出した生活費は「事業主貸」で記録します。家事上の費用なので、必要経費にはなりません(所得税法45条1項1号)
- 所得税・住民税も必要経費になりません(所得税法45条1項2号・4号)。国民健康保険料と国民年金保険料は必要経費ではなく、社会保険料控除で所得から引きます(所得税法74条1項)
- 私用の財布やカードで払った事業の経費は、「事業主借」で帳簿に入れれば必要経費になります(所得税法37条1項)。2つの科目は損益に影響せず、翌年の初めに元入金へまとめられます
まず結論 — 生活費は「経費から外す」のではなく、事業主貸という別の箱に入れる
事業の利益がそのまま事業所得で、そこから生活費をいくら引き出しても所得は変わりません。引き出した生活費を帳簿から消してしまうと預金の残高が合わなくなるので、事業のお金を事業主に渡した記録として「事業主貸」を使います。逆に、事業主のお金を事業に入れたときの科目が「事業主借」です。
国税庁の青色申告決算書の書き方では、事業主貸の欄に、生活費その他の家事上の費用、所得税や住民税など必要経費にならない租税公課、商品の家事消費の金額など、本年中に事業から支出した金額の合計を書くと説明されています。家事上の費用が必要経費にならないことの根拠は、所得税法にあります(所得税法45条1項1号)。
| 場面 | 科目 | 経費になるか | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 事業用の口座から生活費を引き出した | 事業主貸 | ならない(家事上の費用) | 所得税法45条1項1号 |
| 事業用の口座から所得税・住民税を納めた | 事業主貸 | ならない | 所得税法45条1項2号・4号 |
| 事業用の口座から国民健康保険料・国民年金保険料を払った | 事業主貸 | 経費ではなく社会保険料控除 | 所得税法74条1項 |
| 商品や材料を自分や家族のために使った | 事業主貸 | 経費ではなく、その時の価額を総収入金額に入れる | 所得税法39条 |
| 私用の口座から事業用の口座へお金を移した | 事業主借 | 収入ではない(資金の移動) | — |
| 私用のカードや財布で事業の経費を払った | 事業主借 | なる(業務上の費用) | 所得税法37条1項 |
| 事業用の口座に預金の利息が入った | 事業主借 | 事業の収入ではなく利子所得 | 所得税法23条1項 |
生活費は家事上の費用で必要経費にならないので、引き出した額の多い少ないで所得は変わりません。事業主貸の中に経費にできる支払いが紛れていないか、逆に経費の中に家事上の支払いが紛れていないか、この2つを確かめておきましょう。
ご自身の帳簿では、生活費はどの科目に入っているでしょうか。通帳の出金を上から順に「事業か、家計か」と分けてみてください。
経費にならない支出 — 生活費・所得税・住民税・国保・家族への支払い
原則
衣食住などの家事上の費用は、必要経費になりません。
所得税法45条1項1号
ただし
自宅の家賃や通信費のように家事と業務の両方に関わる費用(家事関連費)は、主たる部分が業務の遂行上必要で、その必要な部分を明らかに区分できる場合に、その部分が必要経費になります。青色申告者は、取引の記録などで業務の遂行上直接必要だったことが明らかな部分も対象です。
所得税法施行令96条
税金と保険料は、種類で扱いが分かれます。所得税と住民税は必要経費になりません(所得税法45条1項2号・4号)。国民健康保険料と国民年金保険料は必要経費ではありませんが、その年に払った額を社会保険料控除として所得から引けます(所得税法74条1項)。
個人事業税は事業の税金なので必要経費に入り、原則として、その年に納付すべきことが確定した分がその年の経費です(所得税基本通達37-6)。ただし、事業を廃止した年の所得にかかる事業税は、課税の見込額をその年の必要経費に入れられます(所得税基本通達37-7)。
家族への支払いにも線があります。生計を一にする配偶者や親族に払う給与や家賃は、必要経費になりません(所得税法56条)。
例外は、15歳未満の方を除き、専らその事業に従事する生計を一にする親族です。青色申告で専従者給与の届出を出していれば、届け出た方法と金額の範囲で、労務の対価として相当な額が必要経費になります(所得税法57条1項)。白色申告では、配偶者は86万円、そのほかの親族は50万円と、事業所得などを専従者の数に1を足した数で割った額のうち、低い方が必要経費とみなされます(所得税法57条3項)。
私用のカードや財布で払った経費 — 「事業主借」で入れれば経費になる
私用のクレジットカードや財布から事業の支払いをしても、業務上の費用であれば必要経費です(所得税法37条1項)。事業用の口座からお金が出ていないので、相手の科目を事業主借にして帳簿に入れます。領収書や明細を残しておくことは、青色申告の帳簿書類の備付けと保存の決まりに含まれます(所得税法148条1項)。
私用のカードで払った経費を帳簿に入れる
領収書を残す
日付・支払先・金額・内容が分かる領収書や明細を保存する
事業主借で記録する
借方を消耗品費などの経費の科目、貸方を事業主借にする
元入金 — 翌年の初めに、事業主貸と事業主借はまとめて消える
事業主貸と事業主借は、損益計算書には出てきません。貸借対照表の科目です。令和8年分までは、青色申告特別控除の55万円・65万円を受けるには、この貸借対照表を損益計算書と一緒に確定申告書に添えて期限内に出す必要があります。令和8年分までの65万円は、さらに優良な電子帳簿保存かe-Taxでの提出が条件です。
令和9年分からは、2027年1月1日施行の改正で、確定申告書の提出期限までに貸借対照表と損益計算書の内容をe-Taxで送った場合に限り、この控除が65万円になります(租税特別措置法25条の2)。改正後は、書面で出すと65万円の控除を受けられません。改正後にe-Taxで送ったうえで優良な電子帳簿保存も行うと、75万円になります。
国税庁の決算書の書き方では、元入金は期首と期末に同じ金額を書くとされていて、年の途中では動きません。年が変わるときに事業主貸と事業主借を元入金へまとめる繰り越しは、お使いの会計ソフトの年次の処理で確かめておきましょう。
事業と家計の口座を分け、生活費は事業主貸で移す。この形ができていれば、確定申告の前に通帳を見直す時間はぐっと減ります。帳簿がどこまでできているか不安な方は、弊所の個人事業主の決算・確定申告準備診断ツールで残っている作業を確かめてみてください。確定申告を依頼する場合の進め方と料金は、このサイトの確定申告のページに書きました。
出典
- e-Gov法令検索 所得税法23条(利子所得)・37条(必要経費)・39条(たな卸資産等の自家消費の場合の総収入金額算入)・45条(家事関連費等の必要経費不算入等)・56条(事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例)・57条(事業に専従する親族がある場合の必要経費の特例等)・74条(社会保険料控除)・148条(青色申告者の帳簿書類)
- e-Gov法令検索 所得税法施行令96条(家事関連費)
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2(青色申告特別控除)
- 国税庁 所得税基本通達37-6(その年分の必要経費に算入する租税)
- 国税庁 令和7年分 青色申告決算書(一般用)の書き方(事業主貸・事業主借・元入金の記入)
- 国税庁タックスアンサー No.2210 必要経費の知識
- 国税庁タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
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