帳簿をつけないまま確定申告の時期になったら — 1年分を組み立てる順番と、青色申告の控除・加算税・消費税がどうなるか
「帳簿をつけるつもりが、気づけば年明け。領収書は袋に入ったまま」— その状態からでも、確定申告は間に合わせられます。帳簿が無いところから1年分を組み立てる順番と、青色申告の控除・加算税・消費税がどう変わるかを整理します。
この記事の要点
- 帳簿が無くても申告はできる。請求書・通帳・カードの明細・領収書から収入と経費を1年分組み立て、3月15日までに申告書を出すことが最優先
- 令和8年分の青色申告の55万円・65万円の控除は、複式簿記の帳簿と期限内の申告が条件。期限に間に合わなくても控除額10万円は残り、赤字の繰越も青色申告書を出し、その後も毎年申告すれば使える
- 帳簿が無いままだと、調査で帳簿を示せないときの加算税の上乗せ、所得の推計、消費税の仕入税額控除が受けられないという3つの不利が重なる
まず結論 — 帳簿が間に合わなくても、期限内の申告を最優先にしましょう
帳簿があるかどうかと、申告書を出せるかどうかは別の問題です。所得税の確定申告書は、その年の翌年2月16日から3月15日までに税務署へ出し(所得税法120条1項)、納める税も同じ期間の末日までに納めます(所得税法128条)。帳簿が間に合わないときは、請求書や通帳などの資料から収入と経費の金額を組み立てて、申告書を作ってみましょう。
白色申告の方にも帳簿をつけて保存する義務はあります(所得税法232条1項)。ただ、帳簿を待って期限を過ぎるよりも、先に申告書を仕上げ、帳簿はさかのぼって整えましょう。
1年分を組み立てる順番 — お金が動いた記録から始めて、紙の束は最後に
帳簿が無いときに最初に開くのは領収書の袋ではなく、売上の請求書と通帳です。入出金の記録には日付と相手と金額がそろっているので、ここから組み立てると漏れと重複が出にくくなります。領収書は、通帳やカード明細に出てこない現金払いを埋めるために最後に使います。
帳簿が無い状態から1年分を組み立てる順番
売上を確定する
発行した請求書と入金の記録で、1月〜12月の売上を月ごとに並べる。売上は入金日ではなく、商品を引き渡した日や仕事を終えた日の年分に入れる。期間や作業の進み具合に応じて報酬を受け取る約束の仕事は、その約束で報酬を受け取る権利が生じた日の年分に入れる(所得税基本通達36-8)
通帳とカード明細から経費を拾う
事業に使った口座とカードの明細を1年分出し、経費になる行に科目を付けましょう。年末に払っていない経費(未払)と翌年分を先に払った経費(前払)は書き出して、年分を合わせる
現金払いの領収書を足す
通帳・カードに出てこない支払いだけを領収書から拾い、日付順に並べる
自宅兼事務所の按分と減価償却
家賃・電気代・通信費は事業に使った割合で分ける。10万円以上で1年を超えて使う備品は減価償却で数年に分ける(所得税法施行令138条)
決算書に写し、申告書を作る
月ごとの売上と科目ごとの経費を青色申告決算書か収支内訳書に写し、確定申告書第一表・第二表を作る
青色申告の控除は「帳簿の形」と「期限」で3段に分かれる
青色申告特別控除は、帳簿の形と申告の時期で額が決まります。令和8年分なら、複式簿記で記帳して貸借対照表と損益計算書を添え、期限内に申告した年分だけが55万円で、さらにe-Taxで送るか優良な電子帳簿を保存していれば65万円です(租税特別措置法25条の2第3項・4項・6項)。それ以外の青色申告の年分は10万円で、事業所得などの黒字の合計がそれより少なければ、その額が限度です(租税特別措置法25条の2第1項)。複式簿記で期限内に申告した年分も同じで、事業所得などの黒字の合計が控除額より少なければ、その額までしか引けません(租税特別措置法25条の2第3項・4項)。
| 令和8年分の控除額(年額) | 帳簿の条件 | 申告の条件 |
|---|---|---|
| 65万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付 | 令和8年分は、期限内の申告に加えて、e-Taxでの送信か優良な電子帳簿の保存 |
| 55万円 | 複式簿記で記帳し、貸借対照表と損益計算書を添付(現金主義の特例を選んだ方は使えない) | 期限内の申告 |
| 10万円 | 令和8年分は簡易な帳簿でよい | 期限後の申告でも使える |
| 0円(白色申告) | 帳簿の義務はあるが控除はない | 青色申告の承認申請を出していない年分 |
※現金主義の特例を選んでいる方は、期限内に申告しても55万円・65万円の控除は使えません。
原則
令和8年分なら、55万円・65万円の控除は、一切の取引を詳しく記録した複式簿記の帳簿から作った貸借対照表と損益計算書を添えて期限内に申告した年分だけに使えます。
租税特別措置法25条の2第3項・4項・6項
ただし
令和8年分なら、控除額10万円には期限内申告の条件が無く、期限後の申告でも、簡易な帳簿でも使えます。
租税特別措置法25条の2第1項
青色申告の承認申請を出していない年分は白色申告で、控除はありません。来年分から青色にするなら、申請は来年3月15日までです。
所得税法144条
期限に間に合うかどうかで、同じ帳簿でも控除が55万円か10万円かに分かれます。 令和8年分(2026年分)なら、次の帯のとおりです。
令和8年分(2026年分)の申告なら
- 2026年12月31日起点。この日までの収入と経費が令和8年分
- 2027年2月16日確定申告書の受付が始まる
- 2027年3月15日申告と納付の期限。55万円・65万円の控除はこの日までの申告が条件
- 2027年3月16日以降期限後申告。無申告加算税と延滞税の対象になるが、控除額10万円は使える
期限の日は月曜日です。前の週末までに、請求書と通帳の分だけでも申告書の形にしておきましょう。
帳簿が無いまま放置すると重なる3つの不利 — 加算税・推計・消費税
申告さえ出せば帳簿は要らない、というわけではありません。帳簿が無い状態が続くと、税務調査のときに3つの不利が重なります。
1つ目は加算税の上乗せです。調査で帳簿の提示を求められて示せないときや、売上などの記載が大きく欠けているときは、過少申告加算税や無申告加算税が10%(欠け方が小さいときは5%)上乗せされます(国税通則法65条4項・66条5項)。
2つ目は所得の推計です。帳簿が無いと、税務署は財産や収支の状況、取扱量などから所得を推計して更正や決定ができます(所得税法156条)。この推計は青色申告の年分には使えないので、青色申告の承認と帳簿は、調査の場面での守りにもなります。
3つ目は消費税で、本則課税で仕入にかかった消費税を差し引くには帳簿と請求書等の保存が条件、無い分は差し引けません(消費税法30条7項)。ただし、請求書等の交付を受けることが困難な場合など政令で定める場合は、帳簿の保存だけで足ります(消費税法30条7項)。一定規模以下の事業者の税込1万円未満の仕入れも、令和11年9月30日までは帳簿の保存だけで差し引けます。簡易課税を選んでいる方(消費税法37条1項)や、売上の消費税の2割を納める2割特例(令和8年分まで)を使える方は、売上の記録から計算できます(平成28年改正法附則51条の2)。
帳簿を整えたあとに残る2つの利点 — 赤字の繰越と、来年の65万円
今年分の申告を出したあとに帳簿を整える意味は2つあり、1つは赤字の繰越です。事業の赤字(純損失)を翌年以後3年間の所得から引けるのは、原則としてその赤字の年分について青色申告書を出している場合に限られます(所得税法70条1項)。白色の年分でも、変動所得の損失と被災事業用資産の損失は繰り越せます(所得税法70条2項)。どちらも、赤字の年分に確定申告書を出し、その後も毎年続けて出していることが条件です(所得税法70条4項)。
もう1つは来年の控除です。帳簿を複式簿記でつけ始め、期限内にe-Taxで申告すれば、来年分から65万円の控除が使えます(現金主義の特例を選ぶ方を除く)。白色申告の方は、青色申告の承認申請を来年3月15日までに出しておきます(所得税法144条)。
なお、2027年1月1日施行の改正後の条文では55万円の段が無くなり、65万円は期限内のe-Taxでの送信が条件で、優良な電子帳簿の保存などを加えると75万円です(租税特別措置法25条の2第4項・5項・7項)。
同じ改正後の条文では、前々年分の事業所得や不動産所得の総収入金額が1千万円を超える方は、現金主義の特例を選んでいる方を除き、一切の取引を詳しく記録した帳簿でないと10万円も使えません(租税特別措置法25条の2第2項)。
※消費税の課税事業者は、仕入税額控除のために保存する請求書等と、交付したインボイスの写しを7年保存します。
帳簿が手つかずの方も、残っている作業ごとに記帳と確定申告を依頼できます。今の状態から残る作業を出すには、弊所の個人事業主の決算・確定申告準備診断ツールをお勧めします。料金と進め方は、このサイトの確定申告のページで確かめてみてください。
出典
- 国税庁 個人で事業を行っている方の記帳・帳簿等の保存について
- タックスアンサー No.2080 白色申告者の記帳・帳簿等保存制度
- タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 質疑応答事例 青色申告特別控除(10万円)と確定申告の要否
- 質疑応答事例 青色申告特別控除(55万円)と確定申告の要否
- タックスアンサー No.6496 仕入税額控除をするための帳簿及び請求書等の保存
- 国税庁 帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置
- 国税庁 2割特例の特設ページ
- 所得税基本通達36-8 事業所得の総収入金額の収入すべき時期
- e-Gov法令検索 所得税法70条・120条・128条・144条・150条・156条・232条
- e-Gov法令検索 所得税法施行令138条
- e-Gov法令検索 所得税法施行規則102条
- e-Gov法令検索 租税特別措置法25条の2
- e-Gov法令検索 国税通則法23条・65条・66条
- e-Gov法令検索 消費税法30条7項・37条1項・平成28年改正法附則51条の2
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