簡易課税をやめて本則課税に戻すときの届出 — 不適用届出書は前年の12月31日まで、2年は戻せない縛り、設備投資の年に本則へ戻す個人事業主の段取り
「来年は店舗の内装に1,000万円かける。簡易課税のままだと消費税は戻らないと聞いたが、どうすれば本則に戻せるのか」。簡易課税を選んでいる個人事業主の方から、設備投資の前にこうした質問を受けることがあります。
簡易課税では、売上の消費税額に、仕入れの税額が通常占める割合として業種ごとに決められた率(みなし仕入率)を掛けた金額を仕入れの消費税額とみなすので、本則で計算すれば還付になる年でも還付は受けられません(消費税法37条1項)。本則に戻すには届出書を出しますが、出せる時期に「2年の縛り」があり、戻した年の買い物によっては今度は「3年の縛り」が掛かります。この記事では、届出の期限と効き始める年、縛りの数え方、設備投資の年に向けた段取りを整理します。
この記事の要点
- 簡易課税をやめるには「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」を納税地の所轄税務署長に出し、出した日の属する課税期間の末日の翌日から簡易課税の効力が消えます(消費税法37条5項・7項)。個人事業主の課税期間は暦年なので、本則に戻したい年の前年12月31日までに出します(消費税法19条1項1号)
- 不適用届出書は、簡易課税を使い始めた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でないと出せません(消費税法37条6項)。令和7年分から簡易を始めた人は令和8年1月1日から出せ、令和8年中に出せば令和9年分から本則です
- 本則に戻した年に税抜1,000万円以上の棚卸資産や固定資産を買うと、買った年を含めて3年間は免税事業者にも簡易課税にも戻れません(消費税法12条の4第1項・37条3項3号・消費税法施行令25条の5第1項)
まず結論 — 届出は前年12月31日まで、効くのは翌年から
簡易課税をやめる手続きは1枚の届出書です。簡易課税の選択届出書を出した事業者が適用をやめようとするときは、その旨を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出します(消費税法37条5項)。届出書を出すと、出した日の属する課税期間の末日の翌日以後、簡易課税の届出は効力を失います(消費税法37条7項)。
個人事業主の課税期間は1月1日から12月31日までです(消費税法19条1項1号)。令和9年分から本則に戻したいなら、令和8年12月31日までに出すと、令和9年1月1日から本則課税です。年が明けてから出すと、効くのは令和10年分からになります。期限は「戻したい年の前年の大みそか」と覚えてみてください。
| 年分 | 計算方法 | 不適用届出書 |
|---|---|---|
| 令和7年分 | 簡易課税(1年目) | 出せない(消費税法37条6項) |
| 令和8年分 | 簡易課税(2年目) | 令和8年1月1日から出せる。12月31日までに出す |
| 令和9年分 | 本則課税 | 令和8年中に出した届出が1月1日から効く(消費税法37条7項) |
届出書に書くのは、氏名と納税地、本則に戻る課税期間の初日の年月日、簡易課税の効力がなくなる日の年月日などです(消費税法施行規則17条2項)。e-Taxソフトで作って送るか、書面を税務署へ持参か送付します。
2年の縛り — 始めた年の翌年中に出せば、3年目から戻れる
不適用届出書は、簡易課税の適用を受け始めた課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ出せません(消費税法37条6項)。令和7年分から簡易を始めた人なら、2年を経過する日は令和8年12月31日で、その日が属する令和8年分の初日は令和8年1月1日です。令和8年に入れば出せるので、令和8年中に出せば令和9年分から本則に戻れます。
つまり簡易課税は、始めた年と翌年の最短2年分は続きます。本則に戻したいと思った年がまだ1年目なら、その年中には届出書を出せず、本則に戻れるのは早くても3年目です。令和8年分から簡易を始めた人は、令和9年中に出して令和10年分から本則、という数え方になります。
原則
不適用届出書は、簡易課税を始めた年の翌年の1月1日以後に出せ、出した年の翌年分から本則課税に戻ります。
消費税法37条6項・7項
ただし
事業を廃止した場合は、2年の縛りは掛かりません。
消費税法37条6項
災害その他やむを得ない理由による被害で簡易課税の必要がなくなったときは、税務署長の承認を受ければ、承認を受けた課税期間の初日の前日に届出書を出したものとみなされ、2年の縛りも加わりません。
消費税法37条の2第6項
この特例の「災害その他やむを得ない理由」は、おおむね、地震や豪雨などの自然現象の異変による災害、火災や爆発などの人為による異常な災害、これらに準ずる自己の責めに帰さないやむを得ない事実をいいます(消費税法基本通達13-1-7)。
設備投資の年に本則へ戻す段取り — 試算、届出、そして3年の縛り
本則に戻して設備投資をするまで
前年の秋に試算する
投資の年とその後2年分の売上・経費を並べ、本則の仕入税額控除とみなし仕入率のどちらが大きいかを比べる
前年12月31日までに届出
不適用届出書を納税地の所轄税務署長へ出す(消費税法37条5項)。簡易の2年目に入っていることを確かめる(消費税法37条6項)
本則の年は帳簿と請求書を保存
仕入税額控除は、帳簿と請求書等(インボイス)を保存していない課税仕入れには使えない(消費税法30条7項)
1,000万円以上の資産を買った年を記録
買った年を含めて3年間は免税にも簡易にも戻れない(消費税法12条の4第1項・37条3項3号)
試算は、このサイトの消費税の申告方式シミュレーションで、売上と経費を入れるだけで本則課税と簡易課税の納税額を並べられます。みなし仕入率と経費の割合でどちらが有利になるかの分かれ目は、このサイトの簡易課税と本則課税はどっちが得かの記事に書きました。
期限の帯とよくある誤解 — 「忘れていた」は救済されない
令和7年分から簡易課税を始めた人が、令和9年分から本則に戻すとき
- 令和7年1月1日簡易課税の1年目。この年は不適用届出書を出せない
- 令和8年1月1日2年目。不適用届出書を出せるようになる
- 令和8年12月31日不適用届出書の提出
年が明けてから出すと、本則は令和10年分からです。投資の年の前の大みそかを手帳に書いておいてください。
期限までに出せなかった場合の救済は、やむを得ない事情で届出書を出せなかったときに、税務署長の承認を受けて期限内に出したものとみなす仕組みです(消費税法37条8項・消費税法施行令57条の2第2項)。やむを得ない事情とは、震災や火災など自己の責任によらない災害で届出書を出せない状態になった場合などに限られます(消費税法基本通達13-1-5の2・1-4-16)。
簡易課税をやめる届出は1枚ですが、出せる時期と効く年がずれるので、投資の計画が決まった時点で逆算しておくのが安全です。届出の期限は前年の大みそか、戻った年の大きな買い物は3年の縛り、と覚えておいてみてください。本則に戻った年の申告は、インボイスの保存と仕入税額控除の計算が加わるぶん手間が増えます(消費税法30条7項)。帳簿の整え方から申告までを頼む場合の進め方は、このサイトの確定申告のページで確かめてみてください。
※日付は令和7年(2025年)分から簡易課税を始めた個人事業主の例です。
出典
- e-Gov法令検索 消費税法12条の4(高額特定資産を取得した場合等の納税義務の免除の特例)・19条(課税期間)・30条(仕入れに係る消費税額の控除)・37条(中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例)・37条の2(災害等があつた場合の届出に関する特例)・52条(仕入れに係る消費税額の控除不足額の還付)
- e-Gov法令検索 消費税法施行令5条(調整対象固定資産の範囲)・25条の5(高額特定資産の範囲等)・57条の2(届出等に関する特例)
- e-Gov法令検索 消費税法施行規則17条(届出書の記載事項等)
- 国税庁 消費税法基本通達13-1-5の2(「やむを得ない事情」の範囲等)
- 国税庁 消費税法基本通達1-4-16(「やむを得ない事情」の範囲)
- 国税庁 D1-23 消費税簡易課税制度選択不適用届出手続
- 国税庁タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 国税庁タックスアンサー No.6633 やむを得ない事情により簡易課税制度選択届出書の提出が間に合わなかった場合
- 国税庁 質疑応答事例「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」
- 国税庁 質疑応答事例「課税事業者選択の取りやめと簡易課税制度選択の制限」
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